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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(リュウグウの観測と光学航法、衛星探索)

小惑星探査機「はやぶさ2」は、現在小惑星Ryugu(リュウグウ)に向けて順調に航行を続けています。「はやぶさ2」は、6月3日にイオンエンジンの連続運転を終了し、光学航法を用いてリュウグウへ近づいていく段階にはいりました。 今回の説明会では「はやぶさ2」の現在の状況、光学航法の詳細、リュウグウ画像が撮像できている場合はその説明を行います。

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(18/06/14) | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年6月14日(木)11:00~12:00

登壇者

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(image credit:JAXA

(左から神山氏、久保田氏、吉川氏)

中継録画

(00:08くらいから)

配付資料とリンク

久保田スポークスパーソンからの挨拶


はやぶさ2の状況を随時皆さんに説明する。初代はやぶさではタッチダウン時の航法運用を担当した。はやぶさ2では同じ「こうほう」でも広報を担当する。

はやぶさ2リュウグウに向かって順調に飛行中。今日は接近方法や観測データを紹介する。まさしくワクワクドキドキする場面。今後もよろしくお願いします。

本日の内容

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  • リュウグウの観測
  • 工学電波複合航法(光学航法)の詳しい話
  • 衛星探索
  • スケジュール

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.リュウグウの観測

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背景の星を撮影し露出時間が長いためリュウグウが明るい

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リュウグウのサイズが10ピクセルくらいに(約920キロから撮影)

正確な形や表面の状況はまだわからないが形状や大きさはおおむね想像通り

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ONC-W1(広角光学航法カメラ)はONC-Tで撮影できなかったときのためのバックアップ的な位置づけ

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TIRでライトカーブを取得、明るさの変化の周期は地上観測による予想の自転周期と同じ7.6時間

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LIDAR(レーザ高度計)とNIRS3(近赤外線分光計)を電源投入

3.光学電波複合航法(光学航法)

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遠くの小さな天体に到着するための技術

地球の表面に沿って日本からブラジルへ行き、6センチの的に到着する必要がある

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(今村註:この図ははやぶさ2のトップページにある図と同じ座標系ですね※下の図は距離の数字を加工しました)

http://www.hayabusa2.jaxa.jp/

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地上観測チーム:ソウル大学日本スペースガード協会京都大学JAXA

航法チーム、誘導チーム、運用チーム

軌道制御(TCM)は10回行うことを予定している

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「OPNAV実施前」(オレンジ)はリュウグウの想定される位置

「OPNAV実施後」(緑)は実際の位置

右上は5月13日の観測を拡大したもの(想定位置の精度が上がっていることがわかる)

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10回の軌道制御(TCM)で相対速度を0にする

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4.衛星探索

(ここから神山氏が解説)

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リュウグウが持つ重力からHill半径(衛星が存在可能な範囲)を推定できる:リュウグウのHill半径は約90キロ

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リュウグウ周囲の輝点は恒星

50センチより小さい衛星は軌道半径50キロ以内にのみ存在する

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4回撮像すると恒星は動かないが衛星があれば動いてわかる、画像解析も用いた

5.ミッションスケジュール

(吉川氏に交代)

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6.今後の予定

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別紙

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参考資料

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(↑このライトカーブのページが新設)

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質疑応答

(29:59くらいから)

時事通信かんだ:ONC-Tの画像の評価について。地上観測と矛盾しないとのことだがこの段階で「球形とみられる」といえるか

吉川:ONC-Tの画像が現在一番詳細な画像なのでここから判断するしかない。時間をおいて撮影した画像も何枚か見ているが基本的にこの形と変わらない。自転軸の向きもわからないので確定的なことはいえないが、少なくとも極端に細長い可能性はほぼ排除できたと考えている。ただこの写真でも少し角張って見えなくもない。球形といえるかどうかはもう少し近づいてから。

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かんだ:自転軸についてわかることは

吉川:現時点では地上からの観測で得られた自転軸の情報より精度の高いデータは得られていない。今後詳しい写真が出てからになる。

かんだ:角張っている可能性は?

吉川:現時点の写真を見ると角があるようにも見える。今のところなんともいえないという状況。

NHKすずき:吉川さんに。リュウグウの姿がだんだん明らかになっていくことに対してどんな期待があるのか。昨日ははやぶさ帰還から8周年でTwitterなどで応援メッセージがあったこともふまえて、今後どのようにしていきたいか

吉川:昨日ははやぶさの地球帰還から8周年だった。その同じ日にリュウグウまでの距離が1,000キロを切った。感慨深い。現在はこの程度の写真だが来週には撮影画像の解像度がさらに上がってくるので非常に楽しみ。サイエンスのチームがエキサイトしてきている。この写真を見てへこみがあるのではないか、出っばりがあるのではないかなど議論をしており期待が高まってきている。

日刊工業新聞とみい:吉川さんへ。今日新しい情報や知見はどれか

吉川:写真の解像度が上がってきた。また科学観測機器が動き出した。TIRでライトカーブを取れた。

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とみい:ライトカーブによって自転周期は予想通りと確認したということか

吉川:実はTIRだけでなくONC-Tでも観測しライトカーブを取得。地上観測での自転周期に合致することを確認した。

とみい:TCMは具体的になにをするのか

吉川:こういう軌道↓をとって近づいていく計画。この計画通りに近づいているか確認し、ずれていたら3軸方向にスラスターを噴いて修正。

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とみい:神山さんに。何センチ以上のものを衛星と呼ぶのか。はやぶさ2の運用に支障がない大きさというものはあるのか

神山:小さな衛星が安定的にリュウグウを回る軌道にいられるか下限値を計算できる。リュウグウの衛星は10センチ以下だと太陽光圧によって軌道から外れていく。10センチ以上の衛星を見つける観測を続ける必要がある。現在は50センチ以上の衛星はないと確認している。

吉川:衛星の定義はとくにない。リュウグウの周囲を回っていれば小さくても衛星。ぶつかってくると数センチでも脅威であり心配。

産経新聞くさか:神山さんに。衛星がないとみられる根拠は

神山:小惑星の大きさと自転周期が衛星を持てるかのパラメータになる(リュウグウは直径約900メートル、自転周期7.6時間)。リュウグウには衛星がないだろうというのが理論的な予想。自転周期が早い、たとえば5時間や2時間の小惑星では衛星を持つことがあり実際に観測されている。リュウグウは過去の観測で見つけられている、衛星を伴う小惑星のスペックから外れる。リュウグウのスペックでは安定的に衛星を持つことはないだろう。

くさか:衛星がありそうな危ない小惑星には行かないということか

吉川:衛星の有無はあまり気にしていなくて(行ってみないとわからないし)、リュウグウは探査機が往復できる軌道にあるC型小惑星ということで選んだ。

くさか:10センチ以上の衛星がないと結論できるのはいつ?

神山:難しい質問。距離が半分になると半分の大きさの衛星を見つけられる。2,100キロの距離から50センチの衛星を探した。400キロくらいの時点で10センチの衛星を見つけられる。ホームポジションは20キロ。(10センチ以下の衛星はリュウグウに安定的に存在できないので)そこまでで衛星がないことは結論できる。段階的に安全を確かめていく。

月刊星ナビなかの:望遠カメラの画像の波長は短波長のモノクロ?

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吉川:フィルタを使っているが解析中。公開しているのは一つの波長。

神山:色フィルタは7つ持っている。Wideを含めるとONC-Tはさまざまな波長の光を一度に取り込める8つのフィルタを持っている。それぞれのバンドで観測していて色合成すればリュウグウの色がわかるところまできている。カラー画像は解析中。

なかの:カラー画像はいつ公開される?

吉川:正確には決めていないが数日に1回、軌道制御のたびに写真を公開していく。(今村註:カラー画像がいつ出るかは答えていないですね)

フリーランス村沢:DDORについて。クエーサーを使っている?

吉川:地上の2つのアンテナで同時に電波を受ける。探査機を見たりクエーサーを見たりスイッチングをし、大気や電離層による遅延誤差を補正している。

村沢:23日に取材できるのは新管制室?

吉川:その通り。

赤旗しんぶんなかむら:神山先生の肩書きに「人工知能研究センター」とある。先ほど「目を皿のようにして衛星を探した」とのことだったがAIを使った?

神山:AIは使っていない。衛星探しは教師データがあって真価を発揮するタイプの課題。あるかないかわからないところから見つけるのは人間の方が得意という判断。画像処理を組み合わせて探索した。

衛星ならこのくらいで輝くだろうというモデルも画像に入れてみて、近いものがないか判断。検出限界近くになると慣れないと難しいがだんだん見分けられるようになってきた。

なかむら:衛星の速度について。たとえばHill半径ではどのくらいになるもの?

神山:速度そのものは速くなく秒速数センチくらいだろう。はやぶさ2との相対速度や当たる場所によっては危険になる。衛星の大きさがわからないまま進むよりは事前に把握しておきたい。

なかむら:21ページの写真は10日だと中心にリュウグウが出ている。位置推定の精度が上がっている?

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吉川:位置の推定精度は現在解析中であり正確な数字はこれからだが、5月でリュウグウの位置推定精度は130キロだったのがいま数十キロ程度。接近していけばもっと小さくなっていく。

ライターあらふね:光学航法の作業について。4つの地上観測チーム(ソウル大学日本スペースガード協会京都大学JAXA)は別々に画像を見ている?

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吉川:その通り。誤差を減らすため。

共同通信すえ:吉川先生に。着陸に必要な表面情報は20キロ到着までにわかる?

吉川:着陸地点の判断は到着後。

すえ:角張っていると着陸が難しいなどあるのか

吉川:形よりも表面がでこぼこかどうかがカギ。

大きさは予想より大きく違わない。推定直径900メートルに対して1キロなのか800メートルなのかがわかる精度はまだない。

毎日新聞永山:TCMについて。10回目のTCMはリュウグウとの相対速度をゼロにするブレーキ?

吉川:その通り。

永山:現段階でここまで具体的なスケジュールを決められる理由は

吉川:この座標系でカーブをしているのは軌道運動があるから。津田プロマネを中心とする軌道計画グループが計画を決めている。

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久保田:21ページ参照。リュウグウに着いたとき真ん中にリュウグウが写るのがよい。ずれたらスラスタをふかして修正するがその間隔を広めにとるとリュウグウを横から見た様子がわかる。するとリュウグウまでの距離を正確に知ることができ、いつTCMをしたらよいかを決められる。これははやぶさの運用の成果を生かしている。

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永山:はやぶさのときはTCMの計画をここまで詳しく決められなかった?

久保田:はやぶさでは画像を撮って画角から外れてきたら噴くというのをやっていた。今は距離がわかっているのでこの詳しさ。到着が27日前後といえるのも精度が上がったことによる。

永山:形がちゃんとわかってくるのはどのくらいの大きさで撮れるとき?

吉川:100ピクセルくらいになればかなり形がわかってくるだろう。

日本テレビいだ:吉川先生に。久保田さんがワクワクドキドキすると話していたがリュウグウの姿を見ての現在の感想を

吉川:今のところ当初の想定からずれてはいないがイトカワのときは着いてみたら想定と全然違っていた。運用上は予想外でないほうがよいがサイエンス的には驚きがある小惑星がよい。どうなることやら、もうすぐ判明する。どう見えてくるのか非常に楽しみ。

いだ:見たときの感動などはあったか

吉川:小惑星がちゃんと写ったのは感動、ほっとした。まだこの見え方なのでそれ以上はなんともいえない。

いだ:若干角張っているかもということしかいえない?

吉川:そのくらいです。写真からそうも見えるというだけ。まだわからない。

久保田:専門家も皆さんと同じような印象を持っている。皆さんもいろいろ想像してみてほしい。完全な球ではなさそうだというのは皆さん思っていることだろう。だんだん詳しい画像が出てくるので皆さんと一緒に楽しみたい。

ライター喜多:アプローチの方法。「リュウグウを真ん中にとらえるように運用」とのことだが8ページの13日の写真でリュウグウが少しずれているのは意図している?

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久保田:残っている誤差によるもので、ずれているとき撮った。頻繁に真ん中に入れようとすると燃料を使う。ずれると距離情報をつかめる。わざとやっているというより誤差のずれを見てよりよい情報を取ろうという作戦でやっている。

喜多:誤差の範囲も含めてコントロールできているという自信のあらわれ?

久保田:そう理解していただければ。

(以上)