日時
- 2022年11月22日15時~
登壇者
リンク
- OMOTENASHI(公式サイト)
- JAXA | 超小型探査機OMOTENASHIの今後の運用と対策チーム設置について(プレスリリース)
中継録画
- 超小型探査機OMOTENASHIの運用状況にかかる記者説明会 - YouTube
配付資料
(橋本氏より)
暖かい応援の言葉をいただいていたが月面着陸の運用はできなかった。経緯と現状を報告する。
1.探査機の構成図
3.月着陸ラストチャンス運用の状況 11/21(月)22:05からのNASA DSNゴールドストーン局
4.これまでに得られた実績
5.今後の運用見通しと意義
予測軌道
今後10年間の軌道図
6.今後の運用見通しと意義
参考
予定していたミッションシーケンス
超小型放射線モニタ
OMOTENASHI運用異常対策チームの設置について
(佐藤氏より)
OMOTENASHI運用異常対策チームの設置について
質疑応答
NHK絹田:今回このようになって率直な感想を
橋本:皆さまからのご期待が高かったところ実現できず申し訳ない。この技術を実現するために何年かやってきた。非常に残念でならない。
この着陸ミッションの成功確率は60%程度と話してきたように挑戦的だった。実証したいと考えていた。探査機が復帰すればできる実験もあるのでできるようにがんばっていきたい。
原因究明などを行って知見を生かしたい。
絹田:原因究明にあたって、太陽電池パネルが光を受けられない向きのままだった原因も探る?
佐藤:情報量が少ないが、そこが当然一番の根本原因。その事象がなぜ起きたのか、FTAで可能性をつぶしていきたい。
時事通信神田:原因究明について。アルテミスに相乗りした小型衛星は10機のうち4機などとNASAから発表されている。NASA側に原因があると考えているか。
2023年夏頃に通信が回復したらこういうことができるという実験はあるのか。固体燃料ロケットの点火もあるか
橋本:ロケットとの関係について。ほかの探査機の事情を把握しておらず問題があるかはわからない。OMOTENASHIについては直接的にロケットと関係するところが原因であるという事実はなにも発見されていない。直接的には関係ないのでは。
安全審査が有人宇宙船と一緒ということで超小型衛星ではありえない安全設計が要求された。誤動作しないことを第一目標に作らざるを得ず、動作する側にリソースを割けなかったというのはどの探査機にもあったのでは。
超小型探査機は冗長性を持たせるのが難しい。このサイズではどれもなかなか難しかったのでは。
固体ロケットの点火はぜひやりたい。そのためには関係各所との調整が必要。軌道上デブリになる可能性があるため地球から十分遠いところで、地球に戻ってこないよう実験しなければならない。調整する。
ほかにも機能をたくさん積んだ。いろいろ実験したい。遠距離でできる実験を考えていきたい。
神田:人材育成について具体的に
橋本:JAXAの大きな衛星は信頼性が第一で、ものづくりはメーカーにお願いしているのが通例。今回はJAXAの若手が自分で作った。また開発者が運用にもたずさわる。探査機全体の勉強ができたことは非常に大きな成果。
神田:こういう機会がないと経験できない?
橋本:インハウスで開発する機会がないと経験できないこと。
共同通信七井:月面着陸はできなかったとのことだが、これは失敗という認識なのか。またOMOTENASHIのコストを知りたい
橋本:着陸が成功か失敗かといえば、それ以前に実験をできなかったことがつらい。あくまで実験なので成功する確率は60%と離してきた。実験自体ができなかったのは本当に残念。
費用は普通の衛星と異なりインハウスで開発している。どこまでがOMOTENASHIの開発費でどこまでがJAXAの人件費かは切り分けが難しい。公的には8億円ということになっている。
昨今の情勢で部品価格が上がったり、コロナウイルス対策で出張が増えたりした。
七井:言葉としては失敗に入ると思うのだがどうか
橋本:失敗以上に失敗であると考えている。
ニッポン放送畑中:昨夜2時までの運用管制の様子を知りたい。成功確率60%で実験自体ができなかったとのことだが40%に入ったということ?
橋本:やっていたことは基本的には毎日の運用と同じ。立ち上がったら電力モードを下げ起動したままの状態を維持するコマンドを打ち続けていた。
コマンドが通ったら急ぎ着陸するための手順も用意して送れるようスタンバイしていた。
やっていたことは定型的なコマンドを打ち続けていた。時間ギリギリまで探査機から電波が来るのを待っていた。
成功確率の解釈は難しい。40%とは違う次元かなと。成功確率が低いので着陸成功はエクストラサクセス、できたらいいねという扱い。
着陸するシーケンスはミッションで達成するべき目標だった。そこを達成できなかったため成功確率の何パーセントかという次元へ行けなかったということ。
畑中:断念したときの管制室の様子は
橋本:第1可視で向きが反対とわかった時点で厳しいと認識していたものが多かったと思う。2時でとても落胆ということはなかったと思う。なにか想定外のことが起きて太陽電池に光が当たることを期待しつつ。やっぱりダメだったかという感じ。
NewsPicks中居:同時打ち上げのEQUULEUSは同じ6Uサイズだがうまく運用できている。どう考えるか。
冗長性を確保しづらい中で、もしこれがあれば復旧できたのではといったことがあるか
橋本:原因究明はこれからなので直接関係するかはわからないが…EQUULEUSと搭載機器はかなり似ている。分離時のロケットからの外乱は10度/秒くらいと聞かされていた。EQUULEUSは分離時の姿勢制御にRW(リアクションホイール)を使いガスジェットを最初には使わない。OMOTENASHIは大きなRWを載せると固体モーターが入らない。大きいRWを持っていればガスジェットなしで初期の姿勢制御ができた。ガスジェットは十分チェックしてから運用したかった。そのあたりが違う。
EQUULEUSはゆっくりヘルスチェックしてから運用を始めようとしている。
OMOTENASHIのガスジェットに問題があるということではありません。大きいRWを載せられず、最初にガスジェットで姿勢制御をする計画だったのがEQUULEUSとの違いということ。
中居:大きなRWがあれば80度/秒でも姿勢制御できた?
橋本:今回のような回転だと無理。ただ今より大きなRWがあれば10度/秒の外乱を吸収でき、ガスジェットを使わなくてもよい計画だった。全部RWを使う方が安全だったかなとは思っている。
中居:ガスジェットが原因で回転速度が上がった可能性もある?
橋本:はい。動作予定として入っていましたから可能性はある。
中居:外乱というのはどう表現したらよいか
橋本:機体の姿勢が乱れる結果をもたらす力が働くことを外乱という。これほど速く回転することになった外乱の原因は今のところ不明。
月刊星ナビ中野:太陽電池パネルがない面に光が当たっているとのことだが、そちらに太陽電池パネルを貼る設計にはできなかった?
橋本:当初は表と裏の両面とさらに2面にも太陽電池を貼ろうとしていた。全体のサイズが決まっていて固体ロケットの大きさも決まっている。1ミリも余裕がなく1面にしか貼ることができなかった。
ほかの面にも太陽電池があればよかったというのはその通りだが、このサイズではできなかった。
毎日新聞垂水:SLSの打ち上げが数年遅れたことと関係があるか
橋本:原因がわからない現在はなんともいえないが、保管期間が長かったために劣化があった可能性はあるかもしれない。
ロケットに乗せたら数か月以内に打ち上げるのが一般的。NASAに引き渡してから1年半くらいまったく触れていない。わからないが関係しているかもしれない。
垂水:16日にマドリード局で受信したあとガスジェットで回転を止めようとしたとのことだが向きを変えることはできなかった?
橋本:回転と方向のどちらを制御するのがよいかは難しい選択。どちらも試したがバッテリー切れになった。時間が足りなかった。
読売新聞笹本:有人宇宙船との相乗りだった関係でなるべく作動しない方向に設計する必要があったとのことだが、そのことがOMOTENASHIの今回のトラブルと関係しそうなものはあるか
橋本:原因究明がこれからだが…思い当たる範囲内では直接関係はしていないと思う。
間接的には太陽電池を貼れないとか安全設計のためにサイズがふくらんだなどがあるが、直接的なものはないと思う。
笹本:最初になぜ高速回転してしまったのか、レートダンプ機構が働いたあとなにかが起きて回転が速まってしまった、それが原因で太陽捕捉モードに入った?
橋本:現象としては2段階の不具合が起きている。なにか一つの要因で両方の事象を説明できると考えている。一か所の故障で全部を説明できるケースはなにかを考えている。
笹本:今後探査機と通信ができるようになったらわかるのか
橋本:そこまで待たなくても、いろいろなデータを総合して原因を絞り込みたい。
探査機内のデータは不揮発メモリになっているのでロケットからの分離後なにが起きたのかはかなり詳しくわかるはず。
とはいえその前になるべく原因を究明したい。
共同通信須江:ロケット側の影響はあまり考えられないという原因は
橋本:ほかの衛星がどうだからということはあまりなく、第1可視で見えたデータを総合するとロケットからの分離時は当初の予定通り10度/秒だったのではないかと考えると説明がつく。大きな外乱の説明はつかないが。
制御パラメータから10度/秒とすると納得がいく。ロケットからのなにかがあったかどうかはわからない。
須江:ガスジェットを使うことでより電池を使ってしまった?
橋本:宿命でしかたないんですが、超小型衛星はガスジェットのためにバルブを駆動するだけで電力を食う。
ガスジェットをつかうと電力が減っていくがなにもしないと時間切れでやはりバッテリーがなくなる。
姿勢を立て直すことを優先した。間違っていなかったとは思うが、なにもしないより早くバッテリーが亡くなった。
須江:探査機としてのミニマムサクセスは
橋本:設定していなかった。フルサクセスは着陸実験すること、放射線モニタの実験をすること。エクストラサクセスが着陸成功。
フリーランス大塚:第1可視での対応について。発見されたときの80度/秒という回転はガスジェットをどのくらいの時間噴くと起きるのか
橋本:どういう制御モードでおこなうかによるが、レートダンプモードだと30分から40分くらい噴射することなってしまう。結構長い。ガスジェットの推力が大きいときも制御系が発散しないようチョビチョビ噴くようにしてしまった。
自動制御ロジックではなく、マニュアルで何秒間噴けと指令すればよかったのかもしれないがなにも準備しないまま行うのは怖かった。マニュアルで噴けば10分20分ですんだかもしれず間に合ったかもしれないが、現場ではそういう判断はできなかった。
大塚:通信ができたときのバッテリー残量は
橋本:バッテリーの担当者からは、最初見たときかなり減っていて危ないですと聞いた。なのでマニュアルで噴いても間に合わなかったかもしれない。
大塚:電源が落ちたら再起動を繰り返さないようガスジェットと送信機をオフにするコマンドを打ち続けていたとのことだが、そういう制御を最初から組み込んでいればよかった?
橋本:軌道上でバッテリーがオフになることはあまり想定していない。ロケット内ではバッテリーで動作しなければならない。太陽指向するまでの電力から換算する。
大塚:今後の知見としては生かせる?
橋本:そうですね。超小型衛星の設計思想にもなるが、こうなったらこうしましょうをたくさん入れると裏目に出ることがある。装置やロジックを追加するとテストも大変になりコストや大きさも普通の衛星に近づいてしまう。難しいと感じた。
大塚:DSN Nowを見ているとときどきOMOTENASHIからの通信が来ているような表示になることがあった。あれはどういう状況?
橋本:実際はまったく受信できていなかった。DSN Nowはアウトリーチ用のサイトなので必ずしも正確ではない。異なる探査機の名前になっていたりすることもある。
朝日新聞玉木:2023年の夏に通信が回復するころの距離は
橋本:いま数字がないが、たしか4,000万キロほど。そのくらいなら通信できる。
玉木:想定外だったとのことだが太陽電池パネルを貼れる面が減ったりしたとき、太陽に向かない可能性を考えたのかどうか
橋本:自分が思うには、超小型の衛星や探査機はこういうことが起きたらこうするというバックアップを考えるのが難しい。どの機器も壊れないことを地上で十分に試験しておくしかないと思う。試験をして壊れないと信じるしかない。
太陽電池が裏返って高速回転することも想定はしていて、そうならないよう設計していたつもりだがこうなってしまったのが想定外ということ。
想定外のリスクが発生したという…うーん、こうなったらこうなると想定していたがそれは起きないと考えていた。しかしそれが起きてしまったことが想定外。
読売新聞笹本:原因究明はどのように情報公開していくのか
佐藤:原因がまだわからないのでいつまでにできるかはわからないが、なるべく早く活動していきたい。いま手に持っている情報だけで原因究明をしてご報告したい。それほど長い時間はかからないと思っている。
笹本:いまの情報から暫定的にわかったことをまず公開する?
佐藤:その通りです。
広報部岸:適切なタイミングでブリーフィングなど行いたい。
NewsPicks中居:細かい確認を。最後に通信できたのはいつ、どの局から?
橋本:手もとに時刻も含めた記録がないが…第1可視のマドリード局からの通信の途中で途切れた。この可視は16日の20時から22時くらい。
中居:DV1もできればやりたいと前回言っていたが
橋本:DV1は予定では17日夜の予定だったが、軌道決定の精度を保つためにはこのころ必要だった。そのあとTCMを予定していた。
軌道決定の予定を省いて22日でもまだ間に合うのでDV1を行うつもりだったが金曜くらいにDV1を含めるのは無理でDV2一発しかないと考えるようになった。
中居:近月点はどのくらいの距離?
橋本:1,600キロくらい。
時事通信神田:ガスジェット制御はジャイロで機体の回転速度をみて止めるもの?
橋本:その通りです。回転数をジャイロで見て噴射し回転数が下がったら止める。
神田:積算の噴射時間などのデータはあるか
橋本:はい。それによると10度/秒くらいの回転を止めたことがわかっている。
分離時に10度/秒の外乱があり、ガスジェットがそれを止めたのだろうと思うのだが、なぜか80度/秒で回転していたと言う状態。
その謎を解明しようとしている。
神田:ガスジェットの動作履歴に不振があるとかではなく、この回転を与えられるのはガスジェットくらいしかない?
橋本:なにかがぶつかった可能性ももちろんあることはあるが、なにが一番可能性があるかは先入観を持たずに究明したい。
神田:OMOTENASHIの運用は夏くらいまで続く?
橋本:軌道決定が最初の可視からもうできていない。月スイングバイをすると急速に精度が落ちるため追跡は無理だろう。電源も入らないだろうから運用はしばらく中止しようと考えている。
神田:死んだプロジェクトにはならないということですよね
橋本:はい。復旧するまではデータの解析や復旧後の運用計画などを考えている。
復旧は3月ごろと考えているが、推定軌道の精度を高めようとしている。機体がどちらに傾いていっているかがわからず、向きによって復旧までの期間が月単位で変わる。
少なくとも12月や1月の復旧はない。
読売新聞笹本:ガスジェットのレートダンプ機構を止める話。ジャイロで回転数を見て止める?
橋本:回転を完全に止めるというよりはRWでできる範囲に入ればガスジェットを止める計画。ガスジェットは扱いが難しくなるべくRWで制御したい。外乱が小さければRWだけで制御したかった。分離時の外乱が大きかったためガスジェット制御が動いた。
笹本:回転が止まってきたことを確認してからガスジェットを止めたのか
橋本:XYZの3つの軸の角運動量を見ながら、ある量より速く回転している軸があったらその軸の回転数を下げる。その結果別の軸が加速したらそちらの軸の回転数を下げる。すべての軸の回転数が基準より少なくなったら制御を止めるというロジック。
一度回転が収まった状態になってからまた外乱があるとこのロジックは起動せず対応できない。すべてのロジックが正しく動作していたら、要因はそれしか考えられない。
ロジックに欠陥があったかもしれないしジャイロが誤動作したのかもしれない。考えられることはたくさんある。どれが矛盾せずどれが矛盾するのかを見ていく。
(以上)