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とても恐い映画『ヘンリー』がDVDになってる

おお、ついにDVDになったんだ。これは本当に恐いので、恐い映画が好きな人はぜひどうぞ。

ヘンリー ある連続殺人鬼の記録 コレクターズ・エディション [DVD]

ヘンリー ある連続殺人鬼の記録 コレクターズ・エディション [DVD]

主人公ヘンリーは一見、ガソリンスタンドでふつうに仕事をしているふつうの男である。ただ人とちょっと違うところがあって、しょっちゅう人を殺すのだった。

映画は、女性ばかり300人以上を殺したという実在の殺人鬼、ヘンリー・リー・ルーカスの日常を淡々と描いている。これが本当に淡々としていて、人を殺すシーンも特に盛り上がらない。血がブシャーとか悲鳴がギャーとかいうこともなく、ヘンリーはただ人を殺す。人を殺す理由は説明されない。帰りにコンビニでお茶でも買っていくか、というくらいの感覚で人を殺す。確かに何百人も殺した人なら、そのたびに目をむいてハアハアとあえいで汗びっしょり、ということはないかもしれない。それにしても、ここまで抑えた演出に徹するとは、監督のジョン・マクノートンはただ者ではない。

この映画はもともと、低予算のホラー映画を作る企画だったという。ヘンリー・リー・ルーカスを主人公にするにしても、もっとわかりやすく作ることはできただろう。毎夜のごとく獲物を狙うヘンリーの目、逃げる標的、恐怖にゆがむ顔、悲鳴、そして毒牙にかかるその最期。見せ場を作って音楽で盛り上げてジャーン、とやる程度の予算はあったはずだ。

ところが完成した作品がこれである。ふつうの暮らしをしつつ、なんの葛藤もなく、ついでのように人を殺し続ける男。その内面はほとんど描写されず感情移入を許さない。映像はきわめておとなしいのに、恐怖がコンクリートの冷気のようにしんしんとしみ込んでくる。アメリカでは内容で判断されて、Z指定(18歳以上のみ)を受けてしまった。一般の映画館で公開できなくなり、数年間お蔵入りになっていたそうだ。

この映画が日本で公開されたのは、ちょうど「羊たちの沈黙」が華々しくロードショー公開されているときだった。サイコ・ホラー、サイコ・スリラーといったキャッチフレーズは、「羊」を契機にして出てきたように思う。「ヘンリー」は、「羊」の人気にあやかれる作品をという流れで掘り起こされたのかもしれない。しかし、もののついでに出てきたような「ヘンリー」を見て、それまで映画では味わったことのないような恐怖を覚えたのだった。

「ヘンリー」は、新宿武蔵野館でレイトショーのみの公開だった。恐そうな映画なのに帰るのが夜遅くなるのはいやだなあと思っていたら想像をはるかに超える恐さで、帰りはちょっと涙目になったりして。

なので皆さんもレンタルするなら当日で、翌朝に持ち越さずに夜のうちに返却する方向でぜひ。

羊たちの沈黙」について余談

羊たちの沈黙」は小説はべらぼうに面白いのだけれど、残念ながら映画はその面白さを伝えきれていない。「映画のレクター博士は思わせぶりなばかりで、どう頭がいいのかわからない」という方は小説をどうぞ。

また獄中から捜査をアドバイスするレクター博士のモデルは、実はヘンリー・リー・ルーカスなのだそうだ。

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

追記:その後再見しました