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クローズアップ現代10月7日放送「“助けて”と言えない〜いま30代に何が」書き起こし

10月10日(土)14:20ごろ追記:タイトルの「10月8日放送」は「10月7日放送」の間違いでした。修正しました。

昨日、30代の人は窮状に陥っても人に助けを求めないことが多い、という話をクローズアップ現代でやっていた。まさに自分の世代の話であり、食い入るように見てしまった。そう言われてみても「そうかなあー」と思っていたけれど、自分の命を賭してまで「助けて」の声を上げられない人もいるという話には慄然とした。

雇用と貧困の話や世代論としてとても興味深く、またゲストの平野啓一郎の話も面白かったので、番組の内容を書き起こしてみた。長くてすいません。

番組紹介

10月7日(水)放送

“助けて”と言えない 〜いま30代に何が〜

今年4月、福岡県北九州市の住宅で39歳男性の遺体が発見された。男性は死の数日前から何も食べず、孤独死していたとみられる。しかし、男性は、困窮する自分の生活について、誰にも相談していなかった。いま、こうした命に危険を及ぼしかねない状況に陥っても、助けを求めない30代が増えている。彼らは「家族に迷惑をかけられない」「自分で仕事を見つけ、何とかする」と誰にも相談できずにいる。家族、友人、地域との繋がりを断ち切り、社会から孤立する30代。番組では、厳しい雇用情勢で先行きが見えないなか、静かに広がる「助けて」と言えない30代の実像に迫る。

(NO.2797)

スタジオゲスト:平野啓一郎さん(作家)

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_2797.html

クローズアップ現代 放送記録

番組書き起こし

※言葉はなるべく正確に聞き取りましたが、文章として理解しやすくするために句読点や単語の挿入、入れ替えなどを施しています。またその際、聞き違いや誤解にもとづいて修正しているところがあるかもしれません。

※画面の説明は特に、筆者の主観によっています。画面に映っているものすべてを描写するのは不可能だからです。なるべく制作者の意図をくむように書きましたが、そうではない部分がある可能性も大いにあります。

(地下道の隅に横たわる男性のそばに、別の男性がしゃがむ)

しゃがんだ男性:こんばんはー。いくつ?

寝ている男性:31。

しゃがんだ男性:31、若いねえ。

ナレーション(以下N):厳しい雇用情勢の中、今、生活苦に陥る30代が急増しています。

(公園の広めのベンチで横になって眠る男性)

N:命に危険を及ぼしかねない状況になっても、助けを求めようとはしません。

(先ほどベンチで眠っていた男性、財布から小銭を取り出す映像。所持金は20円程度。カード入れにはネットカフェの会員カードが見える)

32歳の路上生活者(ベンチで眠っていた男性のこと):助けてくれとか、お金を貸してくれとか、生活に困っているとか…やっぱり、言えないですね。

N:そうした中、誰にも助けを求めず、一人の30代男性が孤独死しました。

(男性の正面から撮った顔写真。パスポートのもののようだ)

N:部屋に食べ物はなく、餓死したとみられています。

(冷蔵庫の中はからっぽ)

N:遺体の傍らには、「たすけて」とだけ書かれた手紙が残されていました。

(切手が貼られ、宛先が書かれていない封筒。この中に手紙が入っていたものと思われる)

友人の母親:もっと頼ってくれたらよかったのにと思いますねえ。(ハンドタオルを鼻に当てる)

(公園での炊き出しに行列を作る人々、炊き出しの弁当を食べる人など)

N:なぜ彼らは声を上げないのか。20年間ホームレスなどへの支援を行ってきたNPOは、新たな事態にとまどいを隠せません。

ホームレス支援団体(の代表):「もうだめだ助けてくれ」と言えなくなっている人たちだと。どうしたらいいんでしょうねえ。

N:「助けて」と言えない30代。いま、なにが起きているのか。その実像に迫ります。

タイトル:“助けて”と言えない〜いま30代に何が〜(No.2797)

(オープニング音楽終了)

テロップ:“助けて”と言えない/いま30代に何が

国谷裕子キャスター(以下国谷):こんばんはクローズアップ現代です。「30代のホームレスがとても多い、しかしホームレスを支援する団体の炊き出しに並んでいなければ、ホームレスとは気がつかない」。今日ご覧いただくVTRを取材したあるディレクターの一人は、取材実感をこのように話していました。

8月の完全失業者の数は361万人。このうち30代はおよそ80万人。前の年の同じ月に比べて3割も増加しています。

テロップ:30代の失業者80万人(前年同月比31%増)(総務省調べ)

国谷:有効求人倍率が過去最低、5人にふたり分の仕事しかない厳しい雇用情勢の中で、仕事だけでなく住まいまでも失い、生活に困窮する働き盛りの30代が急増していると言われます。

図表:有効求人倍率厚生労働省調べ)のグラフ。去年8月は0.85倍、グラフは下がり続け今年の8月は過去最低0.42倍とある

国谷:今年4月には福岡県北九州市で、餓死したとみられる39歳の男性が見つかっています。生活に困っていたにもかかわらず、家族や友人に相談せず、最後のセーフティーネットと言われる生活保護の申請もしていませんでした。

セーフティーネットからこぼれ落ち、生活基盤をなかなか立て直すことができない苦しい日々を送っていても、若く、働き盛りゆえに助けを求められない。そして周りから気づかれたくない30代。こうした社会から見えにくい、孤立している人々を救い出し、人生を再び軌道に乗せて、自立した社会生活を送れるようにするにはどうすればいいのか。

北九州市孤独死していた男性の足跡そくせきをたどっていきますと、助けを求める機会がありながら、「助けて」と言えなかった姿が浮かび上がってきました。

(ここからVTR)

テロップ:“助けて”と言えない/30代の孤独死

N:北原学さん(仮名)、39歳。今年4月、自宅でひとり、誰にも気づかれることなく亡くなっていました。餓死したとみられています。

(北原さんの自宅外観。トタン壁で平屋。すぐ隣を小さい川が流れており橋がある)

N:北原さんが住んでいたのは北九州市門司区、住宅地の一角です。

(北原さんの自宅内。居室は6畳ほど。扇風機、立派な神棚などがある。ふすまが開いており、向こうの部屋も見える)

N:布団の上で亡くなっていた北原さん。70キロ近くあった体は、見る影もなくやせ細っていたといいます。

(黒いしみが残る畳にズームイン)

(台所らしき空間に置かれ、扉が開いた白い冷蔵庫。冷凍室は別れているタイプだが高さは低め。約半年間の放置のためか、内部も含めて全体に薄くカビで覆われている)

N:冷蔵庫の中には、なにも食べるものがありませんでした。

所持金は、わずか9円でした。

(部活の集合写真に収まる北原さん。ジャージを着てポーズを取っている)

N:地元の公立高校に通っていた北原さん。部活はラグビー。運動好きで活発な青年でした。

高校時代の友人:冗談を言う、そういう男。まあどっちかに分けるなら人気者寄りではあったんですけどね。学校内でのつき合いは、まあ広い方じゃないですかね。

(卒業式か成人式、もしくは新入社員全員で撮影したとおぼしき集合写真。10人以上の中に北原さんがいる)

テロップ:平成2年(1990年)

N:北原さんは専門学校を卒業後、金融関係の会社に正社員として就職。しかし、過酷な勤務で体調を崩し、仕事が続けられなくなりました。

(北原さんの履歴書。多くの欄に付せんがつけられて隠されている。生年月日は「昭和44年5月5日生」とある)

N:北原さんは再就職しようと、会社を何社も回りました。しかし、そのころバブルが崩壊。正社員など、安定した仕事に就くことができませんでした。

(職歴欄のアップ。「居酒屋」「アルバイト」の文字が見える)

N:北原さんは、飲食店のアルバイトで生計を立てていくことになります。30代になってからは後輩の指導をまかされるなど、リーダー的な存在にまでなっていました。

元同僚:仕事は好きみたいですねやっぱり。誠実にがんばっていましたね。時間も几帳面ですし、仕事に対する情熱が高かったと思います。

(再び職歴欄のアップ。カメラが移動し、「アルバイト」の文字がいくつも並ぶのがわかる)

N:景気の移り変わりで、アルバイト先では人員削減が進み、中にはつぶれてしまう店もありました。北原さんは30歳を過ぎてからも、7つのアルバイト先を渡り歩く不安定な生活を送っていました。

そうした中、借金が生活を追いつめていきます。

(何通もの督促状、そのアップ。「支払いが滞っております」の文字)

N:北原さんは生活費などのために、少なくとも150万円の借金をしていました。給料およそ14万円のほとんどを返済にあてていましたが、それでも足りず、ほかの消費者金融にも手を出すという、多重債務に陥っていったのです。

そして去年11月、アルバイト先に、借金の取り立ての電話がかかってくるようになりました。「同僚に迷惑をかけられない」。そう言い残し、店をやめました。

北原さんは、収入がまったくなくなってしまいました。しかし、その窮状を家族にも打ち明けることはありませんでした。

4年前に母親を亡くした北原さん。いま肉親は、大阪に住むお兄さんだけです。

北原さんは、生活がここまで追いつめられていることを、お兄さんには相談しませんでした。

北原さんの兄:そういうことが発覚したら僕からすごい怒られることがわかっているから、僕に黙っていた部分というのがやっぱり多々あると思うんですよはっきり言って。結局抱え込んで、自分で抱え込んで何とかしようとする裏返し、だったんじゃないかと思うんですよね。

N:今年1月、北原さんは初めて生活保護の窓口を訪れました。そのときの相談記録です。

(A4で2枚の、相談記録のコピー。これも多くが塗りつぶされている。一部がアップになり、「世帯員の状況:単身世帯。/住居の状況:民間の借家/疾病の状況:病気なし。/収入の状況:収入なし」などと入力されているのがわかる。「負債の状況:なし」の部分だけが明るくなる)

N:借金などの負債はあるか、という問いに対し、北原さんは「ない」と答えていました。

(相談記録内、「39才、健康体であれば何か仕事はあるはず」との手書きの書き込み)

N:相談員はそれ以上聞かず、39歳で健康体であれば仕事はあるはずと、業種にこだわらず、もう一度探してみてはと伝えます。

(相談記録内、北原さんの返事とおぼしき「求職してみる」との手書きの書き込み)

N:「わかりました、仕事を探します」と答えた北原さん。再び生活保護の窓口を訪れることはありませんでした。

テロップ:3月下旬

N:亡くなる直前、北原さんは助けを求めるサインともとれる行動をとっていました。親友の母親に突然、ある頼みごとをしたのです。

(自宅の外でインタビューに答える母親)

N:北原さんは電話で、「風邪を引いてなにも食べていない、なにか食べさせてほしい」と伝えました。

親友の母親は、そのとき作っていた炊き込みご飯をパックに詰めました。受け取りに来た北原さんは、「大丈夫、ありがとう」と言って立ち去っていったといいます。

親友の母親:ちいっとやせたねえって言ったら「うーん、ちょっと1週間ほど寝とったけねえ」と。かすれとるような声やったね、なんか元気のない声やったけねえ、病院は、って言ったらうーん大丈夫、薬あげようかって言っても大丈夫って言うから。ああ、おばちゃんって言ってからありがとうー、とゆうてから笑って帰りました。

せめて笑ったんかなと思うたらね、なお胸が痛くなる。もっと頼ってくれたらよかったのにと思いますよねえ。

N:およそ10日後、北原さんは誰にも気づかれることなく、帰らぬ人となりました。

(切手が貼られ、宛先が書かれていない封筒。この中に手紙が入っていたものと思われる)

N:部屋には、一通の手紙が残されていました。そこには、最後まで誰にも言えなかったひと言がつづられていました。

テロップ:たすけて

(VTRここまで、スタジオへ戻る)※ここまでで11分10秒/全26分

テロップ:“助けて”と言えない/30代の孤独死

国谷:今夜は作家の平野啓一郎さんにお越しいただいています。平野さんの小説の主人公の多くが、平野さんと同じ30代。最近の作品では、心に深い傷を負った主人公が、希望の見えない時代をどう生き抜いていくかをテーマにしています。

平野啓一郎のほうを向き)亡くなられた北原さんですけれども、どんどん追いつめられていく中で孤立し、そして最後まで誰にも助けてと言えずに孤独死していたと。なぜ誰も気がつかなかっんだろうか、なぜ声を上げることができなかったんだろうか、なぜ抱え込んでしまったんだろうかと、本当に胸が痛くなりますね。

平野啓一郎(以下平野):はい、そうですね。僕も北九州出身で、年齢的にも近いので、非常にあのう、痛ましいビデオでしたけれども。

30台半ばから後半以降にかけてというのは「団塊ジュニア世代」と呼ばれていまして、人口が非常に多いんですね。にもかかわらず1999年、2000年ごろというのは就職超氷河期と言われまして、就職口が非常に狭くて、就職できる人が少なかったんですね。

そうした中でいろんな選択を迫られて、自分の思う通りの企業に就職できた人もいれば、50社中1社になんとか、という人もいましたし、就職できなかった人、フリーターになる人、いろいろいた中で、やっぱり10年たっていまその矛盾が深刻になってきてると思うんですね。で、この亡くなった方は39歳ですけど、一度お仕事を辞められたあとに、結局そのもうひとつ下の団塊ジュニア世代ぐらいの、労働力の過剰供給のような状況に結局、まあ巻き込まれていくことになるわけで。で、それ自体、今お話したように自己責任ではまったくないんですけれども、2000年代前半くらいから、勝ち組負け組というようなこと、企業について言われていたようなことが人間にまで言われるようになって、そういう勝ち負けっていうことをですね、自分の問題として感じてしまったと。

しかもそれは、やっぱり人数の多い世代でしたから、子供のときから受験勉強とか、テストで点数が悪かったのは自分が悪いとか、いい学校に行けなかったのは自分の努力が足りなかったからとか、そういう自分が経験してきたことと、やっぱり実感として重なってしまったんだと思うんですね。

で、実際その生活が安定している人たちも、正規雇用者であったとしても、まあ労働条件が悪かったりとか、いろいろな矛盾の中でがんばっていて、そういう人たちが「いい生活してますね」って言われるとやっぱり、「いや、そのぶん自分たちは努力したから」ということを言いたくなってしまうと思うんですね。それは実際、事実だと思うんですけど、それが逆に裏返って、じゃあいま状況の悪い人たちは努力してないからかとか、努力が足りなかったんじゃないかというふうに、悪いふうにつながってしまっていて。

実態が、いまのVTRにあったように必ずしも努力してないからとか、自己責任というのとはまた別の問題なんですね。

国谷:違う社会状況ですよね。ただその、そういういろいろな立場の同じ世代の人がいるってことを相談しにくい、打ち明けにくいっていう…。

平野:そう、「みんな大変だから」っていうようなことを考えてしまうんだと思いますね。で、相談したところでじゃあ具体的に何をしてくれるのかっていうのが不安だとか、あとやっぱり自尊心の問題っていうのがすごく強いと思いますね。負け組だとかっていうふうに思われたくないとか、そこでなんとか自分でもうちょっとがんばればどうにかできるんじゃないかと思ってしまったりとか。

国谷:そういうことから、生活保護さえ申請していればここまで苦しまなかったのではないかとも思われるんですけど、やっぱり生活保護というのも自分にとっては厳しい…。

平野:そうですね、そこに至るまでの経路が複雑だっていう問題もあるんだと思いますね。ですから、どういうふうにそこへつなげていくかということですね。

国谷:はい。さて、生活に困窮している30代の人々を取材していくと、「助けて」ということが言えない人々が多くいることがわかってきました。

(ここからVTR)※ここまでで15分13秒/全部で26分

(夜、広めの公園に沿う道路を車で走りながら、公園内にあるテントをとらえた映像)

テロップ:なぜ助けを求めない/30代の胸中は

N:北九州市の中心部にある公園です。

(公園内のテント。行列の人々が少しずつ歩きながら、弁当を受け取っていく)

N:この日、ホームレスの支援団体が炊き出しを行っていました。

(もらった炊き出しの弁当を食べる人々)

N:並んでいたのはおよそ100人。半年前の2倍以上にふくれ上がっていました。その中に、これまでほとんど見られなかった30代の姿が目立つようになりました。

(テントの一角、テーブルで対面しながら聞き取りをしている支援団体の男性)

支援団体の男性:何歳になりますか。

男性:いま32です。

支援団体の男性:若いなあ。

N:この32歳の男性は去年、いわゆる「派遣切り」で仕事と住まいを一度に失いました。

支援団体の男性:寝泊まりはどこでしてました。

男性:まあ余裕がなかったら外でとか、(余裕が)あれば逆にインターネットとか。

支援団体の男性:ネットカフェ。

男性:はい。

支援団体の男性:典型的やな。

(弁当を受け取り、腰かけている細身の男性)

N:入江幸平さん(仮名)、32歳です。去年12月に仕事を失い、公園で寝泊まりしています。

(別の小さな公園の、座面が広めのベンチにあぐらをかく)

N:これまでの蓄えを取り崩しながら生活してきましたが、それも尽きようとしています。

(そのまま大きなカバンを枕にして横になり、眠りにつく)

N:熊本に暮らす母親には気づかれないよう、ここ最近は連絡してきませんでした。

(入江さんの若いころの証明写真)

N:入江さんは精密機器メーカーで非正規労働者として働いていました。

職場では厳しく成果が求められました。上司からは「即戦力として結果を出せなければ仕事を辞めろ」とくり返し言われていたといいます。上司に認められ、正社員となる同僚がいる一方で、入江さんはリストラの対象になりました。

結果を出せない自分が悪い。入江さんは次第に、自分自身を責めるようになっていったといいます。

(昼間の公園でインタビューを受ける入江さん。面差しは年相応で浅黒い肌だが、前髪には白髪が目立つ)

入江さん:全部において何が悪いといったら「自分が悪い」しかないんですよね、結局言っている言葉は。何が悪い? うん、自分が悪い。これ以外の言葉はないと思います。

がんばりが足りない自分にもうちょっと活を入れればよかったと思います、今は。

(コインランドリーへ入っていく入江さん。洗濯機へ洗濯物をどさりと入れる)

N:入江さんは食費をできるだけ切りつめて、10日に一度は洗濯をしています。自分がホームレスだと気づかれないよう、身なりに気を配っているのです。生活に困っている状況を人に見せたくないのは、見栄やプライドがあるからだといいます。

(公園のトイレでひげをそる入江さん)

入江さん:かわいそうとかみじめとか思われるのは、人間誰でもいやな部分があると思うんですよね。だからそういうのをなるべく隠そうとしている自分が多分そこにはいるとは思うんですけど。

(入江さん、ハローワークへ行き、コンピュータを操作して求人を探す)

N:入江さんは、自分ががんばればいつかは仕事がみつかるはず。そう信じ、毎日ハローワークに通い続けています。

ハローワークの窓口で面談中の入江さん)

ハローワークの係の男性:私もこの商売して26年になるけど、やはりこんな短期間に…求人が…(以下ナレーションがかぶって聞き取れず)

N:しかし現実には、住所も連絡先もない状態で、就職できる会社はほとんどありません。

(入江さん、窓口での話に落胆している様子。続いてもとの公園に戻り、同じベンチに靴を脱いであぐらをかき、メロンパンを食べる)

N:30代、社会人として地位を築き、幸せな家庭を持つ友人もいる中、入江さんはどうしても自分の今の姿を受け入れることができません。まだがんばれば何とかできる、その思いを支えに、今も「助けて」の言葉を拒み続けています。

(夜の繁華街、ホームレス支援団体の男性が歩いている)

N:「助けて」と言えない30代を救いたい。ホームレスの支援団体は毎晩のように声かけを続けています。

(地下道の片隅に段ボールを敷いて横になっている男性に声をかける)

支援団体の男性:お兄さんおいくつですか。

声をかけられた男性:34。

支援団体の男性:34歳。

(別の男性にもしゃがんで声をかける)

支援団体の男性:いくつ。

声をかけられた男性:31です。

支援団体の男性:31。若いねえ。そうかあ…。

(支援団体の男性、封筒を渡す)

支援団体の男性:これさ、テレホンカードと手紙が入っているから、もしね、ちょっと相談してみよかなーと思ったら、一人ぼっちでがんばるととってもつらいから、手伝えることはなんでも手伝うから、よかったら電話して。

(手紙の内容。VTRでは全文を読むことはできない)

あなたへ

もしかすると、今夜あなたは仕事がなく、行くところもなく、困っておられるのかもしれません。そんな思いであなたのところを訪ねました。辛い状況があなたを苦しめていることでしょう。でも、それはきっとあなただけのせいではないでしょう。いや、まったくあなたとは関係のない事情で、あなたが苦しんでおられるのかもしれません。

私たちは、北九州で行き場のない人、困っている人、路上や公園で過ごさざるを得ない方々の相談を受け、住むところや働く場所、生活保護の申請などのお手伝いをしている団体です。NPO法人北九州ホームレス支援機構と言います。私たちに出来ることは限られています。今すぐにあなたの問題をすべて解決できるわけでもありません。

でも、ともかくあなたにこれだけは伝えたいのです。あなたは独りではない。私たちは、あなたと一緒に考え、一緒に悩みたいと思っていることを。どんなに闇が深くても、道が閉ざされているように思えても、まだ、あきらめるのは早いのではないかと伝えたいのです。

活動を開始して20年になりました。700人以上方々(原文ママ)が路上や困難な状況からわずかな支援を受けて生活を取り戻していかれました。どうぞ、すこし勇気も出して相談してください。

【支援活動の一部を紹介します】

(1)自立支援センター北九州(小倉北区にある自立支援施設)

(2)就職の紹介

(3)…(文字が画面の下端で切れて読み取れず)

(手紙の中の文言「あなたは独りではない。」がズームアップされる)

N:支援団体が渡している手紙です。一人で悩まず、見栄やプライドを一度捨てて相談してほしいと語りかけ、自立へのきっかけにしてもらうのがねらいです。

NPO北九州ホームレス支援機構・奥田知志さん(先ほどからの「支援団体の男性」):「助けて」って言えない世の中って、僕はさみしすぎると思うんですよね。うーん、だって基本的には誰も一人で生きていけないし、一人でがんばっても知れてるわけで。だから、どっか「助けて」って言える、それをみんなで保証していく社会でないと、どんどんひとりぼっちに追い込まれて、まさにホームレス化していく、関係を失っていく、きずなを失っていく、そんな人が続出すると思うんですよね。

(支援機構のテントやテーブルの移動作業を行う男性)

N:こうした呼びかけをくり返し行うことで、「助けて」と言えるようになった人がいます。

堀孝徳さん(仮名)、30歳。9か月前までホームレスでした。

(堀さんの自室でのインタビュー)

堀さん:暮れに支援機構の人たちに会っていなかったら、俺は間違いなく、年は明けれたとしても、生きれて1月の前半までだったんだろうなという。

N:堀さんは支援団体の協力を得て住まいを見つけ、現在ではホームヘルパーの資格を取得しています。

「助けて」と言うことは負けを認めることと信じていた堀さん。しかし、いったん負けてもいいんだと、自分の弱さも受け入れてくれた人たちとの出会いで、次第に心を開くようになりました。今、自立への道を歩み始めています。

堀さん:俺の場合はそうやって相談窓口だったけど、なにかこう、外部からの刺激がない限りは、「助けて」と言えるようになる壁っていうのは、一人じゃ壊しきれないと思いますね。

(VTR終了、スタジオへ戻る)※ここまでで22分42秒/全部で26分

国谷:一人では「助けて」と言う壁を壊しきれないという堀さんの発言がありましたけれども。入江さんもしっかりと洗濯をして、ホームレスと思われない、そういうたたずまいをしていると。それは希望を持って、自分ががんばればまだ大丈夫だという、そういう気持ちが強いからだと思うんですけれども、そういう気持ちは大事にしてあげたいですよね。

平野:そうですね。で、やっぱりトラブル、問題っていうのは自分の力では解決できない、当事者っていうのは解決できないものだっていうふうに社会は考えるべきだと思うんですね。必ず第三者が関与しなければいけなくて、人間やっぱりがんばる局面ってあると思うんですけど、今あそこの状態でがんばるんじゃなくて、社会的なサービスを受けてある程度状態が安定したところから、本当にがんばればいいんだと思うんですね。

テロップ:“助けて”と言える社会に

平野:で、人生80年ぐらいあるとするとまだ1/3ぐらいですから、残りの2/3をどう生きるかっていうことを考えたときに、今そういう行政的なサービスなんかを利用することは少しも恥ずかしいとか、いうことを考えるという問題ではないですし。

国谷:そうですね。ただ先ほどの堀さんのようにいったん負けを認めて、そして助けを求めるということの壁がこれほど厚くなっていると、本人たちにはなかなかその一歩が踏み出せない。その本人、いま厳しい状況にある人々はどういうふうに自分を見つめ直したらいいとお考えですか。

平野:そうですね、まずひとつは行政の窓口を単純化するってことが大事だと思いますね。たとえば犯罪に巻き込まれたら警察に110番をかけるとか、けがになったら119番するというように、まずこういう状態になったら必ずあそこに行くというひとつの窓口を作って、そこに行くとメンタル面だとか経済的な支援だとか再就職だとかいうのをトータルにケアしてくれるっていう窓口を作るべきだと思うんですね。そうするとそこで何人かの人たちが、その人が陥っている状況を共有しあって、社会復帰に至るまでの道筋をきちんとつけられると。

そういうサービスを作って、それを利用することを当たり前のことと思うと、いうふうにしていくことが大切だと思いますね。

国谷:こんな人生、こんなはずじゃなかった、自分のせいなのだ、自分が努力が足りなかったのだ、人生の負け組になりたくないという、その気持ちをひとつ切り替える上での心の持ちようというのも…。

平野:そうですね。僕はこの前『ドーン』という小説を書いて、その中で一人の人間を分けて考えるということを提唱したんですね。

ドーン (100周年書き下ろし)

ドーン (100周年書き下ろし)

平野:ある社会の状況の中でこういう自分がいると。家族といるときはまた違って友達といるときは違うと。そうすると、社会の中で受けたことを自分の全人格的な問題だとして、自分という人間がだめなのだというふうに考えずに、社会の中におかれた自分がこういうトラブルを抱えている、ということを友達や家族に客観的に相談すべきだと思うんですね。で、そういう考え方をしていけば、自分がだめだから今こういう状況になっているというふうに考えずにすむと思いますね。

で、誰かといるときの自分が好きだという自分があれば、その自分をベースに生きていけばいいわけですね。

ですから、自分が好きじゃないとやっぱり本当に、生きていくのが難しくなってしまいますから、

国谷:この人といるときの自分が好きだと、その気持ちを大事に(平野:そうですね)一歩前に踏み出していくということでしょうか。

平野:はい。

国谷:どうもありがとうございました。

平野:ありがとうございました。

(終わり)

※本記事公開時の公式サイトのページはクローズアップ現代 放送記録

“助けて”と言えない ~いま30代に何が~ - NHK クローズアップ現代+

自分の感想

番組が終わったときは短い、もっと深く突っ込んで見せてほしかったと感じた。でもそれは言葉を変えれば、見る側の自分がこのテーマについて、もっと知りたいと思っているということでもある。

本当にわれわれ30代は、困窮したときに自分で抱え込んでしまいがちなのか。そしてそれに対するセーフティーネットの整備は。一人で抱え込みすぎないための生き方、考え方は。またひとつ、自分の中でのテーマが増えたと感じた。

10月13日追記:10月11日にフォロー記事を書きました

クロ現「“助けて”と言えない〜いま30代に何が」明朝に再放送
d:id:Imamura:20091011:help2

さらに追記:このほか、このテーマでこんな記事を書いています

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