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小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(第2期イオンエンジンの運転状況、最近発表の論文)

日時

  • 2020年6月11日(木)10:00~11:00

前回の記者説明会

登壇者

中継録画

関連リンク

本日の内容

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目次

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

(吉川氏から)

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いつものページだが今回「ターゲットマーカ分離」を追加した。

1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.現在の軌道計画

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リュウグウからそれなりに離れているが、宇宙的スケールではまだまだリュウグウと一緒に飛んでいる。

図が楕円になっているのは赤道面座標系であり、地球の軌道は黄道面から少し傾いているため。

第1期は減速方向、第2期は加速方向に噴いて地球軌道に接近している。

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第1期運転終了で、地球から140万キロ離れた軌道へ。第2期終了で1万キロまで地球に接近。

3.第2期イオンエンジン運転の状況

(月崎氏より)

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推力9.7mNはほぼ全開。

下のグラフはイオンエンジンの推力と時刻。

4.ONCによるリュウグウの測光観測

(巽氏より)

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位相角が季節で変化するのを追いかけて観測。

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黒い領域はデータがない場所。

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リュウグウの炭素含有量はかなり高いと予想される。

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位相角が大きくなると赤くなる現象(Phase reddening)は暗い天体ではあまり出ないと予想されていたがリュウグウでも観測された。

5.TIRによるリュウグウの熱物性推定

(嶌生氏より)

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リュウグウの表面はアア溶岩(ハワイ)と同程度にデコボコ(大きさは異なる)

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デコボコがあると日なたと日陰で温度の差が出る。リュウグウは日中の温度変化が小さい。

凹凸効果なしだと説明できないが、凹凸効果を入れて計算すると観測事実によく合致した。

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スカスカな岩塊が全休で一様に分布している。

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6.今後の予定

(吉川氏より)

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参考資料

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帰還巡航運用計画

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参考:イオンエンジンのしくみ

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第1期イオンエンジン運転結果

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光学航法カメラ:ONC

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中間赤外カメラ:TIR

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質疑応答

ニッポン放送畑中:新型コロナウイルスの感染対策の上で運用とあったが、どんな工夫や苦労があったか

吉川:一番気を遣っているのが管制室。ここが感染すると大変。管制室に入る人数を極力減らした。なるべく最低人数しか入らない。その他の人は電話やビデオ会議で参加するなど。感染のリスクを下げた。
管制室内も島ごとに1人しか座らず、消毒も行っている。

JST草下くさか:アア溶岩が引き合いに語られる理由や位置づけは

嶌生:たまたま同じ凹凸度のものを見つけた。踏むと痛いくらいデコボコ。ハワイにある溶岩。スケールは違うがリュウグウに似ている。

草下:アア溶岩はどうして激しい凹凸があるのか

嶌生:形状が似ているために引き合いに出したが生成過程は異なることに注意してほしい。

NHK古市:カプセル回収の打ち合わせなどはできているのか、コロナウイルスの影響がどこに出ているか

吉川:カプセル回収の国内作業は感染対策のため出勤をなるべくしない措置があって少しだけ遅れている。オーストラリアとの交渉はあちらへ出かけていくのが中止になりオンラインやメールでの議論に変わった。細かい話はface to faceがやりやすい。ネットごしなので少し進捗が遅れている。
コロナウイルスの状況は落ち着いてきているのでface to faceはまだ難しいが進めていきたい。

Bee Media倉澤:これから起こりうるリスクはどんなものがあるか

吉川:現在のイオンエンジンは1台で運転。4つあるので1つ壊れても大丈夫。軌道決定はこれまで長い期間していて、地上局で通信できればまったく心配していない。日本の地上局が使えなくなれば海外局を使うこともできる。
RCS(化学エンジン)運用も現状では心配していない。

月崎:はやぶさ2イオンエンジンが4つある。今はどの1台を使ってもよい。このあと8月から2台使う。こちらも組み合わせは自由。なんの問題もなく立ち上げもすぐできた。

倉澤:微小重力においてスカスカな状態を想像しづらい

嶌生:もともとスカスカなのは以前からわかっている。「インスタントコーヒーのようなスカスカさ」。大きな力が加わらないと変化しない。

倉澤:インスタントコーヒーがガサガサ組み替わるということか

嶌生:それは議論の最中だがあまり起こらないものと思う

日経新聞小玉:炭素含有量が2パーセント以上ということからなにがわかるのか。含有量の上限はわかるか

巽:2パーセントは隕石の中でも多いほう。有機物が入っていることは大いに考えられる。類似の隕石からアミノ酸が見つかったこともある。
含有量の上限はわからない。リュウグウの明るさはこれまでわかっている隕石の中でも低い。今まで見つかっているのは4パーセントくらい。

TELSTAR種田:イトカワと比較してスカスカさで似ているところはあるか

嶌生:イトカワリュウグウはラブルパイル小惑星というところが共通。一方イトカワの岩はスカスカではないがリュウグウは岩もスカスカ。

日刊工業新聞加藤:イオンエンジンについて。設計寿命に対してどのくらいの損耗度か。また推進剤が半分ほど残って地球帰還したあとのミッション検討状況は

月崎:はやぶさはやぶさ2とも4万時間の要求寿命で作られている。現在はやぶさ2は7,000~8,000時間ほど使った。半分ほど。
寿命改善は実験室でも取り組んでいる。中和器が寿命に影響する。5万8,000時間を達成している。

加藤:第2期でどのくらい時間を達成するか

月崎:約1万時間。

吉川:ミッションの延長はまだ決まっておらずアナウンスできていない。どこか別の小惑星へ行けないかと思っている。アイデアはたくさんあるが探査機が対応できるのか検討を始めている。熱設計が大事。地球へ戻る軌道は変更できないがそのあと地球より内側に入ると探査機が熱的に大丈夫かどうか慎重な検討が必要。計算が大変だが詰めていく。そうやってターゲットを絞り込んでいく。

時事通信神田:帰還のウィンドウ(目標とする投下範囲)はあるか

吉川:そうですね、どの地点で誤差範囲を取るかにもよるので具体的な数値はお答えしづらい。検討は進めているがオーストラリアとの交渉もからむので。

神田:ONCでの観測でわかったことで、既存の論文と整合するところ、そうでないところはあるか

巽:既存の論文をブラッシュアップしたもの。整合しないところはない。暗さが気にはなる。物質的な暗さなのか、表面の物理的な特性によるものかが気になっている。
リュウグウのスペクトルを論文に掲載している。短波長側に向けて反射率が上がっている。これはレアなスペクトル。なぜそうなっているのかが気になる。

神田:Phase reddningは炭素系だから?

巽:物質にはあまり関係はない。暗さには関係がある。このグラフはわかりづらいが暗いものはPhase reddningしづらい。しかし今回は観測された。微粒子が存在することを強く示唆している。

フリーランス秋山:観測成果でBennuに似ている部分があるとあった。OSIRIS-ReXのサンプル採取が9月に決まったそうではやぶさ2チームからの支援などはあるか。
リュウグウの観測成果との比較が出てくる可能性はあるか。

吉川:OSIRIS-ReXタッチダウンは方法が異なるのでこちらから協力するということはない。はやぶさ2は2回タッチダウンして石が動いたなどの情報に興味を持たれている。そういった情報はこちらのサイエンスの結果を伝えている。
あちらはターゲットマーカがない。石が動くとタッチダウンに支障があるためそこを重要視している。
観測成果はお互いやり取りしている。双方の探査機に似たような装置がついている。これからも交流は続くだろう。
サンプルを入手できたら比較は絶対する。注目してほしい。

フリーランス喜多:次の対象天体選定の一般的なクライテリアは

吉川:地球に戻ってきた時点での残燃料で到着できることが大前提。小惑星だとすれば地球、火星近辺と決まってくる。それより遠くへは行けない。軌道傾斜角も大事で、地球軌道に対して傾きすぎていると行けない。
行くならフライバイではなくランデブーをしたいと思って検討している。そこも拘束条件になる。
今年の初めにざっと洗い出したものを発表している。300個ほど。探査機の熱条件や通信条件など運用できるかどうかで絞り込んでいる。また化学として面白いかも大事。科学と工学の両面で可能性があるものを抽出する。

喜多:新たにわかってくる事実が選定に影響しているか

吉川:検討はするが、行けそうな天体の事前情報は少ない。軌道情報や大きさなど。場合によってはスペクトルくらい。その中でどれが面白そうか推測している。

NewsPicks須田:回収チームがウーメラへ行く前提で準備しているのか。新型コロナウイルスの再拡大があったりした場合はどうなるか

吉川:具体的にはこれから。感染状況次第のところもある。回収時期にどうなっているかまだわからない。基本的には我々が出向いて回収する。
オーストラリア側で入国制限があるなら回収隊だけ入国するとか、2週間の待機期間を取るなども検討中。

ライター荒舩あらふねリュウグウの反射率は全体的に一様という理解でよいか

巽:地域差はあるが少ないというところ。東半球のほうが西半球より少し明るい。あとはリッジが明るいなど。

荒舩:ほかの天体との比較でわかることは

巽:Bennuより地域差は少ない。

荒舩:微粒子が全体にまんべんなくあるのか

巽:今回調べたのは全球平均なので全体にまんべんなくと思う。タッチダウン時の画像でもたくさん舞い上がっていたことと整合する。

荒舩:5月にScienceに発表された論文でタッチダウン時に微粒子が舞い上がっていたとあるが、小惑星の表面に微粒子があるのは珍しいのか

吉川:一般的な話として、小惑星に隕石がぶつかっていくと石が破砕されて微粒子ができる。引力が小さいので飛び散るが表面に残るものもある。微粒子が小惑星にあるのは普通のことと思う。

巽:微粒子が大きめなので見えにくいが実際に存在していることが驚くべきことと思う。

荒舩:カメラが曇ったのは微粒子のせいか

吉川:カメラ、特にW1カメラは光量が半分以下になったのは微粒子のためと思う。上空から写真を撮ったときは微粒子がみられなかったがタッチダウンでたくさん舞い上がった。かなりの量の微粒子が表面にあったことがわかった。

巽:ONCの観測結果は解析中。

フリーランス大塚:現在使っているイオンエンジン1台というのはどのスラスタか。AとDを使っているのは太陽光の当たり方や電源の組み合わせなどの都合でとあったが

月崎:現在はCを使っている。熱的制約などはなく調子がいいものを使っている。

大塚:現在は拘束条件はないのか

月崎:はい。中和器の電圧が上がってきてしまうことがない。どれを選んでもよかったが特に調子がいいものを。
第2期はCとDを組み合わせる予定。これも調子がいいものを使用。

NVS金子:リエントリを取材したい。リエントリの時刻はどのくらいになりそうか

吉川:軌道の条件で決まってくる。今回も初号機と同様夜になるだろう。具体的には検討中。

月刊星ナビ中野:リュウグウの反射率が低いとのことだが、2パーセントの反射率を持つ身近なものはなにかあるか

巽:うーん、考えたことがないのでちょっとお答えできないです。

中野:そのあたりに落ちている石よりは暗い?

巽:はい、ずっと暗いです。炭素を粉にしたらこのくらいになる。

中野:真っ黒に近いような?

巽:はい、そうですね。

(以上)

今村の雑感

今回はWebexというネット会議システムを使った記者説明会だった。発言時に名前が表示されるので、質疑応答で常連の方の漢字表記がわかったのが新鮮だった。