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「ゼロ・グラビティ」は物理的には問題あれど演出がたいへんすばらしい


地球低軌道にいるISS付近で船外活動(EVA)をしていて事故が起きるという内容の予告編を見て、ついに宇宙での軌道をわかりやすくかつ面白く描く映画を見られるのかと思ったらそんなことはなかった。宇宙では相手に追いつくには減速するなど、地上での直感とはいろいろ違うところがある。そのあたりの描写の正しさが面白さにつながっていることを期待していたのだがすでに見た人から「作用・反作用のレベルでおかしいところがある」と聞いた。じゃあそういう期待はやめて、いちいち目くじらを立てないようにしよう。そう思って見たのであまり惑わされずにすんだ。

でもやっぱり言わせてほしい。たとえば山岳ものの物語では遭難すると、ザイルでつないだ者どうしに葛藤が生まれる場面がよくある。相棒を助けるために自分が犠牲になるのか。それに似たことがこの映画でも起きるのだけどそこは宇宙であって山ではない。ゼロ・グラビティの場所では発生しないはずの葛藤が葛藤として描かれてしまっている。

この場面に限らず、サスペンスを生じさせる状況のいくつかが宇宙ではそもそも物理的にあり得ない。ヤマトやガンダム的な宇宙観では、宇宙船などは宇宙にぷかぷか浮いている。場合によっては地球の任意の地点の上空に静止していると思う人もいるかもしれない。それが地上で暮らしている我々の実感だが宇宙ではそういう状況はそもそもありえない。うーんうーん。

宇宙を正しく描くと同時に物語を面白くするのはまだ難しいのだろうか。いやそんなはずはない。あさりよしとおさんのマンガ「アステロイド・マイナーズ」は地上と宇宙の感覚の違いそのものをコメディにしている秀作である。

アステロイド・マイナーズ 1 (リュウコミックス)

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アステロイド・マイナーズ 2(リュウコミックス)

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ゼロ・グラビティ」でも宇宙的に正しいサスペンスを見ている人にわかりやすくお膳立てできたのではないかなあと、とてももったいない気持ちになるのだった。だからこの映画を観てから宇宙に行っても、同じ状況で同じことが起きるとは思わない方がよい。

そういうところは残念だったが映像は予告編を見るだけでもわかるようにものすごくすごい。

この映画では宇宙という場所がいかに過酷かという演出にものすごく力が入っている。それは映像だけではなく音響もそうで、そこにいる登場人物が聞くであろう音をできるだけ再現しているところがよい。機械式ドライバでねじを回すときは腕を伝わってくるグーンというくぐもった振動が音として聞こえるし、空間に空気が満たされていく場面では音そのものが少しずつ聞こえてくるようになっている。この映画はCGがクローズアップされがちだけれど、音もすごく気を遣っている。長回しの多用も独特の雰囲気を作り出していた。

今回はIMAX 3Dではない3D映画館で観たけれど、IMAX 3Dでもう一度観てもいいなと思う映画だった。そうそう、ジョージ・クルーニーの吹き替え声優がちゃんと(「ER」の)小山力也だったのがERファンにはうれしかった。

それにしてもアルフォンソ・キュアロン監督は邦題に恵まれない。前作「Children of men」はB級SFみたいな「トゥモロー・ワールド」にされてしまうし、今回の「Gravity」も「ゼロ・グラビティ」にされてしまった。「ゼロ」がつくかどうかは小さな違いだが、観終わるとこの邦題はふさわしくないとわかるようになっている。

トゥモロー・ワールド」も劇中で説明はしないが見ている人にはちゃんとわかる演出が多くて好きな映画ですおすすめです。

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追記:微小重力について学べる動画

04:15くらいに「宇宙空間に行っただけで、微小重力環境になる訳ではない…」というトピックが始まる。


さらに追記

専門家からの愛あるツッコミ集。山岳映画ライクなあの場面については言及がなく、ちょっと自信がなくなってきた。でも間違ってはいないはず。