- ISAS | 第33回 宇宙科学講演と映画の会 / イベント(http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/event/2014/0412_kouen.shtml)
「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャ、國中均教授の講演がよかった。メモから大体の内容を。
- 途中に入るはやぶさ関係のプレスリリース類はおもに以下から抜粋
- JAXA小惑星探査機「はやぶさ」物語|プレスリリース(http://spaceinfo.jaxa.jp/hayabusa/press/index.html)
- イオンエンジンは栗木恭一先生のもと開発してきた技術
- 推進のためのロケットエンジンにはおもに化学ロケットと電気ロケットがある
- 化学ロケットは燃料と酸化剤を燃焼させ高温高圧のガスを噴射する。使うのは液体水素と液体水素など。ガスの噴射速度は秒速3キロから5キロ程度
- 電気ロケットは燃費がよい。秒速30キロを楽に出せる。必要な燃料は化学ロケットの10分の1ですむ
- サンプルリターンは目的地の星へ行ったあと地球へ戻ってこなければならない。化学ロケットの燃費では難しい
- イオンエンジンは電気ロケットのひとつ。燃料をプラズマ化し、生成されたイオンを電極に引き寄せて噴射する。
- アメリカは1960年代からイオンエンジンを研究してきた。直流放電という方式
- 日本でイオンエンジンの研究が始まったのは1980年代。後発は劣勢だが最新技術を採用できる
- 直流放電の欠点は電極が劣化しやすく寿命が短いこと。生成したプラズマに浸食されて陰極がなくなっていってしまう。これを解消すれば寿命が伸びる
- 長寿命技術の提供が宇宙技術の根幹である
- プラズマを作るのに電極を使わず、マイクロ波を用いるイオンエンジンの開発に入った
- 1989年に最初に完成したマイクロ波イオンエンジンは「Y-1」。Yは相模原の地名の由野台(よしのだい)からとった。ほかにKは駒場、Sは相模原など
- Y-1で原理は証明できた。しかし性能はまったくよくない。効率は20パーセント、1万ボルト必要。このままでは探査機に載せることはできない
- 1990年から1992年にかけて性能アップに取り組み、2001年に「μ-10」(ミューテン)が完成した。効率は80パーセント、200ボルト
- これは若い学生たちの写真。μ-10の完成は研究室に集った彼らの成果
- 「はやぶさ」の開発が1996年に始まった。電力を供給する太陽電池パネルは2.3キロワット。イオンエンジン「μ-10」は4台搭載、推進には3台を使い1台は予備
- μ-10の推進力は8ミリニュートン。地上で1円玉にかかる引力は10ミリニュートンだから1円玉を持ち上げることもできない。しかし年単位の連続運転が可能なので実用になる
- はやぶさの打ち上げは2003年5月、2年半かけて小惑星イトカワへ向かった
- JAXA|M-V-5号機の打ち上げについて(http://www.jaxa.jp/press/isas/20030509_mv5_j.html)
- 打ち上げられたはやぶさはいったん地球の周囲を回り、地球でスイングバイしてイトカワへ向かう
- 往路での太陽との距離は最短で0.86天文単位、のち1.7天文単位へと変化する(太陽と地球の距離が1天文単位)。太陽が近いと太陽電池からたくさん電力を得られるので3台の8ミリニュートンのイオンエンジンで定格の24ミリニュートンの推進力。地球スイングバイでイトカワへ向かう軌道に入ると太陽から離れていき発生電力が下がる。4ミリニュートンまで落とした
- イトカワ近傍に到着し2005年8月にイオンエンジンを止めた。2年間イオンエンジンのお守をしてきてこの日往路の仕事が終わった。そこからは推進させなくても慣性で少しずつイトカワへ近づいていく。イトカワは長辺のさし渡しが500メートルしかないとても小さな小惑星。イオンエンジン停止時は小さな点にしか見えなかったイトカワに近づいていくとその姿が明らかになっていく。技術者として至福の2週間だった。これが技術の進歩で得られる成果である
- 2005年11月26日に第2回のイトカワへのタッチダウンを行った。その後姿勢制御スラスタに燃料もれが発生、姿勢を崩して最終的には通信途絶
- JAXA|「はやぶさ」の第2回着陸飛行後の探査機の状況について(http://www.jaxa.jp/press/2005/11/20051129_hayabusa_j.html)
- 2006年1月23日にはやぶさからのビーコン信号を受信、2月25日にはテレメトリ通信が復旧
- はやぶさは姿勢を崩しても回転軸が安定していくよう作られている。はやぶさは太陽の周りを公転している。みそすり運動が収束した状態で公転していれば太陽とのなす角が変化していきやがて太陽電池パネルに光が当たるようになる
- 通信は復旧したが姿勢制御スラスタは全損、リアクションホイールも3基のうち2基が故障。イオンエンジンから燃料の生ガスを噴射して姿勢制御する方法を編み出した
- 帰還直前にはイオンエンジンも故障したためクロス運転を行った。イオンエンジンはイオン源と中和器からなる。スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合わせてひとつのイオンエンジンとした
- JAXA|小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用の再開について(http://www.jaxa.jp/press/2009/11/20091119_hayabusa_j.html)
- はやぶさのイオンエンジンは2003年の打ち上げから2010年の帰還まで累計4万時間の運転を行った
- 小惑星のなにがわかったかについて
- イトカワは2006年と2011年に『Science』誌の表紙になった
- 『サイエンス』特集号そして帰還の途 | 日本の宇宙開発の歴史 | ISAS(http://www.isas.jaxa.jp/j/japan_s_history/chapter09/06/14.shtml)
- JAXA|米科学誌「サイエンス」における「はやぶさ」特別編集号の発行について(http://www.jaxa.jp/press/2011/08/20110826_hayabusa_j.html)
- 観測の分解能という考え方
- これは観測分解能を21桁上げた技術革新といえる
- 行けなかったところへ行けるようになる
- 見えなかったものが見えるようになる
- 『Science』がはやぶさを特集したとき冒頭の記事タイトルは「The Falcon has landed」(鳥のハヤブサは英語でファルコン)。アポロ11号が月に着陸したときアームストロング船長が「The Eagle has landed」(イーグルは着陸船の愛称)と言ったのをもじっている、非常に光栄に感じた
- イオンエンジンについての雑感
- イオンエンジンの開発では信頼性を確保するため2万時間の運転を行った。2年半かかる試験を2回、計5年間
- スコープ外の機能(もともと想定されていなかった使い方)
- 燃料の生ガスを噴射して姿勢制御を行う
- 地球帰還時の精密誘導を行った
- はやぶさの運用中、10年前の新聞が出てきた。「10年後の宇宙開発」というテーマ。しかしどれ一つ実現していなかった
- 未来は決まっていない
- イオンエンジンの開発中はNASAから揶揄された。打ち上げ時は国内からも「日本の技術で戻ってこられるはずがない」の声。しかしその後カプセルは帰還し今は上野の科学博物館に展示されている
- これらの「負の応援」に刺激され、あきらめずにがんばった。挑戦しなくては未来は開かない
- はやぶさ2について
- なぜ2号機をやるのか
- 1号機は成功だったといえるか。サンプルリターンは成功したがさまざまなトラブルを起こしてしまった
- 2号機では行けるところへ行くのではなく、行きたい小惑星を目指す。つまりC型小惑星のこと。1999JU3というC型小惑星へ行く
- 小惑星探査をするのは人間の活動領域拡大のため。ISS(国際宇宙ステーション)は地球の近くでしかない
- 将来人間が小惑星を有人探査するために、まずロボティクス探査をしなければならない
- はやぶさ2での改良点
- アンテナを2つに増設。一つの周波数はX帯、もう一つはKa帯
- リアクションホイールは3つから4つに増やした
- 姿勢制御スラスタの配管を見直し、2系統を完全冗長化。ヒーターも増設。1系統が使えなくなってももう一つの系統を使える設計に
- イオンエンジンの推進力は8ミリニュートンから10ミリニュートンに強化
- はやぶさ2のタイムテーブル
- 2014年末打ち上げ、2018年に1999JU3に到着、1年半かけて探査を行い2019年に帰途につき2020年に帰還
- 探査ではインパクタで小惑星表面に人工クレーターを作りサンプル採取
- はやぶさは小惑星イトカワの表面からサンプルを採取した。宇宙空間に長期間曝露して起きる宇宙風化をとらえた。はやぶさ2では小惑星の内部からサンプルを採取
- 1999JU3について
- 直径1キロほどの球形、C型(炭素型)小惑星。イトカワはS型(石型)小惑星
- 分光観測すると0.7マイクロメートルの吸収帯がある。水に関係する物質があるかもしれない。また含水鉱物は1999JU3の表面にまんべんなくあるわけではないかもしれず、どこからサンプルを採取するか悩ましいことになるかも(嬉しそうに)
- この小惑星はどこから来たか。C型小惑星は火星軌道と木星軌道の間の小惑星帯(メインベルト)に多い。地球近傍の小惑星はS型がほとんど。1999JU3は地球近傍に数パーセントしかないC型小惑星の一つ
- C型小惑星へ行きたいが、はやぶさ2ではメインベルトの往復は不可能。地球近傍にわずかしかないC型小惑星を狙うには打ち上げ可能期間(ウィンドウ)が狭い。その数少ないウィンドウが今年暮れに開く。残り8か月しかないがはやぶさ2の製造は間に合わせる
- 搭載する観測機器を紹介
- ミッションパッチの画像。地球を出発し月や火星の軌道を回って1999JU3へ往復する様子を表している
- 小型ローバー「ミネルヴァ」は前回は切り離しに成功したがイトカワに着陸させることができなかった。今回は3機搭載。小型着陸機「マスコット」も搭載
- 1999JU3はどんな顔をしているのか、早く見に行きたい
- NASAがはやぶさに似た小惑星サンプルリターン計画を立ち上げた。2016年打ち上げ予定のオシリス・レックス
- 日本は小惑星サンプルリターンを成功させたことで初めて追われる立場になった
- 宇宙大航海の時代
- 15世紀から16世紀の大航海時代、オールをこぐガレー船から風で進むガレオン船になり地中海を中心にしたヨーロッパ世界を飛び出した
- 大航海時代は地球表面探査の時代。これを宇宙でやりたい
- そのひとつが月周回衛星「かぐや」
- 月物質であるチタンや鉄、ウラニウム、カルシウムの分布図を我々は持っている。自前のデータとして知ることができる。これを知っているのと知らないのとでは大きな違い。月のどこに探査機を下ろせばいいのかを判断できる
- SLS(NASAの火星行き大型有人ロケット計画)
- 最終的には2030年代に火星へ人を送り込みたい
- 今日は若い人がたくさん来ている。そこの君は何歳ですか。15歳。10年後は25歳。小惑星に人を送り込んでいるかもしれない。20年後、35歳になれば社会の最前線で活躍しているだろう。活躍していてもらわなければならない。20年後の宇宙業界でなにをするのかぜひ考えてほしい。宇宙業界を働く場所として考えてほしい
- 大航海時代は15世紀から16世紀。20世紀からは宇宙大航海時代。世界は狭くなった。外へ出ていく宿命にある。かぐややはやぶさ、はやぶさ2はその先鞭
- さまざまな電気推進方式の紹介
- 小さな技術革新が世界を先導し次の未来を開いた
- これが最後のページ。「ゆっくりでも止まらなければけっこう進む」。ありがとうございました
- 質疑応答(質問者は小学生や中学生くらいの子供が優先的に指名されていた)
- Q:1999JU3に人工クレーターを作ると小惑星の軌道に影響はあるか
- A:この小惑星は直径1キロほどと大きいので大丈夫
- Q:地球スイングバイのときにほかの人工衛星にぶつかったりはしないのか
- A:可能性はゼロではないのでよくよく解析する。特に人がいるISSにぶつからないようにしなければならない。スイングバイの高度は高いのでISSにはぶつからないが、はやぶさでカプセルを落とすときはISSにぶつからないか調べた。
- 司会の阪本教授:はやぶさの帰還の時、ISSで受け止めてはという意見をずいぶんもらった。速度がまったく違うのでもしISSで受け止めようとしたら映画「ゼロ・グラビティ」そのままになる
- 参考:「ゼロ・グラビティ」は物理的には問題あれど演出がたいへんすばらしい - Imamuraの日記(d:id:Imamura:20131223:gravity)
- A:ISSは地球を周回する第1宇宙速度(秒速8キロ)、はやぶさは太陽を回る第2宇宙速度(秒速11キロ)で戻ってくる
- Q:はやぶさのイオンエンジンで得られた加速量の合計は
- A:秒速2キロ加速した
- Q:1999JU3に名前はつくのか
- A:たぶんつける。命名権はJAXAにはないが、命名権を持っているところに「我々が行くので名前をつけさせてほしい」とお願いはしている
- 阪本:公募するとか?
- A:そういうことを言うと大変なことになる!
- Q:先日のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」ではイオンエンジンに霧吹きで水をつけて試験していたがあればどういうことか
- 國中均(2014年4月7日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀(http://www.nhk.or.jp/professional/2014/0407/index.html)
- A:たいへんすばらしい質問。霧吹きで水をかけても壊れないとうたっているイオンエンジンは世界にこれしかない。イオンエンジンは真空中で使うものだが人工衛星に組み付けるときなどは空気に触れる。また打ち上げ後、接着剤からガスが出てイオンエンジンの中に入ってきたりすることがある。キセノン以外のガスを吸い込んでも壊れないことを確認するためそのような実験をした
- Q:インパクタの素材はなぜ銅なのか
- A:インパクタはもともと「(」の形にへこんでいる。(この左側で)火薬を爆発させると「)」の形にふくらんで、(右方向へ)飛んでいく。この形状変化は銅に展性があるため向いている。EFPという技術。アルミや鉄でインパクタを作ると爆発の衝撃でちぎれてしまうだろう
- 阪本:採取したサンプルを解析するとき、インパクタが含まれていても銅なら地球から持って行ったものと判断しやすい
- Q:はやぶさを作る仕事に就きたい。未来のはやぶさ計画は
- A:宇宙計画は多くのお金がかかる。宇宙でやりたいことはたくさんある。日本が独自に行うのか、世界と協力して行うのかの判断もある。自分はソーラーセイルをやりたい。帆に太陽電池を張ってイオンエンジンを動かしメインベルトに向かう。しかし技術があるだけではモノは完成しない。技術を組み合わせてシステムにしなければならない。大きな計画を行う前には小さな規模で練習する。相乗り衛星の枠を利用するなど
- 阪本:これからの未来は君たちが自分で決めていってほしい
(以上)
参考
- 小惑星探査機「はやぶさ2」報道公開と記者説明会 - ただいま村(http://ima.hatenablog.jp/entry/2012/12/26/160000)
- はやぶさ2の関連記事をまとめ読み:https://ima.hatenablog.jp/archive/category/%E3%81%AF%E3%82%84%E3%81%B6%E3%81%952