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正直マンガ『GANTZ』はFPS

【元記事:正直マンガ『GANTZ』はFPSd:id:manpukuya:20061207:gantz

奥浩哉のマンガ『GANTZガンツ)』って面白いよね!

ヤングジャンプで、「GANTZ」の連載が再開された。これに合わせて、今までの連載を最初からまとめ直した総集編(アフタヌーンみたいな体裁の)も順次発売されている。

いい機会なので、「GANTZ」の面白ポイントについて語らせてください。

GANTZ」は欲に正直

GANTZ」の物語は、死んだ人がマンションの一室で甦って…いやいやそういう背景説明は面倒だ。

つまり舞台は現代、主人公は普通の男子高校生なのだけど、「ガンツ」という謎の存在から武器やパワードスーツを受け取って、強力で怪物的な敵と戦うはめになるという話。「ガンツや敵はいったい何者?」という部分は物語全体を包み込む大きな謎になっていて、そこは連載でもまだ謎のままだ。

とにかく主人公たちはその戦いに巻き込まれて、強い敵を倒さないといけなくなったので倒す、そういう単純な話である。

で、物語の中で強調されるポイントがいくつかある。

  • ガンツ」が提供する武器やパワードスーツは、人類のテクノロジーを超えている。銃は誘導弾が出たりするし、人間がパワードスーツの力で何メートルもジャンプしたりできる。
  • しかし敵も人間離れした強さであり、主人公たちの人間グループ側にはわりと簡単に死人が出る。それもけっこう残酷な死に方をする。相手は人間じゃないからしょうがない。
  • 主人公周辺の恋模様は、なかなか下品にしっかり描写される。いかにもヤンジャン、そして奥浩哉ならでは。

つまりこれらは、ヤンジャンの主たる読者である、10代後半から20代の男子が持つ単純な欲望をストレートに反映している。

  • 超人的な力を身に付けて悪者をやっつけたい
  • 人が死ぬところを見てみたい
  • カワイイ女の子といいことをしたい

GANTZ」には、これらのすべてが存分に盛り込まれている。そこがいっそ潔く、とても正直でよろしい。頭をカラッポにして楽しめてよいと思うのだった。

GANTZ」の作画環境とFPS

GANTZ」は背景も人物もよく描き込まれている。そしてパースは正確だし、書き文字のエッジも手描きとは思えないほどパキッとしている。そこもまた、このマンガの魅力である。

単行本の1巻の巻末には、「GANTZ」の作画手順が紹介されている。これが、全部手で描く普通のマンガとはかなり違っていてなかなか面白い。

まず、舞台になる場所の全体を3次元CGソフトでモデリングする。背景の説得力に関わるので、かなり作り込むようだ。人物も、「Poser」という人体モデリングソフトを使ってポーズをとらせる。(追記:Poserを使った人体はあくまで背景を作るためのアタリであるとのこと)

次に背景と人体を3次元空間の中で組み合わせて、1コマごとにシーンを作る。マンガ家は、シーン内に表示された人体のポーズを参考にして人物の絵を描く。人物の絵は線画の段階でスキャンし、あとはすべてコンピュータ上で処理される。

背景は、いかにもCGな「面」の絵ではなく、マンガ的な線画として処理される。その上に人物の絵やフキダシ、書き文字などを重ね、トーン処理をすればできあがり。

こうして、きわめて正確なパースのマンガができるわけである。書き文字が、定規とペンではまず不可能なほどまっすぐな直線で描かれているのも、コンピュータで作画しているからだ。

で、そういう環境で描かれるマンガの内容はというと、特殊な武器と超人的な身体能力を持つ人間が「敵」を倒すというものなのである。これって「DOOM」や「Quake」、「Halo」、「メトロイドプライム」などのFPSのゲームそのものではないか。

3次元空間の中を動き回り、いろいろな武器を使い分けて敵を倒す。FPSと「GANTZ」は、そんなところがよく似ている。「GANTZ」では味方が倒されても諦めず、最後にはボスキャラを倒す、そんな戦闘がくり返し描かれる。

奥浩哉はもともと、コンピュータを使った正確なパースの作画に興味があったようだ。それを「GANTZ」というマンガの作画環境に持ち込むことで、作品の説得力が何倍にも増した。

そんなこんなで、目先の物語ではアクションの単純な面白さもありつつ、世界全体を包むルールの謎解き要素もあり、緻密な作画なども見どころだったりして、やっぱり「GANTZ」は面白いなあと思うのだった。

GANTZ 1 (ヤングジャンプコミックス)

GANTZ 1 (ヤングジャンプコミックス)