日時
- 2024年12月26日(木)11:00~
登壇者
中継録画
- 小型月着陸実証機(SLIM)プロジェクトの総括に係る記者説明会 - YouTube
冒頭言
(國中氏より)
今年1月の着陸以降活動してきた、プロジェクトクローズの処理を進めている。とりまとめも。全体が見えてきたので総覧をお見せする。
配付資料
(以下、坂井氏より)
質疑応答
JSTサイエンスポータル草下:推進系トラブルについて。ブローダウン方式の採用はデメリットも含めてとのことと思う。これは予見、推測はできなかったのか
坂井:メインエンジン、供給系、補助スラスタも用いた試験も行ったがそのときは再現しなかった。気をつけて開発してきたが気づけなかった。新しい知見もあるので今後のミッションでブローダウン方式を採用するための
國中:ブローダウン方式では押し圧が下がっていく。推力可変のスラスタを実現できたと考えている。SLIMは推力を調整する方法として短い時間でオンオフをくり返す。時間積分で推力を可変差せた。ほかにアクセルの踏み方を変えるアナログな推力変化も考えている。その方式へのイントロにさしかかった。
草下:採用したのは軽量化のためか
坂井:軽量化のためにブローダウン方式を採用した。
草下:ほかに採用実績はあるのか
坂井:調圧方式を使っているのが多いと思う。ブローダウン方式でというのは聞いたことがない。
草下:なにが反省材料になるのか
坂井:試験でうまくいっていたので、というのはあった。新しい知見を得られた。軽量化のために攻めた設計をしてほぼほぼ正常に動作させることができたが最後にこういうことがあると初めてわかったというとらえ方をしている。
草下:2段階着陸はサクセスクライテリアに入っていなかった?
坂井:はい。ただし我々としては実証したかった技術なので残念なところではあった。
草下:エンジンのトラブルがなければ2段階着陸はうまくいったと考えている?
坂井:もちろんうまくいくと思って打ち上げているし、そこまでは正常に来ていたのでうまくいっただろうと考えている。
時事通信神田:燃焼試験の時に多くのスラスタが一緒に制御されることは想定していたか
坂井:さまざまなパターンを試験していた。
神田:どういう形を想定しているか
坂井:高精度着陸の知見、経験をまずは伝えていくのが出発点。
神田:探査の高頻度化を実現するには民間にも技術提供していくなどが必要と思うが
國中:宇宙科学研究所のポジションは新しい技術を開発し実証すること。ピンポイント着陸の実現がその成果。月・地球輸送サービスをしたい会社があれば協力するのはウェルカム。我々が月輸送サービスをやりたいわけではないので我々の機材を送り込んで月開発を進める。
海外でそういうサービスがあるという。国内でもあれば
神田:今の段階での採点は
國中:着陸は60点、LEV-1/2がいい成果、マルチバンド分光カメラを加えて63点、越夜の成功で3点加えて66点としてきた。
知見の蓄積ができたこと、探査機のメインカメラの反対側にはSTT(スタートラッカー)があり、それでLEV-1/2の撮影に挑戦した。チームが隠しコマンドを使って努力した。それらしい写真を撮れた。
温度の変化はたいへんすばらしいデータ。地震計や月天文台などの構想がある。それに対してとても有益。将来向けの宝物。そういったことを加えて3点追加の69点としたい。
朝日新聞ささき:学会で発表されたものも含めてどういう成果があったか
坂井:資料の通りくらいしかお伝えできないが…マントルの成分を知ることができると地球のものと比べて似ているのかどうか、ヒントになるのではというのが観測の主目的。月面で観測した岩石の中のかんらん石は月の深いところの岩石とみられている。成分分析を行っている。いま論文を投稿して査読を受けている。
ささき:越夜ができた要因、考えられるものはあるのか
坂井:難しい質問。技術的には大変難しい話。検討していくが答えはなかなかはっきりしないのでは。個人的な感想としてはメーカーの方が丁寧に作り上げてくださったのが功を奏したのかもしれない。
ささき:部品の精度の高さ?
坂井:はい、ほかに電子部品のはんだ付けも温度で故障しかねない。細かいところまで含めて丁寧な仕上げだったのかもしれない。
ささき:SLIMにかけたい言葉があれば
坂井:本当によくがんばってくれた。38万キロ先に旅をして、着陸降下のときは見守ることができなかった。スラスタ異常では自分で判断している。とても感謝している。
ムーン・アンド・プラネッツ寺薗:成果の中に社会的なインパクトを含めていただいたことを本当に嬉しく思います。SLIMはメイン広報をX(旧Twitter)で行っており、閲覧数が数百万を超えるポストもありました。これらは歴史的にも貴重であり、今後の探査広報などでも重要な成果、指針となるかと考えられます。
一方でミッションチームが解散するとこのアカウント自体がなくなるという可能性もあります。
この投稿などを保存することは現在考えておりますでしょうか?
坂井:暖かい質問をありがとうございます。SLIMのホームページで成果や技術情報を公開している。チーム解散後も当面の間は保存する。Xは悩んでいるところ。解散したらアカウントを削除することも考えていたがいろいろな声を聞いて内部で相談中。
NHK水野:技術や知見を民間に提供する話、具体的な話が進んでいるのか。また資料では「国内の」とあるが國中さんの説明では海外も含めるのか。国内ではispaceくらいと思うがどうか
坂井:現段階ではispaceとは話が進んでいる。なにかが決まっているわけではないが具体的な調整をしている。
NHKひらた:スラスタについて地上試験では模擬できなかった理由は
坂井:いくつか要因がある。98%まで正常だったこともあり、なかなか起きえない事象だった。試験では難しかった。実際の燃焼は真空中だがスラスタを組み合わせる試験は大気圧下でしか行えなかった。
ひらた:着陸ミッションではMMXなどあるが同じ方式?
坂井:メインエンジンの本数や方式はだいぶ違うが、ブローダウン方式はMMXでは採用しておらず調圧方式。MMXでもこれをふまえてどうするかを考えてもらえるのでは。
ひらた:ブローダウン方式を採用しているミッションはほかにあるか
國中:運用当初は調圧方式、後半はブローダウン方式に切り替えることが多い。
ひらた:資料15ページ、「LRFがとらえた大きな反射光」とあり、これは強い光が当たっていると思うが問題のスラスタからの噴射光か
坂井:はい
フリーランス荒舩:ミッションを追えての感想は
坂井:挑戦的なミッションに関わることができた。チームもがんばってくれて成果を挙げられた。一生に一度のミッションと思う。
荒舩:次のミッションは
坂井:よく聞かれるが今はなかなか頭を切り替えられずボーッとしている。
荒舩:ミッションのハイライトは
坂井:難しい質問。2つくらいあってまずLEV-2の写真を目にした瞬間。夜8時くらいにチームに見せられて大きな衝撃。いくつかある忘れられない瞬間。姿勢は事前にわかっていたのでそこの驚きはなかったが、宇宙へ送り出したものを本当に宇宙にいるんだと目にしたインパクトがとても大きかった。
ライター林:ブローダウン方式と調圧方式について。ほとんどのミッションが調圧方式を採用している中で軽量化のためのブローダウン方式はどのくらい大きな役割を示していたのか。軽量化における重要性とミッションの難しさについて
坂井:軽量化への貢献度合いを評価するのはなかなか難しい。SLIMのような質量の制約が厳しいときは定量的な評価としてブローダウン方式を採用するべきだろうと考えた。
目標としていたピンポイント着陸と小型軽量化では攻めた設計にチャレンジして、結果としてこのようなことにはなったが着陸できてそうおかしな判断でなかったと思っている。
國中:SLIMは軽量化に特化した設計をしている。構造体を使わずタンク自体を構造体として用いそこに各装置を取り付ける方式など。ひっくり返っても構造を保てたということは評価してほしい。
林:ブローダウン方式での課題はソフト、ハードともクリアできるのか
坂井:手の打ちようはある。配管の作りを変えればここまで圧力が上がることはなかっただろう。
林:LEV-1/2について。ほかに画像を取得していないのか。予定はあったと思うが取得できなかったのだろうか
國中:LEV-1は軌道上でカメラの初期化がうまくいかず起動しなかった。それ以外の機能は動作した。スタートラッカーを使いこなしLEV-1/2の撮影に努力している。露光はうまくいったがピントは無限大。モヤモヤとした写真になったが公開している。
LEV-2も数枚撮れていると聞いているが通信の問題で途中までしか受信できなかったと聞いている。
日経ビジネスもり:資料4ページ。総開発費194億円とあるが人件費も含めると? またコストパフォーマンスをどう評価しているか
國中:人件費は…計算の方法を知らないので…少なくともJAXA職員の給料は入っていない。
ロケットの経費はXLISMに入っているので194億円にはロケットの代金は入っていない。
坂井:ほかと比べて決して高くない、効率的な開発ができたとチームとしては考えている。
もり:SLIMを作るコストと成果との見合いは
坂井:この成果がいくら分とは評価しづらい。期待していた通り、またはそれ以上の成果を挙げることができた。
JSTサイエンスポータル草下:通信ができなくなったことについて太陽フレアの影響はあったのか
坂井:丁寧なフォローありがとうございます。仮説の一つに比較的大きな太陽フレアがあった。保存されているプログラムに異常があった可能性。その可能性は低いと事前にわかっていたが念のためプログラムを地上から送り直したものの結果的に起動しなかった。
少なくともプログラムが書き換わってしまったことはないと思う。
草下:月着陸の醍醐味などを
國中:いよいよアルテミス計画に参加することになった。月をベースに火星へ行く。1/6重力の世界に我々も踏み込むことができた。知見や経験をシェイプアップして月、さらに火星での活動も少しだが見えてきた。SLIMが先駆けになったのだと思っている。
坂井:いろいろ残せたと思う。あえて一つを挙げるなら人材を育てることができたこと。中堅や若手、最初の時からマネジメントして製作し打ち上げて運用できた。彼等が大きな働きをしてくれるだろう。大きな宝を残すことができた。
草下:ispaceが月着陸に再挑戦するとのことだがメッセージは
坂井:同じ月着陸に挑戦する者として難しいと思っている。成功すると大きなものが広がっていくと思う。ぜひ挑戦を続けてほしい。
フリーランス山田ふしぎ:子供たちに向けてメッセージを。ブローダウン方式を再挑戦してもよいと思うがどう思うか
坂井:我々研究者が根っこにあるので、再挑戦するなら新しいことをやりたくなると思う。新しいことを見つけて挑戦していくのは大事だというメッセージを伝えたい。
山田ふしぎ:ブローダウン方式や調圧方式でもない新しい方式はあるのか
坂井:自分の頭の中にはないが科学衛星の制御を自分はやってみたい。自分はそちらに興味が向くと思う。
(以上)