オープンソースの画像生成AIをセットアップから使い方まで解説する『Stable Diffusion AI画像生成ガイドブック』(ソシム刊)発売中(→本のサポートページ

⽊星氷衛星探査計画(JUICE)に関する記者説明会

日時

  • 2023年4月6日(木)14:00~

登壇者

  • JUICE 所内プロジェクトチーム チーム⻑ 齋藤義⽂(さいとう・よしふみ)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授)
  • JUICE 所内プロジェクトチーム ガニメデレーザー⾼度計(GALA)担当 塩谷圭吾(えんや・けいご)(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授)
  • JUICE 所内プロジェクトチーム プロジェクトサイエンティスト 関根康⼈(せきね・やすひと)(東京⼯業⼤学 地球⽣命研究所所⻑・教授)
  • JAXA 宇宙科学研究所 宇宙科学広報・普及主幹付 主任 恩⽥千尋(おんだ・ちひろ

中継録画

木星氷衛星探査計画(JUICE)に関する記者説明会 - YouTube

配付資料


(齋藤氏より)

本日の内容


ジュース(JUICE: Jupiter Icy Moons Explorer


目次


1.JUICEミッションの概要


1.1 JUICEとは


1.2 JUICEの目的地:木星ガリレオ衛星


1.3 木星の氷衛星ガニメデまでの道のり


1.4 JUICE衛星概要


1.5 JUICE衛星搭載観測機器


2.JUICEミッションが目指すサイエンス

(関根氏より)


2.1 惑星はいかにしてつくられたのか?


2.2 地球の外に水の海はあるのか?


2.3 太陽系で起きている環境の変動にはどのようなものがあるのか?

(斎藤氏より)


2.4 日本が参加する観測装置の果たす役割


3.JUICE搭載 ガニメデレーザー高度計GALA

(塩谷氏より)


JUICE搭載 ガニメデレーザー高度計GALA


距離測定の原理


GALAの科学ターゲット(1/2)氷でできた表面地形


GALAの科学ターゲット(2/2)潮汐を利用したガニメデ内部海の研究


国際協力によるGALA開発


まとめ(要点)


参考文献等


参考:GALAフライトモデルの写真


JUICEの打ち上げ


質疑応答

NHK絹田:日本として初の小惑星帯を超えて木星系への探査となるのが魅力だとあった。今回のJUICEプロジェクトに参加するにあたって、魅力と意気込みを

齋藤:日本だけではいけないところへ観測装置を届けることができる。ガニメデの地下に海があるかもしれない、そういうところへ自分の観測機器を送ることができる。それが魅力。ガニメデの周回軌道へ着くのが10年以上。そこまでがんばっていきたい。

時事通信神田:到着まで時間がかかるが、それまでにできるサイエンスはあるのか

齋藤:これから決めるところもあるが、たとえば水星へ向かっているベピ・コロンボは途中では観測しないと言っていたが今は観測している。
JUICEはフライバイの機会がある。月、金星、地球を2回。その際に観測するのではないか。プラズマ波動の観測装置、磁力計などは予定にある。

神田:GALAは周回軌道に入ってから観測?

齋藤:それが主になる。月周回時に観測できないか検討している。

共同通信井口いのくち:(1)木星がどんなスピードで、どのあたりでできたことが分かると、太陽系以外にも地球のようにハビタブルな惑星がある可能性が高いことが分かるのでしょうか。(2)衛星の地下に液体の水があることは高度計で分かるとのことでしたが、有機物や熱いマントルやコアのようなものがあることは外からどんな方法で調べられるのかご説明いただけたらありがたいです

関根:(1)木星が早くできて、遠くでできて今の場所へ移動してきたとわかると、移動の際に微惑星がかきまぜられる。ハビタブルゾーンにも有機物や水などが運ばれる。そういったものが供給されたことになる。ほかの惑星系でもそういうことがあるかもしれないとなる。
(2)重力の測定でわかる。衛星の軌道から割り出す。内部のコアやマントルは衛星のふらつきから推定。内部は直接わからないが、エンケラドスは海水が噴水のように噴き出していた。エウロパでも同じような現象があればその中に有機物があるか観測できる。

JSTサイエンスポータル草下:先ほど「あらせ」や「みお」の名前が出てきた。「ひさき」(SPRINT-A)も木星の磁気圏へのアプローチがあった。関連はあるのか

齋藤:「ひさき」はイオから放出されるプラズマトーラスを観測した。今回イオには行かないが、プラズマは木星圏の広い領域に広がっている。それを直接観測しに行く。

読売新聞笹本:打ち上げ可能期間について

齋藤:打ち上げウィンドウは4/5~4/30。ノミナルは13日打ち上げ。1日くらい遅れるかもしれない、天候次第。30日までは打ち上げ可能。次は8月から9月にバックアップウィンドウがある。

笹本:有機物が内部にあるとすると外側から検出はできないというが、地球外生命を観測する機器はあるのか

関根:直接つかまえて顕微鏡で見るような装置はない。生命が存在するなら代謝の活動や自分の分子といったバイオマーカーの検出はいくつかの観測機器で可能。
SWIで観測可能な分子のうち、こういう化学反応でこういう物質を生み出しているのではという仮説を検証する観測を行う。

笹本:エンケラドスのように噴出していないと観測できない?

関根:過去の噴出物が地表に落ちていて、リモートセンシングでわかることがあるかもしれない。

笹本:(書き取り間に合わず)

関根:遠くで早くできるもの、近くでゆっくりできるかはわからない。それによって内部の温まり方が違う。短時間でできると周辺の衛星も暖かい状態から始まる。長期間だと最初は冷えていて少しずつ温まる。
表面物質と内部情報から木星がいつできたかわかるということ。

笹本:木星移動の時期はどうやってわかる?

関根:それは大事な質問。動いたタイミングがいつかはなかなか直接調べるのは難しい。
衛星の表面には古い地殻と新しい地殻がある。場所ごとのクレーターの頻度から時期のスナップショットがわかる。それをつなぎ合わせて推測していく。断片的な証拠をつないでいく。

日本経済新聞小玉:草下さんの質問に関連する。木星の周辺環境、プラズマがどう変化しているかの観測についてもう少し詳しく

齋藤:プラズマで天体の周辺がどうなっているか、どう変化するかを観測。地球や水星とは周囲の条件が異なる。
周囲の太陽風の条件、木星磁気圏の条件などのパラメータがある。違う条件のもとで磁気惑星の様子を調べることで理解が深まる。
いろいろなパラメータ下の状況を調べるのが大事。ガニメデのこともわかるしほかの天体の理解も進む。

小玉:ガニメデの状況が特殊だということ?

齋藤:ガニメデは吹き付けているプラズマが遅い。ほかの天体でどうなっているかの推測にも役立つ。

関根:プラズマは生命体の誕生にも大事。生命体は体の中で化学反応を行っている。酸素に対応する物質は衛星のブラズマで生まれる。氷を叩くと酸素や類似したものができる。プラズマの強さで生命が居住できるかが決まる。

日本経済新聞川原:JUICEにはやぶさはやぶさ2のノウハウがどう生きているか。GALAのレーザー高度計にははやぶさ2の技術は生きていたりするか

塩谷:レーザー高度計の開発メンバーはある程度かぶっている。ただ、この技術がといった特殊なものはない。
はやぶさ2と「かぐや」に搭載されたレーザー高度計は日本で作っていて、その知見を生かしている。

産経新聞松田:探査機の重さと幅について

齋藤:資料p9の「ドライ質量」には観測機器も含まれている。
いちばん長いところの全長は…太陽電池の幅が片方だけで10メートルあるので20メートル+衛星本体の幅。

松田:観測の最後にガニメデに落下させることについて

齋藤:衝突の噴出物を観測することを考えている。衝突させるのは燃料がなくなったときと思う。ギリギリまで運用を行う。

松田:観測終了間際に高度が下がってくることでわかることはあるのか

関根:今まで見えなかった表面地形が見えることが期待される。氷の噴出場所などがわかるかもしれない。近づくほど内部や進化に迫ることができる。

フリーランス大塚:レーザー高度計について。氷相手だと、「かぐや」やはやぶさ2の岩石に対するものと違うことはあるのか

塩谷:氷ならではというよりはJUICEならではのことでいえば要求精度が高い。高度が高いから。大きさや重さの要求が厳しかった。

大塚:内部を推測するのに精度が必要?

塩谷:その通り。太陽から遠く電力の制約も厳しい。強いレーザーを打てないので受信光学系でフィルターを工夫し精度を上げている。好感度の検出器も搭載。

大塚:表面の変異から内部海がわかればとのことだが、内部海があると確実にわかっている星はあるのか

関根:可能性があるのは10くらい。ガニメデも入っている。確実に液体の水が地下にあるという証拠があるのは4つほど。
ガニメデは十中八九あると思われているが詳しい状況はわからない。

大塚:GALAが変動を見つけても「世界初の直接的な証拠」とはいえない?

関根:ガニメデに対しては初といえる。エンケラドスは内部海があることがかなり確実と言われているので、今回内部海を見つけても地球外の海を初めて見つけたとはいえないだろう。

ライター林:資料p16。エネルギーについて、海底に熱水噴出孔があると今回の観測でわかるのか

関根:噴出物があれば海の中にあるだろうから観測できる。硫化水素シリカの濃度、PEPという観測機器が衛星表面のイオンを観測する。イオンの存在する比率、化学的な情報からそれを引き起こす条件を制約できるため熱水噴出孔の有無はかなりの確度でわかるだろう。

林:先ほどの4つの天体とは

関根:土星系のエンケラドス、タイタン。冥王星、それから木星の衛星のエウロパ。いろいろな証拠から判断して海があるのはほぼ間違いないとされている。
地下の海を直接見ることはできないので化学組成などの観測などから推定する。
ガニメデは証拠がまだ少ない。今回GALAの観測、塩などの観測でわかるかもしれない。証拠が積み重ねられて海がないと説明できないという状況ではない。

林:エンケラドスの探査と今回のJUICE探査の違いでの注目点は
また地上の実験室で天体の内部の海を再現したりしていると思うが、JUICEのために再現実験したりしているのか

関根:どちらも総合探査。10ほどの観測機器を搭載。
カッシーニとJUICEの違いは今回SWIの観測機器があること。化学的に一歩ハードルを超えた観測ができる。同位体を観測できる。微量だが生命につながるかもしれない物質を観測できる。SWIの観測はバイオマーカーに迫ることができる。
自分の研究だと木星系の衛星は海がずっと深く圧力も高い。地球より桁が違う。超高圧での水の岩石反応を調べたりしている。今回基礎データを作れるだろう。到着までの10年で進めなければならない。

林:エウロパの観測で初めてわかると期待されていることは?

関根:エウロパもエンケラドスのようにプルームとして内部物質が噴出しているらしいことが観測で示唆されている。それを調べる。エウロパのバイオマーカーを調べられるのが飛躍。

草下:JUICEは探査機名ではなく計画名? 探査機の名前は?

齋藤:探査機の名前がJUICE。

広報岸:記者説明会の案内でも以下のように表記している。
欧州宇宙機関ESA)が主導する木星氷衛星探査計画(JUICE)の探査機(以下、「JUICE 探査機」という)がアリアン5 型ロケットに搭載され打ち上げられます。」

齋藤:「探査機JUICE」という表記でかまいません。