日時
- 2016年7月20日10:30~
配付資料PDF
- H3ロケット 基本設計結果について (記者説明会資料)http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/files/20160720_h3.pdf(3.4MB)
「H3ロケットに関する記者説明会 | ファン!ファン!JAXA!」(http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/detail/8034.html)より
中継録画
2:20くらいに始まります
H3ロケットについて
H3ロケット基本設計結果について
岡田:私はあがり症で、今日は演台を用意していただいた。
昨年7月8日、基本設計開始について記者説明会。それから1年間、各メーカと基本設計を進めてきた。今日はその結果をお知らせできる。
1年前は今日ここに立てるか不安もあったがなんとかやってこれた。
基本設計はロケットの設計にとても重要。家でいえば間取り図(コンセプト)ができてどんな道具をそこに並べるか、寸法や配置をどうするか決める。
このあと詳細設計に入っていく。家でいえばおさまる道具を配置していく。
ロケットも同様でアビオニクスなど機能を定義。
大きな試験をしていないため山場はこれから。
ここからの説明では、初めての方もいらっしゃると思うので前回と重複するところもある件ご了解を。
「日本の技術で、宇宙輸送をリードせよ。」
H3ロケットのキーメッセージを考えた。「技術」はかなり広い意味でとらえてほしい。技といったニュアンスを含む。
リード文も加えた。宇宙輸送という言葉は一般にはなじみがないと思う。そのイメージをふくらませていただきたいと考えた。
基幹ロケットで輸送した宇宙機の一例
基幹ロケットの課題
よいロケットならそのまま使えばいいのかというとそうではない。課題もある。
20年前のものを使い続けるわけにはいかない。
- 衛星の大型化:H-IIAではサイズが合わなくなってきている
- 国際的な価格競争:海外で低コストなロケットが出てきている
- 設備の老朽化:設備が古くなれば手間がかかる
- 開発機械の不足:ロケットの部分的な開発はこれまでも取り組んでいるがフル開発はない。コンセプトから考える機会がない。
- 打ち上げ機数の不足:
現在運用中のロケット
将来運用予定のロケット
ロケット技術の継承
「日本の技術で、宇宙輸送をリードせよ。」
次のリード文。
H3ロケットのシステム概要
H3にはSRBのないバージョンがある。強いコアロケットに、必要な能力に応じてSRBを追加。
フェアリングは大型衛星を載せられるよう大型化。
2段はH-IIA/Bの改良型。燃焼時間を長く、寿命を延ばす。
SRBの組み付けは結合・分離機構を簡素化。
1段エンジンは新規開発のLE-9。3基ないし2基の切り替え型。
基本設計結果
20年間の運用、年間6機の打ち上げが可能であることを条件に基本設計を進めてきた。
H3-30S(一番シンプルなシングルスティック)で太陽同期軌道(高度500km)へ4トン以上、約50億円で上げられるようにする
静止トランスファ軌道(GTO)への打上げ能力
機体のバリエーションはH3-30S、32L、24Lなど。
1桁目は1段目エンジンの数、2桁目はSRBの数、3文字目はフェアリングの長さ(S/L)。30Sは1段目エンジン3基、SRBなし、短いフェアリング。
右側は需要予測のデータ(2社の推定が異なる)
機体諸元
PAFは衛星を結合する継手のようなもの。
LE-9はLE-7Aの1.4倍
第1段エンジン(LE-9)基本仕様
ここ1年はパーツごとの基礎的な試験を行ってきた。
実機型エンジンは実際に飛ぶのではなくエンジニアリングモデル。技術試験用モデルということ。
エキスパンダブリードサイクルは予備の燃焼室が不要になる。比推力は落ちるがロケット全体でカバー。
システムの圧力を下げることで安全性向上、技術的にも容易になる。
バルブはヘリウム駆動から電動へ。
固体ロケットブースタ(SRB-3)基本仕様
コア機体との取り付け部をシンプルに。おそらく種子島での取り付け作業時間はたぶん半分以下になるだろう。
H-IIAのストラットは電柱くらいの大きさがあった。
ノズルは固定式にして簡素化。
現在各種の要素試験を終え詳細設計に入っている。
射点系施設設備 基本構想
発射地点は第2射座を改修して使用。
新移動発射台(ML)
ロケットの立つ位置が変わる。今は発射台の上に立っているが、新しいのは発射台の真ん中まで刺さっており横から指示棒で支えている。ごちゃごちゃしたところの打ち上げ後の修繕がなくなり楽になる。
コスト半減への取り組み
基本設計での時間はまだ半ば。考え方としては設計・製造・運用のあらゆる面を見直す。
部品を買う、作る、運用するといった側面からコスト削減に取り組んでいる。
システム構成の簡素化の例
低コストの製造・運用コンセプトの作り込み例
ロケットを1年で作るとすると最初の4か月で部品を取り付け。それを組み立てて点検・出荷。3つのセクションに区切って順繰りに進め、ロケットの工場がいつもロケットで満たされた状態になる。人も常に動くようになる。効率的な生産。
(3)はモジュール化と機体バリエーション増加の関係。あるところまでエンジン3基形態で作り途中で2基形態に変えるなどを検討中
低コストの製造・運用コンセプトの作り込み例(2)
目指す運用コンセプト
「大幅に短縮」はそれぞれ半分くらいに。
自分でこれ(H3がずらりと並ぶ図)を描いていて震えがきた。
4.プロジェクト計画
開発スケジュール
現在基本設計が終わったところ。
エンジンやSRBはそれぞれのペースで進んでいる。「終わりました」はかなり上位のレベルでひと区切りということ。
詳細設計に入っており来年半ばにはCDR(詳細設計の審査)に入り、物作り、試験に持ち込みたい。
実機の一部を使い地上相互試験。実際の打ち上げさながらの試験。
試験機1号機は2020年度、2号機は2021年度を狙う。
今後の予定
日本の技術で、宇宙輸送をリードせよ。
質疑応答(41:45くらいから)
- 中継録画を質疑応答から見る:https://youtu.be/BXXnE6N7wSE?t=41m45s
NHKすずき:基本設計と詳細設計の違いについて。基本設計でなにが固まったのか。詳細設計に入ったというのは具体的に今後何をするのか
岡田:説明しづらいが…詳細設計はひとつひとつの機器を設計して図面を描くこと。基本設計はその手前、詳細設計ができる状態にする。機器に役割や配置を与える。それで環境条件なども決まる。
機器への要求や機器そのものの設計条件が固まった状況が「基本設計の完了」。
それぞれの機器の役割を決めるだけでは基本設計は終わらない。機器が与えられた機能を実現できるかを見る。
いま固まっているのは機器に対して厳密な、詳細設計ができるところまで追い込んだということ。
読売新聞ちの:H3の開発目標は打ち上げ価格の半額化。シングルスティック、年間6機の条件でなければ実現できないものか
岡田:年間3機4機が定常的に続くようだと50億は無理だろう。今までとはまったく違う世界を考えなければならない。
状況を常にウォッチしながら進めていく。
ちの:目標の半額というより、半額以上ということか。シングル、年6機という条件が整って初めて50億になるのか
岡田:機体が大きくなっていけば値段も上がるのが当然で、市場とのバランスで考える。
ちの:シングルスティックで打ち上げる本数の割合はどの程度を見込んでいるか
岡田:1/3強ではないか。
時事通信かんだ:機体バリエーションについて「22S」と「32L」の違いが小さく見える。なぜこのバリエーションがあるのか。バリエーションを増やしすぎないのがよいように思うが
岡田:すばらしい質問。ロケットの性能は分離したものをどこに落下させるか、どこで追尾するかなどの条件でも決まる。
機体のバリエーションはなるべく減らした方がコストは減る方向に行く。一方でコストへの影響が少ない範囲ならバリエーションを多く持っていたほうがよいことも。
22Sでぎりぎり打ち上げられないから24Lにとなるとコストが一気に上がってしまう。
32Lの引き合いが少なければプライオリティを落とすこともあるかもしれない。
かんだ:現在の射場設備で2機同時整備などは可能なのか
岡田:可能です。整備期間を短縮している。今までの半分くらいの期間で整備できる。VABにいる時間はぐっと短くなる。
年間の打ち上げがもっと増えてきたときのために発展性を考えておくのがよいかも。
VABにひとつ空きはあるので将来利用することになるかも。
岡田:宇宙基本計画に沿って調整する。いま考えているのは先進レーダ衛星。
- 参考:宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 第7回会合 議事次第 - 岩日誌(http://d.hatena.ne.jp/iwamototuka/20150906/p2)
読売新聞さいとう:昨年のH-IIA29号機で2段目を再々着火したがH3は
岡田:標準搭載機能です。技術を積み上げて使うのがロケットの開発の姿。
sorae大貫:(1)HTV-Xが2021年に上がるとのことでH-IIBロケットの第2段をHTV-X向けに改修するそうだがそれをH3の標準にするのか。(2)「ひとみ2」の打ち上げは2020年とある。打ち上げ直しでコストを下げたいだろう。これをH3で打ち上げるのか
- 参考:JAXA | HTV-Xの開発状況について(http://www.jaxa.jp/press/2016/07/20160714_htv-x_j.html)
有田:HTV-XについてはH3の標準仕様で打ち上げ可能。特別なバリエーションは用意しない。インターフェースの直径がだいぶ大きいのでそこだけは開発が必要。ロケット本体はとくに変えない。
岡田:ひとみ2を搭載するのは技術的には可能。H-IIAとH3は技術的にはコンパチ。打ち上げ計画はこれからなので今はなんとも申し上げられない。
宇宙作家クラブ松浦:30Sの打ち上げで太陽同期軌道へ4トンとあるがどんな衛星を想定しているか。種子島からはドッグレッグ(途中で方向を変える)打ち上げが必要で不利だがそれを小さくするようなこと(種子島沿岸の用地買収など)は考えているか
岡田:ほぼ従来と同じ考え方。今までと同じ条件で上げられる。
松浦:すると現行のH-IIAと同様、低軌道10トンを30Sで実現できるか
岡田:H3はドンガラは大きいのだが基本能力はH-IIAの202からひと回り落ちる能力なので少し落ちるのでは
松浦:宇宙輸送系の中でアッパーステージが重要という印象を持っている。中国は新しいアッパーステージを試験している。アメリカのバルカンは新エンジンを開発中。日本ではHTV-Xの話が出てきているがアッパーステージ、地球低軌道から軌道間輸送を担うエンジンの開発は考えているか
岡田:軌道間輸送というならHTV-Xの話かなと。H3では再々着火ができるのでその芸当の範囲で、たとえば将来的には静止軌道への直接投入(2段で)などもメリットがあれば考えてもよいかもしれないが現在のところ具体的な計画はない。
産経新聞くさか:打ち上げ間隔について。打ち上げ間隔が2か月で整備が1か月というのはどういうことか。組み立てや打ち上げ準備に1か月となればがんばれば年間12機ということになるのか。今まででも最短53日という記録がある。打ち上げ間隔が2か月というのはそれとあまり変わらないのでは
岡田:年間6機は整備期間だけで決まるものではない目安。H-IIAのアタマからカウントダウンまでが53日というのが最短記録。
組み立て~カウントダウンと、打ち上げ後の補修や点検がそれぞれだいたい同じ期間。53日の間隔が半分になる。
製造設備などでも決まってくるのでひとまず年間6機とし、運用しながら調整していく。
有田:28ページ目を見ていると思う。現状のH-IIAの姿を大幅に短縮して組み立てを0.5か月などとする。
打ち上げ間隔は最短で1か月にできるが単純に12か月に12本とはいかないのが現状。
岡田:打ち上げ間隔が2か月になるわけではなく最短1か月になる。詰めて打ち上げることも可能になる。
くさか:打ち上げるのが年6機でも、お客さんの要望に合わせて前後できるということか
岡田:その通り。一方工場では淡々と作り続ける。
くさか:VABをひとつ休止するのは運用費を下げるためか
岡田:その通り。
くさか:繁盛してきたらもう一つを使うということも?
岡田:はい。そうなってくる日を願っています。
くさか:H3で第2射点を使うのはなぜか
有田:第2射点はH-IIAの増強型向けに建設した。今はここからH-IIBを打っている。H3に対応できるのが第2射点。
くさか:SRBのノズルの首振りをやめるというのはやめて大丈夫なのか。今までなぜ首振りをしているのか
有田:機能を集中させてコスト削減したい。LE-9の首の振り幅を広げることで対応。
NHKみずの:メインエンジンとSRBの関係。固体ロケットを減らせばコストダウンとのことだが今までその形態がなかったのはメインエンジンが1つしかなかったから? 2つの役割の違いを知りたい
岡田:補助ロケットは力持ち。しかし性能は液体ロケット、特に水素ロケットと比べると落ちるので補助ロケットを大きくすればいいというものではない。シングルスティックがトータルコストが一番安いのでその形態を設けた。50億を目標にしたとき1段目は液体エンジン3基の構成が一番よかった。
LE-9は推力が大きい割にコストを抑えることができた。
みずの:メインエンジンを3基から2基にするときどうするのか。
岡田:2基のときエンジンがロケットの中心から偏ったりはしない。エンジンをつけられる構造を3基から2基に変えるような感じ。
みずの:年間6機は海外から何機とってくることで実現か。H-IIAはいつフェードアウトするか
有田:並行運用期間は2022年までの3年間と考えている。事業の件は詳しくは三菱重工に問い合わせてほしいが宇宙基本計画に記されている政府衛星だけで年6機は確かに埋まらない。足りない分は商業衛星を取っていくことをベースに三菱重工で考えている。
岡田:宇宙基本計画の政府衛星は、ならすと年間3機のペース。残りは商業衛星を受注しなければならない。
日経新聞はなふさ:24Lの価格と打ち上げ能力、また需要は
岡田:価格は商業衛星の受注との兼ね合いがあり申し上げづらい。打ち上げ能力としては6.5トン以上を目指す(16ページ)。7トンに届くかどうかという能力が出る。
岡田:価格は同程度の能力が出るH-IIBロケットと比べれば半減かな?
有田:打ち上げ能力は24LのほうがH-IIBより大きい。ターゲットとしてはそのあたりかなと。ともかく商業衛星を受注できる価格にしたい。
はなふさ:30Sの打ち上げ機数は全体の1/3とのことだったが24Lは
有田:24Lだと1/3強くらいの打ち上げ。
岡田:24Lはかなり売れ筋だと思っている。
はなふさ:H3の開発には何社くらい関わるのか。H-IIA/Bに比べてどうか
岡田:1年半後にお答えできるだろう。三菱重工が選定中。相当広い視野で探している。
共同通信ひろえ:18ページのカスタマ・インターフェースについて。8ページでは将来運用予定のロケットとしてバルカンやアンガラがあるが、それと比較してもH3は世界最高水準の包絡域、環境条件といえるのか
岡田:新しいロケットの情報がまだないのでなんともいえない。それらが極端によくなるということはないだろう。新しいロケットのユーザーマニュアルが出てきたら評価する。現状は世界最高水準ということ。
NVSかねこ:34Lという構成があってもよさそうだが可能性はあるのか
岡田:34Lは24Lと能力的に変わらないという計算結果。エンジン1基分もったいないのでバリエーションからは外した。
かねこ:1段エンジンの設計に専念するため2段目は改良にとどめたとあったが今後2段目を開発するのか
岡田:H3は20年かそれ以上使うロケット。発展性という考え方をとっている。こういうふうにするともっと能力が上がるとかバリエーションなど使いやすくなるというのが出てくるかもしれない。ただロケットの開発は大変なので空想の世界。
産経新聞くさか:12ページ。高信頼性開発手法について詳しく
岡田:話すと長くなるがロケットエンジンは開発リスクが大きい。これまでは燃焼試験をして初めていろいろなことがわかるという設計手法をとらざるを得なかった。技術ハードルが高いところへ挑戦してきたからというのもある。大きな手戻りの要素がある開発のしかた。
LE-9はそれを極力抑えるため、ロケットエンジンの動作を想像してどういうトラブルのモードがあるか徹底的に抽出する。燃焼室が割れるとか振動が大きいとか。それを全部洗い出して設計でつぶしていく。設計でわからないことは細かい要素試験をたくさん行いトラブルの芽を事前につぶしておいて、燃焼試験までに大きなリスクがないように仕上げる。
燃焼試験までにエンジンの信頼性がわかるようにする。これまでも小さな試験を積み上げてきた。システムでないとわからないことは燃焼試験で確認するということ。事前に細部の問題をつぶしていく。
日経サイエンスなかじま:この1年間で淡々と開発・設計が進んだのか、それとも大変なところがあったがなんとかオンスケジュールという状況なのか。どこが大変だったとかありますか
岡田:基本設計は大きな試験をしない。試験をしてこれはいけないという進み方ではない。重要な構成要素を決めていく1年間。開発コストや打ち上げ費の削減目標が高い制約の中で、本当にこの答えを選んでいいのかという悩みは数多くあった。
関係者が議論しながら作り上げてきた。期限内に仕上げられたのは事実ですが淡々とはしておらず苦労した。
(以上)