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実相寺昭雄監督死去

【元記事:実相寺昭雄監督死去:d:id:manpukuya:20061130:jissouji

ええー、そんな。本家本元の実相寺アングルはもう見られないのか。

この1年くらい、東京MXテレビで「ウルトラマン」や「怪奇大作戦」、「ウルトラセブン」を次々と放送している。で気づくのは、実相寺昭雄が演出した回は雰囲気ですぐにわかるし、映像が脚本の面白さを何倍、何十倍にも引き立てているということだ。

実相寺は「ウルトラマン」では、スカイドンシーボーズジャミラといった異色な回を担当している。特に「スカイドン」の回である「空の贈り物」は、「ウルトラマン」のほかの回とは雰囲気がまるで違っていて、しかもきちんと面白い作品になっていた。

「空の贈り物」は、「空からはいろいろなものがやってくる」といった抽象的なナレーションで始まり、「雨もまた、空からの贈り物だ」と続く。その直後に男が飛び降り自殺するシーンが入り「これもまた、望まない贈り物だ」とかなんとか言っちゃって、いったい今回はどうしちゃったのかと思うのだった。

ウルトラマン」全体を通してもっとも有名なコメディシーンといえばこの回の、ハヤタがカレースプーンを空に掲げて変身しようとするところだろう。今回改めて見るとその直前のシーン、隊員たちが長机に一列に座って、黙々とカレーを食べている様子も独特の風情が出ている(そういえば、実相寺昭雄は食事のシーンを好んで撮るという印象もあるな)。

さらに、あわてていて隊員服を後ろ前に着てしまう演出とか、フジ隊員は本部のコンソール前で大福を食べていて(ほら食べてる)急な呼び出しにむせたり、夜中の緊急連絡にあくびをしながらネグリジェ姿で登場したりして妙に生活感が出ているとか、ネタの密度の高さがほかの回とは桁違いである。

普通に流して撮ってしまうであろうカットに遊びを入れる演出も面白い。たとえば「怪奇大作戦」の「恐怖の電話」。タバコ屋の店先で、そこのおばさんから「あなたに電話だそうですよ」と公衆電話の受話器を渡されるSRI隊員、というシーンがある。普通なら、ただ受話器を受け取って話し始めるカットにするだろう。しかし完成したカットは凝っていて、受話器を渡したおばさんとそれを受け取った隊員が、受話器とコードによって変に交錯してしまい、隊員は電話で話をしつつ、おばさんをうまく通そうと悪戦苦闘するという演出が加わっていた。

実相寺昭雄の演出は、こういうちょっとしたアイデアがたくさん盛り込まれている。だから同じ30分番組でも満足感がずいぶん違うのだった。

ほかにも、居場所などの状況を示すための「捨てカット」も味わいがある。同じ「恐怖の電話」では、電話を介した殺人の原理を探るため、電話局の交換機室を調べるという場面がある。部屋一杯に置かれた大量の交換機が、カチカチと無機質な音を立てている。ここは陰影を強く出した照明にアップ、ロングと細かいカットを重ねている。微妙に長いシーンであるが、そこが雰囲気を盛り上げている。

話は進まないのに画面に引きつけられる演出といえば「怪奇大作戦」の「京都買います」だろう。この話のプロットそのものはきわめて単純で、「今の京都は昔の良さを失った。ならば私が住民から京都を買い、かつての良さを取り戻したい」と考える人の話である。その意志を物語に落とし込むために、仏像の消失事件という道具立てが用意されるが、この話のよさはそこではない。牧隊員(岸田森)と、京都を買おうとする女性が「昔の京都」をゆったりと歩くシーン、ここに非常に長い時間が割かれている。お寺や仏像、茶屋、京都ならではの家並みが出てくる。テレビドラマとしては退屈になりそうなシーンだが、カメラワークや音楽がとてもよく、思わず見入ってしまうのだった。

そして、すべてが解決したあとのエンディングでは、京都市内の現代的な街並みや京都タワーを、たたみかけるように見せつける。ズームを多用し、遠近が圧縮された画面と、そこにかぶさる車のエンジン音やクラクションは、美しい古都を覆いつつある現代的な息苦しさを強調している。うまいね。

そんなこんなで実相寺昭雄はとてもよいです。こういう独特な演出に興味がある人には、ぜひ見てみてほしいものです。

今日のこの記事を書くために「ウルトラマン - Wikipedia」や「怪奇大作戦 - Wikipedia」を見ると、上で挙げた回はいずれも佐々木守が脚本を書いていた(彼も今年2月に亡くなっている)。そうなのか。実相寺昭雄佐々木守のコンビが、あの面白い回を作っていたんだ。