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小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(TCM-3の結果、カプセル回収の準備状況など)

日時

  • 2020年11月30日(月)16時00分~17時00分

前回の記者説明会

登壇者

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JAXA 宇宙科学研究所はやぶさ2プロジェクトチーム

JAXA 宇宙科学研究所

(上段左から津田氏、吉川氏。下段左から澤田氏、藤本氏)

中継録画

関連リンク

本日の内容

(吉川氏から)

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目次

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.TCM-3の結果

(津田氏から)

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TCMによる軌道誘導

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「TCM3時の誘導目標領域(ウーメラの内側)」は着陸可能領域のさらに一部。

TMC3、TCM4の考え方

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TCM3の着地点予想範囲は200キロメートル程度。

3.カプセル分離・リエントリー詳細情報

スケジュール

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リエントリー説明図

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4.カプセル回収の準備状況

(藤本氏より)

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(澤田氏より)

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5.アウトリーチ

(吉川氏より)

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6.今後の予定

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参考資料

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帰還巡航運用計画

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リエントリー最終誘導の運用計画

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リュウグウ&「はやぶさ2」お帰り観測キャンペーン観測地

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はやぶさ2」再突入カプセル回収

広報イベント計画および取材要領

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質疑応答

産経新聞伊藤:津田さんに。初号機チームがベテラン中心だったが2号機は若手中心と聞く。そういうチームを牽引する上で一番心を配ったことは

津田:若いチームであるのは確か。初号機の経験がある方も何人か。はやぶさ2にもいろいろな世代、いろいろな専門性の方。いろいろなプロファイルをお持ちの方が集まっている。リーダーに従うチームではなく。探査機や小惑星がこうだからこうするのが一番よいねと議論を戦わせながら進めた。
チームワークは非常に大きかった。リュウグウがどうしようもなさすぎたので人間側が結束せざるを得なかった。
また初号機の経験。いろいろなことが起きたのでどうしたら防げるかいろいろ考えた。先人の知恵が役に立った。はやぶさ2は地球に帰還するが将来に受け継いでいかなければ成らないと思う。

朝日新聞石倉:カプセル分離について。どのような仕方で分離するのか。またその確認方法は。分離を確認できなかった場合探査機ごと大気圏突入させるのか

津田:カプセルそのものは金属で縛り付けているというか、マルマンバンドというもので結合されている。分離装置についている火工品(火薬)で把持されている状態から解放される。ばねで押されて探査機から分離する。カプセルと探査機は信号線(アンビリカル)でつながっている。それを火工品で切り離してから分離。
分離したとき秒速20センチメートルくらいでカプセルは押される。探査機はその反力で少し減速する。それを検出することでカプセル分離の証拠とする。また分離したとき姿勢が乱れる。それにあらがうようにリアクションホイールで姿勢制御する。その回転数の変化もカプセル分離の証拠となる。
カプセル分離できなかった場合は分離が確認できるまで何度か分離を試みる。カプセルを分離したあと探査機は1時間で地球圏離脱の噴射を行う。これはカプセル分離を確認できたときだけ行う。
本当に最後までカプセル分離できなかったらどうするかは、想定したくないが最後は初号機と同じように探査機と共に大気圏突入する。

読売新聞中居:宇宙開発への民間の参画について

津田:民間の活動は注目されていると思う。現時点では地球低軌道での活動。これは今後月やその外側へ広がっていく時代にさしかかっているだろう。
はやぶさはさらに外側、人類の英知を広げるもの。隕石から地球を守るといったもの。これを民間が惑星探査を積極的にするモチベーションがあるかというと(そうではなく)、営利団体がする活動との棲み分けがあるのではないか。

中居:民間が今後参入していくにあたって宇宙に資源開発を打ち出していく必要があるかと思うが

津田:資源開発をできれば大きな市場になるだろう。資源がどこにあるのか、経済的にペイするのか。科学者から入る情報がありそこは今は国の役割。民間が本格的に乗り出すのはまだ先と思う。
探査の一部は民間が参画すると面白い部分がある。惑星探査にカメラを搭載するなどから始まるかもしれない。

NHK寺西:資料10ページ。火球が見える時刻について。火球でとらえられるのはこの時間帯でいつごろか

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津田:高度120キロに到達するのは2時28分からで、火球になるのは高度100キロメートル以下。この時間帯に火球になるだろう。

寺西:これからカプセル分離など慌ただしくなると思うが津田さんの心境や意気込み。

津田:TCM-3の実行はとても緊張した。安全な飛行をしていたものを抜けて地球に向けた。誰が見ても大丈夫という計画を立てて実行した。昨日まで答え合わせをしていた。とてもナーバスになっていた。今朝出てきた軌道評価は完璧だった。この時点ではかなり安心している。
次はリエントリのところ。分離、TCM-5と続く。TCM-3と同じくらいか、時間が限られていてもっと緊張するかも。気を引き締めている。

毎日新聞永山:探査機は高度12,000キロでスイングバイをするイメージ?

津田:探査機はほんの少し軌道を曲げるということ。地面に当たるコースから地球のへりを通るコースに変える。探査機が日影から出るあたりが一番地球に近づく。

永山:地球に一番近づくときの高度は

津田:TCM-5の出来高にもよるが200~300キロメートル。

フリーランス秋山:資料10ページ。TCM-5がうまくいったとわかるのはいつごろか。またカプセル撮像とあるがその画像データが下りてくるのはいつごろか

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津田:TCM-5はほぼリアルタイムで状況がわかる。30秒噴射を30分以上空けて3回行う。18時までに終わり、そのときにはうまくいったかわかっているだろう。
カプセル撮像の結果は…我々も楽しみですが1日後とかになるかもしれませんが、(タッチダウンのときのように)この手の画像ってメンバーががんばっちゃってすぐに出すので当日に出せるかもしれない。

読売新聞渡辺:若いメンバーが多くチームでの議論を心がけたそうだがそれが生きた場面はあったか

津田:6年間の中では1回目のタッチダウンリュウグウがまったく想定外の厳しい場所とわかり、宇宙ミッションはコンサバティブにいろいろなことを考える。危険なことをやらないのが鉄則。しかしはやぶさ2チームはそれでは無理、設計内のことはなんでもできるよう訓練してきた。
簡単な場所であれば訓練が必要なかったかもしれないが、現地が想像を超えた厳しさだった。チームワークがたいへん役に立った。
若手を増やした意図は発想が柔軟なのと、頭数が必要なので若い人でもどんどん参加してもらいたかった。

渡辺:世代交代がどんな影響をもたらしたか

津田:6年前に若手だったメンバーも中核メンバーになって育ってきた。人を育てる立場ではなかったが育ってくれた。
チーム内では若手とベテランで分け隔てなく議論。正しさをベースに議論できるようベテランがいい影響を与えてくれたと思う。ベテランが「ここはこうするもの」としなかった。一方でだめなときは「これは本当に危ないからやめなさい」というアドバイスも。

NVS齋藤:はやぶさ2が無事地球を通過したとわかるのはいつか。またテレメトリはキャンベラで受けるのか

津田:はやぶさ2は遠く離れるので南半球局とは限らない。日陰から出て6日の明け方からアメリカ、日本の地上局へと続く。これらで電波を受けることができたら無事通過したといえるのでは。

齋藤:地球をかすめるのはかなり緊張するところか

津田:カプセル分離と回収が
ここまでがんばってくれた探査機なので生き残って正しい方向へ飛んでいるという信号を送ってほしい。

(ここで退席する津田プロマネから)

津田:このあとTCM-4に向けた作業に入ります。今のところ順調で回収隊とやり取りしている。土日の深夜になるがたくさんの方に見ていただいて、みんなで地球帰還を迎えていただければと思う。引き続きヨロシクお願いします。

ニッポン放送畑中:回収隊は新型コロナウイルスの影響がなにかあったか

藤本:私がここにいるのもコロナ対策をしなければならないから。来る前に自主的に2週間隔離、こちらへ来てからも2週間隔離。
アデレードでの2週間の隔離中に南オーストラリア州がロックダウンした。これが長く続いたらどうなるかだったが3日間で終わってくれた。南オーストラリア州政府はカプセル回収事業に理解をいただいていてエッセンシャルワーカーなので移動してもよいと言われていたが物資の補給などは苦労しただろう。1週間など続いたらと思うとぞっとした。

澤田:我々のチームは日本にサンプルを持ち帰ってキュレーション設備に持っていくことが仕事。
今はコロナ対策を万全にして準備を進めている。日本に帰っても対策を万全にしつつ分析に回さなければならない。大変なところ。

共同通信板井:現地の通信状況を知りたい。アンテナ設営している場所ではテレステラの携帯なら通じるのか、衛星電話を使っている場面はあるのか

藤本:まったく通じないところもDFSを使って衛星電話になる。ハイウェイには、ここから次に携帯電話がつながるポイントまで77キロといった看板がある。テザリングでメール環境を確保したりしている。

JST草下:現地の気象状況で回収が遅れるリスクはありそうか。またガス採取を現地でする理由やメリットは

藤本:アデレード隔離中にも雷が来ていた。今のウーメラはけっこう雨があって緑が多い。天気はわりあい不安定。当日の天気はすごく気になる。天気予報は毎日見ていても安定しない。懸念の一つだが心配するより自分たちができることをしっかりする。

澤田:雨が降ったときに現場でどう回収するかなども準備している。
サンプルを密閉してくるサンプルコンテナの密閉方式をはやぶさ2で改良している。初号機では樹脂製のOリングを押しつけて密閉してきた。それだとわずかなガスが出入りできる。
今回は揮発性のガスがより多いと思われる。全部金属でシールドするメタルシールドを開発した。そうやってガスを全部閉じ込められるようにしても移送中のトラブルでシールドがなくなってもれてしまうと台無しになるため分析はまずオーストラリアですることになった。

東京とびもの学会金木:カプセルの地球帰還時の方向探索について。使用する機材で初号機と異なるところは

藤本:4つの方法がある。ビーコンを捕まえる方法は初号機と同じ。アンテナの数を増やしている。次はマリンレーダーでパラシュートからの反射波をとらえる。これは初号機ではなかった方法。3番目は光学観測。パラシュートが開かなかったときに火球を観測する。初号機と同じ。4つめは地面に落ちたカプセルを効率的に探し回る方法として、ドローンで稠密ちゅうみつに画像を撮影する。AIによる画像処理でカプセルを見つける。マリンレーダーとドローンによる探索が今回初めて。
ビーコンを受信するアンテナは初号機では4局だったと思うが今回は5つ設置した。

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マリンレーダはビーコンを受信できないときのバックアップにもなる。

基本的には初号機と同じ仕立て。「★」がついているところがはやぶさ2で新規に用いる方法。

小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(地球帰還) - ただいま村

東京新聞増井:ガスの採取でなにかがわかるのはいつごろか。また意気込みを

澤田:予定通り回収できたとして安全化を行い、次の日の昼過ぎには何らかの、あるかないかというところはわかると思う。詳しい分析は日本に帰ってからだが、どんな重さの分子が入っているかは現地でひと通りわかる。組成はもっと時間をかけて。地球の大気かどうかは次の日にわかることを期待している。
みなさんタッチダウンの画像を見ていると思う。弾丸であれだけ飛ばしているのでサンプルがゼロということはないだろう。ガス回収装置を作ったのもわずかなガスを検出できるようにということ。何らかのものが見えると期待している。やってみないとわからないが。
リュウグウの組成はまだわからないが、計算でははやぶさ2の回収量は100ミリグラムとして設計してきた。C型小惑星を参考にして100ミリグラムのサンプルから微量なガスが出てきても検知できるような装置を作っている。
揮発性のガスがまったく含まれていないとすると見えないということもあるかも。一般的な100ミリグラムのサンプルから検知できるように開発した。

毎日新聞池田:資料9ページ目の着陸予想範囲。TCM4後の範囲はどのくらいに広がっているのか

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吉川+藤本:資料12ページ。右下にウーメラがあってそこから少し左のグレンダンボまで130キロ。水色の楕円(TCM3での予想範囲)の長辺がおおむね400キロ。
TCM4の範囲は正確には出していないが、おおむね100キロ程度になると思う。

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NVS金子:ビーコンの方向探知に関連して。ビーコンの周波数は初号機と同じ?

澤田:方式は変えていません。周波数帯もおおむね同じ。

(最後に澤田氏、藤本氏、吉川氏から一言)

澤田:本番間近になってちょっと怖いというか緊張する状態。これからヘリコプターを飛ばしてリハーサル。気を引き締め直して当日の本番を迎えたい。明るい話題を届けられるようがんばりたい。

藤本:準備はできている。やれることは進められているという感覚。

吉川:相模原側も緊張が高まってきている。探査機をきちんと運用してぜひとも今回もピタリとカプセルを戻せるようがんばりたい。引き続きよろしくお願いします。

(以上)

次回の記者会見