開催日時
- 2021年8月19日(木)10:00~11:00
登壇者
- JAXA 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授/火星衛星探査機プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 川勝康弘(かわかつ・やすひろ)
- JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授 臼井寛裕(うすい・ともひろ)
- JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 特任助教 菅原春菜(すがはら・はるな)
- 千葉工業大学 惑星探査研究センター 上席研究員 黒澤耕介(くろさわ・こうすけ)
- 北海道大学 大学院理学研究院 教授 倉本圭(くらもと・きよし)
(左から川勝氏、臼井氏、菅原氏、黒澤氏、倉本氏)
中継録画
関連リンク
- MMX公式サイト(https://www.mmx.jaxa.jp/)
- 火星衛星探査計画 (MMX)さん (@mmx_jaxa_jp) / Twitter(https://twitter.com/mmx_jaxa_jp)
ミッション紹介動画
概要
(川勝氏より)
今日は8月13日にサイエンス誌に掲載された論文「火星とその衛星で生命を探す」をテーマにした説明会。
- 原題:Searching for life on Mars and its moons(https://science.sciencemag.org/content/373/6556/742)
- 雑誌名:Science
- 出版日:2021年8月13日(日本時間)
- DOI:10.1126/science.abj1512
- 主著者:兵頭龍樹(ひょうどう・りゅうき)/ JAXA 宇宙科学研究所
- 共著者:臼井寛裕(うすい・ともひろ)/ JAXA 宇宙科学研究所
- 関連記事:新時代を迎える火星生命探査における火星衛星探査計画「MMX」の役割 | 宇宙科学研究所(https://www.isas.jaxa.jp/topics/002677.html)
通常の研究論文は実験や解析結果が載った10ページ程度のもの。今回の論文はperspective(見解)という1ページのもの。このカテゴリは既存の問題や概念、考え方に新しい見方、将来の方向性、その意義について述べたもの。そのテーマに深い理解と観察をもつ著者が分野の成果や状況を俯瞰した上で今後の方向性を指し示す。通常の研究論文の一段階上で、その研究分野において重要な意味を持つ。
そのperspectiveというカテゴリにおいて「火星とその衛星で生命を探す」というタイトルの論文がトップ科学誌のサイエンスに採択され掲載されたことが重要なニュース。
この論文について内容、意義、価値を説明するため今回の説明会を準備した。
火星土壌に生命が現存している可能性は否定できない
天体衝突による火星から火星衛星への物質輸送
火星圏物質輸送過程と推定された生存微生物数変化
火星衛星の環境は微生物には過酷すぎる
フォボス上の火星微生物の行方
参考資料
火星を探査する理由
MMXが検出する可能性のある生命痕跡
MSR・MMX・隕石試料との比較
SHIGAI(Sterilized and Harshly Irradiated Genes, and Ancient Imprints)
- SHIGAI=死骸
MMXが世界に先駆けて持ち帰る火星物質の分析に向けて
生命の痕跡=バイオシグネチャーとは?
生命の痕跡・化学進化の歴史を保存しうるのは水質変成鉱物
火星粒子を見つけてこその火星生命探査
Martian Moons eXploration (MMX)
MMXの位置づけ
火星生命探査におけるMMXの役割
日本独自の火星圏探査MMX
世界の火星圏探査とMMX
2024年度の打ち上げに向け着実に進むMMX開発
まとめ
質疑応答
JSTサイエンスポータル草下:MSRはクレーター周辺に生命痕跡があれば持ち帰れる、MMXは火星表面のどこかにあったサンプルを持ち帰れるとなっている。ジェゼロクレーターは火星のよその場所にあって移動してきたものを採取する可能性もあると思うがどう評価しているか
臼井:その場で発生した生命でないものがクレーターに到達する可能性はある。全球をおおう砂嵐、三角州ができているように土砂で運ばれた可能性、天体衝突で移動してくる可能性など。ジェゼロクレーターにいる生命を検出することになる。
草下:どのくらいの範囲ならジェゼロクレーターに来ると思うか
臼井:砂嵐は全球を覆うこともある。砂粒が全球で移動する。そこに生命があるかはわからないが。
草下:MSR計画の進行状況は
臼井:行う方向で進んではいる。いつどんな規模でというのは検討中
フリーランス秋山:Science誌掲載の論文について。MMXが持ち帰るかもしれないSHIGAIについてポテンシャルDNAフラグメントという用語があった。これはなにか。またMSRが持ち帰るバイオマーカーの種類について、MMXも持ち帰る可能性はあるのか
臼井:DNAフラグメンツはDNAが増殖不可能な形で残ったもの。
菅原:DNAフラグメントはセグメントが分解された状態で残っている可能性があるもの。バイオマーカーになる有機分子はMMXで見つかる可能性がある。試料から抽出して分析する。ある程度の量が必要。MSRは試料が多いので利がある。MMXに含まれる可能性も十分にある
秋山:ばらばらになっているDNAの破片。グラファイト化とはなにか
菅原:グラファイト化は微生物が死んでだいぶ経っている状態。DNAはほとんど残らない。有機物の結合が切れて炭素になっている。
秋山:DNAの破片ということは蛋白質とわかる?
菅原:DNAが残っている環境なら蛋白質が残っている可能性もある。
秋山:DNAの破片はどのように検出できるものなのか
菅原:ある程度量が多くなければ見えず顕微鏡観察では見えないだろう。化学分析で見つけるとしたら核酸塩基などを発見する方法で。
NHK筒井:フォボスのどこに着陸すると火星由来の試料が多そうとか、生命に関する試料が多そうといった着陸地点を選定するのか。それともどこに下りても同じ?
黒澤:フォボスにはランダムに火星由来のサンプルがあると考えており、どこに下りても同じと考えている。
新鮮なクレーターが火星にあり、それがフォボスに作ったクレーターが微生物がある可能性が一番高いと思う。しかしフォボス上ではすべて死んでいるだろう。
100万個くらいの火星岩石がフォボス上に10メートルのクレーターを作る。それをカメラで見分けられるかという話になる。
MMXはSHIGAI探査のほかにも目的があり、それとのかねあいで検討していく。
筒井:火星からのサンプルリターンの惑星検疫は
黒澤:衛星から持ち帰るように気軽にはいかない。
読売新聞中居:MMXサンプルリターンがCOSPARで安全と認定されたとのことだが、それは生きている可能性のある微生物が対象であってSHIGAIは対象にしていない?
黒澤:そのように認識している。培養可能な微生物を持ち帰る可能性が100万分の1以下であればはやぶさやはやぶさ2と同じように持ち帰れる。
中居:パーサヴィアランスは分析装置を搭載している。MMXはサンプルの分析機能はあるのか
倉本:採取したものをその場で調べる装置は搭載しない。採取地点の周囲のデータは分光撮像などで取得する。粒子一つひとつの組成などは調べられない。
毎日新聞池田:そもそも火星に生命が存在する、存在していた可能性は現在どのように見積もられているのか
臼井:具体的な数字がコンセンサスを得られているわけではない。可能性は議論されている。いくつも証拠がある。水や大気があった一方放射線環境が厳しい。酸化的な環境でもあるなど。
キュリオシティからは硫黄を含む有機物が検出されている。それが生命とはひととびに行かないが、生命の材料になりうる。生命があってもおかしくないと認識されている。
池田:フォボスの生成理由が火星への大きな隕石の衝突だとしたら火星由来のものと区別が難しくはないのか
臼井:SHIGAIや火星粒子はフォボスができてから積もったもの。火星と似通っている可能性はある。あとから来た粒子は水と反応したあとだったりする。フォボスにはそういう鉱物がある可能性は低い。分光観測で差別化できる。ただ火星粒子が1/1,000となると100万粒を一つずつ見ていくわけにはいかない。技術的には可能だがいかに早く行うかが鍵。
ライター林:死滅した火星生命を検出する意義は。どんなことがわかるのか、注目していることなど
臼井:地球外生命の検出につながる。フォボスではいたとしても死滅しているだろう。でも死滅していたとわかればかつては生きていた生命の痕跡となる。地球外生命の検出は今まで確証をもって得られていない。
科学の目的の中で地球外生命体を検出するというのは最重要課題のひとつ。その方法はさまざまあるがその一つの手段としてフォボスへ行ってSHIGAIを探したい。
林:パーシヴィアランスはサンプル採取を始めた。それとMMX計画との相補関係について
臼井:生命環境があったという仮定で話すと、パーサヴィアランスはドリルで開けたサンプルを持ち帰ってくる。生命環境があればかなりそのままの状態で持ち帰る。MSRのチームはそれをふまえて惑星検疫やキュレーション技術も含めて準備している。
相補性について。パーサヴィアランスは地質記録をとって持ち帰るがジェゼロクレーター一点張り。MMXは火星のどこのものかはわからないがとにかく生命検出するというもの。
林:フォボスに生命の死骸があっても火星のどこにあったものかの特定は難しいのか
臼井:粒子の年代はたぶん求められるだろうが火星のどこから来たものかを知るのは難しいだろう。
フリーランス大塚:はやぶさ2がカプセルでサンプルを0.1グラム予定の中5グラム以上持ち帰った。そのことがMMXに与えた影響は
川勝:予想と実際の違いでは、リュウグウもフォボスも初めて行く場所なのでいろいろなことを仮定していく。どのくらい硬いのか、ふわふわしているのかなど。今回10グラム以上採取といっているのは一番悪い条件でのこと。
筒を打ち込んで採取する。ふわふわだとグラムとしては少なくなるし密なら多くなる。フォボスはリュウグウより素性がわかっているので予定より50倍採取できるということはないだろう。
はやぶさは弾丸を撃ち込む方式だったので採取量の予想に幅があった。MMXはそこまでぶれることはないだろう。
大塚:サンプルの重さが増えても火星由来の粒子が増えるというわけではない?
川勝:サンプルが密であれば粒子の数は増えると思う。1つのサンプル内で10グラムに対して2倍~3倍くらいだろう。
2回サンプル採取をするので持ち帰るサンプルは合計20グラム程度になる。
(以上)