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小惑星探査機「はやぶさ2」報道公開と記者説明会

はやぶさ2について

はやぶさ2の公式サイトはどこを紹介したらいいんだろう。

登壇者

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  • はやぶさ2プロジェクトサイエンティスト 渡邊誠一郎
  • はやぶさ2プロジェクトマネジャ/JSPECプログラムディレクタ 國中均

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中継録画

(3分30秒すぎに始まります)

配付資料


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質疑応答

毎日新聞のだ:2ページ、新たなミッション追加について。なにをどのようにぶつけてサンプルを採るのか

渡邊:小惑星に銅で作った玉をぶつけて内部の新鮮なサンプルを採取。1999JU3は直径20キロの天体が小さく壊れたものと考えられている。クレーターのできかたは小天体の衝突過程を知るのに重要。カメラで撮影する。

國中:秒速数キロという加速でぶつける機材を開発中。

のだ:2回着陸する?

國中:はやぶさ同様、複数回の着陸を計画。まず、はやぶさと同じ自然なままの表面に降りるのを数回。さらに衝突装置をぶつけたあとそのクレーターから採取するのも考えている。

渡邊:小惑星から離れた位置から衝突体を分離、はやぶさ2がよけてから爆発。落ち着いてから戻ってクレーターからサンプル採取。

國中:はやぶさは3か月しか滞在できなかった。今回は1年半滞在できる。

NHKはるの:プロジェクトサイエンティストを引き受けた経緯など

渡邊:10月に加わった。日本惑星科学会の会長もやっていてはやぶさ2のサイエンス的意義を確かにして支援の輪を広げていきたい。初号機をやった人が次もやるという意識が強かったので、それ以外の人にも参加していただくよう意識を変えてもらった。ここ1年ほど。その結果わたしが加わった。専門は惑星形成論。惑星がどうできてきたか。小惑星の科学をするだけでなく、小惑星を探査することで惑星全般の科学を解明することが重要。そのために専門を活かせるだろう。

(今村の所感:ISASにおいては若手を育てるため、探査機をひとつやったら次は後進を背後から支えるようにしている印象が強い。惑星科学ではそういう流れが主流ではないのかもしれない)

朝日新聞たなか:予算の確認。314億円に変更はないか

國中:H-IIAでの打ち上げから2020年地球帰還までの運用費をすべて含めてその通り。

読売新聞ほんま:イオンエンジンの推力増強について。何をどうやってどの程度増強するものか。また2014年を逃したときのウィンドウについて

國中:はやぶさは2003年打ち上げ。その後も研究開発を行ってきて推力増強に成功した。はやぶさで確立した知見や経験を活かしていく。それまでのヘリテージ、資産を温存しつつ推力を上げた。はやぶさイオンエンジンは8mN、はやぶさ2イオンエンジンは10mN。
打ち上げタイミングは2014年12月を想定。これを逃すと半年後、次は2015年12月。軌道はあるということ。いずれも到着は2018年。打ち上げ後の加速をイオンエンジンで補う。打ち上げが遅れるとイオンエンジンに許される時間が短くなっていく。ノルマが上がっていく。2014年末打ち上げでは80パーセントの稼働率で行けるが15年12月の打ち上げでは96パーセント必要。1週間に7時間しか休めない。地球との通信などを考えるとほとんど限界いっぱい。打ち上げが半年遅れるごとにだんだん敷居が上がっていく。是が非でも2014年12月を確保したい。

産経新聞くさか:タイムスケジュールについて。はやぶさ2本体は今後どういう工程を経て作られていくのか

國中:いま相模原で機械環境試験。だいたいの形骸ができてきた。それをご覧いただく。年明けにつくばへ持って行き音響試験。現状はダミー機器がとりつけられている。重さや大きさを見るもの。5月ごろには搭載品も含めてほぼ完成に近い形状ができてくる。ここで電気噛み合わせ試験。分解しコンポーネントの試験をし再度来年の12月にコンポーネントを集めて組み立て。総合試験、振動試験、熱環境試験などを行い2014年夏に完成するつもり。公開のタイミングとしては完成品に近づいてきてクリーンルームでの取り扱いが必要になる。近くでみていただくのは難しくなっていく。今日は精密な機械は搭載されておらず近くに寄って見ていただくことができる。

くさか:打ち上げ時期について、ウィンドウの詳しい時期は

國中:2014年12月を目指している。

JAXA広報:質疑応答はいったん終了、吉川真ミッションマネージャに残っていただくので質問があれば直接どうぞ。

ぶら下がりで聞いたこと

回答は吉川真ミッションマネージャ、一部は阪本成一宇宙科学広報・普及主幹によるもの。

わたしの聞き違いなどで間違っている可能性があります。その点ご了承ください。

  • はやぶさ2」は計画時の名前。打ち上げ直前や打ち上げ後に別の名前にするかは未定。新しい名前にしてもよいが「はやぶさ」の名前も捨てがたい。なお初代は打ち上げ前のコードネームは「MUSES-C」だったが、はやぶさ2にはそれにあたるコードネームはない
  • 噛み合わせ試験とは、それぞれの機器を組み合わせたとき互いに通信が成立し、電気的にきちんと動作するかをチェックするもの。物理的な干渉をチェックするものではない
  • リアクションホイールは4つ搭載。XYZにもうひとつZ軸を加えた配置。はやぶさはZ軸のリアクションホイールが壊れると致命的なので、そこに冗長性を持たせた
  • リアクションホイールは今回もアメリカ製。ただし初代はやぶさでは3つのうち2つが壊れたため実績があるものを選択。初代の運用で得られた知見をもとに、往路の運用負荷を減らす工夫が考え出されている
  • 初代はスラスターが全損した。着陸時の衝撃などが遠因と考えられている。対策としては配管の改善など。2系統の配管が近くにあったため両方凍ってしまった。引き回し方を変えた
  • 1999JU3と地球との位置関係はおおむね5年ごとに打ち上げに向くようになる。初代や2014年の打ち上げでは探査機が小惑星に到着したときの太陽との位置関係がよく小惑星-太陽-地球が一直線に並ぶ。探査機は太陽電池で発電しつつ地球とも通信ができる。2019年の打ち上げでは太陽との位置関係が悪いため発電時に通信できないなどリスクが上がる
  • 地球近傍の小惑星は9割がS型、1割がC型。火星と木星の間にある小惑星帯(アステロイドベルト)はC型が豊富だが現在の人類の技術ではそこへのサンプルリターンはできない。OSIRIS-RExも地球近傍の小惑星へ往復する計画
  • ミネルヴァは今回3機搭載。さらにドイツの小型ローバー、MASCOTを搭載する。MASCOTの小惑星上での移動方法はミネルヴァに近く、おもりを回転させた反動を利用する
  • ターゲットマーカーは5つ搭載。88万人の名前を集めて初代のターゲットマーカーに載せた「星の王子さまに会いに行きませんか」(http://www.isas.jaxa.jp/j/japan_s_history/chapter09/06/02.shtml)のような企画は今回も考えている
  • 1999JU3にも「イトカワ」のような名前をつけたいと考えており、命名権を持つ側と交渉する。しかしどんな名前をつけるか、いい案がなかなかない(記者から「イトカワ2」ではどうか、という冗談あり)
  • H-IIAロケットは地球低軌道や静止軌道人工衛星を打ち上げることに特化したロケット。他惑星へ向かう探査機の打ち上げには向かない
  • 金星探査機「あかつき」の打ち上げでは打ち上げ時の震動環境を改善するため約500キロのおもりが必要だった。そこでサブペイロードとしてIKAROSを搭載、大きな成果を上げた。今回もおもりは必要だが重さはもっと少ない。サブペイロードの計画も現時点では立っていない
  • 小惑星にクレーターを作る衝突装置は20センチくらいの円筒形で、はやぶさ2の下部に搭載していく。それ自体はターゲットマーカーと同様、推進力を持たない。ただし切り離し時に衝突装置に与える初速はごくわずかで、小惑星のわずかな引力でゆっくり下りていくイメージ。切り離し後、はやぶさ2が爆発から退避する時間をなるべく長くとるため
  • 衝突装置の爆発の様子は、はやぶさ2本体からは直接とらえられない。IKAROSの分離カメラ(DCAM)のような装置を搭載して、爆発の様子をとらえることも考えている
  • 衝突装置の爆発は遠隔操作ではなく確実性の高いタイマー起動方式。はやぶさ2からの切り離しは爆発の数時間前を考えている。小惑星の質量や引力の大きさは行ってみないとわからないため詳しい運用シーケンスは現地の情報をもとに作成
  • 衝突装置は小惑星の上空数百メートルで爆発し、円筒の下面が放物面に近い形にふくらみながら衝突体として小惑星の表面に激突する。速度は秒速2キロほど
  • 衝突装置が小惑星の地面で爆発するとさまざまな物質が小惑星の表面についてしまいサンプル採取の条件が悪くなる。小惑星の表面に当たる衝突体以外のものはなるべく小惑星から遠くにとどめたい
  • 衝突体は銅でできている。小惑星に直接当たる物質は、サンプル解析時に人工物と判断して取り除けるものにしたい。そこで小惑星にはまず存在しない銅を選んだ
  • 衝突装置の爆発によるクレーター作成は探査期間の終わりに予定している。そのころには運用にも慣れていて、はやぶさ2は爆発から確実に退避できるだろう
  • サンプラーホーンの改良点として、先端の内側に小さく返しをつけている。タッチダウンでそこにわずかでもサンプルが乗ることに期待する。上昇後急ブレーキをかければサンプルが舞い上がり、カプセルに入れることができるだろう
  • カプセルは3室に増築
  • はやぶさ2の丸い大きなアンテナはひとつが初代と同じX帯アンテナ、もうひとつが新規搭載のKa帯アンテナ。X帯アンテナの4倍の速度で通信できる
  • Ka帯アンテナの通信局は日本にはない。アメリカのDSN(Deep Space Network:深宇宙ネットワーク)やESAのアンテナを借りる予定
  • 地球にカプセルを届けたあと、探査機本体を燃え尽きさせずにエキストラミッションに旅立たせることは初代では果たせなかった。はやぶさ2ではぜひ狙っていきたいが具体的な目標はこれから検討

國中均プロジェクトマネジャからの回答。

  • X帯アンテナの通信速度は地球との距離で変化するが目安として8kbps。Ka帯アンテナは32kbps。これらは高利得アンテナ(ハイゲインアンテナ)で小惑星での観測結果を送信する。低利得アンテナの通信速度の目安は初代と同様8bps(今村註:単位の間違いではありません)
  • はやぶさ2でも回収カプセルはオーストラリアのウーメラ砂漠に落とす
  • カプセルの改良点として気密を保つためにゴムのOリングではなく金属シールを採用。C型小惑星有機物などが存在すると期待している。地球の物質と混ざってしまうこと(コンタミ)をできるだけ少なくしたい。カプセル回収後オーストラリアでカプセル内のガスを抽出することも考えている

津田雄一さんから聞いたこと。

  • H-IIAに搭載するおもりが少なくすむのは、打ち上げ時の振動環境をおもり以外で改善するめどが立ったため。具体的には免震装置をつける

宇宙研の展示室にある、はやぶさ2の模型は下部を鏡で見ることができます。5つの小さい球がターゲットマーカー、ターゲットマーカーが取り囲んでいる円筒が噂の衝突装置です。
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機体公開

これから振動試験を行うとのこと。今のところ主構造体と太陽電池パネル、サンプラーホーンなどが実機。そのほかは重心が実機に近くなるようダミーウェイトが取りつけられています。

立っている人は身長180センチだそうです。正面のひし形はイオンエンジンのダミーウェイト。

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本体右下にたたまれたサンプラーホーンが見えます。

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本体左側にある銀色の2段の円柱は回収カプセルのダミー。

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関連リンク

今回の報道公開についてのエントリ
はやぶさ2について
はやぶさはやぶさ2を作る組織について

追記

機体完成時にも機体公開がありました。