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小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(拡張ミッションの選定結果)

日時

  • 2020年9月15日(火)15:30~16:30

前回の記者説明会

登壇者

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はやぶさ2」プロジェクトチーム

  • ミッションマネージャ 吉川真 (よしかわ・まこと)(JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)
  • 航法誘導制御担当 三桝裕也 (みます・ゆうや)(JAXA 宇宙科学研究所 主任研究開発員)
  • プロジェクトサイエンティスト 渡邊誠一郎 (わたなべ・せいいちろう)(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)

(左から吉川氏、三桝氏、渡邊氏)

中継録画

関連リンク

本日の内容

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目次


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はやぶさ2」概要

(吉川氏から)

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ミッションの流れ概要

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.拡張ミッション選定

(三桝氏から)

シナリオ選定結果

100個以上の候補天体から2つに絞り、その中からEAEEAシナリオを選定した。

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検討経緯

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シナリオ比較と選定

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EAEEAシナリオ軌道シーケンス

総飛行距離は約100億キロ。

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EAEEAシナリオミッションシーケンス

2026年以降、ミッションが段階的に達成されるシナリオ。成果が積み上げられていく加点方式。

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3.拡張ミッションの科学的意義

(渡邊氏から)

予定していなかった世界への「はやぶさ2」の大いなる挑戦

拡張ミッションは余力を使って次のチャレンジであり予定外。ラグビーワールドカップで2回のトライを挙げた選手が今度はフィギュアスケートを目指すようなもの。

メインミッションは高速自転する小惑星を狙うのでフィギュアスケートを挙げた。

小惑星のフライバイ観測はNASAガリレオによるガスプラの観測などがある。

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実施予定の科学観測と予想される成果

トランジット法による系外惑星の観測が行われていてTESSという人工衛星が観測中。フォローアップ観測として地上の天文台などから改めて観測している。はやぶさ2もそこに参加。

2001CC21をフライバイするときの速度は5km/s。決して速くはない。L型小惑星の近接観測は初。

1998KY26は地球に接近する軌道をとっていて地球に衝突する可能性もある。そのような小惑星を調べる意義もある。

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探査する小惑星の特徴

1998KY26:びゅんびゅん回転しているものではない。遠心力が圧倒的に強い。そのような天体がどうできているか。広い意味でのC型小惑星リュウグウに似ていてサイズが違う天体。

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大きさの比較。リュウグウの画像の真ん中に小さくあるのが直径30メートルの1998KY26。

はやぶさ2太陽電池の端から端まで6メートル。ヨープ効果でスピンが変化している。スピンが速くなっている予測もある。いつか分裂するはずなのでそれを観測で予測できたら。

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(今村註:ヨープ効果については2018年6月21日の質疑応答で解説されていた)

はまだ:小惑星の自転が遅くなる原因は

吉川:早くなる原因と遅くなる原因、両方がある。ヨープ効果。小惑星の表面温度が上がると熱放射が出てその反作用で自転速度が変わるというもの。もともとヤーコフスキー効果というものがある。赤外線による熱放射で軌道速度が変化する。これがあることは観測でわかっている。さらにヨープ効果が関係すると考えられている。

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小惑星探査機「はやぶさ2」の取得画像に関する質疑応答機会 - ただいま村

地球史とPlanetary Defenseの観点から

恐竜が絶滅した天体は大きさ10キロと予想。

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4.今後の予定

(吉川氏から)

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参考資料

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1998KY26について

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黄道光観測について

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系外惑星観測について

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拡張ミッションの候補として最終的に選ばれた2つの天体

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小惑星の直径と自転周期の関係

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小惑星の地球衝突頻度予測

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帰還巡航運用計画

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リエントリー最終誘導の運用計画

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質疑応答

共同通信矢野:総飛行距離が約100億キロとのこと。太陽の周りを軌道を変えながら回る飛行距離ということか

三桝:その通り。拡張ミッションに移行したのちの総飛行距離が100億キロになる。太陽の周りを11周くらいする。

時事通信神田:2つの観測候補天体について、選んだ1998KY26のどういうところが楽しみか、また選ばれなかった2001AV43のここを観測したかったなどは

渡邊:1998KY26の一番の特徴は広い意味でのC型小惑星リュウグウと共通。はやぶさ2の観測機器はC型小惑星を想定している。それをフルに生かして次の観測を行える。同じ機器のセットで複数の天体を観測できるのは科学的意義が大きい。
もう一方の天体は2029年に地球に最接近し月軌道の内側にまで来る。話題性はそこも面白かった。最終的にはサイエンス的な価値が高いと思われる1998KY26が選ばれた。

NHK寺西:2択で悩んでいたと思うが意気込みを。1998KY26の名前候補はあるのか

吉川:個人的にはこういう30~40メートルサイズの天体はPlanetary Defenseの面でとても重要。そのような天体に行けるということで期待している。地球への天体衝突はそうそうないがこのサイズだとそれなりに頻度があるので詳しく調べて、実際に地球に衝突するときに避けることができるテクニックを学びたい。
小惑星の名前について。1998KY26は確定番号がついていない。今すぐはつかないだろう。今後の観測で軌道が決まると確定番号がつく。どういう名前がつくかはまったく考えていない。いろいろ考えていきたい。

NVS齋藤:2026年に小惑星にフライバイするとのことだがクルーズ中のイオンエンジンの稼働時間はどのくらいになるか

三桝:26年のフライバイまでは…正確な時間は思い出せないがおよそ半分以上はイオンエンジンの噴射を行う。

齋藤:遠日点に近い間にイオンエンジンを噴射するのか

三桝:熱制約条件からイオンエンジンを噴射できる期間が決まる。太陽に近すぎると噴射できないため遠日点に近いところで噴射する計画。

齋藤:ランデブーする小惑星までの燃料の残りは

三桝:噴射の期間は26年以降も定期的に行う。11年間粗密はあるが噴射を続ける。

フリーランス秋山:1998KY26について。一枚岩かどうかという話があるがそれが判明した場合サイエンスにどのような意味があるのか。また科学目標の中でタッチダウンもとあったがサンプルコンテナがない場合の意義は

渡邊:地球接近小惑星の一部が地球に落ちてくる。そのときどのくらい強度があるかが重要。もろいものなら大気圏突入で燃え尽きる。リュウグウでもSCIの衝突でたくさん破片が舞い上がったように結合力は弱そうだがボルダーがたくさんあったりした。
1998KY26は30メートルしかない。リュウグウの1つのボルダーとみると強度がありそう。20パスカルというごく小さな遠心力。モノリシック(一枚岩)でなくても結合力がある砂なら分解しない可能性もある。
高速天体にタッチダウンしても遠心力で元に戻ってしまうだろう。どういう形で降りられるかを検討。サンプルを採れなくても成果は大きい。なにが可能かじっくり考えたい。

月刊星ナビ中野:近接観測のこれまでの世界記録は

吉川:探査機が出かけていって一番小さいのはイトカワかベヌー。いずれも500メートルクラスで今回それより1桁小さい。
ロゼッタの核はキロメートルサイズ。

毎日新聞永山:拡張ミッション選定の熱成立性について。どの機器の温度が何度になるからダメみたいな具体的な話を知りたい

三桝:探査機全体の温度も大事だが搭載機器ごとに発熱量や太陽光の当たり方は異なる。温度範囲が問題になりそうなのはRCSまわりの配管や姿勢制御まわりの駆動部のドライバー。EVEEAだと探査機の重要な機器に温度範囲を超えるのがわかった。
シナリオごとの温度の具体的な違いは…今ぱっと思い出せないが20~30度の違いだったと思う。条件でけっこう変わるのでのちほど正確なところをお知らせしたい。

フリーランス大塚:フライバイする小惑星との相対距離は

三桝:具体的な数字は検討中。はやぶさ2はランデブー用に作られている(フライバイ観測は考えられていない)。100キロより近いところを狙って観測していくことを考えている。

大塚:探査機の向きを変えて撮影するのか

三桝:そのあたりも現状はアイデアベース、簡単な計算はしている程度。実現性の検討は地球帰還後。今は地球帰還の準備で手一杯なのでおいおい検討していく。

大塚:ランデブー時の観測で問題になりそうな機器はあるか

渡邊:小惑星のフライバイは1,000キロオーダーが中心。今回100キロと一桁小さい。大きくなってくる様子を撮影できたら。
いろいろな機器はタッチダウン時に砂礫が舞い上がり探査機に付着したりしている。近傍観測の影響でどうなるかを見ていく。どの機器が悪くなるか予測できるかどうかは難しい。
10年後でも十分観測できるだろう。チームが機器の状態を解析中。

吉川:各機器とも経年変化はチェックしている。現状では大きく劣化しているものはない。10年後でも観測データは取れるだろう。合計15年以上のミッションはなかなかないので劣化のデータを取ることが重要。

東京新聞増井:11年かかるというのはずいぶん長いと感じる。省エネのためそうなったのか

三桝:省力化は人員の面などであって軌道設計で手を抜くわけではない。1998KY26を目指すとなるとどうやってもこの時間がかかる。

増井:1998KY26の観測が終わったらそのあと地球へ帰ってくるのか

三桝:とても先の話なので想像の域を出ないが、リュウグウの滞在期間が1年半あったように1998KY26の観測もすぐ終えることはないだろう。地球に帰ってくるかはわからない。小惑星の付近で観測をしたりチャレンジングなことをしたりするかもしれない。
タッチダウンの可能性は今後の検討次第だがはやぶさ2の技術を拡張させるためにも考えていきたい。

増井:はやぶさ2が延長の旅に出ることについて吉川さんの感想を伺いたい

吉川:初号機ではトラブルが起こる前までは「地球へ戻ってきたらどこかへ行きたいね」と話していた。トラブルであきらめてしまったが今回は現在までたいへん調子がよくイオンエンジンの燃料も半分残っている。はやぶさからはやぶさ2で技術が進んで自分たちもたくさん学んだ。
はやぶさから10年経っている。はやぶさ2が新しい旅へ行けるのは感慨深い。

フリーライター荒舩:Planetary Defenseについて。近傍小惑星の観測でどんなことがわかるのか

吉川:一枚岩なのかラブルパイルなのかは地球にぶつかるとわかったとき回避のために非常に重要な情報。どういう構造をしているかが大事。それがわかることを期待している。
自転が速いことも衝突回避のために重要な情報になるかもしれない。

荒舩:拡張ミッションというのは壊れてしまったら仕方がないという割り切りなのか

三桝:普通に使っていて壊れてしまうものもあると思うが、駆動部であるリアクションホイールはなるべく温存のため低速で回転させたりアンローディング(RCSで噴射して回転数を調整)したりする。アンローディングは燃料を使うのでどうするか工夫していきたい。

NVS齋藤:フライバイの候補天体はL型でスペクトルを見たいとのことだが秒速5キロでの高速接近だとスペクトルを見られるものなのか

渡邊:高速で横切るようなフライバイなので観測条件は限られる。向かっていくときは天体が大きくなり急に方向が変わり遠ざかっていく。ちょうどいいところでバチッと撮るのは難しく、少し遠いところから観測することになる。近づいてきたらスペクトルはあきらめてカメラで撮影するなどいろいろ考えている。

齋藤:ニューホライズンズが高速で冥王星をフライバイ観測した。数時間が勝負だったと聞いている。そういうタイムスケールなのか

渡邊:冥王星の場合も最接近のだいぶ前から観測してきて、最接近したときは一番重要だと思うが腕の見せ所。フライバイはだいたいそういうもの。三桝さんがいい計画を立ててくれるだろう。

読売新聞中居:1998KY26の到着の見通しについて。2031年7月とあるがミッションシーケンスの中では2031年後期とある

三桝:記述がぶれているが2031年7月を正としてほしい。

中居:太陽の周りを10周程度回ってランデブーを目指す?

三桝:11~12周程度。

中居:今日の夜にイオンエンジンの最後の点火があり17日の未明に燃焼終了とのことだが総運転時間はどのくらいになるか

吉川:打ち上がってから現在まですべての時間はすぐには出てこないが…17日にはイオンエンジンの運転が完了するのでWebなりツイートでお知らせしたい。

中居:初代はやぶさはトラブルがあったが今回は順調だったイオンエンジンへの思いを

吉川:はやぶさは打ち上げ直後からトラブルがあって気をもんだ。自分は軌道決定(軌道を推定する担当)だったのでイオンエンジンの噴射が変わると軌道決定は苦労した。今回は非常に順調、4つともちゃんと動いて安定したエンジンになった。
ごくろうさまと言いたい。あさってまでの運用でイオンエンジンは完了となる。お疲れさまと言いたい。

中居:このあとも拡張ミッションでイオンエンジンに期待するか

吉川:どこまで運転できるか時間との競争、未知の領域への挑戦になる。

(以上)

次回の記者説明会