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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(サンプル初期分析論文の「Science」誌掲載)

小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析 石の物質分析チーム 研究成果の科学誌「Science」論文掲載について

おことわり
いつもは記者説明会で書き取った内容を読み返して、ブログ掲載用に表現を調整したり書ききれなかったところを補足したりしています。ところが今ちょっと忙しくて手が回らないので、今回は書き取った内容を基本的にそのままアップします。

登壇者

JAXA 宇宙科学研究所地球外物質研究グループ
グループ長 臼井寛裕(うすい・ともひろ)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授)
初期分析チーム
初期分析チーム統括 橘省吾(たちばな・しょうご)(東京大学大学院理学系研究科 教授/JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 特任教授)
石の物質分析チーム
チームリーダー 中村智樹(なかむら・ともき)(東北大学 大学院理学研究科 地学専攻 教授)

配付資料


記者説明会の概要と目次

1.論文内容の概要

(中村氏から)

初期分析「石のチーム」は約30名、10数個のグループに分かれて専門の分析方法、測定方法、数値計算の専門集団と役割に分かれている。

17の粒子(ミリメーターサイズ)(最大はC0002、8ミリほど)OH基を含む含水鉱物、硫化鉄や酸化鉄も

化学分析と物性分析の結果、水質変性の進行を化学平衡計算

サンプルの物性値をもとに形成シミュレーションを行った

リュウグウの母天体の形成から衝突による破壊までのプロセスを再現した

母天体の材料物質、含まれている氷がどういうものか、母天体の直径は100km程度で、内部と外側で物質の変化が異なっていたことも突き止めた(異なる物質ができていた)

母天体の破壊の影響がどのくらい残っているかも調べた

なぜ小惑星?

図は太陽系の形成史

現在の太陽系には内惑星、外惑星、カイパーベルト天体がある。

約45.7億年前(スライドの数字は間違い)、太陽とガス円盤(原始惑星系星雲、ガスとちり(1ミリから1マイクロメートル))

中心部で温度が上がり、星雲内のちりが溶けたり蒸発したりして高温のガスが生まれる→冷えるときに小さい結晶が凝縮

太陽近傍の高温のプロセス(1,000度以上)でできた高温形成粒子は3種類、これが太陽近くから拡散していった(規模や距離はわかっていない)

原始太陽系星雲内にある高温形成粒子以外の粒子や氷が集まり微小天体ができる(太陽の近くから遠くまで)

リュウグウはどこでできた?/星雲ガスはいつまであった?(微小天体ができたときガスはなくなったのか残っていたのか)

微小天体は小惑星帯にあるが、かつては太陽系全体に広がっていた

リュウグウはC型小惑星、水や炭素を含むと考えられている→地球の水は生命の起源

2.論文内容の詳細(1)

「Ca、Alに富む包有物」=高温形成粒子

リリース図3:高温形成物


ここでいったん質疑応答

産経新聞伊藤:地球以外の天体から液体の水が見つかるのは初めて?

中村:その通りです。

時事通信神田:水の雪線とCO₂の雪線はそれぞれ太陽からどのくらいの距離か

中村:水の雪線は1~3AU(太陽と地球の距離が1AU)、CO₂の雪線は10AUくらい。

時事通信神田:高温微粒子の大規模な移動があった証拠はほかにあるのか

中村:小惑星由来の隕石がたくさん高温形成物が入っている。水の雪線の内側から外側くらいまでで高温形成物がたくさん拡散している。リュウグウの形成領域の外側では彗星ができる。NASAの探査機が彗星のちりをキャプチャして地球へ持ち帰った。そこにも高温形成物が少量見つかっている。
一方CO₂の雪線よりも外側にどんな種類の高温形成物が来ていたかは今までわかっていなかった。リュウグウのサンプルの中に見つけたことにはそういう意味がある。

共同通信須江:地球以外の場所にあった物質の中に初めて液体の水が見つかった?

中村:いえ、地球に落下した隕石の中から液体の水が見つかったことはある。探査機が小惑星から持ち帰ったサンプルの中に液体の水を発見したのが初めて。

須江:地球上の水との違いは

中村:それは分析していない。水は水だが酸素の同位体比は未分析。

NHK絹田:リュウグウに存在すると確認されていたのはOH基

中村:1滴の水はリュウグウ天体の内部にたくさんあった水と同じ。リュウグウの中にはサンプル内と同じ水がたくさんあった。リュウグウの母天体のような天体が水をいっぱい抱えたまま地球に当たると地球に水が供給される。そこに塩や有機物が含まれていたことを発見。地球にどのようにして塩や有機物が

絹田:(聞きそびれ)

中村:結晶の中にトラップされた液体の水は見つけた。
岩石と水は体積比でおおよそ1:1とわかっている。液体の水はリュウグウが割れたりしたとき抜けていった。結晶内にトラップされていた水は破壊されず残っていた。

圦本先生の論文。水の分析で層状ケイ酸塩に水分子が入っているはずだが、抜けてしまってカラカラになっているとわかった。
いまのリュウグウには層状ケイ酸塩は存在していない。

絹田:リュウグウに液体の水はあるが母天体よりは少ない?

中村:その通りです。

読売新聞笹本:CO₂の雪線の距離は10AUというのは当時の距離? 高温形成物は10億キロを移動したということ?

中村:いずれもその通りです。

2.論文内容の詳細(2)


リリース図5

上の白黒はCTスキャンした図。黒い穴の空孔に水が入っていた。粒子をアメリカへ送りイオンビームを当て、結晶が削れていって空孔の中の物質をスパッタリング(結合を切る)して中身を分析できる。
真空中で行うため、液体の水だと抜けてしまう。そこで結晶ごと冷やして行う。上右は電子顕微鏡で見たもの。常温なので水は抜けている。
液体の水に溶けていた分子が下半分に図示されている。ただしイオンビームを当てたとき分解された分子もあり、OHやCOから水があったことがわかる。
アミノ酸が入っているかどうかは今回の分析ではわからない。アミノ酸に特化した分析が必要。今回は炭素が重合した有機物が見つかったということ。

リリース図7

リュウグウの母天体が星雲ガスの中で生まれたという話。

星雲ガスは電離していていろいろ運動し、電流が流れたのと同じ状態になる。星雲ガスの中に磁場が発生すると鉄を含む鉱物粒子が天体の周りの磁場を保存する。

図の丸いCはマグネタイト磁鉄鉱)。これは磁化されやすい。右半分は磁力線。渦を巻くような不思議な構造。マグネタイトの中には磁力線が保存されていた。外側にも磁力線がある。
天体の周囲にあった磁場を保存したものと考えられる。

リュウグウの母天体内に水があったときには星雲ガスがまだあったことを示している。
リュウグウの母天体が形成され凍ったころにはガス円盤がまだあったことを示唆している。

リリース図6

サンゴ礁のような結晶について。サンプル中に2つ見つけた。
テーブル珊瑚と同じような結晶があった。平たいものが重なったような構造。平たく切って中を見たら1つの根っこから結晶が伸びていた。
構造は地球のサンゴ礁によく似ているが成分はまったく違い、銅と硫黄でできている。
サンプルの表面にあったため、地球のサンゴと同じように発生し成長していったものと考えられる。サンプル上の結晶は生命は関係しないが。

図1 太陽系形成とリュウグウ形成

太陽近くで生成された高温形成物がリュウグウの形成領域まで来ていたことを発見した

水が氷になるかどうかの境界線を雪線(せっせん)という。図の外側の青い線、二酸化炭素の雪線は水の雪線(赤線)より外側にある

水が水蒸気、水は氷で二酸化炭素はガス、水も二酸化炭素も凍る3つの領域に分ける。もっとも太陽寄りは石のみの天体、中間は石と氷の天体、外側は石と氷とドライアイスの天体となる。リュウグウのサンプルからは石と氷とドライアイスが見つかったため外側の領域で形成されたと判断できる

図2 リュウグウ形成、進化、衝突破壊の歴史

母天体内部の状態の変化を計算した。
ケイ酸塩があったとわかるのは、リュウグウの始原物質を残しているサンプルを発見したため。

「3.水岩石反応」のころは内部は25度~50度くらいになる。pHは9(アルカリ性)。
26の質量数を持つアルミニウムが崩壊熱を出して温まるが、「3.」のころ崩壊しきって天体は冷えていく。
冷え切ったあとに別の天体が衝突する。
リュウグウの母天体は小惑星帯の内側にある小惑星になったものと考えられる。そのほかの小さなかけらの一部が集まってリュウグウになった。
リュウグウができてから現在の位置に来るまでの話も面白いが、今回は研究対象にしていない。
衝突天体の痕跡はみつからず。衝突の影響を受けたのは母天体の体積比で1%以下とごくわずか。大部分は影響なくパカッと割れる。温度も圧力も上がっていないところが大部分で、そこからリュウグウができた。

リリース図4

上段中央は周囲の、水と反応してできた含水鉱物と見た目が大きく異なる。無水鉱物がたくさん見つかった。
赤と緑の間の褐色になっている領域を別のサンプルで見つけて調査したところ1μメートル以下の小さな点が集まっているのが見つかった。彗星に含まれるGEMSに似ている。
水が少ない=水と反応していない=おおもとの情報を残している。母天体形成時の物質と認定。リリース図1で母天体の表層は宇宙に接しているため水は抜けるし温度が上がらない。
周囲の含水鉱物(水と岩が1:1)とは状態が異なるため、母天体の表層にあった物質とわかる。

リュウグウのサンプルは包丁で切れるほど柔らかい。ひげそりの刃をきれいにしてサンプルに当てたところザクッと切れた。乾燥したチーズくらいの感触。小さな磁石を多数含み、過去の磁場を保存した天然ハードディスク。

リュウグウの岩石としての特徴をインプットした。岩石の比熱を調べないとどのくらいのエネルギーを当てたときどのくらい温度が上がるかわからない。精密かつ証拠に基づいた結果であり想像は含まれていない。

質疑応答

NewsPicks須田:高温形成物がかなりの距離を移動したそうだが、太陽系形成初期のダイナミックな移動は知られていたのか。またどういうメカニズムで移動したのか

中村:外側への拡散は今まで知られていた。今回はリュウグウの形成領域まで高温形成物が届いていたことがわかった
移動のメカニズムに決定打はない。太陽の近くの風に乗って微粒子が巻き上げられガス円盤の外側へ行ったとか、円盤の赤道面に沿うように外側へ行ったとかいう説がある。
ただ今回の事実として外側へ行っているのは確定している。

須田:高温形成物のサイズは

中村:リリース図3。コンドリュールは10ミクロン。せいぜい30ミクロン程度。移動のメカニズムと関連していると思うが、リュウグウ形成領域まで届くのはこのように小さいものが多いのかもしれない。

須田:母天体が外側から内側へ移動したメカニズムはわかっているのか

中村:まったくの謎です。おそらくほかの惑星の力が関係しているのではないかと思うが証拠はない。

須田:天体内部での磁場の保存は初めてわかったのか

中村:はい。ガス雲が存在していて星雲の磁場が記録されていたことは何例かある。今回、天体内部で水質変成といって水が存在しているとき太陽から離れた領域に磁場が残っていたとわかった。(?聞き違いありそう)

フリーランス秋山:杉田先生の2019年の論文で母天体の進化のシナリオで、母天体の中で水質変成があったか崩壊熱での加熱とシナリオが2つ紹介されていた。
今回は崩壊熱で内部熱が高まったとわかったのか

中村:論文のタイトルは「direct evidence」とある。リモートセンシングは間接的な証拠。我々はサンプルの分析にもとづく直接の証拠を見つけた。
アルミニウムの崩壊熱だろうと考えている。リモートセンシングの論文は内部が500度くらいになったとあり水が抜けたのではと考えられた。北里さんの論文でも。
今回は50度くらいまでしか温度上昇の履歴が見つからなかった。なぜ違いが出たのか。リモセンでは表層物質しかわからない。リターンサンプルで分析するのは内部。

秋山:小さい天体による加熱はないと考えられる証拠はあるか

中村:天体衝突で温度が上がるのはごく一部で大部分は温まらない。(リリース図2)今回の我々のシミュレーションでは完全に排除されている。

秋山:岩石と水が1:1のとき、水の貯められ方はどんな状態なのか

中村:よくわかっていないが泥水に近いものかもしれない。粒子同士が固結していたようには思えない。コロイドというか。大きな岩石もあるが細かい岩石と水が混ざっていたのではないか。

毎日新聞永山:CO₂雪線より遠くでリュウグウの母天体ができたというが証拠をどう導いたのか

中村:CO₂が天体に固体として集積した直接証拠はない。天体の中にCO₂と水が(比はわからないが)含まれていたことがわかる。
水とCO₂の氷がないと説明がつかないということ。

永山:論文の筆者が220人にのぼる。成果や教訓は

中村:150名がわれわれのチーム員、70人が■。そちらの多大なる努力のたまもので感謝している。
サンプルが帰ってくるまでにどういう分析をしてどういう結果へ持っていくかをたくさん話し合い、専門家の集団のブロック図を作った。日本のトップの方に入ってもらった。海外の研究チームが進んでいるところもあり、欠けたピースに入ってもらった。
最後の到達地点へ行くためのルートを通るにはと考えて集めたのが150人のチーム。それぞれ専門的な知識や技術を組み合わせて得た成果。
一番重要なのはサンプルを十分とってきてもらったこと。サンプルリターンの難しさは骨身にしみてわかっていた。

永山:今後の惑星研究にどう貢献するか

中村:日本のミッションだが果実、成果は世界中のメンバーで共有。日本の国の税金を使っているので日本が一番リターンを得るべきだが国際協力が大事で日本だけではここまで来られなかった。
今後はもっとインターナショナルなフレームワークで進めていくべき。そのほうが目標に到達できる。リュウグウサンプルを分析したメンバーが世界中にいる。波及効果が大きいだろう。

永山:サンプルから水があったらいいなと探していたと思う。アメリカに結晶を送って分析してもらい、流体の水と聞いたときどう感じたか

中村:びっくりしました。結晶を何度もSPring-8で分析しても抜けていってしまう。細かな技術…チームの松本さんが上手にやってくれた。それからアメリカの人の技術。びっくりしてとてもうれしかった。

産経新聞伊藤:先生方の研究成果のハイライトを一般の方に伝えるとき、今回は原始太陽系の太陽近くから物質が移動し、再び内側へ戻るのは過去に推論はされていた、はや2の分析で推論を補強していたが実際の観測データで数値シミュレーションによってより確実なモデルに迫った…のような理解でよいか

中村:大きくはその通り。我々の研究は物的証拠にもとづいているのが特徴。観察による新しい発見も我々の研究を特徴付けている。
複数の論文に値する内容と思っている。記者の皆さんは興味を抱いたところを記事にしていただきたい。

朝日新聞玉木:母天体がCO₂の雪線より外側で形成されたことは推定されていたがそれよりも外側だったのか

中村:外側だったかはわからない。先行研究と矛盾はない。一定以上のCO₂が存在することを突き止め、天体内の水にCO₂があるからにはリュウグウ形成時の位置はここだろうということ。

玉木:(質問聞きそびれ)

中村:おおよそ150ミリグラム。

時事通信神田:見つかった水をイメージしたい。量はどのくらいといえるのか。CO₂や塩が溶け込んでいるのは塩サイダー?

中村:舐めたわけではないのでわからないが…CO₂はけっこう含まれていると思う。僕らも考えたのですが…強炭酸とか。塩は少ないのであまりしょっぱくはないと思う。

神田:その塩は一般的な塩化ナトリウムを想像すればよい?

中村:はい。

NewsPicks中居:リュウグウの母天体は内部の温度上昇で水がたっぷりあったとの話。エンセラダスのように表面が凍っていて中に液体の水があるという話を思い出した。関係はあるか

中村:天体内部に岩石が集まっていて水がある可能性はなくはないが、スポンジに水がひたされた状態に近いと思っている。
エンセラダスやエウロパのように表面が凍っているのは確か。潮汐力による加熱。アルミニウムの崩壊熱とは異なり全体的に温まる。

中居:氷のボールの中に水が含まれたスポンジというイメージ?

中村:そういうイメージを持っています。

中居:液体の水は地球に持ち帰ってきたから液体になっているのか

中村:水がトラップされたのはリリース図2の「3.」のとき。液体の状態でトラップされたのは間違いない。一方でリュウグウのサンプルはリュウグウの表面で捕獲されたもので昼間最高温度が80度くらいになる。水は少しガスになって抜けたかもしれない。
地球近傍に戻ってきたときの水温は室温に近かったので、ガスもあったかもしれないが水の状態だったと思う。

日本経済新聞小玉:高温形成物が太陽から遠くで見つかったことの意味や影響は

中村:太陽に近い小惑星ではリュウグウより高温形成物がたくさん見つかっている。リュウグウは高温形成物は含まれているもののリュウグウの体積の1パーセント未満。太陽系全体で考えれば大量だが、リュウグウの形成領域にもともとあった固体物質の1パーセント未満が太陽系の内側から飛んできた。そして高温形成物は小さい。太陽系全体を考えると高温形成物の移動が太陽系生成の初期にあったことは今回の研究でより明らかになった。
太陽系内でそういう動きがあったとわかっているが、星の進化において普遍的に応用できるかもしれない。系外惑星の形成研究にも貢献できるのでは。

フリーランス大塚:母天体に水が多いと思ったが、スポンジという可能性があるとすると「海があった」とはいえないのか

中村:サンゴ礁のような結晶と申し上げた。あれは岩石の表面でありスポンジでないと成立しない可能性がある。スポンジの領域と
サンプルは多孔質で内部で含水鉱物ができている。スポンジらしいところが多くなければいけない。そして水は大量にある。鍾乳洞のような感じ?
「海があった」と書くのは…うーん、おまかせします。大きな誤解を生まないようにお願いします。

大塚:現在のリュウグウでも結晶の中に液体の水がある、とは書いても大丈夫か

中村:それは大丈夫です。

大塚:今回定説をくつがえすものはあったか

中村:確固とした証拠もなく考えていたことに物的証拠を見つけて、予想と違うところもいくつかあるが基本的には根拠のないモデルと思っていたことに物的根拠を与えることができたのが大きなところ。

大塚:仮説に対して直接証拠が見つかったのは大事です

中村:杉田さんの論文を意識して書いている。リモートセンシングは手に取って分析するものではない。サンプルを直接分析してわかることは物的証拠にもとづく「堅い」モデル。リモセンで小惑星を理解するのは太陽系形成期の天体の初期進化を理解すること。そこには探査機で小惑星を直接観察するだけでなくサンプルを持ち帰ると桁違いに情報量が増える。そこを加味してリュウグウの形成史がグローバルかつ緻密にわかると示したい。

大塚:意外だった結果はあるか

中村:海でシュノーケリングするのが好き。リュウグウのサンプル分析はシュノーケリングしているのに似ていた。サンゴ礁のようなものが見つかったり。
始原的な物質を見つけたときがうれしかった。全部が水にジャボジャボで変化していてさかのぼれないのではないかと。3か月ほど分析して見つけられなかったが一度見つけると、始原的な物質がだんだん変化してパズルのように変化のプロセスが見えてきた。
またはやぶさの初号機では今回の分析はできなかった。サンプルが少なかったために物性を測定できなかった。今回はたくさん持ち帰ってもらえたのでこういう分析を実現できた。

共同通信七井:液体の水が見つかったことの意義。海の起源に直接関わる証拠かもとのことだが、リュウグウのような小惑星から水がもたらされたという説を強化する成果ということか

中村:その通りです。地球近傍の小惑星で見つかったことが大きい。

七井:塩も宇宙から?

中村:そこはちょっとわからない。地球の塩はとてもたくさんある。ナトリウムは地球にももともとある。結晶内の塩が地球の塩の起源と直接言うことはできない。ただ同じ塩化ナトリウムであることは強調していただければ。

読売新聞笹本:臼井先生に。初期分析6チームとキュレーション2チームがある。このように成果が発表されるのは今回で4チームめ。論文としては何本目か。またサンプルの状況については

臼井:4チーム目の報告であるが論文は細かいところで生産されており4本目ではない。
今はほぼすべてのサンプルが初期分析チームから戻ってきて、われわれキュレーションチームが小分けの番号をつけて採番しアップデートしている。

橘:初期分析チームは20本以上の論文を投稿している。中村さんのチームも今回の論文からさらに詳細な論文を5本投稿済み。

臼井:中村先生の論文からさらに論文が出てくると思う。

産経新聞伊藤:リリースの図5で使っている画像。白矢印や黄色の線がない画像を提供してほしい

中村:わかりました。

橘:今後について。
前回初期分析チームはリュウグウがどういう材料でできていたのか、どういうプロセスでできたのかを明らかにした。
今回の論文ではリュウグウがどう進化して今の姿ができたか、どういう場所だったかや当時の太陽系の様子を明らかにした。
リモセンで見てきたものとの違いや有機物の役割についてはこれから論文が出てくるだろう。

臼井:初期分析チームは1年間の活動を終えて論文を書いている。今後は初期分析のデータつきのサンプルが今後世界中の研究者に行き渡る公募と続く。
世界中で成果が出てくると思う。お楽しみください。

(以上)