開催概要
登壇者
JAXAによる中継録画
- 小惑星探査機「はやぶさ2」初期機能確認期間の運用状況に関する 記者説明会 | ファン!ファン!JAXA!(http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/detail/3717.html)
※1分28秒くらいに始まります
配布資料
- 【PDF】小惑星探査機「はやぶさ2」初期機能確認期間の運用状況(http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/files/20150128_hayabusa2.pdf)
(追記)以下のより詳細な書き起こし
- 初期機能確認期間の運用状況関する記者説明会 起こし - 岩日誌(http://d.hatena.ne.jp/iwamototuka/20150128/p2)
「はやぶさ2」初期機能確認期間の運用状況
打ち上げ後2日間のクリティカル運用期間を経て約3か月間の初期機能確認期間へ
探査機の状態は正常。各機器の機能確認も順調に実施
初期機能確認期間は残り約1か月
今年12月ごろに地球スイングバイを計画。さらに加速して遷移軌道へ。イオンエンジンをさらに噴射して1999JU3へ
オフライン系の仕事として先方に着いたら精密観測、観測点の決定、着陸点の決定、着陸などを行う
はやぶさより戦略的、計画的に
段取りや計画、必要なソフトウェアツールの開発などに着手
(今までは宇宙機を作るのに全力だったがこれからは観測のための作り込みへ)
最終的にオーストラリアにカプセルを着陸させる。その準備作業
試料のキュレーションのための準備も
初期機能確認期間で行ったものの例
- イオンエンジン試運転
- Ka帯通信の確立(日本の深宇宙探査機として初)
- X帯(8GHz)から32GHzへ。4倍の速度。高利得アンテナが8kbpsから32kbpsへ。大容量のデータをおろせる。朗報
- イオンエンジン2台(A、D)による24時間連続自律運転
- エンジンの推力が重心を外れていると姿勢が変わっていく。リアクションホイール(RW)で調整。推力方向を調整してRWの回転数を変化させずにすませるなども実行
- イオンエンジン3台(A、C、D)による運転。計画通り約28mNの推力が発生していることを確認
- 当初1年間は2台運転できれば地球スイングバイが可能。打ち上げがよかったこともある
- 当面は2台運転で十分。A、Dで。Bエンジンは性能がよいがバックアップとして使用予定
質疑応答
TBS:現在の軌道について。小惑星に行く軌道に乗るのは
國中:12月。遷移軌道へ乗り換える。イオンエンジンなしにはスイングバイ軌道に乗れない。
小惑星への道のりに乗るのは来年ともいえるが打ち上げ直後から向かっているともいえる。
國中:はやぶさは初期状態でスラスタAが不調、自動自律運転にかけられず。もともと3台を使いきれば小惑星と往復できるということで4台の冗長系を組んだが当初から1台分の機能が十分でなかった。
はやぶさ2で4台とも万全な状態で軌道投入を目指した。初期チェックアウトはクリティカル。イオンエンジンは真空度が高くないといけない。特に打ち上げ直後は宇宙機からガスが出る。はやぶさでの知見として打ち上げ直後のベーキング(温度を上げてガスを出す)が不十分だったためにAの調子が悪かったのかもしれない。
はやぶさ2ではベーキングを十分に。12月19日から22日に。+Xパネル近傍を50度に温めるなど複数の方法でベーキング。十分にガスを出して「枯らす」工夫をしたうえでエンジンの点火を行った。
はやぶさ2ではこれらの結果健全な状態で軌道投入できた。厳しい航海と思うが機材としては十分余裕をもって小惑星往復の航海へ乗り出せた。
それに対しては「やったな」という感覚。
ニッポン放送はたなか:たくさんの改良の中で一番成果を実感した部分は
國中:私はプロジェクトマネージャだがイオンエンジンの技術者でもある。完全なものを提供したいと考えていた。推力アップも。7mNから10mN、イオンビーム電流は130mAから170mAへ。それを実現できた。
宇宙作家クラブ今村:地球スイングバイまでに地球からどのくらい離れる予定か
吉川:資料6ページを参照。EDVEGAループで一番離れたところが最大距離。いまざっと2000万キロ、最大で5000万キロくらいまで離れるのでは
宇宙作家クラブ鈴木:広報について。はやぶさは後半に従って質量ともよくなっていった。今回はどんな予定か
國中:ここまでのところ打ち上げと初期運用に注力していてアウトリーチはいまひとつかもしれないが今後資力を展開していきたい。
関心を高めていっていただくことを考えている。
吉川:たくさんの方にはやぶさ2を知ってもらうために、はやぶさの経験を活かしてアウトリーチのメンバーをさまざまな方面から集めている。
國中:ナーバスな質問で答えにくいが…最初のイトカワはいい名前だったため苦慮している。みんなで考えたりどう決めたらいいか相談中。なるべく早く処置をしてお知らせしたい。
名前をつけないとか目的天体が変わったりはしない。
さいとう:はやぶさのイオンエンジンでは人力で運用するところが多かっただろう。今回は
國中:ISアンローディングやトルクが発生しないような自動運転、問題が起きたら自動停止、タイマーでエンジンオンなどの機能を搭載している。
エンジン自体は4台健全に動くと確認できた。より詳細にデータを見たり確認したりする必要がある。2月まではそのための調整期間。そのあと巡航運転に入る。
時事通信かんだ:はやぶさのとき各イオンエンジンに特徴があったが今回は均等であるか
國中:今回はかなり粒がそろったものを作ることができた。国産度を高めて自前で調達できる体制を作ってきたこともある。ガスの供給もきめ細かく流量制御できるように。そのための工夫がうまく働き安定して運用できている。
宇宙エレベーターニュース秋山:国内Ka帯の受信状況は。臼田局の改修もあるか。NASAのDSN(深宇宙ネットワーク)のWebサイトではいまどの宇宙機と通信しているかがわかるようになっているが、そのようなページを作る予定はないか
國中:深宇宙局として臼田と内之浦がある。臼田局は重要。さきがけ/すいせいの1985年に建設し30年たっている。ずっと使い続けるのはなかなかできない。「臼田後継」と呼ぶ作り変える計画がある。詳細は検討中。老朽化施設を更新することをかんがえている。その際はX帯、Ka帯をそろえていきたい。
いまどこと通信中かわかるようなしくみは(私の知る範囲では)考えていない。
毎日新聞ながやま:これまでと「巡航運転」との違いを。また機器チェックについて、観測機器のスケジュールは
國中:「巡航運転」はイオンエンジンを計画通りに噴射して必要な軌道変換ができたかどうかを確認、ノルマの達成状況を見て次の軌道計画を立てる、そのPDCAサイクルを週ごとに立てて運用していくもの。これを3年半行う。
観測機器のチェックは通電して消費電力が順調であった程度。カメラ類は健全性を小規模にチェック済み。
温度を下げないと赤外線分光計などは機能しない。ガスが出きらないうちに冷やしてしまうと凍って張り付いてしまう。
ちょうど見たい星が観測装置前面にきたとき観測するなども考えている。
これらを巡航運転の道すがら行っていく。
フリーランス青木:イオンエンジンが7mNとあるが性能を落としているのか
國中:最高性能を出さずに運転している。
青木:長寿命化は
國中:されている。
青木:クロス運転回路はあるのか。その場合イオン源と中和器の組み合わせは自由か
國中:当然そういった機能を含んでおり段取りもされている。しかし今回は使わずに戻ってきたいとお知らせしておく。
フリーランス大塚:初期チェックで小さな不具合などありましたら
國中:ちょっと難しいですね。思い当たらないですが…今のところ日本から見るのは深夜が多く人の手配がたいへんだった。地上系も含めて探査機単独で動いているわけではなく地上設備、人の技量で動いている。
小惑星近傍にたどりついたとき1年半しかない。24時間連続でたくさんのデータをとり分析しなければならない。8時間3交代でやりきる資力、スタッフをそろえなければならない。そうやって探査機を支えるということ。オンタイムだけでなく科学的なデータを積み上げて着陸点を決める。
人をどう育てて準備して3年半後に備えるかという人間組織を作り上げることが心配している最大のことがらである。
各研究機関の方々に努力やエフォートを投入していただかなければならない。万全な体制で他の国に負けない探査を行いたい。そのためのシステムづくりが不安なところ。万全にしたい。
ハードウェアについては思い当たらないくらい順調。
大塚:「太陽光圧影響評価」とは
軌道決定のためには探査機に加わる外力を精密に知っておかなければならない。太陽の重力>イオンエンジンの動力>太陽輻射力。各100倍程度の違い。太陽輻射力は探査機の表面の形状や反射力に依存する。非常に微小。地上では測りづらい。探査機を傾けて光の当て方を変えるなどして計測する。
RWは今回4つ搭載。四角錐の斜辺に組み込む「スキュード」がセオリーだが、はやぶさ2はXYZZという組み方。Z軸まわりのRWが生き残ったためにはやぶさは帰ってこれた。Z一軸だけで姿勢を保ち太陽輻射力で。その知見を活かす。
太陽輻射力は今回積極的に利用していくということ。
共同通信すえ:イオンエンジンの連続自律運転についてほかの組み合わせを試す予定は
國中:Bは温存なのでACDの組み合わせで。当面Bを使う計画はない。頻繁に切り替えればいいという意見もあろうと思うがエンジンは4つで電源が3つ。いまACDにつながっていてこのリレーを頻繁に切り替えるのは多少不安がある。必要性がない限り切り替えたくないためそういう作戦。
2月以降イオンエンジンと姿勢制御系の協調運転試験は目白押し。ほぼ自動で運転されていく。すでに地球と探査機の間は2分半の通信時間がかかっている。なにかが起きたとき探査機が自動自律機能で対処するよう組み込んでおりそれはできている。
3月からの巡航運転では本格的な自律自動運転に入る。
24時間自律運転はAD以外の組み合わせは行っていない。大丈夫だろうということで。
すえ:12月の地球スイングバイが次のハイライトか
國中:精密に地球スイングバイポイントへ誘導しなければならない。精密軌道決定も。DDOR(干渉計を使ったデルタドア)による軌道決定など。
このあたりが醍醐味というか山場になろうかと思う。
國中:はやぶさも自律運転していた。イオンエンジンを探査機に載せたときの性質は(初めてだったので)なかなかわかっていなかった。はやぶさでは元来探査機が持っている自動自律機能を打ち上げた後に組み込んだ。
はやぶさ2ではその知見をもとにイオンエンジンのコントローラに自動自律機能を組み込むとともにさらに上書きする形でエンジンを重複監視し安全運転のための監視機能を入れている。
自動自律運転ははやぶさでも行っていたが計画的戦略的に行えるよう組み込んだのがはやぶさ2。2か月たっていない中で初期運用ができたというのはたいへんな進歩。
はやぶさでは5月に打ち上げて8月過ぎだった。
なかむら:地球スイングバイまでにイオンエンジン2台でとのことだがどのくらいの日数運転するのか
國中:ノミナルでは2か月くらいの運用ノルマになると思う
フリーランス森山:ISアンローディングについて
國中:IonengineSystemアンローディング。
RWは3000回転くらいが通常。回転数を変えて乱れた姿勢を戻す。適正な範囲を超えて回転数が変わるのはよろしくないためガスジェットで回転数を戻す。これがアンローディング。RCSアンローディングという。燃料が減るためガスジェットはあまり使いたくない。
対になるのがISアンローディング。イオンエンジンはジンバルできる。推力の方向を重心からずらすと回転力が発生する。それをうまく使うとRWの回転速度を一定位置に合わせこむことができる。RWの回転を安定化させることができる。ISアンローディングはYZの2軸のみ調整可能。X軸回りのRWの回転数は調整できない。ISアンローディングだけで制御はできないがRCSアンローディングの回数を減らす効果がある。
宇宙作家クラブ上坂:無事に打ち上がってたくさんの人がはやぶさの現在状況を知りたい。軌道情報を出す予定はあるか
吉川:これまでの飛行経路とこれからの飛行経路について。
これまでは軌道決定グループが数字を出している。公開を検討中。
今後の計画についてはどこまで出すか難しい。毎週変わる軌道計画をどう出していくのが誤解が少ないか検討中。もう少しお待ちください。
上坂:打ち上げ後の会見でカメラを向けられて「笑える状況ではない」と言っていたが今は
國中:1999JU3に向けた航海が始まった。HW/地上系とも準備が整った。ようやく宇宙航海が始まったので今日はちょっと笑わないといけないかなと思っている。これ以降も応援をお願いしたい。
(以上)