オープンソースの画像生成AIをセットアップから使い方まで解説する『Stable Diffusion AI画像生成ガイドブック』(ソシム刊)発売中(→本のサポートページ

ブログの書籍化と、ブログを書くこと・腰の軽い編集者・Amazonからのメール

【元記事:ブログの書籍化と、ブログを書くこと・腰の軽い編集者・Amazonからのメール:d:id:manpukuya:20060928:ihin

★現実ブログ!!『現実にある出来事の紹介』」という、遺品整理の仕事をルポするブログが本になった。

孤独死した人が住んでいたゴミ屋敷の整理とか、自殺した人や殺された人の生々しい痕跡が残る部屋の掃除とか、非日常的でありながら隣のお宅で今日あってもおかしくない、独特の距離感を感じるエピソードがたくさん紹介される。

そこに登場する人(またはもういない人)のそれぞれに、それぞれなりの人生や事情がある。筆者はそのすべての人への敬意をいつも忘れず、「天国への引っ越しのお手伝い」という仕事をしている。

実はこのブログ、筆者が自分の意志で始めたものではないそうだ。そのあたりの経緯が、この記事に紹介されている。

これによると、吉田社長が話す興味深いエピソードに聞き入った人たちが「『ぜひブログで情報発信した方がいい! 私もそのブログ読みたい!』と吉田さんに訴えました」とある。そして吉田社長は、すぐに上のブログ「現実にある出来事の紹介」を開設したのだった。

このブログはすぐに評判になるのだが、ポイントは吉田社長がブログを「請われて作った」ところだ。

ブログを始めたいと思う人はまず最初に、どこで悩むと思うだろうか。どのブログサービスを使うとよいか? HTMLの書き方? トラックバックってなに? いやいや実はそれ以前の段階、「なにをテーマにブログを書くか」で壁に当たっちゃうのだ。

自分がどんなネタを持っているのか、自分のこととなるとかえって出てこない。どんな話を書けば、読者に喜ばれるのかがわからない。だから多くの場合、身辺雑記や時事ネタへの感想、Webで話題になったページの紹介といった、ノンテーマなブログになる。

[書影:HTMLとスタイルシートによる最新Webサイト作成術]以前に執筆と編集を担当した本『HTMLとスタイルシートによる最新Webサイト作成術』(ISBN:4767802504)では、第1章をすべて使って「テーマの見つけ方とページ構成の作り方」を扱っている。ネタ出しの方法としてブラウザのブックマークを見直す、ふだん人によく話す話題がないか思い出す、などを紹介し、また記事の構成や内容は想定する読者に応じて変える、といったことを解説している。

多くのHTMLの入門書は、これから作るサイトの内容や構成が、すでに決まっていることを想定している。しかし、実際にこれからWebサイトを作る人の希望は多くの場合、「なにかサイトを作ってみたい」であって、「これを紹介するサイトを作りたい」ではない。だから本を書くときに「ネタ出しの方法」から始めたのである。

ブログも同じだ。多くの人にとってWebサイトやブログとは、「目的のためには手段を選ばない」ものではなく、「手段のために目的を探す」ものなのだ。

(実はネタ出しや構成作りは、編集者の普段の仕事である。この話はまたおいおい)

「キーパーズ」の吉田社長が幸運だったのは、遺品整理の仕事はブログのテーマになることを、周囲の人々からアドバイスされたことだ。ネタ出しいらずでブログを始めて話題になり、マスコミの取材が来るようになって仕事も増えるという好循環。今回の書籍化で、さらにたくさんの人がこの会社を知ることになるだろう。いい話だ。

さて、その書籍化についてである。

上で紹介した記事「『遺品整理屋は見た』キーパーズ吉田社長のブログ出版記」には、書籍化の経緯も書かれている。出版社の担当編集者にいわく:

もともとは,弊社の若手の販売部員がネットでブログ「実際にあった出来事」を“見つけてきた”ことがきっかけでした。といっても,「遺品整理」にはまったく関係ない「理系(?)」のブログで紹介されていたそうです。

私も,その販売部員のススメで読んでみたのですが,独特の語り口と「隣りの部屋であってもおかしくないリアリズム」のせいで,一気に読み進めてしまいました。その日のうちに,吉田さんの会社に連絡をとった次第でした。そして,その二日後にはお会いしていました。

久米信行の「企業経営に活かすブログ道」 : 「遺品整理屋は見た」キーパーズ吉田社長のブログ出版記

実はその「若手の販売部員」によると、「こんなブログを見つけた、本にしてはどうか」というメールを、社内の複数の編集者に送っていたという。するとわずか10分後にこの担当編集者から「著者にコンタクトを取ってみる」と連絡があり、さらにその15分後にはもう電話をすませ、「いい感触なので企画書を送ってみる」と連絡してきたのだそうだ。

この担当編集者は、社内では一番のヒットメーカーとして有名なのだという。

そして若手社員は、「たまたまかもしれないが、ヒットを量産する編集者はこういうところが違うのだ」と感じたのだそうだ。この腰の軽さ、見習いたいものである。

ちなみに、「現実にある…」を紹介していたブログとは「hard で loxse な日々」(→書籍化についての記事)。

(「現実にある…」を紹介し、出版のきっかけになった)ブログがウチだそうです。

スゲエ!

で、お礼に献本してくださるそうです。

マジで!

だって「紹介」って、たった2行ですよ。

世の中なにが幸いするかわからないと思いつつ。

ありがとうございます。

hard で loxse な日々 | 2006/09

これこれ、これですよ。いろいろなものがつながりあい、一冊の本が作られて世の中に出る。ブログを書いていると、ときどき不思議な縁がいい結果を持ってくる。だから自分としては、なるべくたくさんの人にブログを書いてもらいたいと思うのだ。

この本が出るに際して、もう一つ面白いことがあった。Amazonからのメールである。

Amazonは、「××を買った人にこの商品を紹介します」というメールをよく送ってくる。はいもうおわかりですね。この『遺品整理屋は見た!』を勧めるメールがAmazonから届いたのだった。

ではこのメール、いったいなにを買ったから届いたのか? それは『山谷ブルース』(ISBN:4102901507→紹介記事)。なるほど、確かにこの本を読んだ人なら、遺品整理の仕事にも興味を持ちそうだ。そして少なくとも自分にとって、『遺品整理屋は見た!』は確かに、Amazonの勧めがなくても買おうと思うほど興味がある本だ。

Amazonの、顧客ひとりひとりへの最適化は実にうまくできている。そして、販売機会をいつも狙う仕事ぶりにも妙に感心した。

遺品整理、本の編集、本の販売。『遺品整理屋は見た!』という本の周辺で、それぞれが頑張って毎日仕事をしているのだった。

遺品整理屋は見た!

遺品整理屋は見た!

  • 作者:吉田 太一
  • 発売日: 2006/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)