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超小型探査機OMOTENASHIの運用状況に関する記者説明会(11/18)

超小型探査機OMOTENASHIは、現状、太陽捕捉が完了せず、通信が安定しないため、姿勢の安定、電力の確保、通信の確立の為の運用を継続して行っております。
OMOTENASHI の運用状況についての記者説明会を開催しますのでお知らせします。

日時

  • 2022年11月18日15時~

登壇者

リンク

中継録画

超小型探査機OMOTENASHIの運用状況に関する記者説明会 - YouTube

(0分25秒に開始)

参考:OMOTENASHIチームのツイート



1.探査機の構成図

(橋本氏より)

11×24×37cmの大きさ

2.第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス(計画)


3.第1可視(DSNマドリード局)の実際の状況


第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス


4.第2可視以降の対応


5.今後の予定

ベストエフォートで着陸を目指す。DV1ができなくてもDV2で減速して月着陸は可能。当初のシナリオとはだいぶ違うが軌道設計を始めている。なんとかして月着陸を実施したい。

参考


(参考)実績との待避(ゴールドストーン以降は運用日誌より抜粋)


ミッションシーケンス


OMOTENASHIのミッション


質疑応答

NHK絹田:現在の月着陸の成功確率はどの程度で、それがいつごろになるのか。またロケットからの分離時刻は

橋本:成功確率を出すのは難しい。ノミナルでは60パーセントとしていたが、現在のようなオフノミナルな状況では申し上げられない。
着陸予定時刻は大きく変わらない。
分離時刻はNASAから公式には提供されておらず正確なことはわからない。予定時刻は19時31分(日本時間)でした。

絹田:確率は表現としてどういうものなのか。極めて厳しいのか、そうでもないのか。

橋本:客観的には厳しいが、極めて厳しいかは主観が入る。なので厳しいというところかもしれないが、我々は絶対できると信じて運用している。

時事通信神田:今後の見通しについて。ちょっとずつでも充電されることを意図していると思うが、充電の値は上がってきているのか。
またガスジェットは使わずリアクションホイール(RW)で姿勢を戻そうとしているのか。
太陽捕捉のタイムリミットは

橋本:充電は第1可視以降電波を受信できていないためわからない。こうやれば充電効率がよいだろうということをやっている。
姿勢制御は最終的にスピンを落とさなければならずガスジェットが必要。ただ充電が少ない状態で使うとまた電源が落ちてしまう。RWで太陽方向に回るようになればガスジェットで回転を止めたい。
DV2(月面着陸予定時刻)の数時間前までに回復していないと着陸できない。

神田:送信機をときどきオンにしているわけではない?

橋本:節電のために送信機をオフにしている。それを続けていると電波が出ていないため受からないのか、充電が少ないためオフなのかわからない。送信機をオンにするコマンドをたまに送っているが今のところ電波が受かっていない。

神田:今のところデータで追えることはあるのか

橋本:データレコーダから記録をダウンロードする前に可視が終わってしまったため、それまでのデータは取得できていない。
少ないデータから逆算するとロケットからのわずかに大きな分離外乱量があったらしい。
なぜこのように大きなスピン量になっているかは不明。

共同通信須江:回転量の想定上限は。またなぜ回転量が大きいのか現在の想定は

橋本:分離時の外乱はNASAとのやりとりでは最大10度/秒であると想定されていた。しかし現在は80度/秒程度で回転している。
ガスジェットの噴射秒数は10度/秒だったときに回転を落とす長さが記録されている。
現在は復旧に全力を注いでいるため原因究明はあまりしていない。

須江:80度/秒は

橋本:見えていたときのデータしかないのでなんともいえない。可視中も少し変わっているようではあったが回転速度はおおむね変わらないのでは。

NewsPicks中居:このまま回復しない状態になったらOMOTENASHIはどうなるのか

橋本:宇宙空間の物体は回転していると角運動量の保存法則で回転軸が変わらずそのままになる。現在太陽の反対側を向いて回転している。数か月後には太陽の方を向くようになる。そのときに充電できて復帰オペレーションができる。
最後に送ったコマンドが効いていて、着陸に間に合うことを期待している。

中居:22日までの着陸ができなくても数か月後には月着陸に挑戦できる?

橋本:惑星間空間に出てしまうので、数か月後だと月着陸はできない。その場合でもいろいろな試験や観測をしたいという希望はある。
先のことについては関係各所との調整が必要。現在は月着陸を目指す。

毎日新聞永山:回転を減らそうとしているコマンドとは具体的にどういうものか。現在OMOTENASHIは月に向かっているのは変わらないのか

橋本:ロケットが宇宙船を分離したあとスペースデブリにならないよう、ロケットの上段は邪魔にならない惑星間空間へ行く。そこから分離されているのでOMOTENASHIも惑星間空間、太陽を周回する軌道に入る。月着陸のためにはDV1が必要。
「OMOTENASHIの軌道(模式図)」を参照。

なにもしないと月を離れていく。DV1で月衝突軌道に投入(ガスジェットで)。次のDV2で減速(固体ロケットで)。
いま送っているコマンドは、まず探査機の充電状態がどうなっているのか、充電することが大事なので姿勢を変えようとはしていない。姿勢制御しようとしたのはマドリード局である程度充電があったため。ガスジェットをスピン軸と垂直に噴いて回転を落とそうとした。
電源が入ったときになるべく充電を効率的に進めるというコマンドと、■を送っている。

読売新聞笹本:太陽電池が片面にしかなく復旧が難しいことなどは小型化の難しさなのか。

橋本:まったくその通りで、超小型で実現するということで通常の衛星とはずいぶん違う技術を使っている。それであっても想定した範囲であればできると信じている。
固体モーターを噴射するところや分離するところには太陽電池は貼れないが、それ以外には貼ろうと考えたが、真ん中に固体ロケットが入ることもあって太陽電池1枚を入れるすき間もなかった。
小型なのでRWは小さい。初期の外乱はガスジェットでおさめると考えていた。

笹本:DV1は燃料削減のために噴射量を減らすと言っていた。燃料の量に問題はないのか

橋本:姿勢制御のためのガスジェットはDV1よりだいぶ少ない。月に近づくほど制御量が増えるため燃料が足りなくてDV1はできなくなってくる。あさってくらいまではまだ大丈夫。ただそれを過ぎるとDV2一発だけ

DV1のリミットタイムは明日の午前1時までと聞いていた。それは変わらないか

その時刻の設定は精密な軌道制御のための時間を確保したかったから。軌道制御の精度が下がってもよいならもう少し猶予がある。

20日午前4時ごろまではできる

大塚:DV1が間に合わずDV2のみの場合、もともとは月へ衝突する直前に固体ロケットを噴射するという計画だったが

橋本:重力を打ち消す方向は(固体ロケットしか使えないため)難しい。ある程度

大塚:ななめになった状態で月へ落ちる?

橋本:その通り。当初は速度を落として自由落下と考えていた。

大塚:エアバッグをふくらませることは今からでも可能か

橋本:それはできない。衝撃吸収は
エアバッグではないがふくらんでいるためある程度の衝撃吸収は可能。月の砂でも衝撃が吸収される可能性がある。

大塚:数か月後に通信が可能になった場合、どのくらい離れても通信可能なのか

橋本:検討中。数百万キロは可能と確認済みだが正確なところは計算しているところ。

NHK水野:DV2で軌道制御をして自由落下だと落下速度はどのくらいになるのか

橋本:計算中。当初予定よりはだいぶ大きな速度になる。

水野:行方不明になっているという表現は正しいのか

橋本:軌道外乱を与えていないためECREUS探査機と同じコースを通っている。位置はわかっている。

水野:週末以降も情報提供をお願いします

広報部岸:適切なタイミングで行います。

共同通信須江:DV2のみの自由落下になった場合、セミハードランディングの範囲におさまるのか。通信できるくらいの衝撃におさまるのか

橋本:まだ精密には計算していない。着地速度が速くなるのでセミハードランディングというよりハードランディングになる。それでも耐えられるようサーフェスプローブは設計されている。月面の状態によって衝撃の大きさはだいぶ異なる。75m/秒以内で衝突する確率を着陸成功確率と呼んで60パーセントとしていた。それより速くても月の表面が岩でなければ耐えられる。

宇宙作家クラブ松浦:分離の時が着陸以外の最もクリティカルな状況と思うが、どこまで考えて設計していたか。裏返っていて80度/秒となることを想定していたか

橋本:想定していなかった。

松浦:分離側の問題があるかもしれないが、一方で配線の間違いで回転を強化する方向に噴射してしまった可能性は

橋本:原因究明は本格的にはやっていない。おっしゃる可能性も考えなければならない。
マドリード局で1回はレートダンプモードが起動した。そのときの履歴からは設計通りに回転が落ちていたためそこは問題がなかったと思っている。設計に問題がなくても宇宙線でビット反転して正確に動かなかった可能性などもある。

松浦:月スイングバイになった場合何日目までに軌道決定しなければならないか

橋本:起動グループに計算してもらっている。誤差要因の確定が難しい。スイングバイ高度は高いのであまり影響はないとは聞いている。いつまでに起動決定しなければいけないかは現在不明。ただすぐに計算できないと見失うというほどではない。

NHK絹田:Y軸方向に80度/秒回転という状況を詳しく知りたい。可視化できないか

橋本:この箱を使って説明します。画面の方が太陽とすると、こういう向きでなければならない。

実際は裏返しになって、太陽電池が向かない軸でぐるぐる回っている。

回転しているうちに少しでも太陽が見える向きになる可能性がある。

絹田:マドリード局からのコマンドでガスジェットを
(送信機のオンオフについて)
着陸の断念をどの段階で、なにを見て判断するのか

橋本:運用の準備時間も必要になる。もともとの運用計画では
点火だけになると簡略化されるが
21日20時開始のマドリードか同日22時開始のゴールドストーンでも間に合うかもしれない。

時事通信神田:過去のガスジェットの噴射履歴を見ると、毎秒10度を補正する噴射量とのことだったがそれ以前はもっと大きかったことも考えられる?

橋本:どうも10度/秒ぶんの減速をしようとしたらしい。その後も80度/秒だった理由は不明。

神田:一度は太陽捕捉モードになっていたということだが…
誤検知でガスジェットが噴きすぎてしまったのかなと考えた。止まるしくみはどうなっているのか

橋本:角運動量を検出するジャイロが入っていて回転数を検出する。角運動量がある範囲内に入ったらガスジェットは停止するアルゴリズム
データを信じるならばガスジェットは10度/秒落とす程度噴いているし、ガスジェットモードは停止して太陽捕捉モードに入ってはいた。誤検知でなければ回転数はおさまっていてRWを使った回転制御モードに入った。
ただマドリード局から見たときは回転が速かった。矛盾の理由を考えている。

共同通信七井:秒間10度といった数字について

橋本:秒間10度は36秒で1回転ということです。

NHK水野:太陽電池パネルを貼るすき間がないというのはどういうことか

橋本:ロケットから分離する装置はNASAに指定されている。幅や高さが決められている。この溝のサイズも厳密に1ミリ単位で決まっている。側面にも貼りたかったし裏にも貼りたかったが、装置を詰めていくと貼れなかった。接着で貼ると外せない、ねじ止めするとまた問題がある、で今以上には貼れなかった。

NewsPicks中居:今後の広報の予定について。月への着陸を決めるかどうかは21日から22日とのことだが、そのタイミングで知らせていただけるのか

広報部岸:状況に応じて速報メールの送信などでお知らせします。

産経新聞有年:EQUULEUSと同じようにOMOTENASHIも正確な方向を飛んでいるとなぜわかるのか知りたい

橋本:ロケットから分離された軌道があって、分離された探査機は軌道制御しないと同じコースを飛び続ける。EQUULEUSは軌道制御したので違う方向へ飛んでいる

有年:マドリード局の可視で得られた情報の通りに今も飛んでいる?

橋本:得られた情報が途切れがちだったため正確には不明。当初予定の通りに進んでいる想定にしている。

毎日新聞永山:最初にOMOTENASHIが太陽電池パネルが裏返っていてスピン状態であると知ったときは

橋本:姿勢制御が専門でとても厳しいとはわかった。バッテリーの残り時間も考えてベストなことを考えてマドリード局の可視では行った。そのあともベストを尽くそうとしている。

毎日新聞永山:はやぶさのことを思い出したが過去の経験と比べてどうか

橋本:はやぶさも担当していた。はやぶさは回転方向が不明なまま受信できなくなった。回転方向を仮定しつつ1年以内には受信できると計算した。今回は回転軸がわかっている一方、はやぶさと違って気長に待つことはできない。ずいぶん違う状況。

ライター林:現在故障している機器はないと思われるというツイートがあった。それはどうしてわかるのか。充電できない、回転が大きいときの機器への影響は

橋本:原因がわからない以上なんともいえない。マドリード局での可視の範囲では想定通りに動いていた。レートダンプ制御もきちんと動いていた。
ここが壊れているというものは発見されなかった。
長時間発電できない場合の影響は若干あると思うが、探査機の正確な状況がわからないため評価できない。
基本的に太陽電池が太陽面を向くことを想定して作っていた。全方面から太陽の光が当たってもいいのだが、その時間は1時間程度。何日も裏側に太陽光が当たり続けた場合の影響はよくわからない。それで影響がある機器があるかも。

毎日新聞垂水:SLS分離時のトラブルの影響も考えられると思いますが、EQUULEUSのデータから何か影響が出ていることはありますでしょうか

橋本:分離時の外乱をEQUULEUSのチームに聞いた。それは言われていた通りの10度/秒と聞いている。想定の最大程度だが想定の範囲内だった。

広報部岸:最後に橋本先生からひとこと

橋本:想定外の状況になってしまい皆さんからたくさんのご支援の声をいただきありがとうございます。チームとしてはまず月着陸できるよう万全の準備をしていきたい。今後ともよろしくお願いいたします。

(以上)

次回の記事
超小型探査機OMOTENASHIの運用状況に関する記者説明会(11/22)