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メーヴェのようなもの

【元記事:メーヴェのようなもの:d:id:manpukuya:20070512:1178949111

宇宙作家クラブの例会で、八谷和彦さん(id:hachiya)が作っている「M-01/02」(OpenSkyプロジェクトのいわゆる「メーヴェのようなもの」)を見学しに、青梅に来ています。

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後日追記

八谷和彦さんは、「風の谷のナウシカ」に出てくる「メーヴェ」…のようなものを作る「OpenSky」という活動を行っています。

  • →公式サイト:「OpenSky

ISBN:978-4757170353:detail

この日お伺いしたのは「オリンポス」という、「メーヴェのようなもの」を作っているメーカーさんです。

ここは、航空機を開発している日本で唯一の会社です。社長の四戸(しのへ)哲さんがなかなか熱い方で、いやまあ飛行機を作りたくてそのための会社を作ってしまう方ですから推して知るべしです。

『飛行機作り』を仕事にしようというのは、そうですね、9歳の頃には決めてました。人生の大枠は、この頃決めていたように思います。(中略)

物心つく前から、いわゆる『模型飛行機少年』でした。僕の飛行機好きは、学校中、町内中が知っていたくらいで。当時の模型飛行機作りは子どもたちにとって、今のTVゲームくらいに身近な遊びでしたけど、僕の中には一切、遊びという感覚はなかったんですよ。当時から「仕事」というか「生業」というか…、そういうスタンスで模型飛行機作りに取り組んでました。

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こんな方が、「M-01/02」を作っているのでした。

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いま、M-01はこんな感じになっています。これからジェットエンジンのテストを行い、機体に組み付けるとのこと。今はジェットエンジンのテスト用ベンチを作っているところだそうです。

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八谷さんが手にしているのが、実機に使うジェットエンジンです。推力は35キログラム。「推力20キロのエンジンを2つつける方法もありましたが、それはやっぱり邪道だろうと」。

四戸さんいわく、単にジェットで飛ぶ飛行機を作るだけならこんなに苦労はしないとのこと。デザインイメージの制約があるから大変なわけですが、そのぶんやりがいを感じているそうです。

メディアアーティストの八谷和彦氏から「あれ(引用者註:メーヴェ)が作れないか?」という打診があったんです。原作者の宮崎駿さん自身が「あれは、飛ばない」と断言されていたメーヴェでしたが、実はかなり理にかなった飛行機です。しかし、技術的に可能なことと、実際に作る労力には直接的な関係はありません。その複雑な形状故、製作工数は、同級機の4〜5倍を要します。単純に技術屋的な合理性を持ち出せば、成り立たない仕事といえました。

八谷氏が、アーティスト活動のテーマとして一貫して掲げるのは、「みんなが見たいものを見せる」というものです。私自身、当初は、あくまで仕事上の技術的なテーマとして開発に当たっていました。しかし、プロジェクトの進行と共に、「本物のメーヴェが見たい!」という多くの人の想いが、何度かの展示会を経て徐々に感じられるようになってきました。アートを支える立場でも、エンジニアが活躍できるフィールドがあるということを八谷さんとの出会いで知ることができたのです。

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翼の断面の写真を見ると、実にデリケートなカーブを描いていることがわかります。この曲線を求める設計も大変ですが、実際にその通りのものを作るのがまた大変なわけです。

翼のうち、茶色の部分は厚さ1ミリのベニヤを接合して作られています。2枚のベニヤの接合部は互いに1:15の斜面をなしており、接合線は表と裏で1センチくらいずれています。「0.5ミリのベニヤを使うと設計上はメリットがありますが、製作がずっと難しくなります」だそうです。

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これは、翼を作るための治具(ジグ)です。翼の部分ごとに治具があります。

細かな木片で描かれたカーブに沿うように、ベニヤを加工していきます。

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たくさんの種類の、のみやかんなが置かれた工具台です。こういう道具を使いこなす技術と、よい設計をできる技能の両方を持つことは、実はなかなか大変なようです。

つくづく思うのは、日本の技術教育は両極端だということです。偏差値教育だけじゃ、一流のエンジニアはつくれません。“モノつくり教育”で製造テクニックを身につけても一流のエンジニアにはなれません。最も大切なのは、モノと理論をつなぐリアリティです。理論に長けて、熟練した腕を持つ人間こそ、一流のエンジニアではないでしょうか。このままじゃ、そのうち日本は、モノづくりでは食えなくなりますよ。

今、ウチの会社は『エンジニアのトキワ荘』状態。小さい頃の僕みたいな少年たちが、たくさん出入りしています。いきなり電話をかけてきて「飛行機の作り方を教えてくれ」と言って、上京してきちゃうような子も案外いるんです。

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当日は、本当にいろいろな話を伺うことができ、とても楽しい時間でした。それこそ『コダワリ人のおもちゃ箱』(ISBN:9784767803296)に登場していただきたくなるような、独創的な上に技術を持っているところだと感じました。

さらに追記

八谷さんの日記でも、当日の様子が紹介されました。

後日、改めてお話をうかがいました。