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映画「時をかける少女」と小島秀夫

ある女性が、「時をかける少女」を映画館へ観に行ったときの話。

後ろのほうの席に座って、ちょうど上映が始まるころ、急いで入ってきた人がいる。なんとなく顔を見てびっくり、ゲームクリエイター小島秀夫にそっくり、いや本人? たぶん本人だ。こんなところで初めて見るなんて。

ゲーム好きの彼女にとって、小島秀夫は長年あこがれてきたカリスマだった。

さいころ、雑誌でコナミMSX2用新作ゲームの紹介を見て衝撃を受けた。そのアクションゲームは、敵基地に潜入する男が主人公。しかし襲いかかってくる敵を次々と倒していくゲームではなかった。敵に見つからないよう、できる限り隠れながら奥へと進んでいくというのである。アクションゲームが苦手だった彼女にとって、この発想の転換は強烈な印象を残した。

そのゲームこそ、小島秀夫のデビュー作「メタルギア」だった。

メタルギア MSX

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  • メディア: CD-ROM

その後小島監督は(映画ファンの小島秀夫は「監督」という呼称を好む)、「スナッチャー」「ポリスノーツ」といったSFアドベンチャーゲームを発表する。そして「メタルギア」は3Dアクションゲーム「メタルギアソリッド」となって大ヒットした。彼女は小島監督がゲームを発表するたび、追いかけるようにプレイしてきた。

スナッチャ-

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  • 発売日: 1996/02/16
  • メディア: Video Game

ポリスノーツ

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  • 発売日: 1996/01/19
  • メディア: Video Game

小島作品の魅力のひとつに、ハードな設定、秀逸なシナリオの中に突如コミカルな場面が挿入されるところがあるという。しかもそれは、ゲームであることを逆手にとり、ゲームでしか表現できないものもあったそうだ。

ポリスノーツ」では、爆弾を解体する場面がミニゲームになっている。いわゆる「電流イライラ棒」なのだがこれはけっこう難しく、プレーヤー(=主人公)はたいてい一度は失敗する。爆弾が爆発してゲームオーバー。再挑戦すると、横の相棒に言われる。

「今度は失敗するなよ」

今度は?

さらに何度か失敗し、ゲームオーバーを繰り返すとこう言われる。

「今度は俺にまかせてくれ」

今度は?

そしてプレイヤーは,相棒が爆弾解体ゲームに挑戦するのをただ見ることになる。お、うまいうまい、これはもしかして、下手なプレイヤーのための救済措置なのかな…と思ったらドカーン! ゲームオーバー。

そしてゲームを再開すると、こんなやりとりがある。

主人公「おい、なにやってるんだよ!」

相棒「すまんすまん、やっぱりお前がやってくれ」

という感じ。

こういうコミカルな味つけは「メタルギアソリッド」がビッグタイトルになった今でも健在であり、ゲームの面白さに華をそえているそうだ。

こんな話を一気に語ってくれるほど、彼女は小島監督に心酔している。その小島監督と同じ劇場で映画を観ることになるなんて、と感激したそうだ。

さて、「時をかける少女」の舞台は、現代の東京である。主人公の元気な女の子、紺野真琴は高校2年。同じクラスの男子2人といつもつるんでいる。

筒井康隆の小説、原田知世の映画「時をかける少女」の主人公、芳山和子は真琴の親戚、「魔女おばさん」として登場する。

ある日真琴は、ひょんなことから過去へ戻る能力を身につける。ひどい目にあってしまっても、楽しい遊びが終わってしまっても、タイムリープの能力を使って過去に戻れる。失敗にはあらかじめ対処できるし、何度でもくり返し楽しく遊ぶことができる。すばらしい!

そんな中、3人の関係が微妙に変わるある事件が起きた。真琴はいつものようにタイムリープして解決しようとするが、何度戻っても裏目に出てうまくいかない。それどころか、状況は取り返しのつかない方向へ進み始めてしまう。

コメディのように始まった映画は切なく、しかし未来への希望を残して終わる。

結局、タイムリープができても全能にはなれない。ここという瞬間では、自ら勇気をもって決断しなければならない。

映画の中の真っ青な空も、川べりから見る美しい夕焼けも、今日の今、見ていることを大切にしなければならない。過去に戻れば「今」はもう一度やってくるけれど、それは今とは別の「今」となり、決して取り戻せないのだから。

そんな映画の上映が終わって,劇場の明かりがついた。小島秀夫も立ち上がり、帰り支度を始める。

小島監督に気づいた観客のひとりが、「あの、小島秀夫さんですか」と声をかけた。「応援してます、がんばってください」と握手をしている。

しかし、あこがれの小島秀夫を目の前にして,彼女はどうしても声をかけることができなかった。声をかけたとして、なにを言えばいいのかわからない。なにしろデビュー作から20年間、追いかけ続けてきた相手である。思いが強すぎて、かえって躊躇してしまった。

時をかける少女」はすばらしい映画だった。そして小島秀夫に会えたことも同じくらいか、それ以上にすばらしい体験だった。

でもやっぱり、あとになって落ち着いてくると、声をかければよかったという気持ちが強くなる。

「最初の『メタルギア』のときからファンでした」

「『ポリスノーツ』の爆弾解体、面白かったです」

あとになれば、こう言えばよかったという思いがわいてくる。でも、次に小島監督に会えるチャンスなど、いつくるかわからない。

時をかける少女」は、今この瞬間を悔いのないように、というテーマを持っていた。そんな映画を観た直後でも、そうそうすぐには自分に取り入れられないものだ。

もし人生をやり直せても、同じ自分がくり返す限り大差はつかない。最終的には自分自身がしっかり成長していかなければならない。

時をかける少女」という映画をたまたま観に行ったそのタイミングが、得がたい体験と後悔、そして成長のチャンスを彼女にもたらした。

まさに映画に出てくる落書きの通り、「Time waits for no one」(時は待ってくれない)なのだった。

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アニメ版 時をかける少女

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↑映画のノベライズのもよう