(ネタバレ全開ではありませんが内容には触れています)
『三体Ⅲ 死神永生』を読み終わった。最終巻はいろいろな方向へスケールが大きくなり、予想外の終わり方だった。とてもSF的で満足。
1巻が出たときは反響が大きくて、10年に一度の傑作が出てきたという雰囲気を感じた。
- 中国だけで2100万部、話題性と本物のおもしろさを兼ね揃えたバケモノ級の中国SF──『三体』 - 基本読書(https://huyukiitoichi.hatenadiary.jp/entry/2019/07/08/080000)
なので楽しみに読んでみたのだが……むむむ……これはちょっとむむむのむ。
面白くなかったわけではないのだが、そもそもあのような世界で知的生命体が誕生するだろうか。そこがどうしても引っかかる。地球の歴史を見る限り、十億年単位で安定した環境が続かない限り無理じゃなかろうか。そうでないと、もし運よく生命が誕生しても、知的生命体に進化して過酷な世界の処世術を身につける前に簡単に絶滅してしまうだろう。
物語は現代の謎の事件と、文革の時代から極秘のSETI計画の時代という過去の物語が語られる。特に過去の話は人間の感情が細かく描かれていて好ましい。そしてVR内のコンピュータや表紙の船が登場するシーン、謎の種明かしなどはダイナミックなアイデアで面白い。でももうちょっとこう、もうちょっとなにかがほしかった。期待が大きすぎたのだろうか。こちらの感受性が弱っていたのだろうか。
第1巻がそんな感じだったので、やや身構えながら第2部「黒暗森林」(上下巻)を読み始めた。
第2部は1巻で明らかになった状況をもとに異星文明との戦いが始まる。1巻で明かされた謎によって、人類が圧倒的に不利とわかる。敵の侵略にどう対抗するか? さまざまな方策が立てられる中、第2部では奇策ともいえる「面壁計画」が描かれる。人類と敵の違いをもとに、人類が有利かもしれない方法で対抗していく。「面壁計画」以外にもさまざまなアイデアがどんどん出てきて楽しい。でもそれぞれのアイデアはわりと単発で、それぞれが有機的にからんで大きなうねりを作り出す感じではないなあとも思った。上巻ラストのすさまじいピンポイント攻撃が、下巻になるとあっさり解決していたり。
とはいえ第2部は1巻より面白かった。「暗黒森林理論」は中国では一般的な考えとなり、それまでのファーストコンタクトものの常識がくつがえったそうだ。この調子で完結編はどうなるか? と読み始めたのだった。
第3部「死神永生」(上下巻)を読む前に第2部までの話を思い出したい人のために、早川書房が「これまでのあらすじ」を公開した。もちろんネタバレ全開、閲覧注意である。
- 【第一部・二部ネタバレ注意!】これで発売前の予習は万全! 『三体』『三体Ⅱ 黒暗森林』これまでのあらすじ|Hayakawa Books & Magazines(β)(https://www.hayakawabooks.com/n/n1337352e1a34)
第3部はさらにスケールアップし、人類のさらなる未来が描かれる。ちょっと面白いと思ったのが、大変なことが起きる→意外な解決→また大変なことが起きる→意外な解決、というくり返しがあること。これが『よかったねネッドくん』という絵本を思い出させた。
あるひ、ネッドくんに てがみが きた。「びっくりパーティーに いらっしゃい。」よかったね。
でも、たいへん! パーティーは とおい とおい フロリダで やるんだって……。
よかった! ともだちが ひこうき かしてくれて。
でも、たいへん! ひこうきが とちゅうで ばくはつ。
よかった! ひこうきに パラシュートが あって。
でも、たいへん!……
こんな調子で、ページをめくるたびに「でも、たいへん!」と「よかった!」がくり返される楽しい話である。「三体」の第3部はわりとこういう感じだった。そして意外で面白いアイデアが次々に出てきて、ダイナミックなことが起きるたびにスケールが上がっていった。すごい。特に終盤のスペクタクル描写は大したものだ。これこそSFだ。よかった。満足しました。
早川書房のnoteには、『三体Ⅲ 死神永生』から以下も掲載されている。どちらも第2部までは読んでいることを前提にし、第3部の内容もにおわせている。
- ついに本日(5/25)発売!『三体Ⅲ 死神永生』訳者・大森望氏あとがき|Hayakawa Books & Magazines(β)(https://www.hayakawabooks.com/n/ne1c3f34e2ce2)
著者の劉慈欣によるエッセイが紹介されていて、第1部と第2部はSFファン以外にも読んでもらえるよう「現代もしくはそれに近い時代を背景とすることで物語の現実感を高め、SF的要素を現代的なリアリティに立脚させようとした」とのこと。しかし純粋なSF小説として書いた第3部がシリーズ全体の人気につながったのだそうだ。いいですね。
- 宇宙とSFには、まだまだ想像力を振るう余地がある――『三体Ⅲ 死神永生』藤井太洋氏解説再録|Hayakawa Books & Magazines(β)(https://www.hayakawabooks.com/n/n25dce0267f65)
『三体』の内容紹介に入るまでは、藤井氏が『三体』と著者の劉慈欣をどのように知っていったかが書かれている。『三体』を未読の方もそのあたりまでは読んで大丈夫なのではないでしょうか。
第1部は自分にはいまいち合わないと感じたが、第2部と第3部はとても楽しめた。皆さんもぜひ読んでみてください。
勝手な正誤表
例によって勝手な正誤表を作りました。増刷時修正の参考になればと思います。
- 劉慈欣著『三体』の勝手な正誤表(https://ima.hatenablog.jp/entry/2019/07/15/000100)
- 劉慈欣著『三体II 黒暗森林』の勝手な正誤表(https://ima.hatenablog.jp/entry/2020/06/25/000000)
- 劉慈欣著『三体Ⅲ 死神永生』の勝手な正誤表(https://ima.hatenablog.jp/entry/2021/05/25/000100)