昨日、東京トンネリックスを見終わったらすぐ移動して、府中市の外語大まではるばる観に行ってきました。会場は開始前に満員になり、入れなかった人もいた由。
さて映画はというと…数日前にネットで言われた衝撃的な内容は、後半にまとめて出てくる。前半は、ビクトリア湖で獲れる外来の肉食魚「ナイルパーチ」を空輸するロシア人のパイロットや、彼らを相手にする娼婦、ナイルパーチの加工工場の社長(いい暮らししてそうー)、工場の内部、研究所の夜警、ストリートチルドレン、HIVの蔓延を嘆く牧師などが点描される。これらの仕込みが後半に効いてくる仕掛け。
魚を輸出する飛行機や、援助物資を運んでくる飛行機が、画面に何度も出てくる。内戦などに使われる武器を運んでいるらしいことが強く示唆される。この映画では、飛行機はグローバル化の象徴の一つである。かつてビクトリア湖とその周辺で完結していた暮らしは、ナイルパーチの繁殖とその肉を輸出する産業によってメタメタになっていく。
ダーウィンの言う「適者生存」の法則に従って、ナイルパーチは在来魚を食い荒らし繁殖する。欧米や日本に輸出されるナイルパーチは高価で、タンザニアの人々には買えない。仕方なく、廃棄されるアラを干して油で揚げて食べている。衛生状態は劣悪で、発生する有毒なアンモニアガスで障碍を負う人もいる(映画で実際に見てほしいので具体的には書かないが、このくだりはきわめて衝撃的)。
じゃあ一体どうすればええねん、と、なんとも暗い気持ちになる映画だが、まず現状を知るという意味でとても有意義だった。
フーベルト・ザウパー監督を囲んでの座談会から
監督の発言は順序を含め、主旨を損なわない範囲でアレンジしています。
- 「コンゴの内乱をテーマにしたドキュメンタリーを撮影していた際、『人道援助の飛行機が運んでいるのは救援物資だけではない(=内乱で使われる武器も運んでいる)』と知ったことが、この映画を作るきっかけとなった」
- 「この映画の製作には4年かかった。現地での撮影期間は7ヶ月」
- 「資本が生まれる現場は、よい取材対象になる」
- 「『いま私が消費しているこれは、いったいどこから来たのだろう』という普遍的なテーマが、この映画ではたまたま魚のフィレ(ナイルパーチ)だった」(筆者註:そういえば森達也の『いのちの食べかた』(ISBN:465207803X)も出発点は同じだ)
- 「書類が伝える表面的な数字ではない、実際の様子を見ることが大切」
- 「映画の中で殺されてしまう人がいるが、犯人は警察に賄賂を渡しているため捕まらない」
- 「魚の加工工場の工場長は、ナイルパーチ漁が遠からず破綻することを知っている(筆者註:ナイルパーチが在来魚を食い尽くし、ナイルパーチの餌がなくなるため)。そのため、すでに綿花への投資を始めている」
- 「撮影は政府からにらまれ、刑務所に入ったこともある。しかし白人であるために優遇されていた面もある。映画には現地新聞の記者が登場するが、もし彼が自分と同じようなテーマを追えばすぐに殺されてしまうだろう」
- 「ダーウィンの悪夢」はビターズエンドが日本での配給権を獲得。来年夏に公開される予定。
- 同時にNHKも放映権を取得している。NHKでも放送されるかもしれない。2006年2月6日追記:2006年3月5日に、BS1にて放送とのこと(詳細はd:id:Imamura:20060206:darwinを)