回路から自分で設計したキーボードが普通に使えるようになった。致命的な設計ミスや組み立てミスがなく自分でも驚きだ。名前は「ThumbShift5-15TB」とした。親指シフト入力に向く作りになっている。
KiCad(というフリーの回路設計CAD)で回路図を描いて、
KiCADで基板も設計して、
トッププレートやボトムプレートも設計して、
データをまとめてJLCPCBに発注すると送料込み1万円程度で2週間もかからず基板が届いて、
基板の横を黒く塗って(このひと手間で見栄えがよくなる)、
Pro Micro(マイコン)にコンスルーをはんだづけして、
LEDを基板にはんだづけして、
ダイオードを基板にはんだづけして、
トラックボールユニットにピンヘッダをはんだづけして、
基板にはトラックボールユニット用のピンソケットをはんだづけして、
スイッチソケットを基板にはんだづけして、
リセットスイッチを基板にはんだづけして、
キースイッチとキーキャップとトラックボールユニットを装着してボトムプレートをねじ止めするとハードウェア的には完成して、
ファームウェアを書いて、
なんと! キーボードとして使えるようになっちゃったのだった。(トラックボールのファームウェアはうまく動かなくて修正中)
今回キーボードをわざわざ設計して自作したのは、今使っているキーボードがすでに販売終了しているから。エレコムのTK-FBP044BKという機種である。気に入っているが別に高級キーボードというわけでもない、普通のパンタグラフのキーボードだ。
- 買ったときの記事(2014年12月24日付):新しいキーボードを買う
TK-FBP044BKはWindowsとMac OSの両方で使えて、Bluetoothで複数台とマルチペアリングでき、USBでも接続できてその間は無線接続でも電池がほぼ減らない。自分にとって申し分のない仕様で10年近く使ってきた。その間に調子が悪くなったり水をこぼしたりして、今使っているのは確か3台目である。
エレコムはTK-FBP044BKの後継機種を出していない。終売になって時間が経ち、中古品を入手しづらくなってきた。今のが使えなくなる前に代わりを用意しておきたい。(これ、地球が隕石で滅亡する前に人類が宇宙で暮らせるようにならなければならない話に似てますね)
幸い、今は好きなキースイッチ、好きなキーキャップ、好きな配列でキーボードを自作できる環境が整っている。基板を発注するまでのデータはフリーソフトで作れるし、発注もネットにデータを上げるだけでよい。先人が獲得してきた自作キーボードの知恵はたくさんのドキュメントにまとめられている。ありがたい時代だ。
ThumbShift5-15TBのキー配列はずいぶん前に考えたもので、実は一度キーボードとして組んでいる。しかし組み立て時にいろいろミスがあって、結局キーボードとして動作することはなかった。そのときの記事は以下。このキー配列にした理由などはここに書いてある。
- 2021年12月16日付:親指シフトを意識したキーボードをSU120で作る
今回はこのキー配列を踏襲しつつ、一番手前に小さなトラックボールを配置することにした。パレットシステムの「AZ1UBALL」という。またフルカラーLEDを1つつけた。現在の入力モードを知らせるなどに使えるだろう。
自作キーボードのキットを買うことも検討してみたが、親指シフト入力に適したキットとなるとぴったりくるものはなかなか見つからない。トラックボールつきはなおさらだ。大変かもしれないが、自分が使うものは自分で作ろうと考えた。
設計の参考にしたページや電子書籍など
- GL516 デザインガイド
- テンプレートとなるファイルをもとに、KiCADで回路や基板を設計していく手順が解説されている。ThumbShift5-15TBは基本的にこのデザインガイドを見て設計した。これがなければ自力での設計はとても完遂できなかっただろう。ありがたいことです。ファームウェアまわりの記述はQMK 0.18準拠で古いので、新しいバージョンに合わせて書き直した。
- 自作キーボード設計ガイド Vol1 設計入門編 - 自キ温泉街販売所 - BOOTH
- 上のデザインガイドをまとめたサリチル酸さんは、自作キーボード設計の電子書籍も出している。この本ではGuide68という分割型のキーボードを設計していく。デザインガイドより情報量が多く、また設計の手順がちょっと違っていて、そこがまた知見になった。
- 「自キ温泉街案内所」Discord
- サリチル酸さんが運営しているDiscord。キーボードの自作に関するトピックが日々やり取りされている。基板のデザインや発注、ファームウェアのことなど質問させてもらった。とても助かりました。ありがとうございました。
- Remap
- キーボードのファームウェアを登録し、キーを押したときなにが入力されるかをブラウザ上のGUIで編集できるサービス。ほかにも登録されているキーボードをカタログ的に閲覧し、それぞれのファームウェアのソースリストへのリンクをたどるなどもできる。先人の知恵をいろいろ拝借させてもらった。
パーツを買った店
- 遊舎工房
- 秋葉原の近くに実店舗がある自作キーボードのショップ。レーザーカットのサービスもある。ねじやスペーサーを買った。
- TALPKEYBOARD SHOP
- 自作キーボードのパーツ類を販売しているネットショップ。遊舎工房より価格、送料とも安め。ダイオードなどを買った。
- 秋月電子通商
- 電子工作全般の総本山ともいえるショップ。秋葉原の実店舗でLEDなどを買った。
- 千石電商(せんごくネット通販)
- 秋月電子と同様の電子工作ショップ。秋葉原の実店舗でピンソケットなどを買った。
基板を製造してくれるサービス
- PCB Prototype & PCB Fabrication Manufacturer - JLCPCB
- 今回はここに発注した。基板の製造だけでなく3Dプリントサービスなどもある。安めで早めだが品質はやや劣るという意見が多いようだ。(参考:JLCPCBの発注方法を解説するよ! - 自作キーボード温泉街の歩き方)
- Elecrow: PCB Prototype & Open Hardware For Makers
- JLCPCBと並んでよく知られた基板製造サービス。やや高めだが品質は比較的よいらしく、頒布のための量産はこちらのほうがいいかも。
このあとすること(遠大な目標も含む)
- 前述の「Remap」にThumbShift5-15TBを登録して、キー配列をブラウザから簡単に変えられるようにする(参考:QMK Firmware、REMAP(VIA)の対応手順)
- キースイッチに潤滑油を塗って(ルブして)キータッチをよくする
- トラックボールをちゃんと使えるようにする(参考:トラックボール付き自作キーボードをさらに使いやすくするファームウェア 【Keyball】【cocot46plus】)
- トッププレートの上にアクリルカットのデコレーションプレートを置いて市販のキーボードっぽくする(見た目の参考:REVIUNG53 アクリルフレーム+Hi-Proフレーム – REVIUNG)
- トッププレートとボトムプレートの間にアクリルカットで外枠を作り、ほこりが中に入らないようにする(見た目の参考:同上)
- 基板とボトムプレートの間にフォームを入れて、打鍵感や打鍵音が向上するかどうか試す
- Mac対応
- 親指シフト入力をキーボードのファームウェアでできるようにする。つまりパソコン側に親指シフト入力のソフトを追加せずにすむようにする(参考:QMKで自作キーボードを親指シフト/薙刀式へ拡張する - weblog.sy)
することが多い! カスタマイズもまだまだこれからで、まったくもって沼である。楽しくやっていこう。
この記事はThumbShift5-15TBで書きました。(←これずっとやりたかった)
基板をほしい人いますか?
基板の注文は5枚からだったのでトッププレート、実装基板、ボトムプレートとも5枚ずつ注文しました。ほしい方がいらしたら32名までお譲りします。Twitterなどでご連絡ください。頒布価格はこれから決めます(追記:送料別3,0002,000円にします)。今はトラックボールのファームウェアが未完成です。EnterキーのスタビライザーはCostar用の穴がありますが、位置をミスして機能しません。キーケットでお渡しできたら送料がかからなくていいですね。