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ICUの入試と「ランダムファイブ」の噂

春名風花(敬称略は違和感があるが面識がないので敬称略)がAO入試の拡大に反対するツイートをした。

これに「唯一平等と言える学力ですら、塾に行ける子と行けない子で開きが出ています。これ以上経済格差を広げる制度には断固として反対です」と続く。

ここから入試についてのこんな話へ。

入試の信頼性(測ろうとする能力を測れているか)と妥当性(ふさわしい能力を測れているか)の話に移ってきたところで、ICU国際基督教大学)の学生や卒業生なら思い浮かぶ噂があるだろう。それが「ランダムファイブ」である。

ICUは出題する入試問題がきちんと学力や能力を測っているかを評価するため、不合格者の中からランダムで5人入学させているというもの(5%という説もあるが500人の5%はちょっと多くない?)。自虐的に「自分はたぶんランダムファイブだから」と言ったり、誰かを指して「あいつはランダムファイブじゃないか」などと使われる。

ICUの入試は独特で、知識の量を問うものではない。そこからもランダムファイブはいかにもありそうな話として流布していた。それに入試とは関係なく入ってくる学生がいることは多様性の確保にもつながる。この種の都市伝説は学年をまたいで引き継がれるから、今のICU生もおそらくランダムファイブの噂を知っているだろう。

ICUの独特な入試

以下は自分が受験した1990年代の話であり、今の状況は違うかもしれない。

まずICUの入試は全部マークシートだった。また自分が受験した1990年代の試験科目は「一般能力考査」「人文科学考査」「社会科学考査と自然科学考査のどちらか」「英語」だった。英語以外は、高校で教える国語や数学、物理や世界史といった科目ではない。

一般能力考査はSPIに感触が似ている。クイズっぽい設問で理解力や思考力が問われる。数学の問題もあるが難しくはない。問題の数が多く、試験時間内に全問回答するのは難しい。

以前新聞で、大学入試にこの種の試験を広く導入するかもという記事を読んだことがある。サンプルとして挙げられていた問題を面白そうだと解いたあと、出典を見て驚いた。「国際基督教大学の入試問題から抜粋」と書いてあったのである。そもそもそういう問題を見かけても、じゃあ解いてみようと思うのは一部だけだろう。ふと見かけた問題を解いたら自分が卒業した学校の入試問題だった。お釈迦様の手のひらの上にいたと気付いた孫悟空の気分だった。

ICUの学生はこの試験を突破してくるだけあって、「ウミガメのスープ」(LTP)や「人狼」のような、思考力を駆使するゲームが好きな人が多いと思う。実際、自分に「ウミガメのスープ」を教えてくれたのは同じサークルのN氏で、それから「ウミガメ」はサークル内で大流行した。編集者になって「ウミガメ」を本にできないかといろいろ調べ、翻訳書という形で世に出すことができた。

人文科学考査、社会科学考査/自然科学考査は長文を読んで設問に答えるもの。自分は社会科学考査を選択した。入試問題らしい引っかけや奇問はなく、答えは本文の中にそのまま書いてある。TOEICなどに近く、文章を理解できていれば回答に迷うことはない。つまりこれらは広義の国語の試験だった。読解力がなければいくら知識があっても通らない。ICUの入試対策が難しいゆえんである。そして自分は簡単すぎてこれでは試験にならないのではと思ったほどで、全問正解した自信があります。

一方、英語はぜんぜんできなかった。これも「理解できていれば迷わない」タイプの設問だったと思う。それでも合格できたのはほかの科目がよかったからだろう。おかげで入学してから英語では苦労した。

これでICUにふさわしい学生を選抜できていると思うだろうか。正解はないがちょっと面白い経験があった。

ICUでは新聞会に所属して学生新聞を作っていた。そこで身につけたDTPの知識が最初の就職に役立った(→「『理科の授業づくり』と仕事で得られる経験について - ただいま村」)。入試のときは受験生向けの特別号を作って配布する。入試が終わったあとには「お茶会」を企画した。学生会館のラウンジにお茶菓子を用意して、試験を終えた受験生を迎える。受験生にとっては現役ICU生と話ができるチャンスである。

いろいろ話した中に、「この人は合格したな」という受験生が毎年何人かいて実際合格していた(受付で任意で受験番号を聞いていた)。そういう人は並外れて頭がよさそうとかではなく、かもし出す雰囲気がICU生そのものなのだった。ICU生らしさが特に強い受験生には「おめでとう合格してますよ」と話していた。もちろん本人はそんな素質があるとは気付いていない。でも「あーこの人は来年度からICU生ですね」と確信できた人はたいていその通りに入学してきていた。一方で、ICUが大好きで合格したいという熱意は強いけれど…という受験生もいて、そちらも予想が外れることはなかった。

あの入試は、少なくともある質の受験生を選抜することはできていると思えたのだった。

今のICUの入試はどうなっているのか調べてみた。

現在いくつかある入試方式のうち、入学者のほとんどを占める一般入試A方式は「人文・社会科学と自然科学のどちらか」「総合教養(ATLAS)」「英語」という3つの試験だそうだ。基本ラインは自分のころと変わっていないようだ。AO入試もあるが数は少ない。

自分は中学受験をして御三家と言われる中高一貫校に入学したが、「あーこれでもう勉強しなくていい」と勘違いしてぜんぜん勉強しなかった。はてな匿名ダイアリーの「中学受験体験記」でいう燃え尽き状態そのものである。大学受験期になって勉強はしたものの学習習慣の不足は補いがたい。結局必要な受験学力を身につけることはできずICUしか合格しなかった。

普通の大学入試が悪いものとは思っていない。入試を突破するにはそれに必要な知識や理解の量を見積もり、1年ほどかけて計画的に身につけていく必要がある。長期計画の策定と遂行は社会人として大事な能力だからだ。

でもいわゆる「地頭」があっても受験学力に自信がない人はICUも受験してみてはと思う。学費が高くて両親には迷惑をかけたが、いい4年間を過ごさせてもらった。奨学金制度も給付型を含めて複数ある。ランダムファイブで選ばれるかもしれないと思ってもよい。縁があるといいですね。