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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(プロジェクト体制変更)

小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトでは、持ち帰ったサンプルの分析やキュレーション作業が進む中、拡張ミッションに向けて体制が変わりますので、今後について等のご説明の機会を設けます。


登壇者

(Image Credit:JAXA

JAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム

  • プロジェクトマネージャ 津田雄一(つだ・ゆういち)(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授)
  • ミッションマネージャ 吉川真(よしかわ・まこと)(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)
  • プロジェクトサイエンティスト 渡邉誠一郎(わたなべ・せいいちろう)(名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)
  • 航法誘導制御担当 三桝裕也 (みます・ゆうや)(JAXA 宇宙科学研究所 主任研究開発員)
  • 統合サイエンスチームメンバー 臼井寛裕(うすい・ともひろ)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授/JAXA 宇宙科学研究所地球外物質研究グループ グループ長)

(左から三桝氏、吉川氏、津田氏、渡邉氏。臼井氏はリモートで参加)

中継録画

【録画】小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会 - YouTube

本日の内容


1.はやぶさ2プロジェクトの成果

(津田氏より)



はやぶさ2ミッションの成功基準とその達成状況

はやぶさ初号機と比べると挑戦的な目標だった

はやぶさ2」:工学の成果(9つの世界初)

一番の成果は3番、タッチダウン精度60センチを実現。

(「3.小惑星での人工クレーター…」は次の「4.天体着陸精度60cmの実現」と番号以外が入れ替わっている)


はやぶさ2」:工学の成果

世界初という切り口が必ずいいと限らないが…

「離着陸を含む惑星間往復航行」の実現は現在日本のみ(もうすぐOSIRIS-RExが帰ってくるが)。太陽系探査の技術として重要

日本としては惑星探査は貴重な機会。工学実験成果など多数の科学成果を獲得

はやぶさ2」:理学の成果:まとめ

(渡邉氏より)


はやぶさ2」:理学の成果:近傍観測


はやぶさ2」:理学の成果:地上分析

我々はとても始原的な資料を手にした。隕石由来で、地上で汚染されたCIコンドライトより新鮮なもの

はやぶさ2」:理学の成果:リュウグウ


はやぶさ2」:広報・アウトリーチ

(吉川氏より)


はやぶさ2」:論文・受賞


はやぶさ2」:成果の活用・発展

(津田氏より)

はやぶさ2やれたんでしょ、じゃあこんなことも」と海外から声がかかったこともある

はやぶさ2拡張ミッション

特に探査機の部分、10年間やってきて大きな経験をさせてもらった。6月30日でひと区切り。新しい目的地に向かうミッションは若手に勧めてもらいたい。

はやぶさ2拡張ミッション:概要

はやぶさ2で育った若手がいる。三桝氏を運用リーダー、統括とするサブグループを作る。津田は全体の事業を統括。挑戦できるいい場ができた

(三桝氏より)

拡張ミッションではさまざまなことを実施したい。

はやぶさ2拡張ミッション:主要イベント


現時点での探査機運用の状況


はやぶさ2拡張ミッション:名称

(吉川氏より)

拡張ミッションの愛称を「はやぶさ2♯」とする(音楽記号のシャープ「♯」だが、ハッシュ記号の「#」でもOK)

はやぶさ2拡張ミッション:ロゴマーク


はやぶさ2拡張ミッション:アウトリーチ


3.リュウグウサンプル配布

(臼井氏より)


リュウグウサンプル配布


4.今後の予定

(吉川氏より)


参考資料


はやぶさ2」概要


プロジェクトの全体スケジュール


ミッションの流れ概要


質疑応答

NHK絹田:体制が変わるとのことだが、なにが変わってなにが変わらないのか

津田:資料17ページ。JAXA内での扱いが変わる。JAXAの直轄事業からJAXAの中の宇宙科学研究所内の事業へ。

プロジェクトマネージャ、ミッションマネージャは直轄事業に付与される肩書き。今後は自分は「チーム長」になる。拡張ミッション事業全体を統括。探査機のミッション。

自分がリーダーであることは変わらないが、探査機を直接扱うのは統括リーダーの三桝を据えた。

絹田:人員が大幅に入れ替わったりするのか

津田:そういうことはない。チームは縮小する。頭数は変わらないが予算規模も小さくなるため、エフォートが小さくなる。

絹田:ざっくり言うとあまり変わらない? 組織上の位置づけがかわるという点が大きい?

津田:JAXAの直轄事業ではなくなるので関与できる規模が変わる。関与していただける人数は変わらないがかけていただける時間は縮小せざるを得ない。チーム内はこうやって若返りを図る。

産経新聞いとう:津田さん、プロジェクトを率いてきた立場では大きな区切りでは。どういう気持ちか

津田:自分の中では大きなひと区切り。ここまでやりとげることができ満足しているし、メンバー、サポートしていただいたみなさんに本当に感謝している。こういう機会に恵まれて、よい組み合わせ、縁があってやってこられた。
やりきったがさみしさはある。終わってしまうんだと。しかし探査機がまだ残っているのは自慢できる。もっと新しい成果を出していってほしい。

いとう:後段は拡張ミッションへの意気込み?

津田:意気込みは三桝のほうがよいと思うが…拡張ミッションならではの成果を期待している。

いとう:サンプルリターン成功の段階で、100点満点で200万点などとおっしゃっていた。今の段階では

津田:200万点と言いましたっけ。サクセスくらいテリアを満たすようにやっていたが当てはまらないものもあり、9つの成果と申し上げた。よくあれだけのことができたなと思う。点数…点数でいうと面白くなるかわからないが花丸二重丸と思います。点数で言うと拡張ミッションの方が困ってしまいそうなので。

ニッポン放送はたなか:プロジェクトチームが解散になるきっかけとなるイベントはあったのか。イオンエンジンの運用再開とか。また吉川先生は今後どうするのか

津田:6月30日の手前に何かあったとかではなくて、帰還後サンプル分析か続いていた。技術的な成果や科学的な成果をまとめていた。ふりかえり。審査会のような形でJAXAとしては長い時間をかけて検討してきた。JAXAとしてこれが成果、ひと区切りになったというのが今のタイミング。評価作業が終わったのが区切り。
ちょうど科学成果も出てエビデンスも十分になった。

吉川:今はミッションマネージャだが明日で終わり。拡張ミッションをサポートするが役付けはなくなる。個人的には小惑星研究を続けていく。肩書きがないいちスタッフということ。

毎日新聞永山:今回の成功基準のすべてがオールグリーン、満点のプロジェクトであることについて津田さん、吉川さんの感想を

津田:この表を見ると挑戦的なことばかり書いてあり、本当に埋まるのかと思いながら始めた。地球に帰ってきてやっと達成できたとか、エクストラに2回目のタッチダウンがあったり。すべてやりきる意気込みであった。
ギリギリ達成できるのではなく、着いたリュウグウがどんな天体だったとしても克服できるようにしてきた。
想像を裏切る厳しさで恨んだが、今となってはそのおかげで単に表を緑で埋めたというだけでない、最高の形、得るものがおおい形でうめることができた。今はリュウグウに感謝している。メンバーや応援していただいた方々にも感謝。

吉川:立ち上げ期から関わっている。はやぶさ初号機は2005年にサンプルを採れていないのではないか、帰ってこられないのではないかということで始めたが、なかなか予算が通らなかった。当時から目標はリュウグウだった。C型小惑星は必ず面白い成果が上がると信じてやってきた。20年近く前の信念が正しかった。
多くの人からサポートいただいた。
緑が並んでいる表を見ると嬉しく思う。

永山:やり残したことはあるか

津田:地球に帰ってきてからコロナ禍であまりお祝いできていない。初号機のときはチームのメンバーが何度もどんちゃん騒ぎをしていた。この成果につり合う、成功を分かち合う会ができなかったのが心残り。10年後は絶対にやりましょう。

TBS宮:拡張ミッションのチームが発足するのはいつか(6/30か7/1か)

三桝:チームは6月30日で解散、拡張ミッションプロジェクトは審査会を経て2021年12月からISAS内で走り始めている。

フリーランス林:三桝さん、運用リーダーとしての意気込みや抱負は

三桝:ここまでいい成果を挙げてきておりプレッシャーを感じている。延長戦ができるのが夢のよう。開発・運用に関わってくれたメンバーや応援してくれた方々のおかげ。
探査機の設計寿命はすぎている。いつ何がおきてもおかしくないという状態が続く。そういうはやぶさ2と探査の旅を続けられる一日一日をかみしめながら運用していきたい。少しでも長い間はやぶさ2のいいニュースを届けられるよう全力を尽くす。

林:運用チームは何人くらいか

三桝:人数そのものはあまり変わっていない。今の巡航運用時は多くても10人弱。20人程度の当番制で日々運用している。フライバイや次の小惑星に到着してのミッションでは体制を強化していくつもり。

林:津田さんははやぶさ2は挑戦的で得るものが多かった、新しい宇宙探査の世界を切り開いたとあり我々も感謝している。津田さんの今後の目標は。

津田:ぜひご相談したいこともあるのですが(笑)、エンジニア人生を続けていたい。はやぶさ2がうまくいったので「はやぶさ2の次はこれを」というのがだいぶ達成されてしまった。迷いが生じている。もっとすごいことができなければいけないのではといった悩み。
はやぶさ2の成果からいいミッションを作れていければ。もっと遠い、もっと大きい、もっと始原性が高い天体など。単に小さい天体の話ではなく火星や木星の衛星など大きな天体にもつながる。技術の進化のさせかたは日本独自。それを磨く研究に貢献できたら。
日本は探査ミッションを次々できる状態ではないが、新しい提案をできればと思っている。

フリーランス山下:イオンエンジンを28日から運転とのことだがどのエンジンを動かしているのか。探査機の全体的な調子やイオンエンジンはスムーズに動いたのかなど知りたい

三桝:イオンエンジンはCのみ1台で運用。
探査機全体の調子は今のところよく、正常動作している。イオンエンジンも同様でスムーズに運転を開始した。これからの3か月をやりきってくれる未来を感じさせる。調子よく運転できている。

フリーランス大塚:今後の小惑星サンプルリターン計画に対して、サイエンスからはどんなリクエストがあるのか

渡邉:サイエンティストは欲張りで、この会見で終わったように思われるかもしれないがサンプルをどんどん分析してリモセンの結果とつきあわせて…することがたくさんある。
リュウグウはCIコンドライトの母天体へ行った。太陽系にはほかにも始原的な特徴がある天体がある。太陽系の成り立ちを知る上で重要。
いますぐはやぶさ3をやってほしいということはあまりない。サンプルを採るとき無茶なリクエストをしていた。あの岩から採取してくれとか。小惑星の表面のここだというところで採取できるようなことができたらよい。

大塚:採取の仕方が大事?

渡邉:メインベルトには100キロくらいの天体もあってそこへも行きたい。それを実現するのは工学なのでいろいろ話し合っていきたい。

津田:渡邉先生には何度も、サンプル採取はメインベルトでできないのか、ここでできたのだからお前たちならできるだろう、と簡単に言われた。なぜできないかを説明してもいやいや、と議論をけしかけてくる。この関係がよかったと思っている。厳しい要求を突きつけてくれる、突きつけ合う関係が技術や科学の切磋琢磨にはとても重要。渡邉先生はあえて工学メンバーにふっかけている気がする。
はやぶさ2においてサイエンティストとエンジニアでできたこういういい関係がもっと盛り上がるとよい。
無理なものは無理とちゃんと言います。

JSTサイエンスポータルくさか:理学成果のコメントをいただきたい。地上で見つかってきたどのCIコンドライトよりも始原的なサンプルを手にできたとのことで、それをどう役立てていくのか。

渡邉:CIコンドライトは太陽系科学の基盤になってきた。惑星のもとの材料や分布についての仮説の土台。それに似たものが持ち帰られてきた。
さらに今発表された論文の中でも違いがあり、CIコンドライトでも地上に来てから汚染があったり風化を受けたりではないかと、証明が難しいがそう言われてきた。
今回宇宙から直接持ってきたものとの比較ができるようになった。本当に宇宙にあった、もっとも始原的な太陽系の材料物質を手にしている。
サンプルはトータルの質量の1割以下しかまだ分析されていない。太陽系の始原物質がなにかを示すことが世界の惑星科学に対する日本の責務。研究していかなければならない。発表されたのはごく一部。リュウグウのサンプルはひとつひとつが多様であることが魅力。それぞれの歴史がわかって、全部をまとめると全体像が見えてくる。
先行して分析された粒子についての結果がまず出てきている。今後は個性豊かなサンプルが語っていることに耳を傾けると太陽系ができたときの秘密、思いもよらなかったことが見つかるのではないか。大いに期待している。

くさか:発見されたアミノ酸について

渡邉:石や砂、有機物などそれぞれの専門家を集めた初期分析チームと、それらを総合してリュウグウの粒子が全体としてなにを語っているのかというフェーズ2キュレーションを並行して進めていた。
アミノ酸はフェーズ2キュレーションをしている岡山大学の成果。これから多くの成果が出てくるだろう。
初期分析チームは有機物の専門家。その中にアミノ酸について徹底的に調べるグループもあるから、そこからの成果も出てくる。
報道はアミノ酸のことが大きく扱われているが、そういった成果をもう少し待っていただけると出てくる。それは改めて記者説明会で説明したい。

くさか:科学の成果が出てくると、探査の工学的な妥当性、適格性の検証にもなっていくと思う。昨今の科学成果をそういう観点からどう見ているか

津田:技術者としては探査機を正しく運転したかは比較的リアルタイムにわかる。これで成果が出たといってもよいが、それは科学の成果を得るため。工学メンバーとしては、作った探査機を使って喜んで使ってくれる方がたくさんいる、こんなのができたよと自慢してくれる。それが楽しい。今はそういうフェーズ。
苦しかった開発や運用のころと比べると楽しくマネジメントさせてもらっている。
このフィードバックが頻度よくかかるともっとすごい成果が上がるだろうなと思うこともある。はやぶさ1号機が帰ってきて4年たってようやく2号機が打ち上がった。あれと同じことは5年や10年早くできたと思う。制約はいろいろあってそうなっているが、科学や技術の発展という意味では能力的にはもっとできると考えている。
与えられた機会に科学成果ができたことも含めて評価して、頻度が少ない中で活かしていきたい。

(以上)