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マスクをつけなかった乗客の言い分

数日前に、ピーチ・アビエーションの機内でマスク着用を拒否した乗客がいたため飛行機が途中で緊急着陸したというニュースがあった。

航空会社によりますと、出発前、客室乗務員が乗客の中にマスクをつけていない男性がいるのを見つけ、着用を求めたところ、男性は求めに応じませんでした。

出発したあとも男性は着用を拒否し続け、別の乗客がマスクをしていない人の近くは嫌だと言ったことに対し、「侮辱罪だ」と声を荒げたり、客室乗務員が警告書を渡すと告げた際に「やれるものならやってみろ」と威嚇したということです。

このため、機長が機内の秩序を乱す行為に当たると判断し、新潟空港に臨時に着陸して男性を降ろしました。

乗客の男性 マスク着用拒否 旅客機が新潟空港に臨時着陸 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

なるほど、わがままな乗客がいたためにやむなく下ろされたらしい。でもなぜマスクをつけたがらなかったのだろう。

航空機を緊急着陸させると賠償金が1,000万円! みたいな話も出ていて恐ろしいと思ったりした。たとえばこちら:

なにかあったら最悪機内の全員が死ぬのが航空機だから、「機内ではいい子にしていましょう」はまあその通り。

この記事で、今回のマスクをつけなかった乗客本人らしいTwitterアカウントが紹介されていたので読んでみることにした。

これがとても冷静かつ理知的な書きぶりで、話も詳細にわたっていてなりすましの作り話とは思えない。NHKなどの記事はピーチ側の主張を裏取りせずにそのままたれ流していると主張している。そのほか論点がいろいろあるのでツイートをピックアップしてみた。

まずNHKの報道について。

ピーチ・アビエーションの対応について。

ピーチ・アビエーションの下のページに「ご搭乗いただくお客様へのお願い」があり、そこに「空港内・機内では、マスクを着用してください。」とある。

あくまで「お願い」でありルールではないから話は聞くが従わない、という意見である。

また「お願い」ベースのことに対して自分のプライバシーを開示することに抵抗があるとも。

ジェットスター航空は搭乗前にカウンターで事情を説明する機会が設けられていて、その結果トラブルなく搭乗できたとのこと。

なぜマスクをつけないのか、理由を説明すればよかったのではないかという意見には以下。

ここは痛いところを突いてくると思った。「~すればいいのでは」が多くの人にできることでも、さまざまな理由でそれをできない人には厳しかったりする。今の社会はこういうところの寛容さや、自分と異なる人を理解しようとする気持ちを持ちにくくなっていると感じる。

で、@mask_passenger氏のツイートで一番恐ろしいと思ったのはこのあたり。

そして@mask_passenger氏のツイートにも、「集団の秩序を乱したのだから追い出されて当然だ」とか「少しの配慮もできないのか」のような厳しめのリプライが並んでいたりする。ピーチの対応いかんでは、そもそもトラブルにならなかったかもしれないのに。

客室乗務員の指示に従わなかったのだから降ろされても仕方がないという意見も多く見るが、その指示が常に正しい保証はない。緊急着陸が妥当な措置だったかは検証が必要だろう。「飛行機の到着を遅らせて乗客に迷惑をかけたから謝るべき」なのは@mask_passenger氏なのかピーチ・アビエーションなのかということだ。

シンガポールなら逮捕だ」という人には、「法に価値観を委ねる人」になってますよ!と言いたい。

一連のツイートは@mask_passenger氏から見た事実である。NHKなどの記事に載ったピーチの主張と同様、こちらもそのままうのみにするのは危ない。でも一方の言い分だけを聞いてわかった気になってはいけないなと改めて思ったのだった。

「改めて」なのは以前、コーヒーをこぼしてやけどを負った人が裁判を起こして賠償金290万ドルという判決が出た「ホットコーヒー裁判」の記事を思い出したから。

言いがかりの裁判? いえ実は、という事例など、直感に反する話をいろいろ紹介しているのでぜひ読んでほしい。

これは佐々木俊尚氏がたまにツイートしている「魔除け」だ。

今はこれが佐々木氏の固定ツイートになっている。「自分が正義だと思ってる人ほど恐ろしいものはないねえ」というアレである。

@mask_passenger氏のようなめんどくさい人が身近にいると面倒なことが起きがちだ。でもホットコーヒーで裁判を起こしたり、職務質問の妥当性を問う訴訟を起こすようなめんどくさい人がいるおかげで、権力を持つ側や多数派に自制を促してくれているともいえる。今回も、世間の「普通」から外れる人の生きづらさについて考える機会になったのではないだろうか。多様性を受け入れる社会にしていきたいものだ。

ところで、マスクは新型コロナウイルスへの感染を防ぐものではなく、自分が口から出す飛沫で他人を感染させないために使うものだという。そして感染しても自覚症状がないまま他人への感染性を持つこともある。となればマスクはつけたほうがよい。一方でいわゆる「3密」にならない環境ではマスクは必須でもない。

Q8.散歩にゆくときにもマスクは必要ですか?
(中略)人々が集まっているところにどうしても入り込まなければならないときには、マスクを着用します。マスクの目的は自分が感染者であった場合に周囲の人々に感染させないことです。そのため、周囲2m以内に誰もいない状況であればマスクを着用する意味がありません。
新型コロナウイルスQ&A | 診療科・部門 | 浜松医療センター

そして下のページによると航空機内はよく換気されていて、3分ですべての空気が入れ替わるそうだ。隣の座席の人とお互いマスクなしで長時間会話をしたらさすがに感染するだろうけど、ウイルスが機内に充満するような環境ではないことは知っておきたい。

「とにかくマスクをしていないと不安だ、ほかの人もマスクをしていてほしい」のような人が、マスクをしていない人に罵声を浴びせるような状況になっている。とにかくいつもマスクをしていなければダメと硬直的に考えるのではなく、マスクをできない人がいるかもしれないという想像力を持ち、そもそもマスクが本当に必要な場面かも考えるようにしたい。

(なんか話があちこちに飛んでいるけど構わずに上げちゃう)