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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(MINERVA-II2の分離結果)

小惑星探査機「はやぶさ2」は、引き続き小惑星Ryugu(リュウグウ)の観測活動を実施しています。

今回の説明会では、ターゲットマーカ分離結果、MINERVA-II2分離結果について説明を行う予定です。
また、大学コンソーシアムが開発して「はやぶさ2」に搭載したMINERVA-II2の状況については、東北大学九州工業大学より説明を行う予定です。

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(19/10/28)ライブ配信 | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2019年10月28日(月)14:00~15:00

登壇者

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(image credit:JAXA

はやぶさ2」プロジェクトチーム

  • ミッションマネージャ 吉川真(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)
  • 航法誘導制御担当 吉川健人(JAXA研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員)
  • 東北大学 大学院工学研究科 吉田和哉(東北大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授)
  • 九州工業大学 大学院工学研究院 永岡健司(九州工業大学 大学院工学研究院 機械知能工学研究系 准教授)

(左から永岡氏、吉田氏、久保田氏、吉川健人氏、吉川真氏)

中継録画

関連リンク

本日の内容


(吉川真氏より)

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目次

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

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MINERVA-II2の分離が終了と追加。

1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.ターゲットマーカ分離運用結果

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(吉川健人氏より)

はやぶさ2を骨の髄までしゃぶり尽くす観測ができたと思う。

ターゲットマーカ(TM)分離運用のポイント

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小惑星を周回するTM-E(赤道軌道)とTM-C(極軌道)(ONC-T)

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リュウグウに着陸したターゲットマーカの写真

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3.MINERVA-II2(ローバ2)分離運用結果

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ローバ2の分離運用のポイント

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動画

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ONC-TとONC-W1の両方でとらえたローバ2

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推定軌道、ONC撮像、通信

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分離運用を通じて得られた成果

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MINERVA-II2 ローバ2分離運用結果

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(吉田氏より)

はやぶさ2搭載小型ローバ・ランダ

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MINERVA-II2(ローバ2)分離直後のONC-W2画像(連続写真)

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動画(6倍速)

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分離直後のONC-W2連続写真の画像解析に基づく、分離速度の推定

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MINERVA-II2(ローバ2)分離後の通信状況

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ローバ2分離方向

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(永岡氏より)

環境駆動型移動機構(山形大学

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(吉田氏より)

動力を必要とせず、温度の変化で駆動する跳躍機構。

分離計画修正案と分離運用の成果

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MINERVA-II2(ローバ2)の名前について

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命名済みの「イブー」「アウル」と合わせて、ラテン語でフクロウを指す「ウルラ」。3つのローバーで「フクロウ3兄弟」としたい。

ターゲットマーカ・MINERVA-II2ローバの軌道周回運用実現の背景と謝意

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(久保田氏より)

4.周回させたターゲットマーカの名称

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(吉川真氏より)

5.今後の予定

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(久保田氏より)

やり残したことはないかの確認と、帰還の準備を行っている。

参考資料

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光学航法カメラ(ONC)

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ONC-W2取り付け位置

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ターゲットマーカ

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ターゲットマーカ分離の様子

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MINERVA-II2の参考資料

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複合型移動アクチュエータ

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MICAMカメラ

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MINERVA-II2ローバ2の開発の経緯

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質疑応答

星ナビ:TM-EとTM-Cのリュウグウ上での周回数は

吉川健人:p10右下が推定軌道。赤道は3日、極軌道が4日弱。周回数は4~5周。

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星ナビ:周回にかかる時間は

吉川健人:軌道によって変化するが18時間ほど。

星ナビ:MINERVA-II2の通信について

久保田:はやぶさ2には通信機器が搭載されておりロボットと通信できる。通信だけでなく電波強度でおおよその距離も測れる。比較的高い高度から変化していったのが今回ほかと違うところ。電波強度の変化をとらえられた。

共同通信やの:リュウグウでのミッション終了は何日をもってといえるのか。また11月12日の記者懇談会の前になにか発表を行うか

吉川真:最期の重要なミッションが終わったのはMINERVA-II2のミッション終了にともなって。発表は検討中。リュウグウからの出発は11月~12月というくらいしか今は決まっていない。

ライターあらふね:ターゲットマーカを周回軌道に入れるとき、どうやって2つの異なる軌道に入れたのか

吉川健人:いったん降下を停める噴射を行う。ターゲットマーカの赤道方向の軌道投入速度になるよう探査機を加速させてワイヤーを切る。分離確認できたら探査機を上昇させるとターゲットマーカは進んでいき、探査機は離れていく。次に極軌道に入るよう探査機の速度を変えて同じように分離。

あらふね:探査機の速度のかけ方の違いで投入軌道を分けた?

吉川健人:その通りです。

あらふね:ターゲットマーカの分離とMINERVA-II2の分離、どちらがどのくらい難しいか

吉川健人:ターゲットマーカは2つ分離するので複雑なシーケンスになった。狙ったところに入れる難しさはどちらも同じ。

あらふね:今までのターゲットマーカは真下に落としていたが、今回の軌道投入はそれより難しいものか

吉川健人:速度が合わないと軌道を周回せずリュウグウを通り過ぎてしまうとか、周回しないまま小惑星表面に落ちてしまう可能性がある。探査機の制御も含めて難しいところがある。

久保田:ターゲットマーカの分離そのものは従来と変わらない。2つを同時に(1回の運用で)分離するのは初めての試み。これでローバ2の分離の練習ができたため、ローバ2の分離は落ち着いてできた。

あらふね:測距の信号について。小惑星表面でホップしたことまではわからない?

久保田:電波で通信しているのでほかのローバも含めて測距はしているが、ホップの高さが相当高くないと電波だけでの測距は難しい。

時事通信かんだ:18ページの「世界初」「世界最小」について。「複数の人工周回物」とあるがそうでない事例はすでにあるのか

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吉川健人:「複数の」というのはコンステレーションを組んだということ。

久保田:アメリカのニアーミッションでは単独で小天体に周回させている。ドーン探査機も同様。

かんだ:地球外天体への衛星軌道投入は今まで多くあるが、その中でも最小の人工物ということ?

久保田:地球外天体の周回はターゲットマーカが一番小さい。

かんだ:測距信号を反映させた分析は今やっているところ?

久保田:はい。

かんだ:1.25周くらいで降りたとのことだが、どのあたりに降りたのか推定できるのか。落下位置などはわかっているのか

吉田:現時点でいえるのは、1と1/4周回って、日なたから日陰にさしかかるくらいのタイミングで着地していること。あとはリュウグウの自転周期と照らし合わせればおおまかな経度は推定できる。その分析はこれから。わかり次第コンソーシアムから報告したい。

かんだ:ホームポジションから電波を受信することで位置を推定したりもできる?

吉田:撮像や無線などさまざまなデータがある。軌道推定も行っている。それらを総合して詳しいことがわかるだろう。

吉川健人:軌道推定の観点からはどこに落ちたか、誤差はあるがわかる。測距の情報はなくカメラの情報からだけで推定している。測距の情報が入ればさらに正確に知ることができるだろう。

かんだ:リュウグウをいつ離れるかについて。現在「これをやりたいから検討中」というものがあるのか

久保田:大きなイベントは終了していて確認中。追加でなにか行う予定はない。

産経新聞くさか:小天体の重力を正確に測る手法ができたとのことだが、今後の小天体の理解や将来の探査にどういう効果が期待できるのか、理学と工学の両面からわかりやすく知りたい

久保田:工学の視点から。小さくていびつな天体に周回させるのは難しい。密度が均一かどうかわかるし高高度からの分離で着地できたのは周回してから着地させる観点から低リスクな運用もできるだろう。天体を周回するダイナミクスもいろいろと得られた。

吉川真:理学から。リュウグウの空隙率は50%以上。表面は岩石でおおわれているが内部に空洞があるかもしれない。小惑星の構造をもう少し理解したいという要望がある。重力場の測定で内部の不均一性がわかれば小惑星の理解に役立つ重要なデータになる。解析結果は追々発表したい。

くさか:リュウグウの出発について、11月~12月とのことだが今週末はもう11月。11月上旬ではないなど絞られてはいないか

久保田:いきなり出発することはなく、事前にお知らせします。記者懇談会が11月12日なので…(今村註:それまでに出発日を発表することはないというニュアンス)決まりましたらなるべく早くお知らせします。

フリーランス大塚:資料p19。津田プロマネのコメントについて。川口淳一郎先生の関与について詳しく

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久保田:川口先生はもともと軌道ダイナミクスの専門家。コロラド大学のシアーズ先生も小天体まわりの軌道ダイナミクスの専門家で、初号機のときは客員研究者として日本に滞在していた。このような軌道専門家にリュウグウの周囲をどう回せるかサジェスチョンをいただいた。いびつな天体でどうすればよりよく周回できるか、助言をいただいたおかげで2つのターゲットマーカやローバを周回、着地させることができた。

大塚:実際にはやぶさ2チームから助言をもらったのは吉川健人先生?

吉川健人:自分だけでなくはやぶさ2の軌道推定チームやアストロダイナミクスの専門家、チームで検討してこの軌道を決定。川口先生やシアーズ先生の助言もいただきながら。

大塚:ターゲットマーカを周回させるのは設計時から考えていた?

久保田:最初からターゲットマーカを使うとは考えていなくて、なんらかの物体を分離して周回させることができたら重力分布がわかるとは思っていた。ターゲットマーカを5個搭載したのはピンポイントタッチダウンのため。運よく少ない数で(ターゲットマーカを予定していたほど使わずに)タッチダウンできたため、ターゲットマーカを分離して周回させた。
初号機でもターゲットマーカを周回させることは考えていた。しかし1/8周回にとどまった。ターゲットマーカ以外のものを分離して重力分布を知りたいとは考えていた。

読売新聞まつだ:ローバについて。当初8周くらいの予定だったのが1周ほどになって、取得できたデータに違いは出たのか。またそれをもってリュウグウでの最後の大仕事は成功したといえるのか

吉川健人:軌道推定の観点からは、周回数が減って観測量が減ったのは事実だが、ギリギリの軌道を飛んでいると考えることもできるため、重力の影響を大きく受けたデータを取れているかもしれない。解析結果を待ちたい。

吉田:実施前の説明では8周ほどを目標としていた。それより少なくなったがもうちょっと回ってほしかった。とはいえ1周以上回って着地したため周回はできた。
大学コンソーシアムとしては着地させることが目標だったため及第点と考えている。

久保田:今回は最後の大きなイベントだった。ローバ2はいろいろあったが英断があって着地もできた。大学コンソーシアムが時間がない中、力を合わせて作ってきた。着地しただけでなく電波を受信できたのが大きい。これから解析されるだろう。
ターゲットマーカを下ろすリハーサルもできデータを取得できた。プロマネがコメントを出しているのは喜んでいるということ。
最小の人工衛星群ができ、今後の小天体探査に大きな貢献ができた。最後もきちんとミッションを完了したと考えている。

(以上)