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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(発表された論文、サンプルのカタログ公開と公募開始)

登壇者

JAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム

  • 統合サイエンスチームメンバー 臼井寛裕(うすい・ともひろ)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授/JAXA 宇宙科学研究所地球外物質研究グループ グループ長)
  • 初期記載統括担当 矢田達(やだ・とおる)(JAXA 宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ 主任研究開発員)
  • マイクロオメガ担当(Co-PI) 岡田達明(おかだ・たつあき)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授)

記者説明会の概要と目次


3次元サンプリングによる小惑星表面および地下物質を含む物質が記載されたカタログ

異なる場所・異なる深さから回収された試料である可能性を有する


異なる場所・異なる深さから回収された試料を個別にキュレーション


非汚染・非破壊・非暴露の条件で作成されたカタログ

水・有機物に富み、太陽系初期の情報を保持する、始原物質である可能性を示唆


NH基・OH基・炭酸塩・有機物に富むサブミリメートル粒子の存在を示唆

炭酸塩は鍾乳洞などでみられる


リュウグウの詳細な地質図と紐づけられたカタログ

地質現象から分子構造に至る、10桁を超えるスケールでの総合観測・分析を展開

カタログとしては粒子の説明だけでは不十分。粒子がどこから来たかがわからないとカタログとしては不十分。隕石はどこの星から来たかわからない。

今回のサンプルは非破壊・非汚染かつリュウグウのどこから来たのか明確。リモセンによって1キロメートルのスケールで観測したほか、ナノメートルのスケールでも分析している。一気通貫の観測、分析を展開している

探査機による遠隔観測・近接観測、非破壊・非汚染でのキュレーションを実施/実験室での詳細(破壊)分析が進行中


始原的な炭素質(C型)小惑星試料に関する世界で唯一のカタログ

試料分析によりC型小惑星を代表するリュウグウでの水・岩石・有機物の反応を紐解く

C型小惑星はピークの波長と深さに相関がある。

リュウグウになる前、微惑星の段階で含水鉱物などの特徴が獲得されたとわかってきた。

試料分析によりリュウグウに記録された太陽系初期における水・有機物の情報を獲得

リュウグウのことだけわかればよいわけではない。リュウグウは太陽系の初期の状態を伝えるタイムカプセル。

火星と木星の間にメインベルト小惑星など多くの小惑星がある。リュウグウはもともとは地球軌道の外側から来たと推察されている。C型小惑星であるリュウグウはどこで発生し、どのように地球軌道近傍へ来たのかが試料分析で明らかになる。

リュウグウ粒子カタログの公開

国際公募の募集開始に合わせ、本日(1月13日)サンプルカタログを一般公開


いつでもどなたでもアクセスして微粒子の世界を味わってほしい。

国際公募の募集

本日(1月13日)、研究テーマ申し込みサイトを一般公開


キュレーションの活動状況および今後の予定

カタログをもとに国際公募を行い、2022年6月に試料分配を開始予定


2021年6月に分配された試料の分析は計画通りに進み、順次、結果を報告予定


参考資料


3.探査機運用の状況


JAXAのサンプルリターン探査・キュレーションの将来


キュレーションチームの紹介


初期分析チーム


赤外線分光顕微鏡マイクロオメガ


質疑応答

時事通信神田:カタログサイトを開くと443と出ている。これはカタログに記載されている粒子の数ということ?

臼井:その通り。粒子はこれですべてではなく、カタログとして公開できるもの。

神田:見方のおすすめはあるか

臼井:写真をクリックしていくと、新聞記事で見たりするような小さい画像ではなく、研究者向けに高精細な画像をダウンロードできるようになっている。拡大して見てみては。

東京新聞増井:マイクロオメガを使った分析でCH基が高温になっていないとはどういうことか。なぜわかるのか。低温だったら液体の水が残っている可能性はあるのか

岡田:マイクロオメガは1画素あたり22ミクロン。それより細かいものは正確にはわからない。
脂肪族の酸素は揮発性があり、温度を上げると分解して宇宙空間へ失われてしまう。大量に残っているということはそれほど高温になっていない。石が溶けるような温度にならず、有機物が生き残る温度にしかなっていないということ。
脂肪族の有機物はわかったがどのくらいの長さかはわからない。初期分析ではどのくらいの大きさかを分析中。

増井:長いものが残っているほど…

岡田:安定性が高いということになる。
たんぱく質は50度や60度で変性するが、もう少し高い温度まで生き残ることが考えられる

増井:液体の水が閉じ込められている可能性はまだ残っているのか

岡田:液体の状態の水かは難しい。ほかの岩石にひっついたものということは考えられる。含水鉱物を詳細分析で調べているところ。

朝日新聞小川:今回の国際公募で分配する量はサンプルの総量5.4グラムのうち15%(0.8グラム)ということか

臼井:6月に分配するのが全体の15%ではなく、分配する総量が0.8グラムということ。
今回どれくらいの量を分配するか議論しているところ。
カタログサイトの「AO allocation」に「Available」とある粒子の重さを全部足すと今回配布する分になる。

小川:なるほど…。ありがとうございます。

臼井(のち補足):数えました。今回のAOでは約0.2グラム分配される。

共同通信須江:「水質変性が強く起きたことを示唆している」とはどういうことがあったのを示しているのか

岡田:仮説だが、ちりが集合して母天体ができる。それが壊れて再集積したのが現在の小惑星。単に寄せ集まったものが壊れたのだとすると構成物質はまったくもとのまま。最初のちりがそのままあることになる。
石の成分や有機物、氷が寄せ集まる。温度が上昇すると氷が溶けて反応が起き変質する。これがどの程度起きたかがなかなかわからない。個々の粒の状態を分析すると読み取れる。
水質変性は溶けた水が鉱物や有機物と反応すること。
変性には熱変成もある。結晶の状態が変わったりする。細かい結晶が成長して大きな粒になる。イトカワのサンプルは50ミクロン以上の結晶があった。これは熱変成によるもの。
リュウグウの粒子については大部分が熱変成ではなく水質変性で生じている。
今後の分析で、リュウグウの母天体内でどういうことが起きたかを読み取っていく。

須江:熱変成がないのは原始太陽系の姿をよりとらえている?

御方:原始太陽系の特徴を多く残していると考えられる。

産経新聞伊藤:資料6ページ。これでなにがわかったのか、かみくだいて説明してほしい

矢田:顕微鏡画像でわかること:始原的隕石の破片を見ると球状のの粒子や、高温で凝縮したカルシウムやアルミニウムが多くみられる。しかしリュウグウの試料にそのような特徴はみられない。これと合致する始原的隕石はCIコンドライト。
この外見的特徴と各波長の吸収などから、リュウグウの試料(…)
CIコンドライトが高温含有物を含まない理由は2つ考えられている。水質変性で含水鉱物に置き換わっている、そもそもそういう物質があまり含まれない太陽系内の領域で凝集してできた、というもの。
いずれにしても少なくともこの隕石が高温に到達しておらず低温を保持していることはわかる。
密度分布のグラフについて:密度の平均値が小さい。空隙率が高い理由は…隕石は石として地球に落ちてきているということはそれなりの強度を持っている。
レゴリスは惑星間空間に出るとちりの状態で、地球上では隕石として見つかっていない可能性。
リュウグウのサンプルは我々が今まで手にしていない試料。宇宙空間で細かいクラックが入って比重が軽くなっている可能性もある。

読売新聞渡辺:公募申し込みサイトは現在「Coming soon」になっている。いつから登録できるようになるか

臼井:決定ではないが来月には申し込みの受付を開始したい。3月末が締め切りなので1か月前には始めたい。

公明新聞久世:CIコンドライトと異なる特徴として反射率が低いとのことだが、その理由の考察を伺いたい

矢田:暗い理由としてまず考えられるのは宇宙風化。(…)太陽放射線や銀河放射線などを受けて変化する。

ニッポン放送畑中:窒素化合物の存在について。なにを意味していると解釈すればいいのか、アミンやアンモニアということはたんぱく質などにつながる物質なのか

岡田:可能性としてたんぱく質は行きすぎだが、その前のアミノ酸の可能性は考えられる。アンモニウムなど別のものかもしれない。窒素と水素が結びついたものがあるのは確実。もしかすると初期分析でアミノ酸やそのもとになる物質が見つかるかも。

フリーランス秋山:資料8ページ右の図。シデライトは熱水と関係する鉱物ではなかったかと思うが、母天体でそのような環境があったと考えられるのか。また有機物のほうは高温になっていない、炭酸塩は熱水と関係する鉱物があるのはどう見るか

岡田:母天体の大きさは今後明らかになっていくだろう。1キロ弱ではなく数十キロなら半分より外側と中心部で熱環境が変わってくる。
中心付近は温度が上昇して水質変性がほかと比べると圧倒的に起きると考えられる。中心部を除く、体積としては大部分のところではそういったことが起きない。
そんな母天体がいったんバラバラになって集積したことが考えられる。中心部から来たものは水質変性を大きく受けているといったことがわかる。

NHK絹田:資料13ページ、母天体の推定モデル。現状メインベルトの中のどこから来たとみられるのか

岡田:これまでいろいろな仮説が出ている。最初はリモセンによるもの。観測されるスペクトル、小惑星も場所によって「属」という特徴があり、このあたりから来たのではないかといった議論がされている。
改めてサンプルを見たところ、脂肪族の有機物が多い、水質変性はあるが過度の…炭酸塩などの強いものは一部のみ。おおもとの物質はかなり遠くから来たと考えられる。
もともと遠くにあったものがいろいろな過程で内側の軌道へ来て衝突しリュウグウになったと考えられる。
リュウグウは1AUくらいで地球と似た軌道。
惑星が現在の位置にずっとあったのではなく、木星など大きな惑星は特によく移動したと考えられるようになってきた。系外惑星として恒星の中心を回る木星型の惑星が見つかっているため。
軌道が動くことを考慮すると遠くにあった物質がはじき出されて、一部はもっと遠くへ行き、また一部は内側の内惑星系へ来る。お互いの衝突や軌道の共鳴で内側へ。リュウグウで始原性の高い物質が見つかったということがそのひとつの物証になる。
サンプルを実際に手にして分析できたことはとても大きな進歩。

絹田:かなり遠くとは具体的には

岡田:木星より遠い領域。土星天王星海王星なども軌道を移動する。もっと遠くにいたものが内側へやってくる。内側へ散らされたものがもっと太陽に近づき、リュウグウのような近地球型小惑星になる。

絹田:カイパーベルト領域ではなく?

岡田:物質は連続的に分布している。カイパーベルト天体だと氷が多いがリュウグウの試料はそこまでではない。今後の分析を待たれる。今回はスペクトルやいくつかの反射率など限定的な測定。それでも従来の仮説に対して踏み込んだ議論ができることが期待される結果が得られている。

絹田:メインベルトで形成されたという仮説に対してはどうか

岡田:メインベルト小惑星も昔から今の場所にいるわけではなく、半分より内側と外側で性質がだいぶ違う。
内側は隕石でいうと普通コンドライト、S型が多い。イトカワなど。外側はC型が多い。とても不自然。なぜ境界があるかはいろいろな説がある。
最近よくされる説明は、もともとは昔の木星軌道に対して内側と外側にいたというもの。
氷と有機物が多い領域(外側)とほとんどない領域(温度が高い内側)に完全に分かれていて、それぞれの場所で微惑星ができた。惑星が移動したことではじき出され、内側へやってきたものがある。
現在、太陽から2.5Uくらいを境界にして昔から内側にいるS型小惑星と、その外側に氷や有機物が多いC型小惑星が隣りあわせに…実際には入り交じって…存在しているのはそういった過去のシナリオがあるのではないかと考えられてきている。

絹田:資料19ページ。12月27日のイオンエンジンの停止は予定通りか

岡田:おおむね予定通り。このあと重要な仕事は2026年、小惑星2001CC21のフライバイ、続く2027年の地球スイングバイに向けてなるべく少ない燃料消費で軌道を合わせる。
2021年の運用としては目標を達成している。

(以上)