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親指シフトは普通のキーボードでもできます

これ↓を読んで「今からJISかな配列を覚えるのなら親指シフトも検討してみて」という便乗エントリです。

上の記事を要約すると、JISかな配列に慣れた筆者がローマ字入力を使ったら入力速度が3割ほど落ちた、その点でJISかな配列はローマ字入力より優れているので、これからキーボードの配列を学習する子供にはローマ字入力ではなくJISかな配列をおすすめしたい、といった内容です。

ここに書くのは、それなら親指シフトを覚えるのもいいのではないかなー、という話です。

親指シフトの概要と特長

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親指シフトとは、富士通が考案し同社のワープロOASYS」がおもに採用していたかな配列です。両手の親指のあたりに「左親指シフト」「右親指シフト」というキーを設けることで、1つのキーで3つのかなを入力できるようにしたことが特徴です。「NICOLA配列」は親指シフト配列をもとに一部を変更したもので、基本的なキー配列は共通です。

パソコンの[Shift]キーは左右どちらを押しても同じ結果になりますが、親指シフトの「左親指」「右親指」は左右で役割が分けられています。また[Shift]キーは文字キーを押す前にあらかじめ押しておきますが、親指シフトキーは文字キーと同時に押すことが想定されています。

たとえば[F]キーはそのまま押すと「け」が入力されます。[左親指]キーと[F]の同時押しでは「ゅ」、[右親指]キーと[F]の同時押しなら「げ」が入力されます。文字を押す指と同じ側の親指シフトキーを使うと別の文字が入力され、文字を押す指と反対側の親指シフトキーを使うと元の文字の濁音が入力されるという法則です。

親指シフトのキー配列(FMV-KB232の例)

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1つのキーで3つのかなを入力できるようにしたのは、かなをアルファベットと同様、キーボードの3段におさめるためです。その結果、かなを入力する際に、[F]キーと[J]キーに左右の人差し指を置いた状態(ホームポジション)の上下1段にしか指が移動しなくなり、スムーズな文字入力が可能とされています。濁音や半濁音を1打鍵で入力できることも含めて、JISかな配列に対する大きなアドバンテージといえるでしょう。

キー配列については、現代の日本語の文章でどのかながよく出るかを研究して決められています。ローマ字入力でよく言われる「打つ回数が多い『a』が小指の位置にあるのは疲れる」といった不自然さはありません。もちろん打鍵数の少なさでも、親指シフトの効率はローマ字入力の比ではありません。

一方で、親指シフトホームポジションにきちんと両手を置いた状態での入力が求められるため、文字入力の状況を限定する面があります。たとえば片手になにかを持っていてもう一方の手でしか文字を入力できないといった状況では、親指シフトによる日本語入力は事実上不可能です。

補足
たとえば右手しか使えない状況でも左手側のキーを右手の指で押せばよいというのは理論上はその通りです。しかし少なくとも自分の場合、親指シフトのかなを普段と異なる指で入力するのはとても無理です。今ちょっとやってみましたが無理でした。親指シフトでは「このキーを押すとどの文字が入力されるか」という覚え方ではなく、「この文字を出すにはどの指でキーを押すか」という覚え方をしている感覚があります。このあたりどんな具合か、ほかの親指シフトユーザーに聞いてみたいところです。

普通のキーボードでも親指シフト化できる

親指シフト配列を使うには専用キーボードが必要であるという誤解が根強くあるようです。親指シフトには親指シフトキーが必須だからそう感じるのでしょう。

実際には、普通のJISキーボードで親指シフト配列を使うエミュレーションソフトが多数開発されています(し、そもそもNICOLA規格では独立した親指シフトキーが必須ではありません)。それらのソフトでは、スペースキーや[変換]キーを親指シフトキーとして扱うことで親指シフト配列を実現しています。となるとスペースの入力や漢字変換ができなくなるのかというとそんな心配はありません。これらのキーが単独で押されたときはその通りのキーとして機能し、これらのキーと文字キーが同時に押されたときのみ親指シフトキーとして機能するしくみです。

親指シフトのエミュレーションソフトについては以下に一覧があります。

自分の場合、Windows 8.1では「やまぶきR」、Mac(Lion)では「Tesla」を使っています。最近のOS Xでは「Karabiner」(旧名称KeyRemap4MacBook)や「Lacaille」を使うのが一般的なようです。

形から入りたい人のために専用の親指シフトキーボードもあることはあります。

フルキーボードの「FMV-KB613」はいまAmazonで35,012円。

コンパクトキーボードの「Thumb Touch」(FKB7628-801)はいまAmazonで15,540円。

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ただしいずれも、対応しているIMEJapanistのみのようです。Japanistは以前使っていましたが変換効率がもうちょっと…という感想です。

親指シフトキーボードを搭載したノートパソコンも一応出ています。

追記

2020年5月19日、富士通親指シフト製品の販売を終了すると発表しました。

自分が親指シフトを使う理由は早さではない

親指シフトをすすめる記事でよくあるのが、日本語の入力が早くなるということです。しかし自分の場合、親指シフトを使っているのは早く入力できるからではありません。実際、ローマ字入力に対してものすごく早いという感覚はありません。打鍵数がローマ字入力より少なく、習熟がJISかな配列より早かったから使っています。

習得の早さについては次項で触れます。

打鍵数が少ないことを重視するのは、昔パソコン雑誌で恐ろしい記事を読んだからでした。あるベテランのプログラマが腱鞘炎になったという話です。キー入力をしすぎて指が腱鞘炎になったのでした。プログラマが文字をたくさん入力するのは必然で、中にはその結果キー入力できなくなる人もいると知りました。これは恐ろしい。キー入力ができないプログラマは声が出ない歌手のようなもので、もしそうなったら別の生き方を考えなければなりません。

自分はプログラマではありませんがパソコンで文字を扱う仕事をしていますから、キー入力に使う手は大事にしたいものです。そこで打鍵数を減らす方法のひとつとして、親指シフトを積極的に使うようになりました。ローマ字入力では「a」の入力で左手の小指が酷使されるのも心配です。ただでさえ[Ctrl]キー(にアサインした[CapsLock]キー)を押すために左手の小指をよく使っているのに。

余談ですがそういういきさつなので推測変換もたくさん使います。Japanistを一時期使っていたのは、推測変換ができる唯一のIMEだったからでした。

そうそう、自分は誰もが親指シフトを使えるようになるべきとは思っていません。習熟にかかるコストは少ないほうだと思いますがやはりそれなりに大変です。ローマ字入力のままでいいという人を無理に転向させようとは思いません。VimEmacsを便利に使っている人でも布教に熱心とは限らないでしょう。

(でも「指がしゃべり出す」と言われる親指シフトに快適さを感じるのは確かで、これはMacの「うれしいパソコン」という感覚に近いものがあります。親指シフトについて語るとき、Macユーザーの時としてうざったい布教活動に近づいていないか気をつけたいものです…ってこんな記事を書いていては説得力ゼロですか)

親指シフトを始めたら1週間がんばってみてほしい

親指シフトを練習するためのテキストが以下にあります。

最初はこれのSection.3からSection.9をやってみるといいのではないでしょうか。「あいうえお」「かきくけこ」…と五十音の入力をくり返し練習するのはおすすめしません。親指シフトを練習するのは「あいうえお」をさくさく入力できるようになりたいからではないでしょう。普通の日本語を入力しやすいよう考えられているのが親指シフトです。

自分が親指シフトを使い始めたときに感じたのは、習得がJISかな配列より早いということでした。練習を始めて1週間ほどで「この文字はこの指のような気がする」という感覚が出てきて、その指でキーを押してみると実際その文字が出てくるという体験をしました。これはJISかな配列を覚えようとしたときにはまったくない、独特の心地よさでした。

ThinkPadトラックポイントは、お店でちょっと触っただけでは便利とは思えない使い心地です。しかし3日も使っていると手が慣れて、狙ったところにピタリとマウスポインタを移動できるようになります。親指シフトにも似たところがあり、とっつきは悪くても習熟すると手放せなくなるよさがあります。

「この文字はこの指のような気がする」が出てくるまで、自分の場合は1週間でした。親指シフトの練習を始めた方はこの段階まではぜひがんばってみてほしいと思います。