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FDM方式の3Dプリンタで出力するキーキャップの軸の設計

これは「キーボード アドベントカレンダー2023(#2)」の16日目の記事です。12月1日から25日まで、持ち回りでキーボードについて記事を書いています。

自分でモデリングしたキーキャップの出力は、DMM.makeの3Dプリントサービスなど外部の業者に依頼するか、光造形(SLA)方式の3Dプリンタを使うのが一般的でしょう。個人向けの安価な3DプリンタにはFDM(熱溶解積層)方式の機種も多くありますが細かな造形が苦手なので、既存のキーキャップの軸をそのままモデリングしても軸の部分をうまく出力できません。

Cherry MXタイプのキーキャップの一般的な軸

Cherry MXキーキャップの各種寸法

Developer Page - CherryMX
光造形(SLA)方式の3Dプリンタの例

SLA方式は光で硬化するレジンを材料にして造形します。

FDM方式の3Dプリンタの例

FDM方式はプラスチックを熱で溶かして造形します。

FDM方式の3Dプリンタは、素材となるひも状のプラスチック(フィラメント)を熱で溶かして細く軟らかくし、3次元の形状を一筆書きで描きながら積み上げていきます。熱で細くなったフィラメントの太さはノズルの直径で決まり、一般的には0.4ミリです。一方キーキャップの軸は、太さ5.5ミリの円柱の中心に十字の穴が空いています。これは0.4ミリ幅のフィラメントで描くのが難しい細かさです。出力しても正しい形状にならず、キースイッチにうまく装着できません。

そこで形状を工夫し、比較的精度が低いFDM方式の3Dプリンタで出力してもキースイッチに装着できるキーキャップの軸を考案しました。こんな感じです。

CAD画面での外観
FDM方式の3Dプリンタで出力したもの
キースイッチに装着したところ

コの字を向かい合わせにしたような軸なので名付けて「[ ]軸」としたいのですが、これでは名前があっても読めないので「FDM軸」にします。軸部分の寸法は以下の通りです。

FDM軸の寸法

キースイッチの軸に接する部分の寸法は、お使いの3Dプリンタやフィラメントに合わせて調整が必要になるかもしれません。

キースイッチの中には、軸の周囲にカバーがついているものがあります。これだとFDM軸のキーキャップは装着できないかもと思いましたが、手持ちのKailh Box Royal(リンク先は遊舎工房)では装着できました。

Kailh Box Royalの外観(遊舎工房のショップページから引用)

https://shop.yushakobo.jp/products/kailh-box-royal

一方、Durock Splash Brothers(リンク先は遊舎工房)のように軸の周囲がタイトなキースイッチにはおそらく装着できないでしょう。その点はご了承ください。

Durock Splash Brothersの外観(遊舎工房のショップページから引用)

https://shop.yushakobo.jp/products/5364

モデリングするのが面倒な方のために、STLデータとFusion360用のf3dデータを無償で公開しています。試してみてください。

上のデータはキーの高さを3.9ミリとごく低くしています。3Dプリンタでの出力時間を短くし、キースイッチとのはめ合いをすぐに確認できるようにするためです。

f3dデータではキーの高さをパラメトリックに変更できます。

Fusion360で「FDM_axis.f3d」を開きます。履歴の2番目、「オフセット平面」のアイコンを右クリックして「フィーチャ編集」を選択します。
②「フィーチャ編集」の「距離」にキーの高さをミリメートル単位で入力します。たとえば「9」を入力して「OK」ボタンをクリックします。
③キーの高さが9ミリになりました。
軸の長さや面取りの位置は、キーの高さに合わせて自動的に変化します。

それからこのデータはキートップ部分が完全に平らです。少しへこませたデータも作ってみましたが、FDM方式の3Dプリンタは1層が0.1~0.2ミリ程度あるため、微妙な曲面をきれいに出力できませんでした。

3Dプリントもモデリングも面倒な方のために、我が家の3Dプリンタで出力したキーキャップを販売します…といきたかったのですが、3Dプリンタは調整が必要で無理でした。すみません。

最後に、キー部天キーでFDM軸の話をしたところ、「この知見はぜひ公開するべきですよ!」と提案してくださった@takashicompanyさんに感謝します。

この記事はエレコムTK-FBP044BKで書きました。自作キーボード界隈は長年追っていますが、自分が常用する自作キーボードはいつ完成するのでしょうか。

明日の記事はあるこさんの「2023年自作キーボード振り返り」です。自作キーボードはカスタマイズのパラメータが多すぎて、簡単に沼になるのがいいですよね!

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