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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(リュウグウ探査についてと中間赤外カメラの初期観測結果)

小惑星探査機「はやぶさ2」は、現在小惑星Ryugu(リュウグウ)から約20㎞離れた位置を維持しつつ、到着後の各種機器の機能確認を実施しています。
今回の説明会では「はやぶさ2」の現在の状況、リュウグウの観測データが取得できている場合はその説明を行います。

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(18/07/19) | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年7月19日(木)11:00~12:00

登壇者

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(image credit:JAXA

左から橘氏、岡田氏、渡邉氏、久保田氏、吉川氏

中継録画と配付資料

小惑星探査機「はやぶさ2」のリュウグウ近傍における運用状況


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本日の内容

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.期待されるサイエンス成果

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(渡邉先生から)

後ろに到着時の画像が映っている。これからが本番。緊張しつつ。

2.1 見えてきたリュウグウの姿

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地上からの観測では平均直径900メートル。近傍観測でもおおむねその通り。

中央の帯が白くなっているのが特徴。左上に200メートルほどの大きなクレーター。表面に大きな岩もありびっくりした。より大きな天体が破壊され集まったためではないかと考えている。

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立体画像。はやぶさリュウグウと地球を挟んだ位置(リュウグウからは20キロメートル)にホバリングしている。

自転軸の向きは地上観測ではわからなかった。まっすぐ立っていたのはいろいろとやりやすい。自転軸が傾いていると見えないところができ、不十分な情報のもと観測しなければならなくなる。

上の極に大きな(直径130メートル)岩がある。面白い形が見えてきている。今後お話する機会があるだろう。ボルダーが散らばっている。これは着陸に危険なので少ないところを狙って下りなければならない。

それを決めるには画像を見るだけではだめで、立体的な情報を得なければならない。

2.2 リュウグウの形状モデル

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リュウグウの形状モデルは画像データをもとに作成した立体データ。異なる2種類の方法で作成した。さらに精密化する予定だが今のところおおむね近い形状。精密化するとさらに近づいてくるだろう。これをもとにどうタッチダウンするかを考える。

2.3 リュウグウの経度ゼロ度の点

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※赤い矢印はずれていて、□内の下側の岩を指すのが正しいとのこと

経度ゼロ度として特定の地点を選んだ。縦に2つ並んだ大きな岩が目立っている。その下側の岩を経度0度とした

この写真は上がリュウグウの北極(今まで見ていた画像の下側)

2.4 20km先の富士山とリュウグウ

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2.5 リュウグウ表面上の岩塊分布

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軽度300度と60度の岩塊の分布

2.6 LIDARによる形状測定

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赤道はデータをたくさん取れているが極は少ない

右の画像は上が北極

2.7 期待されるサイエンス成果

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  • 地上でたくさんの隕石を解析しているがどの反射スペクトルとも合わない(など)

リュウグウの母天体を再構成したい

3 サンプル分析への期待

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(橘先生から)

自分の仕事はサンプルキャッチャーの理学面でのとりまとめ、分析チームのとりまとめ。

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サンプルキャッチャーにサンプルを格納。異なる3つの地点で粒子を採取することで母天体の情報を得られることを期待。

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リュウグウがどういう歴史を経て現在に至ったかをひもとく。リュウグウの歴史の推定に証拠を与える。ほかの探査の助けになることが期待される。太陽系の初期の情報をイトカワより色濃く残している可能性がある。太陽系の起源や材料物質にさかのぼれるかも。

その鍵が有機物。

有機物や揮発性物質の重要性:生命の材料を地球に持ってきたのかも。そのことを小惑星の試料から初めて分析したい。

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リュウグウ試料の初期分析(2021年~)

国際分析チームを組む。リュウグウの試料が科学的にどういう情報をもっているのか世界に示し次世代の研究に資するようにしたい。

4.中間赤外カメラの初期観測結果

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(岡田先生から)

中間赤外カメラ(TIR)については資料の43ページ以降も参照のこと。

小惑星の熱放射の分布を調べる。惑星の表面からの熱放射を調べると表面の物理的な状態を調べることができる。熱がしみこむ岩のようなものか、熱がしみこまない砂のようなものかがわかる。

熱がしみこむかどうかが熱放射の差として出てくる。それを観測できる。

TIRの観測概要

ダーク観測はなにも写らない向きであえて撮像してTIRの性能を調べる。

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リュウグウへ接近中の様子。可視光のカメラは片方の端が暗くなるがTIRは完全な形を見ることができる。

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赤いところが熱放射量が多いところ、青いのが少ないところ。

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○は一番大きなクレーター、デススターと同じような場所。

大きな岩も違う温度でとらえている。

南北で温度が違う。物性の違いかもしれないが夏と冬の季節の違いがリュウグウにもあるものと推測。自転軸が少し傾いているため北半球(下半分)と南半球(上半分)で日の当たり方が違う。

別途熱モデルを作る。


参考:ファクトシートより…科学:太陽系の誕生と進化を解明する

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参考:ファクトシートより②惑星への成長過程を調べる

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衝突破壊した物質が再集積したあと表面に残っているかも。

4.中間赤外カメラの初期観測結果(続き)

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5.ミッションスケジュール

(吉川先生から)

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今は高度6キロまで下げる運用中

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BOX-A~Cについて。

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BOX-C運用はホバリングの高度をゆっくり下げる運用。今週行う。

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中高度降下運用はタッチダウンと同じ運用。BOX-Cより早く下りて高度5キロに8時間ほどとどまる。

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重力計測降下運用。リュウグウへ自然に引き寄せられる状況を観測して質量を計測する。

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6.今後の予定

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8月2日と23日に記者説明会を予定

参考資料

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質疑応答

NHKすずき:吉川さんへ。サイエンスの成果が出てきている。その受け止め。タッチダウンにどう生かすか

吉川:科学的には非常に興味深い。どんどん論文になっていくだろう。リュウグウはほかの小惑星と物質が違いそう。科学的に説明されていくことを期待。
着陸についてはボルダー(岩塊)が多い。資料13ページ参照。緑の点が岩塊。岩塊がなるべく少ないところに着陸したい。低高度の観測をして着陸地点を決めたい。

すずき:渡邉さんへ。緑の点の岩塊の大きさは

渡邉:おおむね6メートル以上を識別できる。ここで点にしているのは8メートル以上。危険を及ぼす可能性があるので避ける。

すずき:岡田さんへ。季節がわかったとのことだが岩か砂かもわかってきたのか

岡田:資料23ページ。現状まだ粗いが岩とそうでないところで物質が異なることがわってきた。

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すずき:サンプルを取りやすい粒径は

橘:1センチメートル以下、ミリメートルサイズが採取しやすい

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産経新聞くさか:BOX-C運用と中高度降下運用について。その違いは

吉川:BOX-Cは
中高度降下運用はタッチダウンのリハーサル。

渡邉:科学観測はすることが少し違う。TIRなどはBOX-Cで。中高度観測は7バンドで観測。スペクトルを決める。

吉川:ある時刻にどこにいるかをちゃんと見るのが中高度降下運用。

時事通信かんだ:温度は高いところと低いところでどんな感じ?

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岡田:高いところは100℃、低いところは…端は精度があまり出ないこともあるが常温くらい。

かんだ:6キロくらいまで下げることで地上の解像度はどのくらい上がるのか

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渡邉:5キロだと1ピクセル50センチくらいまで。今までより4倍くらい詳細に見えてくる。

かんだ:BOX-B運用では極域を見るのか

渡邉:どういう方向に10キロ移動するかは自由度がある。どこへ行くかサイエンス側からリクエストを出す。南極側(画面上方)の大きな岩を見たいと思っている。

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かんだ:接近観測は8時間とのことだがTIRと航法カメラは同時に見られるのか

岡田(?):可能。NIRS3も観測の予定。いろいろ組み合わせながら精度も含めて決める。総合的な観測を行う。

月刊星ナビなかの:リュウグウの表面地形について。南極の大岩などに仮の地名はついているのか

渡邉:なにか見えるとみなさん名前をつけたがる。南極の大きな岩は浦島太郎に出てくるカメみたいだから亀岩か、など。名称はIAUで正式に決まる。提案のための名称を考えているところ。

吉川:緯度経度がわかるとIAUに提案できる。議論を始めたところ。小惑星の表面の地形に名前をつけるグループと話し合っている。名前のテーマを提案してそれに従って地名をつけていく。論文が出るときには正式地名をつけたいのでそれまでに承認がおりるように。
審査は2~3か月かかる。論文はタッチダウンの前に出していきたい。

なかの:サンプリングについて。イトカワよりだいぶ大きいので重力がだいぶ違いそうだが

橘:リュウグウの重力は地球より確実に小さい。観測に大きな影響はない。

ライターあらふね:3Dデータについて。最終版はいつ作るのか。立体データは公開されるのか

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渡邉:タッチダウンの場所決めのために立体データが重要。昼夜兼行で作っている。今後の観測で精密化する。8月半ばにはそれをもとにLSS(場所選定)を進めたい。

吉川:公開する方向で形状モデルグループと話し合っている。次の記者説明会では形状モデルグループが出席する予定。

あらふね:(…)

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岡田:入射角条件が変わらないのでおおむね同じ熱分布になる。

■:炭素物質が多い可能性があるというのが地上で見つかる隕石との大きな違いか

渡邉:現時点での自分の印象として、これほど反射率が低い小惑星はない。このような特徴がなにを示すのか。地上へ落ちてきている隕石は小惑星のバラエティの中では限られたものだと思う。

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■:小惑星や彗星にリュウグウ類似のものがあるのは珍しいものなのか

渡邉:リュウグウがどこから来た可能性が高いかは確率的に推定できる。小惑星はバラエティがあり、リュウグウはその中のある種の小惑星に似ている。似ている同士で同じ故郷を持つのかもしれない。ロゼッタが探査したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星とも一部は似た特徴を持っている。リュウグウは彗星の特徴を持っているかもしれない。

ニッポン放送はたなか:資料13ページ。緑の点の数は

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渡邉:正確な数字は把握していない。ただ断定できるレベルではなく確認が必要だが着陸地点選定の参考にする。岩塊がこのくらいの密度であることを見ていただきたくこの画像を用意した。数えていただけば100以上あることがわかるだろう。

はたなか:ほかの小惑星に比べて岩塊は多い方なのか

渡邉:比較サンプルをあまり持っていない。イトカワに比べて圧倒的に多いかというとそうもいえず、イトカワはボルダーが多い部分と少ない部分の強弱があった。リュウグウはまんべんなく分布。その中でまばらになっているところを見て選定したい。

毎日新聞永山:イトカワの表面で特徴的だったのはレゴリスが集まっている地域があったこと。BOX-Cや中高度観測でそういう場所は見つかるか

渡邉:レゴリスにおおわれたかなり広い場所にタッチダウンしたい。現在の観測ではそういう状況ではなく広大な砂の地帯はなさそう。でもBOX-Cや中高度観測でいい候補が見つかると期待。

吉川:とはいえ高度5キロでは解像度があまり高くない。もっと詳しく調べる。

渡邉:リハーサル運用もあるのでそこで観測して場所を決めたい。

(以上)