はてなが提供するグループウェア「はてなグループ」の終了が告知された。
はてなグループは、はてな自身が社内の情報共有システムとして使っていたと聞いていたから意外だ。たとえばこんな感じ。
近藤社長(当時、id:jkondo)がアメリカへ渡っているときのエントリ。はてなグループが活発に使われている状況を知ることができる。
- はてなグループhttp://g.hatena.ne.jp/を利用した社内グループには毎日頻繁に仕事の内容などを書いています。大体毎日10件以上のエントリーを書いている気がします
- 社員は全員これを読んでいて、アメリカと日本で距離が離れている体制を克服し、効率的に仕事を回せるようになっています
- 社員が全員日記を持って更新しているので、これに目を通して、必要な判断をして返事をするだけでも結構な時間がかかります。が、これのおかげでアメリカにいても大体社内の仕事のことは分かります。僕が分かるだけじゃなくて、他のメンバーも、他の日記などを見て回れば社内で何が動いているのかが分かるので便利です
- メインのグループ以外に、プロジェクトごとに分かれたグループが5,6個あり、こちらも定期的に見て更新しています。最近の悩みは、さらにこれを効率的に読んだりするにはどうしたら良いかなあということで、いろいろ考えているうちに何か新しいグループのサービスを作ると良いかもしれない、なんて思い始めています
日記を書く - jkondoのはてなブログ
はてなのコーポレート本部 人事・総務部長の松田光憲氏(当時)へのインタビュー記事。2016年でもこの調子。
はてなでは社内イントラネットとして自社サービスのグループウェアである「はてなグループ」を使っています。個人ユーザー様に提供しているものと同じく、「はてなダイアリー」をベースとした日記投稿システムがありますので、そこに皆が日々書き込みをしているんです。そこから声が伝わってくるという感じですね。
リアルタイムのやり取りは弊社でもSlackを使っていますが、それ以外の日々の伝達はこの日記で行っており、メールを使うことはまずありません。(…)
そしてこの日記は社員であれば誰でも見られるようになっているんです。在宅勤務制度もそこでの書き込みを見て、というのがきっかけでした。弊社は「テキスト文化」が浸透していると思います。皆文章をめちゃくちゃ書きますね(笑) ログもすごい量を残します。
(…)
わたしも新しい人事制度が始まる際には、はてなグループの日記にエントリー記事を書き、社員全員にトラックバック(通知)を飛ばします。一般的な会社ですと一斉メールなどでしょうけど、はてなの場合は、そのエントリーを読んだ人から「はてなスター」が付きますね(笑)
(…)
例えば子どもが生まれました、というエントリーには☆がいっぱい付きますね。単に「今日は休みます」という連絡も、その投稿に上司がスターを付けることで「承認」といった具合です(笑)
(…)
それが業務コミュニケーションのツールですから、ある意味当たり前なんです。もちろんオフィスでの直接のコミュニケーションや、テレカンでのやり取りというのもあるのですが、様々なサービスを展開するなかで、オフィスや職種を跨いだやり取りも沢山発生します。そういったなかで、はてなグループでの「日記」は有効なコミュニケーションツールになっていると思います。
(…)
はてな社内では、この「日記」をフローな情報の投稿先、そして社員名簿やテレビ会議システムの使い方などストック的な情報は日記からも自動的にリンクされる「キーワード」にまとめていくようにしています。
第5回 働き方にルールを定めないのが「はてな流」スマートワーク | スマートワーク総研
社内でそこまで使い込んでいたはてなグループをやめてしまうとなると、じゃあはてなは今どんな方法で社内の情報を共有しているのだろうか。これはぜひどこかメディアが取材してほしい。岡田結花記者に書いてもらうのはどうでしょう。
はてなのサービス終了遍歴
はてなは新しいサービスを作っては終了させるというイメージがある。特に近藤社長の時代はウェブのトレンドに合わせて、はてならしいアレンジを加えたサービスがたくさん投入されてきた。同時にわりとどんどん終了させてもいて、数年以上運営されてきて2014年8月までに終了したのが次のサービスである。
- 2014年8月までに終了したはてなのサービス(終了日順)
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さて、はてなの社長が近藤氏から栗栖氏(id:chris4403)に代わったのが2014年8月。2016年ごろから怒濤のサービス終了ラッシュが始まる。
2014年以降、実験的サービスを提供する「はてラボ」(http://hatelabo.jp/)ではいくつか新しいサービスが公開されたが、正式サービスに至ったものはない。新しいサービスは始まらない一方、既存のサービスをどんどん終了させている。サービス終了の理由として多く挙げられているのは、「システムの老朽化でメンテナンスが難しくなった」というものである。
でもね、はてながサービスを継続するべきと判断すれば年単位のリソースをかけても新システムにリプレースするわけです。下ははてなブックマークのシステムを数年かけてフルリライトしたという発表について。
これはこれですごいことだが、つまり結局は運営の胸先三寸であって必要と思えば続けてくれるのだ。終了の告知にしばしばくっついてくる「開発リソースをほかに集中するため」や「役割を終えたと判断しました」という説明も、実質的にはなにも言っていないのと同じで空しく感じられる。
もちろん会社が運営するサービスなのだから、儲からなければやめるのは基本である。しかし直接の収益にはならなくても会社の宣伝と考えて続ける道だってある。デイリーポータルZだってずっと赤字だそうではないか。でも2002年からずっと続いている。
はてなハイクを終わらせたのは象徴的で、これは単にユーザーが好きなことを書き込む場ではなく、ユーザーどうしの関係が大事なSNSサービスだった。それでもシステムの老朽化などを理由に終了させてしまった。「はてなは10年以上続いたコミュニティを破壊してでも技術的負債を解消しない会社ですよ」というメッセージを発することになった。
- 技術的負債とは
- 改修を続けたコンピュータシステムが複雑な構造になるにつれて増大していくメンテナンスコスト、といった意味。今後のためにモダンなシステムに入れ替える=技術的負債を解消しようとすると多くのリソースが必要になる。技術的負債の解消にかかるコストと結果のメリットを天秤にかけることになるが、増築を重ねた旅館を建て替える話と同様、その判断は難しい。
そして今回の、はてなグループの終了発表である。はてなグループもコミュニティサービスだが、今回もシステムの老朽化や開発リソースの集中を終了の理由に挙げている。どう説明しても、つまりは手をかけるメリットを見出せないということだろうなと感じる。
現在のはてなは、事業の柱を3つ挙げている。
(「決算説明資料」にある「【PDF】2018年7月期 通期決算説明会資料」から)
「コンテンツプラットフォームサービス」「コンテンツマーケティングサービス」「テクノロジーソリューションサービス」はそれぞれ、以下のサービスを表している。その中で、「コンテンツプラットフォームサービス」が我々一般のユーザーが利用しているサービスである。
- コンテンツプラットフォームサービス(BtoC)
- コンテンツマーケティングサービス(BtoB)
- はてなブログMedia(オウンドメディアの構築・運営支援サービス)
- テクノロジーソリューションサービス(BtoB)
人力検索はてなは長年放置されているけれど、ほかの2つのBtoCサービス、はてなブックマークとはてなブログは活発に開発されている。はてなはほかにBtoBのサービスを展開していて、売上高はそれぞれおおむね1/3ずつ。BtoCの比率は昔よりだいぶ下がっただろうが、BtoB事業が堅調なのは会社の安定的な成長を考えると悪いことではない。
はてなは、一般ユーザー向けサービスとして開発を続けるのははてなブックマークとはてなブログだけで、それ以外のBtoC向けサービスの開発リソースはBtoB事業に振り向けたいという意思を感じる。昔のような、一般ユーザーをたくさん集めて面白いつながりを提供するへんな会社ではなくなっていくのだろう。
近藤氏ははてなダイアリーをよく更新していたが、栗栖氏はあまりはてなブログを更新しない(→はてな2代目社長のブログ)。はてながどういう考えで運営されていくのかを知る機会がずっと少なくなってしまったのが残念だ。IR情報から経営方針を知ることはできるとはいえ、UGCサービスも行っている会社の情報発信としては寂しい。
以下はブコメなどで紹介されていたもの。使ったことはありません。
はてなグループからのKibelaへの引っ越しについて書かれた記事を見つけた。
「次回はKibelaを使ってみての感想を」と書かれた「その2」から140日。今こそ「その3」をぜひ!
(追記)↓書いてくださいました!
Qiita:Team
これは有料プランのみ。
どのサービスに移行するにしても手間はかかるし、ついてこられない人もいるだろう。コミュニティのサービスを終了するなら、はてなダイアリーからはてなブログへのインポートのような、手間の少ない移行プランをぜひ用意してほしいものだ。
(上の各サービスは、はてなグループから移行できるようにしたらユーザーが増えるかもしれませんよ)
追記4(2019年10月24日…はてなグループ終了時の運営の方針が少しわかった)
続きを書きました。