(※以下は聞き違いや誤解による間違いがあるかもしれません)
概要
- 9月7日と14日に、「あかつき」の軌道制御エンジン(OME)の噴射テストを行う。いずれも午前11時50分ごろから
- その結果をもとに、11月の軌道変更に使えるかどうか評価する
- 噴射テストの結果がわかるのは今月末から来月ごろ。即日でわかるのは、ちゃんと噴いたかどうかということくらい
- OMEが使えない状態でも、金星の軌道に投入することは可能
金星再会合とエンジン試験噴射
2015年以降の金星再会合のため11月に軌道制御(軌道周期調整)を実施する予定。9月に行う試験噴射で軌道制御用2液エンジン(OME)の状態把握を行う予定。その結果をうけて11月の軌道制御方針を決める。
- 方針1:OMEによる軌道変更
OMEは燃焼器スロート付近で破損していると想定。
- 観測目的に照らして計画通りの金星周回軌道への投入が可能
- 不正横推力発生・姿勢乱れ発生・破損進行の可能性あり
- 方針2:姿勢制御用スラスタによる軌道変更
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- 動作は正確かつ確実に行えるが、1液のため酸化剤投棄による重量低減が必要。また方針1に比べて推進性能は低い
- 金星周回軌道への投入は可能だが、軌道は所期の観測目的に最適ではない
噴射にともなうリスクはあるが、OMEを使った望ましい観測軌道への投入可能性を追求するため、データ収集および姿勢制御機能の確認が必須かつ有益であると判断。
試験噴射の結果で11月の近日点での軌道制御にどちらを用いるか確定させる予定。
なお今後の運用計画では、燃料側高圧ガス供給逆止バルブの動作不良が継続していること、および微量な押しガス供給が維持されていることを前提としている。
実施計画
試験噴射実施上の考え方
- 軌道周期調整のための噴射は11月の近日点付近で行うのが効率的、軌道面変更のための噴射は9月に行うのが効率的。
- 横推力推定や姿勢制御法の検証を目的とした試験噴射では不測の事態により姿勢制御が不能な状態からセーフホールドモードに入る可能性があるため、速やかな復帰手順を用意。
- 残された燃料を有効活用するとともに、試験噴射で生じる速度を軌道傾斜角の変更に利用するための噴射方向を軌道面と垂直に選び、最も効果的な9月上旬に試験噴射時期を設定。
スケジュール(いずれも予定)
- OME試験噴射
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- 2011年9月7日:2秒(1.3m/s)…姿勢外乱(横推力など)の定量的把握
- 2011年9月14日:20秒(13m/s)…姿勢制御ロジックの検証
- 近日点におけるOMEもしくは姿勢制御用スラスタによる軌道制御
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- 2011年11月上旬:OMEの場合約400秒(260m/s)
質疑応答
- NHK:テストの重要性と意気込みを。
なるべく早く、一日も早く会合して金星観測を実施できる軌道へ投入したいということで、関係者一同全力で、万全の体制で臨みたい。去年12月の軌道投入失敗以降、探査機が健全であることは確認している。OMEは地上試験でいろいろ確認してきた。
- 共同通信:試験噴射でどんなことが起きると想定しているか。
OMEの試験噴射は打ち上げ直後の去年6月にも予定通り行い健全であることを確認している。外乱をはかるため。今回は外乱量が変化しているであろうからそれを図る。軌道制御ロジックの検証を実施。姿勢がゆらぐだろうが時間が短いため大きなことには発展しないだろう。それをうけて次週の20秒の噴射で起動制御を確立したい。
- 7日と14日の2つの噴射は同じものか。
噴射時間がちがうだけで同じもの。軌道面と垂直に向けて噴射する。
- OME以外にも外乱を抑える方法はあるのか。
姿勢制御スラスタがある。右が傾いたら右のスラスタを噴いて修正。
- どのくらいの確率でOMEによる軌道制御ができると考えているか。
去年12月の加速度、姿勢履歴が記録されている。その程度であれば十分可能と考えている。
- 青木:2番目の案について。酸化剤の投棄とあるが以後スラスタの性能や寿命に変化はあるか。また所定の観測に向かない軌道に乗るとあるが外れ具合にもよるだろうが一番影響が大きい観測は。
姿勢制御用スラスタを使うのはOMEが使えないというのとイコール。OMEの使用をあきらめたとき姿勢制御用スラスタを使うことになる。重量低減のため酸化剤を投棄する。
ひまわりのような静止衛星と同じように大気と同じ角速度で金星を周回し精密に観測しようとしていたが姿勢制御用スラスタを使う場合回転速度が変わり周期が長くなるためそのような観測はできない。
とはいえ代わりの方法である程度金星の大気を観測できるだろう。
- スーパーローテーションの観測ができなくなった場合ほかの装置で代替できるのか。
同じ装置を使うが静止衛星のように同じ所を継続的に撮影することはできない。撮影する場所がずれていく。その場合でもある程度の観測はできるということ。
- 姿勢外乱が起きる仕組みを説明してほしい。
(OMEのノズルはここ)根元で高温高圧のガスを発生させる。基本的には横方向の外乱は働かないはず。完全にゼロではない。探査機が完全な円ではなく重心のオフセットがあるため。(これは探査機が壊れていない場合でも同じ)
今回はOMEの大きなスカートの部分が破損しているかもしれない。本来軸方向に出ると思っている噴射ガスが横方向にも飛び出る可能性がある。そのため姿勢全体が変化してしまう可能性がある。それが不正推力。
姿勢が崩れたら姿勢制御用スラスタを噴いて元に戻す。去年12月に計測された速度や姿勢の変化量ならば姿勢制御用スラスタ(RCS)で制御できると考えている。
- 日経新聞:11月の軌道周期調整を行った場合と行わなかった場合いつ再会合するのか。また9月の試験噴射は軌道面変更を兼ねているということは軌道が変わるということか。
周期調整について。これは必ず必要になる。11月の調整を行わないとあかつきと金星の軌道が交わらない。周期調整は早いほど効率的。また近日点で行うのも効率的。
横から見た場合の会合点も交わりができるようにしなければならない。軌道面変更は今回で100パーセントではなく近日点制御ののち軌道の状態を見て再度計画を立てる。
- 時事通信:最初の2秒の噴射でコマンドが通らない可能性は。またそれでOMEがオシャカになってしまう可能性は。
2秒の噴射ができない可能性について:2液エンジンのバルブを開けるというコマンドは必ず通る。ただしその結果燃焼が正常に行われない可能性はある。2秒の試験噴射で期待通りの加速ができたかはその後の計測結果による。
噴射でOMEが粉々に壊れることがあった場合20秒の噴射はできないが、ほかの位相で軌道変更をすることは可能。
もし7日や14日に噴射途中で大きな事件が起きた場合でも、そこからRCSを使った軌道制御に切り替えることは可能。
- 7日にはなんらかの燃焼が必ず起きるということか。
その通り。外乱を定量的に測定すると同時に健全に燃焼するかを確認することも大きな目的。
- 大塚実:今年6月末の報告で逆止弁の閉塞やエンジンのスロート部分の破損などの検証結果があったがその後新しくわかったことは。
ない。
- 近日点のマヌーバとして11月に確定したのか。以前は別の時期に実施する計画もあった。
今回は11月になんらかの形で姿勢制御が不十分だった場合、次の近日点で再び姿勢制御を実施する。
- 今回の姿勢制御もブローダウンで行うのか。
時間が短いので結果的にはそうなる。高圧側のラッチ弁を開けずにガス弁が閉塞している前提で計画を立てる。
- NVS金子:試験噴射の結果はいつ発表されるか。
バルブが予定通り開いたかどうかは早くわかるが、期待した通りの推進力が出たか、外乱がどの程度だったかはデータを詳細に検討しないとわからない。試験結果はなるべくその日の夕方までには報告したい。
11月になにを行うかなどはもう少しじっくり時間がほしい。
- 短い時間の噴射を繰り返す方法もあると以前聞いたが。
短いといっても2秒を何度もというわけにはいかない。去年12月には1000秒程度の噴射を考えており100秒オーダーの噴射が必要でありそう考えていた。
- ?:噴射試験の時刻は。うまくいった場合金星軌道への投入はいつか。うまくいかずRCSでの軌道投入になった場合は。
金星再会合のための軌道制御であり再投入には解析することが多い。再投入は試験の結果で。
7日、14日とも朝8時くらいから運用開始、11時50分にエンジン噴射開始を予定している。そのときアンテナは地球に向けられないため噴射後データをダウンロードして解析する。
- 毎日新聞:「試験噴射で生じる速度を軌道傾斜角の変更に利用する」というのは14日に生じるもののことか。角度は具体的に何度か。なんのために行うのか知りたい。
11月の近日点制御は金星との周期調整。金星との接近点を調整。Z方向にもずれているためその方向の調整も必要で、軌道傾斜角の変更や軌道面変更という。9月の軌道制御は軌道面変更。太陽に対して真上に噴いて真下へ移動する。
軌道傾斜角の変更は0.1度以下。度でいうと非常にわずか。
- 7日と14日、両方の噴射で0.1度以下ということか。
もっと小さい。
- 量としてどのくらい変化するか知りたい。
縦方向におおむね5000キロくらい移動する。角度にすると2000分の1度くらい。
- 試験噴射の結果や11月の軌道制御をどちらで行うかはいつわかるか。
今月末か10月はじめくらいにはそれなりに判断できる材料がそろうだろう。
- 1か月くらいかかるということか。
そうだ。
- 9月のテスト噴射の当日夕方にはなにがわかるのか。
今回予定している試験噴射が予定の範囲内で実施されたのか、データを計測できる状態になったのか。
- 指示通りに行われるかは当日わかるが、実際に5000キロ移動したかどうかは月末や来月ということか。
できたかどうかと、今後OME噴射をできるかどうかわかるのが今月末や来月ということ。
今回軌道面に垂直な方向に速度変更を行うため噴射が予定外の方向に行われたら再変更。面内ならば11月で制御できる。面外は今後の軌道変更で制御を実施。
OMEを使えるかどうかは今回の試験で判断。
- 時事通信:熱環境対策において不安点はあるか。
現在の近日点における熱については:今年4月の近日点でどういう状態か、熱的に厳しくないかをモニタしていた。その知見が今回役に立つだろう。だからこれが心配ということはない。ただし探査機の状態は今後変化していくであろう。それでもここ1〜2年で起きることではない。
- 大塚実:去年金星の近くでOMEを噴いて問題が出たときの外乱の大きさは。
去年の噴射ではドカンと大きな横推力が発生しそれが時間とともに戻った。姿勢制御能力は外乱を上回っていたが制御ロジックが追いつかず姿勢の外乱に結びつき噴射を中断した。その後RCSで抑えこまれている。その能力を維持できているなら大丈夫。
- 前回と同じようなドカンとくることはあるのか。
それも含めて今回の2秒と20秒で確認したい。ドカンときたとしても何百秒も噴くわけではないから探査機に大きな問題は出ないだろう。それが9月の試験噴射の目的です。
- 青木:探査機の状態について。スロートの破壊があったとして軽微であったらOMEを噴きその横方向の乱れをスラスタで打ち消しながら軌道制御できるということか。
その通り。
- 産経新聞:(途中から来たため同じ質問があったら恐縮だが)11月に400秒の噴射予定とのことだが小刻みに噴くという方法を以前聞いた。その可能性は。
あります。11月の周期調整は小刻みにするかもしれないし一気にするかもしれない。
(終了)
関連リンク
配布された資料がこちらでスキャンされています。
- あかつきOME噴射テストに関する記者説明会(速報版) « 大塚実の取材日記(http://o-tsuka.net/2011/09/akatsuki1/
)
NVSによる中継録画もあります。※プレイヤーが表示されないときはこちらへ→http://www.ustream.tv/recorded/17084714

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