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小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(地球帰還後の拡張ミッション案)

日時

  • 2020年7月22日(水)14:00~15:00

前回の記者説明会

登壇者

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JAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム

(左から津田氏、吉川氏、三枡氏)

中継録画

関連リンク

本日の内容

(吉川氏から)

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目次

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.拡張ミッション提案の背景

(津田氏から)

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×初期/○所期の目的は全て達せられており、

はやぶさ2は順調に飛行中、TCM5で地球離脱した時点でイオンエンジンの燃料は55%程度残る。秒速1.7kmは時速5,000キロほど。

3.拡張ミッションの検討過程

地球圏離脱後の軌道検討例

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ランデブー可能小天体(小惑星・彗星)探索結果

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地球スイングバイを使ってさらに数年、どんなに早くても2027年以降の到着となる。

4.拡張ミッション案概要

(三桝氏から)

2つの候補天体について

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2001AV43あるいは1998KY26を目指す意義

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意義(1)太陽系長期航行技術の進展

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意義(2)高速自転小型小惑星探査の実現

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意義(2)Planetary Defenseに資する科学と技術の獲得

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結論(まとめ)

(津田氏から)

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高速自転天体を選んだというより、行ける天体候補がどれも高速自転天体だった。リュウグウのような大きい小惑星に当たるといいなと思っていたがそれはなかった。しかしそこで小さな高速自転天体の魅力に気付かされた。

いわば「減価償却」された探査機を活用しようというもの。10年生き残る保証はない。チャレンジする内容は拡張ミッションならではの挑戦的なものにしたい。

5.今後の予定

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参考資料

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帰還巡航運用計画

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地球帰還最終誘導フェーズ

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候補天体の探索

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小惑星の直径と自転周期の関係

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候補にしたのは前人未踏の天体。直径200メートル以下、自転周期2時間以下。

小惑星の地球衝突頻度予測

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候補天体の探査は現実的な意味でのPlanetary Defenseになってくる。

質疑応答

JSTサイエンスポータル草下:2つの候補天体について理学的な意味での面白さが今わかる範囲であれば

三枡:2001AV43はS型小惑星、1998KY26はC型小惑星。どちらに行っても面白いと委員会からは評価を受けている。

吉川:大きさが小さいところが非常に興味深い。個人的にはどちらへ行っても面白い。リュウグウやBennuとの比較では同じC型の1998KY26。2001AV43は細長く、これが高速回転しているということは一枚岩と思われるが異論もあり興味深い。
どちらへと言われると困るくらい両方が面白い。
イトカワへ行ったときは「小さいところへ行ってみても仕方ない」と言われたが行ってみたら新発見がたくさんあった。今回の天体でもたくさんのことがわかるだろう。

草下:ターゲットマーカは小惑星表面にとどまれないというが、それでも落としてみる?

三枡:いろいろと面白いミッションを考えている。10年後だがいろいろ検討したい。TMを落とすのは想定の範囲。

NVS齋藤:金星近傍に向かうとなると熱設計的に大丈夫か

三枡:金星に近づくとはやぶさ2の熱設計的には限界を超えたところへ行く。どのようなことが起こるかは検討の中で解析中。

齋藤:このサイズだと近くに寄ったとき見つけられる?

三枡:小さい天体なのでアプローチの難易度は上がる。小惑星の軌道がよくわかっている。観測で更新されていく可能性もある。軌道精度の観点からはそれほど難しくはない。

時事通信神田:この2案のメリットデメリットは

三枡:メリットはたとえば金星の観測ができる。小惑星フライバイは、はやぶさ2がランデブーする設計のため観測が難しいと思うが、近いところを通るので観測したい。
デメリットは熱の条件が厳しいかなと。成立するかを精査して成立性が高い方を選択したい。

神田:ランデブーのイメージについて。どのくらいまで接近観測できそうか

三枡:詳細な検討はこれからだが、重力が小さいので接近していくこと自体はリュウグウでの技術応用でできると思う。設置するほど近づくとなるとTMを置けない環境なのでどう工夫していくかが検討課題の一つ。

神田:金星スイングバイでの観測であかつきやベビ・コロンボとの連携は考えているか

三枡:拡張ミッションで金星スイングバイは2024年。あかつきなどは観測できていない期間になる。その時期の金星のデータを補完できるのではないか。

NHK寺西:拡張ミッションへの期待は。またこれらの小惑星への観測が終わったあとどうするのか

津田:拡張ミッションを考えられる状態であることが太陽系探査において幸せなこと。日本では太陽系探査ミッションが少ない。カプセルのリエントリが優先でこれを成立させることが前提だが、その後余力が残ってはやぶさ2のキーワードの一つである挑戦をまたできることがありがたい。積極的に、より挑戦的なことができるので挑戦を見せていきたい。
拡張ミッション後はどうしましょうね。どうするのがよいと思いますか。拡張ミッションがまず10年もの。拡張ミッション終了後の余力がわからない。どうするかは白紙。余力で挑戦的な終わり方ができればと思う。

フリーライター荒舩:拡張ミッションの候補天体を絞り込むときのポイントは

津田:科学的には両シナリオとも価値があると評価されている。普通のミッションの立ち上がりと異なり、その上で技術的に勝ち目がある方を選ぶ。はやぶさ2に残された能力でどちらが可能か慎重に精査している。熱関係がキーワードの一つ。評価にはあと2か月ほどかかる。

荒舩:拡張ミッション後はプロマネが交代するなどのチームの変化はあるか

津田:それは未定です。今後10年間のミッションとして新しいものにするか、あくまではやぶさ2の拡張ミッションととらえるか。そのあたりで変わってくると思う。
首尾よく拡張ミッションにGOがかかったら新しい体制を考えていく。

荒舩:はやぶさ2の後継ミッションは。はやぶさ3などは

津田:はやぶさ3という形では考えていない。チームとしてはこれだけの成果が上がったのでどう生かすか考えている。新しい惑星探査の提案はまだされていない。はやぶさ2の成果は想定以上に大きかった。次世代、次々世代どうするかアイデアを出していきたい。

東京とびもの学会金木:拡張ミッションに入れない条件はどういうものがあるか

津田:リエントリ運用の結果、探査機が生きていないというのが一つ。また拡張ミッションのアクティビティは今提案段階。提案が認められなかったら拡張ミッションには入れない。

金木:資料17ページの「積み上げの成果」について。14ページの上半分が関係すると思うが

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三枡:巡航期間が長くなるため消費燃料を少なくして長期維持する技術が大事。太陽光圧を使った姿勢制御のほか、初号機でもあったがイオンエンジンをうまく生かした姿勢制御などで燃料消費を抑えつつなにもない時期は運用の数を減らして経費を節約しつつ長期間運用していく技術を積み上げたい。

金木:コマンドを打つ回数を減らすとか?

三枡:後期運用かつ長い期間となるのでリソースを節約していかなければならない。コマンド回数を減らしたりテレメトリを受け取る運用を減らすことも必要になるかなと考えている。

津田:「段階的な成果」について。太陽系航行技術は積み上がってきている。どちらのシナリオでも金星スイングバイ小惑星フライバイでさらに長期航行の成果は増えていく。

ニッポン放送畑中:長期航行技術で期待される技術の中でもっとも難易度が高い、または価値が高いものはなにか。また行き先の小惑星が決まったら愛称がつくのか

三枡:イオンエンジンを使ったマルチフライバイの長期航行技術(資料14ページ)が大きい。

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吉川:「2001AV43」などは仮符号。確定番号がつけば正式に名前をつけることができる。今回選んだ2つの小惑星は確定番号がついていないため正式な名前をつけられない。地上からの観測で軌道が正確に推定できれば確定番号ができ、名称を提案できる。

毎日新聞永山:この提案が正式に認められるかのポイントは

津田:2つのシナリオはすでに政府へ提案されており来年度の予算で認められるかを待つ状態。文部科学省からはコミュニケーションよくサポートしていただいており、認められることを期待している。

永山:探査機の設計寿命について。姿勢制御スラスタや観測機器の寿命は

津田:イオンエンジンも初号機より燃料を使っていないが10年生き残るかはそれ自体がデータ取り。死に方を見るのも重要。(死んでほしいとは思っていないが)性能劣化の様子を見るのは真に興味があるところ。
リアクションホイールも初号機よりもっていて設計寿命的には持つと思うが可動部なので寿命を長持ちさせるよう運用を工夫しながら壊れるリスクを減らしていく。
放射線関係でいろいろな機器が劣化していく。すぐに使えなくなるほど性能が劣化している機器はない。これらもデータを取っていきたい。
すぐにゲームオーバーになる、寿命が危ぶまれるものは今使っていない。保証がされていない世界で運用できるか、どこまで使えるか見るのも重要なミッション。

永山:どこまで遠くへ行けるかで木星方面へ行く案もあったそうだが、そうではなく別の天体へ行くと決めた理由は

津田:これはそれぞれの思いがいろいろあると思う。はやぶさ2はなんだったかという議論。メンバーの中では小惑星の重みが強い。木星方面はそこに何があるかといえば宇宙があるという状態。はやぶさ2の装備を生かして新しい科学的発見をする価値はやはり小天体へのランデブーで最大化される。最終目標は小惑星へのランデブーという選択肢があればそれを選ぶでしょというのがチームの中の大勢を占める意見と思う。違う意見があるかな。

三枡:同じ意見です。もう一度ランデブーしてリュウグウと同じようなミッションをしたい。

フリーランス大塚:目標天体の選択でスコア付けしているとのことだが、この2つを下回った候補との違いは

津田:資料22ページにたくさんの候補天体がある。地球経由コースと金星経由コースがある。

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有望なシナリオとして金星経由コースと地球経由コースがある。金星経由コースだと2001AV43しか見つからなかった。金星に行けること自体が魅力的ということもあり、しかもそのあと素性がわかっている天体へ行けるということでこの案が残った。
地球経由コースだと軌道がよくわかっていないなど情報が欠けているものが多かった。最近見つかった天体はわかっていることが少ない。1回だけ観測されたのみなど。その手のものだと10年かけて行って面白いものがある確証を得にくかった。その中で1998KY26はダントツで、素性がわかっていて面白いシナリオが描ける。
この2つの天体はほかよりスコアがダントツによかった。この基準で選んだらこの2つだよねという残り方。

大塚:着いてから挑戦したい工学的な目標があれば

津田:どんどんやりたいと思っている。探査機の性能を見きわめながら10年間でしっかり考えていきたい。
ターゲットマーカを置けない天体にどうやって着陸するか。できることを増やす意味でも重要な技術。今の仕立てではないので、自動着陸のような技術が必要になっていくだろう。はやぶさ2はソフトウェアを変更できる。そういう挑戦ができるようにあとから賢くできるのではないか。そういったことを考えていきたい。
EAEEAシナリオでは小惑星フライバイを行うが、はやぶさ2はフライバイができない設計。装備はあるのでソフトウェアを工夫することでフライバイ能力を持たせられるのではないかという検討もしている。ソフトウェアを書き換えるのは探査機にとっては大ごとで、ノミナルミッションではなかなかしないことだが、拡張ミッションだから挑戦できる。そういうことにも積極的に挑戦して能力を最大限生かしたい。

大塚:フライバイはカメラをターゲットに向け続けなければいけないが、はやぶさ2はそういうことはできない?

津田:ランデブーだと地上から指令して小惑星の方向へ向ければよいがフライバイは自動でたとえば天体を追尾していく必要がある。そういう性能はないのでどうするかは考えどころ。

大塚:イオンエンジンの稼働時間は拡張ミッション後どのくらいになりそうか

津田:のちほどお知らせさせてください。

(以上)

次回の記者説明会