夕べ、ロフトプラスワンでこんなイベントが開催された。
未知へ挑むエンジニアリング「クレイジー☆エンジニアNIGHT!」
透明人間を実現した「光学迷彩」、未来の電話の一形態「RobotPHONE」、皮膚感覚を損なうことなくタッチパネルのような平らな面で凹凸感を表現する「SmartFinger」、本当は吸っていないのに吸っている感覚になるストロー!?拡張現実感技術を用いた新たな道具「SmartTools」等々を研究しているサイエンティスト・稲見昌彦。大ヒット・メールソフト「ポスト・ペット」を生み出し、一人乗りジェットグライダー作製プロジェクト「オープンスカイ」を行っているメディア・アーティスト・八谷和彦。『我らクレイジー☆エンジニア主義』(リクナビNEXT Tech総研)で出会った博士たちが登場。
このお二人をお呼びして稲見博士の研究発表、八谷氏のオープンスカイを紹介しつつ、そのエンジニアリングを垣間見ようというイベント。
- 【出演】稲見昌彦
- 【Guest】八谷和彦
- Open18:00/Start19:00/¥2000(飲食別)
- http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s01100.jsp
- 稲見先生の研究室:「電気通信大学 知能機械工学科 ヒューマンインタフェース分野 稲見研究室」
- →稲見先生はこんな人
- インタビュー:「「光学迷彩」で透明人間を工学的に実現した稲見昌彦/Tech総研」
ではさっそく光学迷彩の写真を。マントを着ているのは八谷さん(id:hachiya)。
マントは反射材の原理でできている。自転車の後ろとか、工事現場で誘導の人が使っているたすきといったあれ。やってきた光をその方向へ反射する。このマントに向けて、プロジェクターで背景の映像を投射して透明に見せる。
なので現在は、プロジェクターの方向から見たときだけこういう効果を出せるという状態。
(光学迷彩を見て驚いている人と、ちょっと外れると普通のマントにしか見えない状態をワンフレームで撮っておけば、機器の様子も含めてわかってよかったかも)
今回のイベントは、こういったデバイスを実際に体験できるのが売り。
ストローでなにかを吸い込むときの音や振動、かかる圧力を測定しておき、それを再現する装置。
半熟の卵焼き、プリン、かき氷、ラーメンの汁、ビールの泡、カレー、納豆、キャビアなどなどをセンサーつきのストローで実際に吸い、情報を集める。
それをストローデバイスに再現したものを吸ってみる。視覚、嗅覚、舌への触覚といった刺激がないにもかかわらず、驚くほどリアルに「吸っている」感を得られた。
裏を返せば、人間の「吸う」感触はわりと簡単にだませるというか、脳の補正が強く利いていることになるだろう。
鼻をつまんでジュースを飲むと、味がよくわからない現象に似ている。
こういうのはまさに「百聞は一見にしかず」、言い換えれば「百聞は一感にしかず」であって、やってみるとすごく面白い。
ほかにも、いくつかの装置のデモが行われた。
耳の後ろに電極をつけて電流を流す装置。三半規管がだまされて、自分が傾いているように感じたりする。(ので、体が傾いたりまっすぐ歩けなくなったりする)
実は八谷さんも以前、原理がちょっと違う同じような装置を作っていたそうだ。
八谷さん「藤谷文子さんが来てますので、最初は彼女にやってもらいましょう。男性より女性のほうが、反応が大きいことが多くてわかりやすいです」
これは大成功。さすが八谷さん、見せ方のちょっとしたコツをよく知っている。
ペダル部と電極部を、それぞれ別の人が担当する。ペダルはサンダル状になっていて、右を踏み込むと電極担当の人は右が傾き、左を踏めば左に傾く。
ここだけ見ると怖いけれど、たとえば後ろから車が来たとき自動的によけたりできるかも、という動画が紹介されると面白いと感じる。また、音楽に合わせて電圧(電流かも)が変わるようにすると、周囲の風景が振動して見えたりする由。
稲見先生「ある人がうっかり強力な電気を通してしまったことがあり、『光が見えた』と言っていました」
八谷さん「電気を強くすると、味を感じるようになるらしいですね」
続いて、上を向くように置かれたディスプレイ(昔の喫茶店ビデオゲーム式)の上に置いた小型ロボットが、画面上のアイコンに合わせて動く装置。3つの小型ロボットが、画面上のカルガモをヒナのように追いかけたりする(「フリッキー」だ)。小型ロボットという現物が動くと、説得力がまったく変わる。
熊のぬいぐるみの腕や足を動かすと、画面内の3Dモデルの熊も動く装置。それだけでなく、画面内の熊の腕や足を動かしても、その動きが熊のぬいぐるみにフィードバックされる。
八谷さん「センサーとアクチュエータが一緒に入っているわけですよね。入力と出力が同じところがすごい」「ポストペットの『モモ』も熊なんですよね。熊って二足歩行するし人間に少し近い。人間が親近感を抱きやすいのかも」
ほかにも、1つの熊のぬいぐるみを動かすと、遠隔地にある別の熊のぬいぐるみも同じ動きをするなど(これは会場では動画で紹介)。
プレゼン画像の中に、ぬいぐるみの頭を取って棒状のセンサー+アクチュエータがむき出しになっているものがあった。体は熊のぬいぐるみ、頭は黒い棒一本。会場全体がどよめき、見てはいけないものを見てしまった雰囲気に。この感触は、人の死体を見たときと近いように思った。
- →「ロボッティック・ユーザ・インタフェース」
- 紹介記事:「【レポート】コンピューターを使って、未体験の新しい楽しさを創る | 家電 | マイコミジャーナル」
どれも五感を拡張したり錯覚させたりで刺激的。こういうものを見られるのなら、理工系の大学祭へ行くのも楽しそうだと思った。宇宙研の一般公開に行くような感じ。
イベント終了後の打ち上げにまぜてもらった。
八谷さんに「視聴覚交換マシン」を今のデジタル技術で安く作れるか、と聞いたら「デジタルにすると少し遅延が起きることがあって、それが違和感を生むだろう」とのこと。
稲見先生「数フレーム遅れるだけで違和感が出ますね」
それを引き取って、来場していた佐藤大さんいわく。
今の3DCGアニメーションは、2Dらしい味をいかに出すかが重要になっている。たとえばトゥーンシェードした3Dアニメーションの元動画から、数コマを手作業で取り去るなど。そうしてタイミングを作っている。面白いのは複数人での動画チェックで、「こっちのタイミングはよい、こっちはちょっと」という意見が分かれることはない。
とのこと。
このあたり、人間の視覚は鋭敏な面と鷹揚な面があることになる。錯覚の利用という点で、アニメーション技術の進展は今回見た機器につながるものがありそうだと思った。
(6月12日記)