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小惑星探査機「はやぶさ2」再突入カプセル帰還後記者会見

日時

  • 2020年12月6日16時30分~17時30分(の予定が19時半まで)

前回の記者会見

登壇者

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メイン会場

  • JAXA理事長 山川宏(やまかわ・ひろし)※第1部のみ
  • 駐日オーストラリア大使 Jan Adams(ジャン・アダムズ)※第1部のみ
  • JAXA宇宙科学研究所所長 國中均(くになか・ひとし)
  • JAXAはやぶさ2プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 津田雄一(つだ・ゆういち)(JAXA宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系教授)

サテライト会場

  • 豪州宇宙庁(ASA)長官 Megan Clark(メーガン・クラーク)※第1部のみ
  • 在豪日本大使館次席公使 大村周太郎(おおむら・しゅうたろう)※第1部のみ
  • JAXA宇宙科学研究所副所長 藤本正樹(ふじもと・まさき)
  • JAXAはやぶさ2プロジェクトチーム サブマネージャ 中澤暁(なかざわ・さとる)

(写真上段の左から津田氏、アダムズ氏、山川氏、國中氏。下段左から大村氏、クラーク氏、藤本氏、中澤氏)

中継録画

NVS@nvslive)による中継

小惑星探査機「はやぶさ2」カプセル回収後記者会見 プレスセンターから生中継 - YouTube

関連リンク

第1部

はやぶさ2」帰還報告(山川理事長)

カプセルが無事回収されたことを歓びと共に報告する。探査機は地球待避軌道変更を行い新しい旅へ。カプセルは着地。火球の軌跡をご覧いただいた方もあるかと思う。カプセルを4時47分に発見。
リュウグウで2度のタッチダウン。2回目は人工クレーターを生成し内部物質を採取。
現在ガス採取を行っている。今後日本に到着する。
サンプル分析により太陽系の生成課程、地球への水の運搬など解明することを期待。
オーストラリアの協力に心より感謝。すべての関係者に厚く御礼申し上げます。

豪アダムズ大使 ご挨拶

まずは山川理事長、チームの皆様、世界的な偉業を達成したことに祝意を。
このすばらしい一瞬を共有できることを嬉しく思う。日本とオーストラリアの長い宇宙協力の新しい一歩。
今年は日本との科学技術研究開発協定締結から40年。JAXAの技術力は科学技術への造詣が深いことを示す。産業協力できたことを嬉しく思う。
本日のミッション成功はさまざまな方の協力で実現。オーストラリア宇宙庁ほか州政府、大使館が支援させていただいた。
オーストラリアは宇宙を最優先。ハイテク分野のアジェンダに力を入れている。
両国のパートナーシップの成功ははやぶさ2の成功と同じく続いていく。招いていただいたことを感謝すると同時にオーストラリア政府からお礼を申し上げたい。

ASAクラーク長官 ご挨拶

オーストラリアへようこそとサンプルに申し上げたい。皆さん朝早くからカプセル回収の作業を行っていた。
アダムス大使にすばらしい言葉をいただいたことに感謝。日本を代表して大村次席大使にいらしていただいていることも感謝。
心からお祝いを山川理事長に。チームの皆さんにお祝いの言葉を。
オーストラリアの地上で活躍したチームにお祝いの言葉を。プロジェクトに関わった日本の皆さん、津田さん、國中さん、藤本さん、心から尊敬を申し上げる。
宇宙局の役割はコーディネーション。JAXA、政府、空軍、南オーストラリア政府、こういった機関の協力。
サンプルの回収はウーメラで無事行われた。JAXAへのサポートは続く。サンプルがオーストラリアを安全に飛び立つまで。
地上に持ち帰ってきたサンプルはすばらしいもの。水、有機物があるのか。生命の起源は。さらなる未来の協力をすすめるきっかけになれば。
私たちがウーメラに到着したときは歓迎していたが昨日の朝ウーメラを立つときは雨で風もあって天候を心配した。そのあとすっきりと雲が晴れ、しっかりと火球が見られた。翌朝は地域全体が晴れ渡った。
2020年は世界にとって大変な年だったが、はやぶさ2とカプセル帰還の成功は世界が大事なものを思い出させてくれたし協力への信頼も深まるきっかけになった。

大村次席公使 ご挨拶

在オーストラリア大使館を代表して。カプセル回収が成功裏に実施されたことに祝意。2014年の打ち上げ以来6年間、設計も含めればさらに長い時間の運用に対して最大限の祝意
カプセルは日本に移送され分析されると聞く。日本国民の一人として楽しみ。
クラーク長官はじめとする宇宙庁、国防庁などに感謝。コロナの状況のもと難しい中内務省国境警備隊、格段の配慮をいただいたことに感謝。
先日の日豪首脳会談でも宇宙関係の協力を推進すると。大使館としてもさらなる発展に最大限の支援を。
クーパーペディで火球の落下を見ることができた。20秒ほどのできごとだったがそれまでの関係者の努力や長距離の旅に思いをはせ、共有できたことを忘れがたい体験となった。
コロナでオーストラリア、日本とも厳しい生活となっている。このニュースが来年への希望になったと確信。

第1部質疑応答

日本経済新聞こだま:はやぶさ2のすばらしい成果。日本の宇宙開発を考えるとき概算要求は増えたが有人宇宙開発、科学探査などすることは多い。人材や資金の配分を含めて科学探査にどのような取り組みを考えているか

山川:はやぶさ2が日本の宇宙開発に果たしている役割から。初号機の経験を生かして技術的に完成度が高いミッションになった。オーストラリアのアダムス大使と出席していることからも、オーストラリア、アメリカ、ドイツなどとの協力なしに成立しなかった。国どうしの協力が不可欠。
はやぶさ2の成果が若い世代を含め今後宇宙に取り組む、宇宙を仕事にすることに役に立てたのでは。コロナウイルス感染症と戦っている方に元気を与えられたのであれば幸い。科学技術、人材育成、社会貢献さまざまな形で宇宙開発は貢献できる。
宇宙開発そのものが有人宇宙活動、科学技術、環境問題への貢献、産業振興などさまざまある。一つの切り口ではなく総合的にとらえ国益や人類の生活に貢献することを考えることが大事。
人材、教育、産業の観点から予算をもし今後いただけるのであればバランスをとってさまざまなプロジェクトに取り組むことが重要。

JSTサイエンスポータル草下:日本へのお祝いコメントありがとうございました。オーストラリアは国民や国土を守ることが優先順位が高いと思う。はやぶさ2のカプセルを受け入れるにあたって不安はなかったか、苦労があったなら知りたい

クラーク:計画の時点から2年間にわたって私どもはサポートを続けてきた。最初は規制当局が承認にやってきた。日本は必要なことをしてきたので連携しつつ承認。次に我々のチームメンバーを含めてカプセルが地上に安全に着陸することをサポートしてきた。3番目のサポートは情報の共有を絶え間なくしてきた。
これらについてできるサポートを続けてきた。
日本のJAXAのチームは能力が高く責任感があるチームだった。私どもの責任としても日本サイドと協力し回収できるようにと私たちの立場で責任を果たそうとしてきた。すばらしいミッションチームが来てくれた。

(ウーメラへ)

■:(聞き取れず)

藤本:(聞き取れず)

第2部

カプセル回収・分離報告(國中理事)

私どもが実施したはやぶさ2、2011年から開発してきた。念願叶ってカプセルをオーストラリアに無事帰還させることができた。皆さんにお礼申し上げたい。
はやぶさ2は前身のはやぶさ1と異なり、完全にコントロールされたミッションを完遂できた。エンジニアリング冥利に尽きる。
惑星探査は難易度が高く、火星探査機のぞみ、はやぶさ1、あかつきも故障が多く予定通りのミッションをこなせなかった。はやぶさ2は100パーセントこなして地球に帰ってこれた。JAXA宇宙研も惑星探査の領域で次のステージに上がることができた。
この勢いで開発中のMMX、デスティニープラス、JUICE、ドラゴンなど進めていく。応援をお願いしたい。
はやぶさの流れは川口淳一郎教授が始めた道行きを進めていきたい。はやぶさ2の運用チームには宇宙研の所長として厳しい指導をしてきた。それも運用チームはよくやってくれた。本日はありがとうございました。

探査機運用結果報告(津田プロジェクトマネージャ)

「ただいま」。はやぶさ2は帰ってきました。6年の宇宙飛行を終えてウーメラの地に玉手箱を舞い下ろすことができた。カプセルは完全な状態。探査機も完全な状態で次の旅へ進んでいる。
サンプルリターンができた。惑星間往復飛行の道をはやぶさが開き、はやぶさ2でその扉をくぐり抜けた。この数週間リエントリ運用で地上パートで豪州へ渡り進めてきた。宇宙パートはパーフェクト。地上パートもここまでは完璧な進行。このあとカプセルを日本に持って帰る。中を開けるのが楽しみ。大きな成果を実現するにあたって力を貸していただいたみなさん、感謝したい。リエントリをたくさんの方に見ていただいた。なによりの力になった。ありがたい。
もう一つ、チームのメンバー。たくさんのメンバーが関わってよくやってきたと思う。たくさんのメンバーに感謝申し上げたい。
この先は資料にもとづき説明。回収隊の説明は中澤と分担しつつ。

はやぶさ2」カプセル分離運用

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カプセル分離運用のまとめ1

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カプセル分離運用のまとめ2

(ここは中澤氏より)

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打上げからの探査機運用のまとめ

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再突入カプセルの火球観測

非常にきれいなものをウーメラの空に観測できた。火球が出る時刻と消える時刻は秒単位でお知らせしていたがその中で光っていたと思う。発光位置、軌跡は狙い通りに見えた。

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南十字星ケンタウルス座アルファ(我々の地球から最も近い恒星)が見える。

(ここから中澤氏より)

中澤:1日違っていたら雨だったので命拾いした。

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(↓火球の様子がわかる動画)

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こちらから見ることができます↓

再突入カプセルの発見

ブッシュが生えている場所。幸いブッシュの横に着地しパラシュートがからまっていて飛ばされることもなかった(現地は風がなかった)。

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回収している様子。火薬を使っているのでプロテクターをつけて安全を確認。

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安全を確認できたので、20メートル離れる安全距離をとっていたほかのメンバーが近づいている。

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輸送準備のために運んでいるところ。

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箱に入れた状態。万が一火工品が動作していなくてもいいように頑丈な箱に入れる。

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ONC-W2による撮像:「ただいま。地球」

(ここからは津田氏)

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探査機が近地点を通過するので地球を撮像。ONC-W2(側面カメラ)で撮影。

カプセルが再突入する様子を撮ろうとしていたが処理中で間に合っていない。ここの写真はカプセルが写っておらずアデレード、ウーメラあたりの夜景が写っている。右側の予想通りの位置。放射線帯で撮影しているのでノイズを処理して見やすくしている。ノイズの中から火球を見つけるのは難しく、写っているか確認できていない。正しい方向に向いていたことはわかる。

ONC-Tによる撮像:「行ってきます。地球」

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植生画像(植物のみを浮き立たせる処理)をすると日本が見えている。はやぶさ2は日本も見つめながら遠ざかっていった。

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豪州現地報告(藤本副所長)

実は本番当日は落ち着いて進んだ印象。全員が自分がちゃんとしなかったら回収できないという自負を持っていた。このままチームが解散するのが残念なくらい。感傷的な気分。

第2部質疑応答

フリーライター荒舩:夜明けすぐに回収できた印象。予定の範囲内に着地したのか。迅速に回収できた要因は

中澤:範囲は想定内に。特にあわてることなく探索できた。ドキドキしていたので早いという印象はなかったが、探索がいい精度で場所を決定してくれた。てんでばらばらを指すことなく狭い範囲を指したのですぐに見つけることができた。

藤本:前の日の朝は雨で午後は強風。必要な半日だけいい天気だった。

荒舩:カプセルを持ち帰るのに気をつけることは

藤本:宇宙から特殊なものを輸入してオーストラリアから100時間以内に運ぶ必要があり、単に荷物を運ぶというのではない難しさ。
オーストラリア宇宙庁の支援がなければうまく進まなかった。支援や今後の協力で取り組んでいるため心配なことがあまりない。

(ウーメラ会場へ)

■:(聞き取れず)

藤本:(聞き取れず)

読売新聞まつだ:夜間の探索状況と発見の一報が入ったとき中澤さんは

中澤:ビーコンで場所を決めてヘリコプターで。電波の発信源に向かっていく。日が昇っていなくて暗かったため発信はとらえているのだがよく見えなかった。やきもきしている状況で時が長く感じた。「このへんにあるはず」と探しているうち日が昇ってきて目視できた。
やっぱりあったということでヘリコプターは戻った。やきもきした。

時事通信神田:明日のガス採取に対する期待を

中澤:現在ガス採取の準備をしている。明日行う予定。面白い結果が出たらお知らせする。結果次第と担当者から聞いている。

神田:採取の成否はすぐにわかるのか

中澤:なんらかの結果をお知らせしたい。

NHKきぬた:ガス採取は本日の予定ではなかったのか。ずれたのなら理由は。明日以降カプセルを持ち運ぶスケジュールやめどを知りたい

中澤:はっきりできなくて作業の進捗による。出発の時刻は決まっていない。もともと今日採取できるのは最短でのこと。順調に進んでいて明日になる。
採取できたら輸送準備。深夜に出発するか翌朝に出発するかも。

(ウーメラから)

■:2014年にはやぶさ2を打ち上げたときの気持ち。どのような感情で

津田:はやぶさ1が偉業を達成してとにもかくにも往復飛行を行った。そこで感じた、学んだ、やりたいことをすべて注いで開発と運用に関わってきた。6年後にこういう日を迎えられる自信を持ちながらやってきたが安心せず慎重に判断して一歩一歩進めてきた。
こんな嬉しい気持ちになるとは想像していなかった。

(公式の中継はここで終了)

共同通信須江:複数の小惑星からのサンプルリターンを成功させたのは日本だけと思うがその意義、今後どう展開させていきたいか

國中:宇宙研マニフェストとしては定期的なサンプルリターンを目指している。2010年にはやぶさイトカワのサンプルを持ち帰ってきた。10年後の2020年にはやぶさ2。計画中のMMXは火星の衛星フォボスからサンプルリターン、2029年に次のサンプルを採取すると世界に訴えて開発している。
その先の計画もいつか成立させるように検討している。定期的にサンプルを持ち帰ってくるとアピールすることは科学者がどういう分析をしどういう装置を開発しどういう分析スキルを磨いていくか、宇宙開発は10年20年単位で進む。一人のジェネレーションだけではできない。若い人材を未来に向かって育てるという使い方ができる。
イトカワリュウグウから取ってきたサンプルをすべて消費するわけではなく未来に向けて40パーセント取っておく。時間が経てば性能のよい分析装置ができるのが間違いないし今後出てくる新しい仮説の検証のために新しい分析が必要になったときに向けて40パーセントを未来に届けておく。
宇宙研の世界に対するマニフェストとして定期的なサンプルリターンを進める。

津田:はやぶさ1と2は小惑星へ往復飛行。はやぶさ2は完璧な状態で帰ってきたので惑星間飛行を完成させた。世界は月への往復飛行はできている。ほかの天体へ行って帰ってくるのは科学が目指すべき大きなステップ。
小惑星は百万個ありそういう小さい相手へ自由に行き来する、それを日本は2回もやったという特異な立場。世界とは違うやり方でいち早く実現している日本は科学的にも技術的にも特異なポジションを取れるのでは。

ライター林:津田さんの著書の中で「MMXは2018年より前の技術、リュウグウ探査で得た新しい技術がこれからの太陽系探査に必要」とあった。リュウグウ探査の新しい技術でどんな探査ができるのか。またISSの野口飛行士がはやぶさ2を見て撮影した。それへのコメントを。

津田:リュウグウで思いもかけない困難にぶち当たり、スペックを越えてサンプル採取する必要があり成し遂げた。こういう探査では科学的に意外な発見があると期待されるが、技術的にも意外な進歩があった。それを生かさないわけにはいかない。
ターゲットマーカのピンポイント着陸が功を奏した。我々が経験したやり方をふまえると…小惑星は太陽系に百万個あり、はやぶさ2の性能でも1,000個は行き来できる。
今まで行けなかった遠くの天体、多くの天体にもっと科学探査のターゲットを広げていける。リュウグウ探査で得られた技術でそこに手が届くんじゃないかと考えている。
野口飛行士に最初に提案したのは私から「もしかして撮れるのではないか」と。ISSの関係者は「厳しいかもしれないが調べてみよう」と。「こうやったら撮れる、こういう方向で撮れる」とどんどん広がって、大西宇宙飛行士や星出宇宙飛行士も出てきて2日3日のうちに決まっていって、NASAの方も「いいね」と言って実現した。難しいアングルで小さく暗いはやぶさ2を撮るので最後は野口さんの腕にかかっていた。見事に撮影してくれた。
野口飛行士はじめISSの関係者に「驚きました、すごいな」というのと感謝申し上げたい。

國中:はやぶさ2はなるべくオールJAXA体制でやりとげたいと思っていた。ISSで観測できるというのは直前にならないと決まらないが、当初計画では(超高速インターネット衛星の)「きずな」を使ってオーストラリアからカプセル帰還を生中継したいと調整していた。しかし「きずな」は数年前に故障し、かなわなかった。
アンテナを正確な位置に立てるのは(測位衛星の)「みちびき」に「まどか」という精密測位の技術を使った。はやぶさ1のときは「みちびき」がなかったのでGPSだけを使った。
オールJAXAのスペースアセットを駆使した。現地の70名のJAXAスタッフは半分が宇宙研、残りが本部から動員した。

読売新聞わたなべ:6年間の総括をふり返っていただきたいのと山場はなんだったか。それをどう乗り越えたか

津田:総括としては、はやぶさ2は惑星間の往復飛行を完成して前に進めた。惑星間飛行小惑星に限らずまだ2機しかやっていない。
2つめを完璧な状態で完成させたのが大きな成果。まだ確認できていませんがカプセルを開ければサンプルが見えるでしょう。科学的にも大きな総括にできる。強く期待している。
一番の山場は…いつも2つ挙げたいんですが(笑い)、1つめの開発のことは当時のプロマネの國中に聞くのがいいでしょう、自分は運用のほうで申し上げるとやはり第1回のタッチダウンリュウグウが非常に厳しい環境だとわかり、はやぶさ2の当初のスペックでは太刀打ちできないと判明したとき、チームの力が改めて試された。開発のときやってきたことに立ち戻り、リュウグウ到着までにしてきた訓練にもとづき、なにができるかを考えて着陸プログラムを書き直した。これが功を奏して最初のタッチダウンができたときは本当に「やった」と嬉しい思いだった。自分にとって一番大きな山だった。

わたなべ:6年間を自己採点するとしたら

津田:何点満点で…100点満点でですか、でしたら1万点でお願いします。

読売新聞まつだ:初代はやぶさプロマネだった川口淳一郎先生とどう喜びを分かち合ったか

津田:管制室にいらしていて、重要なところ…カプセル分離とTCM-5の様子を見ていた。先生はそのときしかいなかったので直接話はできていないが、喜んでくれていたと思う。

まつだ:このあと会ったらどのように報告したいか

津田:タッチダウンしたときははやぶさの宿題を、はやぶさ2で借りを返したと思った。リエントリを成功させるというのは、はやぶさが非常にディスアドバンテージがある中であんなに精度よくやってしまったので、自分にとってはプレッシャーでしかなかった。はやぶさ2は元気な状態なのに失敗させるわけにはいかない。
一方でたった2回目なので、必ず成功させるとは技術者としてはなかなか言えない。なんとかはやぶさ1と同じ状態を作れたということで、はやぶさ1の借りを返して前に進めたということを伝えたい。

FMさがみくまさか:夕べのパブリックビューイングには500人集まった。カプセルを生で見たいという声もたくさんあった。相模原市民にメッセージを

津田:わたしも相模原市民で、近くで見守って、応援していただいてありがとうございます。夕べも眠い目をこすって見ていただいたと聞いている。
カプセルは相模原に帰ってくるので市民の皆さんに見ていただく機会を作りたい。

國中:藤本副所長からも話があったように、コロナ対応ではたいへんご協力をいただいている。出発前には新田稲荷や市庁舎で壮行会も開いていただきありがたいと思っている。本村市長が掲げるシビックプライド向上に少しでも貢献できればと思っている。

月刊星ナビ中野:カプセルを振ってみたりして何らかの手がかりが得られたりしたか

津田:管制側はそういうことがまったくわからなくて、「聞いてみようよ」と冗談では言っていたが、本当に振ったらよくないことがあるので彼らもやっていないと思うが、運んでいる間にカプセルがゆれるので何か感じている人がいるかもしれませんね。

東京とびもの学会金木(と推測):宇宙研は「さきがけ」「すいせい」で深宇宙探査が始まった。そのあと火星探査機のぞみ、金星探査機あかつき、はやぶさと健全でない歴史が続いてきた。一方ではやぶさ2が完璧な成功を収めた要因は

國中:はやぶさ1のいきさつは大きな影響力があった。小惑星サンプルリターンという言葉はおのおの理解できるものの、どのように組み立てられてどういう結果をもたらすのかを知っていたのはたぶん上杉先生や川口先生だけだったのではないか。自分もはやぶさ1のイオンエンジン担当としては参加していたが、イオンエンジンには精通していたもののローカルな見識しかなく、全体像を認識していなかったと今は思う。
はやぶさ1が2003年から2010年にかけて行程を行い、地球に帰ってきたあとに世界中から応援をいただき、サンプル分析が行われた。それによってはやぶさ2に参加する全員が小惑星サンプルリターンの意味づけや意義、自分が担当する部分の重要性を認識できたと思う。
なかなかお話しできませんが2011年から2014年にかけて3年半の工期ではやぶさ2を作ったがいろいろトラブルがあった。2014年12月の打ち上げに間に合わないのではないかというピンチがたくさんあった。そのたびに一致団結しスケジュールを立て直しトラブルを解消して一歩ずつ進めることができたのはチームが一丸となれたこと、それははやぶさ1がもたらした共通認識を共感、共有できたことが大きい。
その意味で、はやぶさ2はやぶさ1の礎のもとに成り立っている。火星探査をもう一度やらなければならないし、金星探査にも挑戦したいと考えている。

金木:のぞみやあかつきの経験が生きたという観点は

國中:もちろんあります。直前にはあかつきの故障がありましたからトラブルの原因をはやぶさ2で再現させない作り込みをしている。のぞみはたとえば送信機が1つしかなかったが、今は2系統積むように修正されている。そういう知見や経験がのぞみ、あかつき以降踏襲されている。

ニッポン放送畑中:津田さんに。この2日間管制室の様子を拝見していて、緊張感はあるが会話や指示に気心の知れたチームワークのよさを感じた。このチームワークや雰囲気を作るために心を砕いたことは。また國中さんには津田さんをリーダーとするこの雰囲気はJAXA/ISAS伝統のものなのか聞きたい

(残り50分ぶん)

津田:確かに今回のリエントリ運用でもチームワークよく、いい雰囲気で進められた。近傍フェーズの難しいところを乗り越えられたチームだから、締めるところは締めてうまくやれた。こういう雰囲気のチームをイメージしてマネジメントしてきた。
探査機はすごく操作が難しい。すべてを理解している人はいなくて、部分ごととか、全体を広く、深くはなく理解している状態。難しいミッションをしているときはチームメンバーのコミュニケーションが重要で、相手のことを考えながら自分のやるべきベストを安心して尽くせる、怖がらずに提案できるとか、責任を負いすぎずにすごいことをしたいと思うとか、こういう雰囲気が必要で、これをああしろあれをこうしろではなくチームから提案が自発的に上がってくるチーム作りが重要と感じていた。
宇宙研のミッションを見ていても、うまくいくときは発揮されてきたと思う。そういうことを心がけていて、幸いはやぶさ2はメンバーがよくてうまくいったと思っている。

國中:僕はちょっと違う。仲良しクラブじゃないので。これは仕事なので緊張関係を持ち敵対関係があり対峙の関係があって、緊張関係を醸成して互いにクリティサイズ(critisize、間違いを批判する)する方法できちっと仕事はするべきだと思うので、あまり賛成ではない。
だから私はあえて運用班に対して厳しく指導したつもり。2回目の着陸はやるなと言うのではなく、やるのであればきっちり証拠を見せろと言った。
宇宙研JAXAのほかの部門と異なり教育機関を持っている。卒業生がそのまま職員になっていることが多い。同級生がいたり後輩だったりする。そういう関係はいいときはいいが悪いときはなあなあ関係になって緊張感の薄れたぬるい仕事になるのを危惧している。緊張関係、緊張状態が必要。
適正な規模の宇宙科学というのも問われる。無尽蔵に費用やリソースを消費することは許されない。JAXAの予算規模や日本の国力の範囲内でどれが適正かという議論は当然される。その中でいつも我々が国からクリティサイズされることを考えた上で正しく、誠心誠意ものごとを運べるような組織やチームであるべきだと思っている。

畑中:ありがとうございます。人生の参考にさせていただきます。

毎日新聞永山:探査機の開発中に津田さんが、はやぶさの踏襲であってもそこにいかにオリジナリティを入れるかを考えながら開発していると話していた。その意気込みはどこまで実現できたか。またそういったオリジナリティをこれからの宇宙探査で生かしていくためになにが必要と思うか

津田:どんな仕事でもそうだと思うが、誇りを持ってやれるポイントがないとモチベーションがわかないと思う。モチベーションをどうやってチームのメンバーに持ってもらうかという観点があった。それにはオリジナリティを発揮する自由度をメンバーや開発員が持つことが重要で、そこで創意工夫があったからミッションが成功したとあとから言える状態を作ることが成功するミッションになるのではと思っている。
踏襲だけやりなさいだと作る方は面白くない。バランスにすごく気を遣った。過去の資料やはやぶさ1号機の経験を見ていると、これはどうなっているかわからないがこの設計を逸脱するわけにはいかない、変えるわけにはいかないというところがたくさんあって、先人たちが積み上げてきたものだから守らなければならないという思いも一方であって、どこでバランスを取ったらいいのかを先輩方に聞きながらオリジナリティとのバランスを取ってきたつもり。
これはどんな技術開発でも考えなければいけないことで、人間がする仕事なので今後の宇宙開発でも難しいことをしようとしたり規模が大きくなるとルールに縛られて、個人の自由の余地がなくなることが往々にして生じる。そうならないスマートさ、自由度と過去の伝統、技術を踏襲するかのバランスをいつもクリエイティブに考えていかなければならないと思う。

フリーランス秋山:現在のはやぶさ2の位置は。またカプセルがなくなった状態で飛行することがどういう影響があるのか

津田:今の飛行距離はもう少しで30万キロ。月は38万キロなので今は月軌道の内側を飛んでいる。ただし秒速4.4キロメートル、時速16,000キロメートルで遠ざかっているので明日には月軌道の外へ出る。
探査機はカプセルが外れた状態で飛ぶことは想定しておらず設計の範囲外。はやぶさ2ミッションとしてはカプセルを切り離した瞬間に魂はカプセル側に乗り移るということになっていたので、探査機側はなにもしなくていい、設計条件もないというのが設計条件だった。
ただしTCM-5があり、そこは短時間だからもたなければならないなど細かい部分はあるが、拡張ミッションをする時にはカプセルが外れた状態でも飛べるかを今年1年間かけて影響を評価してきた。その結果11年の拡張ミッションができると判断した。
拡張ミッションの候補天体は2つあった。選定に時間がかかったのは、カプセルなしの穴が空いた状態で飛行して、たとえば太陽光が入っても探査機の熱状態が大丈夫かなどを調べていたため。今は大丈夫だと思っている。

フリーランス大塚:津田さんは今後どんなプロジェクトをやりたいか。

津田:肩の荷が下りましたがまだ下りきっていなくて、カプセルが帰ってくるところまでしっかり見るし拡張ミッションも見ていこうと思っている。
はやぶさ2で経験できたことというのは、ずっと開発に携わってきたということ。開発の最初から関われたので、どう開発したからどういう探査ができたのかという一連の流れが自分なりに確固としたものができたと思う。
これまで探査ミッションにいくつか関わってきたが途中で抜けたりしていた。はやぶさ2は最初から最後まで関われた。この経験を生かした別のミッションを考えたい。次の小惑星探査をするならこうだろうなという思いもある。
深宇宙ミッションには関わりたい。大きな惑星、遠くの惑星に行ってみたい。

大塚:カプセルの着地位置は想定円の中心からどのくらいの距離があったのか

津田:150×100キロの想定範囲があり、平均風が吹いたとき中心に下りるように探査機を誘導した。昨日は高高度の偏西風が強かったようで、昨日やおとといの天気予報から着地点を解析すると楕円の中でやや東にずれるという予報になった。それも見越して範囲を設定していた。西風が強いために東にずれた。カプセルを分離したときの分離速度のデータも使って、どこに落ちるか解析チームが予想していた。その予測に対してすごい精度で下りてきた。
着地点の座標データはまだ確認が取れていないが、絵で見たところではドンピシャに近かった。

東京新聞増井:2回目の着陸のとき重圧があってターゲットマーカを落とす時はダメかもと思ったとのことだったが、そのことが地下物質を採取することにつながったのか

津田:ターゲットマーカを落とす運用が途中でアボートになり中止したことがあった。
結果としてそのときに撮影された地形データから着陸地点を変えている。アボートしたおかげで、行きたいけれども情報が少ないから危険だった場所のデータを取れた。結果として安全を確認でき、本当に行きたかったところを選んで着陸できた。
これははやぶさ2が「持ってる」としかいいようがない。本当に運がよかった。
アボートは決して悪いことではないが、あのままアボートしなかったら一番望む場所ではないところに着陸していたと思う。アボートしたおかげでというのは変だが、行きたいと思っていたところに行けた。

増井:今後について。MMXにもはやぶさ2チームが関わっているしはやぶさ3も検討中とのことでどう生かしていくか

津田:はやぶさ3という具体的な名前があるわけではないが、はやぶさ2で2018年以降に得た技術を使わないのはもったいない。どう生かすか、いろいろなミッションを検討中。はやぶさ2で中核を担ったメンバーはほかのミッションにも貢献している。それにはMMXもあるし、天体への着陸の経験を持つ若い技術者が9年後のミッションで大きな力を発揮するだろう。
もちろんそれで終わりではなく、次のミッションはなんだろうと考えたとき、「はやぶさ3」かどうかはわからないが小さい天体に行くミッションは得意技になっているので、これを生かすことは考えたい。あっちかこっちかではなく、応用の範囲がいろいろな方向にできた。

日刊工業新聞いだ:今後10年間かけて行く拡張ミッションのメンバー体制はどうなるのか。津田先生はプロマネを続けるのか

津田:はやぶさ2プロジェクトの事業上の話で行くとサンプルが帰還してそれを評価したところで総括となる。拡張ミッションが予算の関係では提案中という段階。首尾よく認められれば来年度から新しいプロジェクトとして始まる。はやぶさ2というアセットを使った新しいプロジェクト。我々チームの一存では行かないところがある。まずはサンプルを見てから。来年の1月から3月くらいまでかけて、次の11年をどういうチームで進めるかはJAXAの中で議論していくだろう。
自分ははやぶさ2のことをよく知っているという思いもあるので、なんらかの形で関わっていきたい。

日刊工業新聞富井:はやぶさ2に関わった企業の力をどう評価しているか、また今後どう生かしていくか

國中:JAXAの中ではいろいろな衛星を作っていて部門が分かれている。宇宙研は挑戦的な、とんがった探査機や衛星を作ることが課せられた課題。トップランナーとして新しい技術を開発し実証する。宇宙科学のための衛星、探査機は10年に一度しか作られない。はやぶさ2のような作り方は珍しい。
企業の力は難しい技術開発をするだけでなく、それを短い期間でサイクリックに作り上げ、製造のためのラインや人を養い、育てていくPDCAサイクルを早く回すことが企業力を高める大事な道筋。宇宙研のポジションだけでは企業力を発展させていくのは難しい。
JAXA全体の中で宇宙研は難しい技術を先導してスピンオフし、それをほかのオペレーショナルサテライト、地球観測衛星静止衛星などに転換できるスキームがあってこそ企業の技術は維持され発展していく。宇宙研だけではやりきれないがJAXA全体ではできるだろう。
最後にはJAXAの応援や縁故を離れ、自社技術を海外へ売るなどして産業にしていかなければならない。それを最初から最後までJAXA宇宙研でやるのは難しいだろう。

NVS齋藤:はやぶさ2のミッションを見てきて、若い世代にも興味が広がったと思う。深宇宙探査の航法誘導が発達し、この時刻この位置にカプセルを落とせるようになってきている。宇宙探査を目指したい若い人に探査の面白さ、航法誘導の面白さを語ってほしい。

國中:(マイクを取ってから津田氏に)先やって(笑い)。

津田:宇宙工学で最初に面白いと思ったのは軌道力学で、天体から天体へ飛ばすにはどういう軌道をとればいいのか、どこを飛んでいるかという航法、制御する誘導、すべて必要。コンピュータの中でできるが、それが大きな太陽系の中の大きな実際のミッションに直接つながるのが面白い分野。
はやぶさ2はそれをイオンエンジンでなしとげる。計算上の扱いは難しいがそれだけやりがいがある。
宇宙を自由に飛行する、ある星からある星へ航路を結んでその通り進むのは宇宙旅行、宇宙飛行そのもの。それに直接関われるのが私の面白いと思う軌道力学の世界かなと思います。

國中:探査、探検するということ。究極はわかんないところに出かけていくので何を準備していったらいいのかわからないのが探査の醍醐味。
はやぶさ2で着陸場所がないというのもリュウグウの情報はまったくなかったから。はやぶさで行ったイトカワの情報もまったくなかった。イトカワの情報を駆使してリュウグウはこんなふうになっていると予想し、平らなところがあるでしょと行ってみたらなかった。そこで工夫してやってのけたのが探査の一番の面白み。もちろん手ぶらでは行けないし、イオンエンジンや誘導航法の技術がなければ行けないけれど、それに加えて未知の領域に進出するということ。情報を集められるだけ集めて、その根拠を持って設計し出かけていくんだけれど、たぶん知らないことに出くわす。それをどうするか、持ち合わせた能力を組み合わせてどう克服するかが探査の醍醐味。はやぶさ2もそれを実証した。
このあと月の極に下りるとかフォボスに行くとかするけれど、きっと行ってみたら思いもしなかったことがある。僕らがやってきたことを見ていた若い人が感化されて挑戦してくれたらいいなと思う。

齋藤:いま中学生や高校生でも探査に参加するチャンスはあるか

國中:ええ、若い人をやる気にさせる活動をしていきたい。今はコロナで、対面で話せるチャンスが少なかった。帰還前の1週間は中高生向けにはやぶさ2を紹介するキャンペーンをネットでやっていた。多くの中学生や高校生が聞いてくれたようだ。質問も大変熱心に、とてもディープな質問もしてくれてたいへん頼もしいなと思った。

NHKつちや:今後のサイエンスの成果に対する期待を。エンジニアリング側は完璧でサイエンスチームにプレッシャーがありそう。我々も生命の起源につながる手がかりがなどと報道するが、ここまでわかってくれたらということがあれば。

津田:C型小惑星からサンプルが採れるのは初めて。どんなものが採れるかわからないが目で見るのと触れる状態にあるのは全然違うから楽しみ。
C型小惑星から来ただろう隕石は手に入っているが、今回手にするのは加熱がされていないフレッシュな状態の小惑星のかけら。我々は隕石の知見から敷衍して小惑星を理解しようとする。そこから仮説がありそれをC型小惑星のサンプルで証明しようとするが、仮説を裏切るような事実がリュウグウのサンプルからわかったらこんなに面白いことはない。これこそが科学の進化につながる。どういう有機物や水質鉱物が入っているか。科学者の期待を裏切る成果が出てきたらいいなと無責任に思う。

國中:わたしはカーボンが何パーセント入っているかが関心です。MINERVAが見てきた写真を見るとコークスに見える。月の水を電気分解して酸素と水素にするという話があるが、カーボンの含有率が高ければそんなことをしなくてもリュウグウを掘ってそのまま燃やせば燃料になる。ハイブリッドロケット燃料は固体燃料と酸化剤を混ぜて燃やす。銀河鉄道999のような…リュウグウへ行ってその場で掘って炉にくべて燃やしてしまえば面白いことになるのではという空想をしている。

JSTサイエンスポータル草下:人類が存続し豊かになるために科学技術がどう貢献するかが問われていると思う。宇宙好きや宇宙ファンが喜ぶだけでなく人類に資するかどうか。
宇宙を探求することが人類を豊かにするという話を聞きたい。

津田:科学者は今まで人間が知らない英知を明らかにしていくことが人間の豊かさや世界がいい方向につながると信じている人種。新しいことを知る、知らないことを知るのが人間の本性に訴えること。美しい方向、いい方向に向かっているのが科学の探究。
こういうタイプのミッションは人類誰でもできるものではない。余裕が必要だし、知的好奇心は誰でもあるかもしれないが実行できるだけの基盤が必要。幸いそれをできる科学者である我々はそれを使った世界を広げなければならない。
目の前のものごとにすぐに役立つのを目指すのが科学の目的ではなく、これは最先端の技術を使った究極の基礎科学。これで明らかになったことは必ずなにかの形で人類全体の英知、知識の豊かさにつながると思う。

國中:探査、探検で知らないことを知るのが我々の活動。小惑星に行って帰ってこられる、サンプルを持ち帰ってきたということ。次のステップはそれをなにに利用できるのか、人間の活動にどう有効に利用できるのか。
先ほどのカーボンがどのくらいあるかの話にもつながる。人間活動の代表例として産業や経済活動圏の中に小惑星を巻き込んでいかなければならない。
日本は小惑星を資源にすることを立法化している。ルクセンブルクが先行していて日本も遅れないように法律にしている。
民間活動が小惑星資源の有効利用に向かうようにしている。今すぐできるとはいわないが、経済活動圏に巻き込んでいく方向が見えている。我々はそういう経済活動からある意味もっとも遠いブランチなので(笑い)僕らがそういったことに感度があるかどうかはまた別の話。でもニュースペースの人たちはそういったところに出ようとしている。ギャップはあるかもしれないがゆくゆくはつながっていくと思う。

フリーライター荒舩:ミッションを通じて学んだこと、伝えていきたいことは

津田:学んだこと…ひとつは「なせばなる」だなと思いました。リュウグウに着いたときは、ここまでちゃんと何とか開発して打ち上げてたどり着いたのにこれか! と絶望の淵に立たされた。しかしそういう小惑星であったからこそいいチームワークになった面はある。きちんと工夫すれば糸口は見つかる。幸運もあったかもしれないがポジティブになった。ポジティブでないとやってられない。ポジティブさを保つことは重要だと思う。

國中:はやぶさ2の製造中は現場にいたが、そのあとは経営活動になってしまった。はやぶさ2はちょっと距離をもって見ていた。宇宙研が開発している衛星プロジェクトは10も20もある。それをうまく回していかなければならない。はやぶさ2が転んでもらっては困る。失敗しないようにガイドして、はやぶさ2を先兵にして予算を獲得して次のミッションをどう回していくかが僕の5~6年やっていたことなので、ずいぶん政府との関係やプロジェクトの関係であるとか勉強させてもらった。
次の世代…人の新しい領域に挑戦する人が出てきて知見を積み、ある人は経営に、ある人は技術に、科学へ進んでいけば。
挑戦してくれる人、JAXAなり宇宙開発なりに進出してくれる人がいないことには始まらない。若い人たちは共感してもらえるのならぜひとも挑戦してほしい。

時事通信神田:國中先生の先生である栗木恭一先生に話を聞いた。「イオンエンジンのことを心配していない、当たり前に動くことがエンジニアリング冥利に尽きる」とのこと。津田さんにとってエンジニア冥利につきるのはどういうことか

津田:やはりスペック通りに動くことだがスペックをどう思い描けるか。そしてその通り作ること。作ったように飛ばせて、飛んでいるときには作っているときと同じことができるのが技術者冥利に尽きるかと思う。

神田:サイエンスとのコラボレーションで心がけていたことは

津田:サイエンスと工学というふうに分かれて別々のことをするという立場ではなく、一緒に混ざり合って同じことをやらなければならない。その時のエクスパタイズ(expertise、専門分野)がサイエンス寄りか工学寄りかということはあるが、同じ目標を持たなければならない。いろいろなバックグラウンドの人たちをどうやって同じ土俵に乗せて議論できるようにしていくか、ものを作っていく場にするかに心を砕いた。

國中:科学が大きくなってきて今のようなチームワークが自然にはできにくくなっている。当時の山浦理事が日本中走り回って日本の技術者を結集するメカニズムを作り上げた。JAXAが計画的に身を粉にしてチームを作る活動をしてきたことが大きい。
プロジェクトの立ち上げの議論をいろいろするが、日本の国力としてアメリカやヨーロッパ方式の層が厚い向けの作り方はできないのではないかという話をしたりする。層が厚いと同じ領域のプロジェクトのミッションを2~3チーム作ることができる。一方日本は層が薄いのでAとBのプロジェクトがコンピート(compete、競い合う)してどちらかを選びましょうということをやり抜くと、AとBのグループ(メンバー)を混ぜないと作れない。
ボトムアップで競争しながらミッションを決めていくのが日本の実情に合っているのかという議論をしている。議論は必要だけれどもJAXAなりどこかのグループが予定調和でプロジェクトを選び予定調和でチームを作る方式が必要なのかもしれないという話をしている。そこがJAXA/宇宙科学研究所がノードとなってするべきことと思う。

宇宙作家クラブ渡部:今回の成功を受けて次はこんなことに挑戦したい、というような希望があれば

津田:いろいろ思いつくが…今考えなければいけないのは、やはりはやぶさ2小惑星で滞在中に得た技術的進歩をどうやったら次のミッションに生かせるかという観点。行かす先は、もっと遠方やもっと大きい小惑星が考えられるし火星や木星土星の衛星からサンプルを持ち帰る技術に使える部分がある。
誰もやったことがないが科学者が手をつけたがっている領域がいくつかあり、そこに2018年に我々がしたことをどう生かせるかを考えている。

NHK水野:はやぶさ2は小天体探査で世界をリードしたことになると思うがOSIRIS-REx小惑星ベンヌで岩石を採取した。1,000億円かけている。日本は低予算な中でミッションを成功させる鍵は何だと思うか。人なのか、どんな技術的な工夫をしているのか

國中:技術開発だと思う。イオンエンジンなりの挑戦をした上で500キロ~600キロ程度の探査機に仕込めるようになったのが1,000億円ではなく300億円でできた結果。遠くに出かけていくためにはたくさんの問題がある。そこを解決するような新しい技術開発をしなければ、アメリカやヨーロッパと同様1,000億円かけなければいけなくなる。必要な新しい技術開発が我々の目指す方向だと思う。

津田:太陽系探査では火星より内側、地球に近いところを探査したことになる。ロケットの能力では日本の技術で木星土星、その先に軌道設計で工夫するなどして届くことができる。はやぶさ2かそれより小さいクラスでもそこへ届く技術は持っていると思う。そこで十分な活動ができるか。目的地を通り過ぎて写真だけ撮ればいい科学ができるという状況ではなくなっている。行っただけではなく、はやぶさ2が見せたような面白い探査をするとか、着陸とは限らなくても現地できちんとアクティビティをする能力が必要。高効率の電源であったり軽量の太陽電池アメリカの原子力熱電対など。小型だけれど遠くへ飛ばすことを組み合わせることで実はまだ低コストでできることはあると思う。

(以上)

(会場から拍手)

次回の記者会見