小惑星探査機「はやぶさ2」は、現在、リュウグウの中心から約20㎞上空のホームポジションの位置にいて、先日実施したタッチダウンの際に取得した各種データを順次地球へ送信しています。
今回の説明会では「はやぶさ2」の現在の状況、タッチダウンの結果やサイエンス上の観点、今後の探査活動の大まかな方針等の説明を行う予定です。
この記者説明会の様子をライブ中継(配信)します。
小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(19/3/5)ライブ中継(配信) | ファン!ファン!JAXA!
日時
- 2019年3月5日(火)15:00~16:30
中継録画
配付資料
本日の内容
目次
「はやぶさ2」概要
ミッションの流れ概要
1.プロジェクトの現状と全体スケジュール
2.今後の運用方針
津田:1回目のタッチダウンを無事成功させることができた。注目と応援に感謝。
今後のスケジュール
- 4月1日の週:クレーター生成運用(SCI運用)
- 5月以降:2回目のタッチダウン
津田:次にタッチダウンするとしたらS01領域と考えている。DO-S01はその場所を調査するための降下運用。
S01およびSCI運用の領域
ここまでの内容についての質疑応答
日刊工業新聞とみい:3回目のタッチダウンを行わないのは2回目の結果にかかわらず?
津田:はい。「行わない可能性が高い」と含みを持たせているが、大きな意外な状況が起きない限りプロジェクトとしては2回以内のタッチダウンで十分と考えている。
NHKつつい:SCI運用の場所としてS01を選択した理由は。またタッチダウン時の写真では小さな破片がたくさん舞い上がっているがSCIへの影響はどう考えているか
津田:まず念のため、前回のタッチダウンとS01は別の場所です。
選定基準は2つある。クレーターができやすい場所であること(リュウグウは地域性がないのでどこも合格)、またクレーターを作った後可能ならそこに着陸したいので着陸しやすい場所を選ぶということ。
詳しくは次の記者説明会で資料など用意したい。
つつい:SCIでどんな地形になると思われるか
津田:やってみないとわからない。タッチダウンでもものが相当巻き上がった。これも我々がよく理解しなければならないという状況。クレーターを作ったらどういうことになるのかわからない。作ったクレーターにタッチダウンできるかの評価をきちんとしなければならないのは、今わかることがとても少ないから。
ライターあらふね:最初のタッチダウンで底面の光学系の受光量が低下したというのは、光学系のセンサーにほこりがついたということ?
津田:はい、基本的にはそう考えている。舞ってきたものにはいろいろな大きさの粒子があって、その中のいくつかがついて、結果として光量が落ちている。レンズにゴミが見えているわけではないが光量が落ちているので、まんべんなく何かがついているか、レンズをさえぎるものがついているのだろうと考えている。
あらふね:今後の予定で人工クレーターを作ってからタッチダウンまでひと月ほどあいている理由は
津田:クレーターを作ると舞い上がるものがあると予想している。それがしばらくの間小惑星の周りを取り巻いており、探査機が近づくことができない。晴れるまでおよそ2週間とみている。晴れた後クレーターを観察し、着陸に適しているかどうか1週間かけて判断する。
そのあとタッチダウンできると判断するのに2週間かかる予定だが、2回目もピンポイントタッチダウンの手法をとる。いきなりタッチダウンするのではなく事前に調査してターゲットマーカーを落としてその位置を評価、そこに対して相対的によい場所に下りるという手順を踏むので1か月ほどかかる。
あらふね:人工クレーターのどこにタッチダウンするのかを判断するポイントは
津田:基本的には安全性。最初のタッチダウンと同様、地形の凹凸を評価して探査機が安全にタッチダウンできることを判断してから実行する。NGならタッチダウンしない。
渡邊:クレーターが十分大きくて平らならそこに下りるという可能性も出てくる。それ以外の場所はボルダーがたくさんあるので、その上にイジェクター(?)が乗ったとしても、タッチダウンできる場所の候補になる可能性は低い。そこでS01という、比較的平らな部分がもともとある場所をSCIで狙う。
もしSCIのクレーターに下りられない場合、もともと平らでクレーター生成で舞い上がった物質が落ちたところにタッチダウンすれば、SCIが放出したものも一緒に採取できるのではないかと考えている。
東京とびもの学会金木:タッチダウンの写真で小石などが舞い上がっていたが、あの情報はSCIでどんなものが舞い上がるかを考える参考になるのか
渡邊:詳しくはのちほど話したい。
どういうスケールでどういうクレーターができるか。サンプル採取のための小さいクレーターからSCIでできるクレーター、天然なら100メートル以上のクレーターまである。
それらを比較することでリュウグウの性質やその結果どういうクレーターができるかがわかってくる。SCIの結果どのくらいのクレーターができるのか、現時点ではわかっていない。まさにそういう情報を積み重ねていく。そういう意味で最初のタッチダウンの情報は非常に貴重とサイエンティストは考えている。
毎日新聞永山:3回目のタッチダウンはしない可能性とのことだが、工学的には異なる3か所にタッチダウンするというチャレンジも成果として考えられていたと思う。勇気ある撤退というイメージ?
津田:勇気ある撤退と言っていただけるとありがたいが、チーム全体で議論しロジカルに判断した結果。3回タッチダウンできれば技術的にも大きい成果だが、地球帰還を予定通り着実にこなす方を選択した。リュウグウにいられる期間を考えても2回が限度だろうと。技術的な制約がそこにあることもわかっていたのであきらめざるを得ない。
ただし2回目は行う方向で進めていて、これで技術者的にモチベーションが下がっているわけではない。はやぶさ2の技術としては今までの成果でも十分意義を示すことができた。もちろん技術者としては、やれることはやりたかったという気持ちも少しある。
NHKたかい:前回のタッチダウンは甲子園球場のマウンドにたとえて難しさを表現していたが、人工クレーターへのタッチダウンはどうたとえるか
津田:たいへん申し訳ありません、ぬかりました。用意しておくべきでしたね。次回までの宿題にさせてください。
ライター喜多:CAM-Hの映像を津田さんが見たときの受け止めはどうだったのか(津田さんこのあと中座のためフライング質問ですが)
津田:CAM-Hは寄付金で作らせていただいたカメラ。このあとお見せしますが本当にすばらしい映像が撮れております。なのでご覚悟ください。本当にすばらしいです。
見たときはゾクゾクしました。同時に意外さもあって、タッチダウンはもっと静かに下がって上がると思っていたがそうでない映像になっている。感動もしたしオオッという感じですね。
チームとはいろいろな話をしました。見ただけでいろいろな疑問が起こります。みなさんが感じるだろうことは我々も最初に議論しました。一つひとつの動きが面白いんです。
それからこのようなすばらしい映像を撮ったCAM-Hを寄付金で実現したこと、このようなことができると示せたのは本当にありがたいことと思っている。ありがとうございました。
(津田氏はここで退席)
4.CAM-Hによる画像
吉川:スライドの順を変えて、24ページからのCAM-Hの画像を先に見てもらいたい。
澤田:27ページの動画を見てもらうのがいいでしょう。
「はやぶさ2」搭載小型モニタカメラ撮影映像 / Images from CAM-H - YouTube(https://www.youtube.com/watch?v=-3hO58HFa1M)
(オリジナルの資料は27ページが動画埋め込みになっている。タッチダウンから上昇するところで報道陣から「おおー」という声)
澤田:地表に近いほど撮像間隔を短くしている。動画は5倍速。タッチダウンの瞬間でも1秒1枚だが、サンプラーホーンが変形しているのがとらえられている。直後に弾丸の発射によるものと思われる粒子と、上昇のためスラスターを噴射したものによると思われる粒子が入り乱れて上がってくる。5分40秒ほど撮像。
ここで10ページに戻りましょう。
3.タッチダウン運用の結果
まとめ
吉川:タッチダウンの誘導制御の誤差は1メートル。誇れる結果。
吉川:この黄色い円の中心から探査機の中心が1メートルずれていたということ。右の画像はタッチダウン前のもの。左はタッチダウン点を中心に色が変わっている。これはスラスターの噴射によって小さな岩石やちりが舞い上がったためと考えられる。
降下時
吉川:「ノミナル軌道」は秒速40センチで降下していく計画だったが、後述する事情で降下開始が5時間遅れとなった。降下速度を秒速90センチに速めて対応。
低高度
澤田:ターゲットマーカーが真下に来る時刻は計算でわかる。その約3分前(機上時刻7時7分)に高度45メートルに到達するようにした。そこでホバリングしながら、リュウグウが自転してターゲットマーカーが真下に来るのを待った。
ターゲットマーカーがカメラの下に入って位置を計測できるようになったら下向きに加速、高度25メートル付近を目指して下降。その途中で高度のセンサーをLIDARからLRFに切り替え。
高度8.5メートルに来たところで小惑星に正対するように姿勢を変更。姿勢変更から機体が安定したところで着地点に下りられるよう、ターゲットマーカーから数メートルオフセット移動する。
最終的に機上時刻7時27分のところ、移動後姿勢が安定したところで下向きに秒速7センチで加速したあと自由落下しタッチダウン。タッチダウン後は毎秒60センチで上昇していく。
低高度のドップラーデータ
澤田:高度が低いところでは高利得アンテナ(HGA、高速通信アンテナ)が地球を向かない。低利得アンテナ(LGA、低速通信アンテナ)に切り替えるためテレメトリ(探査機の情報)は見えなくなる。ドップラーデータ(探査機から届く電波の周波数の変化)を見ている。
上昇時
サンプル採取に関して
降下開始時刻が遅れた理由
地名地図(改訂版)
4.CAM-Hによる画像
澤田:自分はサンプル採取だけでなくこのCAM-Hの開発担当でもあったため、今回はプレッシャーのかかる運用だった。
CAM-Hによるタッチダウン連続撮像の視野予測
CAM-Hによるタッチダウン前後の撮影に成功
澤田:LRF-S2は(サンプラーホーンの変形を検出して)タッチダウンを検知するもの。
澤田:コマ送りしていくと接地の瞬間サンプラーホーンが2センチほど変形していることがわかる。直後に中からモヤッとした粒子が飛んでいくのが見えている。弾丸が発射されたことが画像からもわかる。
右側の写真はタッチダウンから数秒後。ホーンの先端から大量の土砂というか石や礫(れき)、細かい砂があふれ出ているところが見えている。
澤田:弾丸で飛ばした粒子のほかにスラスターで舞い上がったと思われる粒子もあり、いろいろなものが飛び散っていることが確認できる。
右の画像は高度50メートル付近。100メートル付近までも粒子が一緒に上ってくる画像が見えている。大量の粒子を飛ばすことができていて、当初の想定通りサンプルを採れていると考えている。
CAM-Hによるタッチダウン前後の撮影(動画)
参考:プロジェクタイル発射実験時の模擬リュウグウ砂礫標的と発射されたプロジェクタイル
澤田:この実験によって、十分な量のサンプルを採れるとちょっと自信を持つことができた。本番の運用でも想定通りの現象が起きたことがCAM-Hの画像から確認できた。
吉川:模擬の砂礫とプロジェクタイルの実物を持ってきてあるのでのちほどご覧ください。
5.タッチダウンに関するサイエンスからのコメント
渡邊:リュウグウの質量を測定して体積で割ると密度がわかる。1立方センチメートルあたり1.2グラムと非常に軽く、水より少し重い程度。岩石でできていてこのように軽いのは空隙(くうげき)が多いからと予想される。
今までは離れたところからリュウグウを見るだけだったが、タッチダウンで初めてはやぶさ2が手を出した。その反応を見ることができたのは科学的にとても重要。強度やどのくらい空隙があるかを物理的な応答特性として見ることができる。タッチダウンはサンプル採取が目的だが、あわせて得られた情報はリュウグウがどのような天体か、表面がどうなっているかを知る貴重なデータとなる。サイエンスチームはそれを解析中。
渡邊:タッチダウン直後のONC-W1の写真を見ると、目標地点の黄色い丸を中心に模様ができている。前後の写真を見ると変化がある。表面にできた傷跡、擦痕(さっこん)だけではなく、上空に舞い上がった岩や砂とあわせてこのように見えているものと推測。1メートルを超える、日常的な感覚としては岩と呼べる大きさのものも舞い上がっている。低重力の天体だとスラスターの勢いでそのくらいのものも浮き上がる。
中心から10メートルほど筋状に伸びた線があり、これはプロジェクタイルの発射で飛び出した速い粒子によるものと推測。丸く広がっているのはスラスターの噴射で巻き上がった砂ぼこりが見えているのだろう。
上の写真は高度25メートルほどから撮影。黒いしみのようなものは舞い上がった破片で、カメラのすぐそばにあるものはピントが合っていない。
表面が黒くなった理由は解明中。スラスターの噴射で発生した水蒸気で黒くなる可能性も。また表面の岩がはがれて下地が見えてきた色が見えているのかも。反射率が低い細かい粒子が上空を覆っている可能性も。いろいろ調べている。
渡邊:ONC-W1の感度低下については懸念材料ではあるがサイエンス的には重要な情報。どの程度のサイズの粒子があってどういうことがあるとレンズの感度が低下するのかがわかると、粒子の付着力という我々がのどから手が出るほどほしい情報も間接的にわかるのではないかと期待している。
渡邊:先ほどの動画はタッチダウンの成功を祝う紙吹雪のように舞っているが、粒子がペラペラな形状をしているのが特徴。普通はもっと丸い形状になる。表面に層構造があると予想。表面特性をパッシブに(受動的に)見ているだけではわからないさまざまな情報が見えてきている。
CAM-Hの動画は8.5メートルの高さから自由落下している。タッチダウンが検知されるとスラスターは4秒間噴射。毎秒60センチメートルで上昇。高さの目安は影の大きさでわかる。かなり高いところでも粒子が飛び出していることがわかる。
渡邊:タッチダウン点すぐ近くに「三途の石」と佐伯さん(プロジェクトサイエンティストの佐伯孝尚氏と思われる)が呼んでいる石がある。それをぎりぎりかすめてタッチダウンに成功、三途の石の高さの解析(estimate)が非常によかった。これはタッチダウン点の中心に一番近い大きな岩。影の長さなどから高さを解析し、高さ55センチ未満であると結論が出たためここにタッチダウンした(今村註:サンプラーホーンの長さなどから、60センチ以上の高さがある岩は避けるという方針があった)。見事にスラスターなどがぶつかっていない。
サイエンス的に貴重な情報がたくさんあり、次の論文を作成しようとしている。
次回はSCI運用。どういう破片が出てくるのかなどの情報を得られた。SCIでどのくらいのクレーターができるか、それをDCAMでどう撮影するかを今後調べていきたい。探査機下面のカメラの光量低下が今後のタッチダウンに影響するかもしれずデータを積み重ねて検討していきたい。
吉川:タッチダウン直前のはやぶさ本体にターゲットマーカーが映っている。迫力ある動画だと思う。
6.今後の予定
質疑応答
読売新聞こみやま:当初想定していた十分な量のサンプルを採取できたとのことだが具体的には
澤田:0.1グラム。
こみやま:1回目のタッチダウンでその量を採取できたと考えている?
澤田:断言はできず状況証拠だけだが、その期待は高いと考えている。
こみやま:3回のタッチダウンを行わない可能性が高いと判断する一番の要因は
吉川:最初のタッチダウンの日程を遅らせたことによって、タッチダウンできる期限の7月に3回目の準備が間に合わなくなったこと。
こみやま:1回目で十分な量を採取できたとか、下面のカメラの光量が低下したといったものではなく、スケジュールの余裕がない?
吉川:はい。
こみやま:2回目にタッチダウンする場所は人工クレーター内とは限らない?
吉川:サイエンスからの要望は地下物質を採取したいということ。クレーター内部へタッチダウンするのが一番よいが、タッチダウンできない地形になった場合は無理をせず、ほかの場所にする可能性もある。その場合、噴出物がありそうな周辺地形へのタッチダウンも検討するが、それも難しければ噴出物がない場所への着陸もありうる。
こみやま:場合によっては、クレーターの生成と2回目のタッチダウンは独立して行う可能性もある?
吉川:はい、2回目のタッチダウンがクレーターとはまったく別の場所になる可能性はあります。
時事通信かんだ:リュウグウの表面には砂のようなものはないと思われていたが、あのようなたくさんの細かいものが舞い上がった。もともとあったものがスラスターの噴射で巻き上げられたのか、それともプロジェクタイルで粉砕されたものなのか?
渡邊:リュウグウの画像では大きな石が目立つが、高解像度の画像を見ていて細かい砂状のものがあると事前にわかっていた。一方でスラスターの噴射で粉砕された石があることもわかっている。
かんだ:リュウグウの石は感覚としてはもろいもの?
渡邊:火山で噴出する軽石は手でたたいたりすると壊れる。そのような印象。スラスターの噴射で壊れてしまう程度の強度なのでかなりもろいだろう。実際どのくらいの硬さかを評価するのもサイエンスの重要なポイント。
かんだ:SCI運用の予定地点について、候補の決め方をもう少し詳しく。
渡邊:資料9ページにある黄色い丸の領域を調査する。
こんなに大きなクレーターができるというわけではなく、命中精度を考えるとこのくらいの広がりを持つ(今村註:この中のどこかにクレーターを作るということ)。狙ったところに打てるならもっと平らな場所を選ぶ。黄色い丸の広さで平らな場所はリュウグウに存在しないので、そこは運の問題になる。
S01という赤い点は次回の降下運用(DO-S01、3月6日~8日)のターゲット。そこは上空からの画像解析で、前回タッチダウンした場所よりも広い範囲でボルダーが少なく平らだと現時点では考えている。それを確認できたら、S01は2回目にタッチダウンする有力な候補地点となる。
仮にS01を狙ってクレーターを作ったら、きれいに命中しなくても飛び出した破片が周辺に積もり、そこにタッチダウンすることで比較的平らで安全な場所からクレーター内の物質もゲットできるという戦略もある。
かんだ:1回目のタッチダウン後、タッチダウン地点で舞い上がったものが落ち着いた様子は観測しているのか
渡邊:現時点でお話できるものは得られていないが、今後そういった画像も撮れるので解析していきたい。
ライター秋山:リュウグウの表面物質が紙吹雪のように層状に離れていくのはリュウグウの母天体での火山活動を反映したものか、あるいは水があったことを示すのか、宇宙風化の結果か、そのあたりの感想は
渡邊:リュウグウは直径1キロメートルほどしかなく、太陽系生成の初期にあった直径100キロメートルかそれ以上ある母天体が壊れて破片となり、それが集まった「破片の集合体」と思われる。密度が低くて空隙が多いこと、ボルダーが多いことが証拠の一つと考えている。
そのような成り立ちを考えると、火山活動、水、宇宙風化のいずれもありうる。地球の常識では層になるには水が関与する。火山の堆積物が層になることもある。リュウグウが火山を持つほど高温になったとは考えにくいし、水についても重要な探査対象であり、母天体が氷微惑星だった可能性もある。それらが層構造を作ったかもしれないが、地球とは大きく異なる低重力の天体なので、真空下で宇宙線を受ける中でわれわれがまだ十分理解していないような作用で層構造を作る可能性もある。
これからさらに解析することで、もともと層構造だったものがあのように紙吹雪のような破片を作ったのかも検証していく。非常にわくわくしながら解析していく。もう少し時間はかかるが。
秋山:なにがわかればその答えがわかるか、なにに期待しているか
渡邊:タッチダウンした場所をもう一度見ることが重要で、SCIもクレーターができてから数週間後にその場所を低高度で詳しく観測する。それによって表面の状態がわかってくる。それが直近で重要な情報になる。
最終的には持ち帰ったサンプルを調べることで、あのような物質がどうしてできたのか、かなり確実に答えを絞っていけると思っている。
ニッポン放送はたなか:インパクターを落とす時期は資料30ページでいう「4月1日の週:衝突装置(SCI)運用」のところ?
吉川:その通り。
はたなか:SCI運用にも、前回の着陸の時のようなバックアップ期間が設けられているのか
吉川:ここには特に書いていないが、なにかがあれば2週間後か3週間後くらいに延期する可能性もある。
はたなか:着陸時の地表の硬さとはやぶさ2が受けた衝撃について、現在わかる範囲で知りたい
吉川:タッチダウン時の動画を見ると、1コマだけサンプラーホーンが変形している。ギューッと縮むことはなくすぐ上昇した。表面が柔らかくてサンプラーホーンが潜る、といったことはなかった。
表面の硬さはさらに詳しく調べなければわからないが、我々がリュウグウの模擬砂礫として作った炭素質コンドライトがある(資料28ページ)。これとそうかけ離れてはいないのではないか。それが第一印象。
共同通信すえ:タッチダウン後カメラの光量低下があったのはどんな予想外のことがあったのか
渡邊:事前検討でも、光学系の汚染はタッチダウン時のリスクのひとつとして想定はしていた。ただリュウグウに着いてみるとボルダーが多く、タッチダウンでプロジェクタイルを発射しても舞い上がるものは少ないのではないか、採取できるサンプル量が少ないのではないかとか、SCIでも深いクレーターができないのではないかといった心配があった。にもかかわらず十分な量の破片が舞い上がった。そういう意味ではハリボテというか見かけ倒しというか、けっこう簡単に壊れて細かい粉を吹き上げてくれるような岩だったという印象がある。
すえ:S01は平らなところが比較的多いとのことだが、最初のタッチダウン点ほど平らではない?
渡邊:詳しい観測はこれから。探査機にとって危険なサイズのボルダーが見えていない中でS01を選んだ。大きなサイズのボルダーの数が少ないので、となれば小さい(見えていない)ボルダーも少ないだろうと類推してタッチダウン点として有力ではないか、そういった議論をしている。
今回低高度の観測をして、その予想を確認する。それで予想が裏付けられればS01がタッチダウン点の候補になる。ただし、SCI運用でほかのいい場所にタッチダウンしやすいクレーターができたらそちらを優先したい。
澤田:ボルダーの数や凹凸の形状、斜面の傾きなどを総合的に評価して一番タッチダウンしやすい場所としてL08(最初のタッチダウン点)を選んでいる。S01はL08より評価が低かった。ということはそう評価される原因がある。ただし今後タッチダウンする場所としてはS01は一番いい場所。
渡邊:L08は100メートル四方の精度でのタッチダウン場所として評価が一番よかった。1回目のタッチダウンで、もっと狭い場所にタッチダウンできることがわかった。そこで狭い領域で条件のいい場所を評価し直している。そうするとほかの場所がいろいろ見えてきて、その中でも評価が高いのがS01ということ。
産経新聞くさか:SCIの命中精度はどのくらい?
澤田:誤差をすべて悪い方へ積算すると200メートル。そうでなければ100数十メートル。
くさか:S01を目指してSCI運用を行うが、ずれた場所にいいクレーターができたらそこにタッチダウンする?
吉川:詳しくは次回の記者説明会で。まずS01に当てたいわけではない。(今村註:精度が低いからそこまで求めない、といったニュアンス)
くさか:2回目のタッチダウンをしない場合、原因としてありそうなのは
吉川:可能性としてはSCI運用のあと周辺を調べたら大きな岩がたくさんで下りられないとなったとき。別のいい場所を探すがそれも見つからない、あってもピンポイントタッチダウンをするには調査のスケジュールが間に合わないなどのケースが考えられる。
くさか:8ページの今後のスケジュール。MINERVA-II2の運用は7月以降とのことだが、はやぶさ2本体と同様この時期がデッドライン?
吉川:MINERVA-II2は時期にもう少し余裕がある。2回目のタッチダウンの結果などをみて時期を決めたい。
くさか:時期に余裕があるのは熱に強いから?
吉川:MINERVA-II2は耐熱性能が格段に高いわけではない。はやぶさ2がタッチダウンする場所は赤道付近に限られるが、MINERVA-II2を下ろす場所は極寄りのやや温度が低い場所も可能。MINERVA-II2はいくつか問題もあるので、最良の運用方法を検討していく。
くさか:2回目のタッチダウンは「5月以降」とあるが、とすると5月から7月にかけてといった理解が適当?
吉川:そうですね。(今村註:タッチダウンは熱環境が厳しくなる7月までに行えればよいといったニュアンス)
(以上)