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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(サンプルのキュレーション、LIDAR光リンク実験など)

日時

  • 2021年2月4日 14:00~15:00

前回の記者説明会

登壇者

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はやぶさ2」プロジェクトチーム

  • JAXA 宇宙科学研究所地球外物質研究グループ グループ長 臼井寛裕(うすい・ともひろ)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授/「はやぶさ2」プロジェクトチーム 統合サイエンスチームメンバー)
  • ミッションマネージャ 吉川真(よしかわ・まこと)(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)
  • レーザ高度計(LIDAR)PI(工学) 水野貴秀(みずの・たかひで)(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授)
  • レーザ高度計(LIDAR)サイエンスチーム 大坪俊通(おおつぼ・としみち)(一橋大学大学院 社会学研究科 教授)
  • 近赤外分光計(NIRS3)PI(サイエンス) 北里宏平(きたざと・こうへい)(会津大学 コンピュータ理工学部 准教授)
  • レーザ高度計(LIDAR)PI(サイエンス) 竝木則行(なみき・のりゆき)(国立天文台 RISE 月惑星探査プロジェクト 教授)

※PI: Principal Investigator、研究代表者

(上段左から臼井氏、吉川氏、水野氏。下段左から大坪氏、北里氏、竝木氏)

中継録画

本日の内容

(吉川氏より)

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概要


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探査機の運用は順調。キュレーション作業も進んでいる。

1.探査機の運用状況

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「累積」はすべてのイオンエンジンの運転時間を合計したもの。

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グラフの右端の山が地球帰還後のイオンエンジンの運転状況。

2.キュレーション作業

(臼井氏より)

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サンプルが約5.4グラムも帰ってきたので容器を追加発注した。量が多かったため3つの皿に分けた。

A室の中にはもう少し大きい粒子もあった。別途ピッキングをして個別の容器に入れている。

(今村註:容器の内径21ミリはほぼ1円玉のサイズ)

3.LIDAR光リンク実験の結果

(水野氏より)

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地上のレーザー局からレーザーを発射、受信(1Wayリンク)したはやぶさ2からレーザーを送信(2Wayリンク)。

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左図:ノイズ混じりの中、入ってきた信号が見える。

(大坪氏より)

右図:2Wayのリンクに成功した様子。

昼間の観測だったためノイズを抑えつつ受信したい信号をとらえるのが難しいところ。

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(水野氏より)

2Wayリンクの成功距離は探査機「メッセンジャー」に次ぐ2例目。

意義としては難易度の高い実験を太陽のノイズが高い昼間に成功したことが重要。

4.NIRS3論文紹介

概要

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(北里氏より)

サンプルが届いた今となっては遠い過去のようだが、2回目のタッチダウン時にSCIクレーターを観測。地下物質と表面がほとんど変わらないと速報。その後地下物質はわずかに水分に富んでいること、リュウグウ全体の加熱が母天体由来とわかった。

論文情報

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左図:ONC-Tで撮影したSCIクレーター。中央付近の半月状の点線で囲んだところがクレーター。色つきの線がNIRS3で観測したもの。

右図:数字と色つきの長方形。1と2は地下物質なし、3~6は地下物質あり。これらを比較したもの。

地下物質があるところのほうが多少九州が深く見えるかもしれない。

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クレーターから離れたところと比較。地下物質がある場所ではへこみが見える。わずかに吸収が深い→水分が多い。

観測結果と解釈のまとめ

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初期の観測でリュウグウ表面は加熱を受けているとわかっている。地下物質も加熱による部分的な脱水がある。深さ1メートルほどになると太陽光による加熱は起きない。母天体の加熱ということ。

(津田プロマネのコメントを紹介)探査機が上昇中にクレーターの中をNIRS3でうまく観測できた。探査機の制御がうまくいっているということ。

5.LIDAR論文紹介(概要)

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(竝木氏より)

NIRS3より前のLIDARによる観測。小惑星に対して探査機がどこにいるかを精確に決めたという話。

5.LIDAR論文紹介(その1)

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レーザーの光が当たっている場所から組み上げると水色になってしまう(内側に入ってしまう)ので補正。

5.LIDAR論文紹介(その2)

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ONC画像から得られる画心情報からさらに細かく位置を求める。探査機に当たる弱い力(太陽輻射圧とリュウグウの重力)を詳しく決めることができるようになった。

5.LIDAR論文紹介(その3)

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レーザーがどの方向に出ているか。打ち上げの振動などで向きが少しずれる。右上のグラフはリュウグウ表面の岩に当たって線が持ち上がっている。これと写真を比較してLIDARの向きを正確に求めた。

今後の予定

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2月と3月は太陽との距離が近くなるのでイオンエンジンを動作試験する

参考資料

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はやぶさ2」概要

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プロジェクトの全体スケジュール

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ミッションの流れ概要

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クリーンチャンバー概要

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参考資料:キャッチャー開封作業

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参考資料:観察用容器の概要

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質疑応答

産経新聞伊藤:吉川さんに。イオンエンジンの稼働時間が1万時間を超えたことの意義や意味は。また感慨は

吉川:はやぶさ2イオンエンジンはとても調子がよい。順調に動いてきた。大台を超えた象徴的な意味合い。拡張ミッションでも使っていくので中間地点。燃料は半分残っている。4つとも順調に動いて1万時間を通過した。初号機の運転時間は…ロケットや軌道が異なるがこれに近い運転時間はあったはず。
はやぶさ2イオンエンジンが順調、初号機に比べて運用が楽だった。このあとどこまでもつか興味がある。4つとも順調に来たことが喜ばしい。

時事通信神田:A室の開封と容器への移送について。3つの皿に分けたものと別にピックアップしたのは大きなものが中心? A室に入っていたサンプルの重さはわかっているのか

臼井:別にピックアップしたのは大きなもの。観察容器に移す前に回収容器から真空ピンセットで大きなものを分けて、残ったものを容器に移した。
A室のサンプル重量は確定していない。すべての粒子を測らないといけない。もう一度精査してから確定させる。

神田:C室の方が大きめと聞いているがA室で大きなサンプルのサイズは

臼井:数ミリ程度。C室のほうは長径が1センチ近いものも発見されている。

共同通信矢野:NIRS3について。C室には2回目のタッチダウンのサンプルが入っている。これの水分量を測定して地下物質の採取に成功したということになるのか

北里:今回の結果によって地下物質の特徴がわかった。それとの比較でサンプルが地下物質かどうかを確認できる。

吉川:本格的な分析は6月以降。地下物質と表面物質では宇宙風化の度合いなどに違いがあるかも。詳しくわかるのはもう少し先。

ライター荒舩:C室は大きなものが多かったわりに軽かった?

臼井:はい、おおむね2グラム程度で少なめ。一方でC室のサンプルは大きい。A室とC室は大きさが異なる。C室はA室の半分くらい。部屋のサイズが小さいので入っている量は少ない。

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荒舩:現在サンプルを見ていてわかることは

臼井:非常に黒い。隕石として手にしている小惑星と思われる物質よりずっと暗い。ただそのことはリモセンである程度わかっていたので驚きは小さい。
結構硬いことが驚き。リモセンでは多孔質ではないかという予想があった。実際どのくらい穴が空いているのかはこれから分析するが、つまんでみた感触では意外と硬い。

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毎日新聞永山:光リンク実験について。探査機「メッセンジャー」に次ぎ2回目の2Way成功とのことだが意義は

水野:2例目の意義は、惑星探査機と地上のレーザー局の測距の例はここに挙がっているくらいで難易度が高い。貴重で意義深い。

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光で測定することによってより正確になる。光とマイクロ波の波長の違いがあるため。今後の惑星探査ミッションで探査機の位置をより精確に決めることができるようになる。

大坪:地球周回の人工衛星に特殊なプリズムをつけて反射させて2Wayを達成するのが一般的。月まではその方法で確立している。今回はそれより遠く、宇宙機側もレーザーを発する貴重な例。

NHK寺西:C室で前回見つかった人工物らしきものは。またサンプルを持ち帰ったことでNIRS3の観測よりどういう詳しいことがわかるのか

臼井:金属らしき人工物について進展はない。人工物とわかっているので作業の優先度が下がっている。リュウグウのサンプルを優先しているため、あれがなにかわかるのはもう少し後になるだろう。

北里:サンプル分析で水分の絶対量がわかる。加熱の原因が衝突によるものか、放射性元素によるものかという区別もサンプルの組織、鉱物の結晶構造を見ることで特定できるのでは。

JST草下:母天体の内部加熱による脱水があるだろうとのことだがもう少し詳しく

北里:内部加熱については隕石の研究がさまざまある。アルミ26の同位体による放射線で発生するエネルギー、太陽系ができてすぐのころはこの核種がたくさんあったと考えられており十分な加熱が起きたと考えられる。

フリーランス山下:A室の試料について。数ミリサイズの個別試料をピッキングしているとのことだが写真はいつ公開されるか。結晶構造などはいつわかるか

臼井:写真はいいものが撮れ次第公開する。JAXA内で相談しながら。ちゃんとした写真を撮りたいので慎重になっている。
結晶構造に関してはサンプルをJAXAのチャンバーから出して初期分析チームやフェーズ2のキュレーションチームがX線などを使って解析する。ので夏以降になる。

東京新聞増井:キュレーションの進め方と優先度について。A室の記載や光学観察中と思うが近赤外線での分析を行うのか

臼井:きっちりと分かれているわけではないが、大きな方針としては光学顕微鏡で各室を見てから近赤外線(レトロスペクトロメーター)などを使って分析に入る。

増井:光学顕微鏡の写真は今日のような写真の拡大になるのか

臼井:画像をたくさん分割撮影して合成していく。また粒子は拾って1つずつ撮影する。

増井:近赤外カメラでの分析はいつごろから?

臼井:春すぎ。「可能性がある」と「同定した」はレベルが違うのでいつ言えるかは難しい。反射スペクトラム有機物があるとするとそこに吸収が出るという出方なので慎重になる。

増井:近赤外線で「こうらしい」と思ってからひっくり返ることはある?

臼井:あります。なので「有機物の特徴が出ている」というような言い方になる。
反射吸収のピークが全部揃っていればいいが、そうでないと「んん?」となる。慎重になる。

宇宙作家クラブ渡部:資料4ページの「最短太陽距離」について

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吉川:本来のミッションはすでに終わっていて拡張ミッションでは本来想定していなかった距離に入っている。設計上想定していない距離に入ることになる。探査機本体に与える影響を慎重に見極める。
3月中旬くらいに今回一番近づく。0.8天文単位くらい。このあと0.8を切るくらいまで近づくこともある。

NVS齋藤:キュレーションについて、現在3つの皿に移したのは真空チャンバー内?

臼井:窒素チャンバーに移している。真空チャンバーで開けて一部を分けたあと、ほぼすべて窒素環境のチャンバーに移した。

齋藤:NASAからリクエストがあった真空保管のサンプルは別にされている?

臼井:真空保管はNASAからのリクエストではなくこちらからの要求。向こうからはなるべく汚されていないサンプルをと言われている。真空保管のサンプルは将来の分析のために長期保管。

齋藤:国際公募でこういうサンプルがほしいといったリクエストは出ているのか

臼井:粒子のデータが出ていないのでそういうものはない。これから1年半後に公募が始まるが、それまでに写真や情報を公開していく。

東京とびもの学会金木:光リンク実験について。ヴェッツェル天文台との通信は成功したのか。また通信した内容は

水野:ヴェッツェル局はやる気満々だったがドイツの天気が悪くてレーザーを打つことができなかった。
エコートランスポンダはレーザーの一発のパルスを流用している。通信内容に情報は載っていない。「メッセンジャー」との違いでいうと、あちらは地上と探査機で正確な時計を持って同時に打った。今回は探査機が正確な時計を持たず、地上の時計でレーザーを打った。

金木:これより遠い距離からの実験はあるのか

水野:はやぶさ2のLIDARによる2Wayは今回の600万キロ、いってももう少しくらいしか回線を取れないと思う。1Wayなら地上からだけなのでもっと遠くでも通るだろう。

フリーランス大塚:イオンエンジンの連続運転について。これまでスラスタBは使わずA、C、Dで使っていたと思う。今回スラスタBも含めた組み合わせにした理由は

吉川:今回はこれまで使っていなかったエンジンを使って拡張ミッションに臨むということでこの組み合わせにした。これまでは順調に動いていたものをあえて変えずに運用していた。
拡張ミッションに入ったのでスラスタBも使ってみようということ。結果的に順調に動いている。

大塚:拡張ミッションに入ったのでバックアップのBを使ってもいいという感覚?

吉川:ミッション中はうまく動いているエンジンをあえて変える必要はないと考えた。今後は4つすべて使っていく必要があるだろうということ。

読売新聞中居:キュレーション作業について。C室には地下物質があるかもとのことだが、6か月のキュレーションで地下物質をより分けるところまでするのか

臼井:地下物質を同定するだけでもちょっと難しい。同定しないとより分けることはできない。キュレーション作業で同定できるかはちょっとポジティブなことは言えない。
今回北里先生がNIRS3の結果を見せてくれた。1回目と2回目のタッチダウンでNIRS3のデータが微妙に違うのではという話があった。サンプルに対して近赤外線のデータを取れるので、それでわかるかも。
ただ「これは地下物質、これは外側」とはっきり分けることはできないかも。
最初の6か月で外に出さないで同定するのは難しそう。フェーズ2で詳細な観察をする。その結果最初に見ていたちょっとだけ黒い物質は地下物質、といったことがわかるかも。そうなれば残りのサンプルの仕分けが効率的にできるようになるだろう。
はやぶさ2のサンプルが大量にあったことのメリット。キュレーションの技術が上がるし次に役立つプロトコルができていくだろう。

中居:もともとの同定の方法はどういうことを考えていたのか

臼井:近赤外線のデータはあまり差がない。太陽風の照射が強くて宇宙風化が強い部分などは外に出してわかるかもと思っていた。

中居:初号機のエンジンの運転時間は単体で15,000時間とかいっていたと思う。とすると1万時間突破はすごい記録というわけではない?

吉川:初号機は合計で2万5,000時間以上運転していた。今回は4つとも正常な状態で1万時間を突破した。

(以上)

次回の記者説明会