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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(リュウグウの重力測定とMINERVA-II)

小惑星探査機「はやぶさ2」は、引き続き小惑星Ryugu(リュウグウ)の観測活動を実施しています。

今回の説明会では「はやぶさ2」の現在の状況、「はやぶさ2」やリュウグウのアストロダイナミクスのほか、MINERVA-Ⅱ-1の開発経緯や、機体構造、ローバーとしての特徴といった工学的な内容、「はやぶさ2」からの分離シーケンスなどについて説明を行います。

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(18/09/05) | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年9月5日(水)11:00~12:00

登壇者

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(image credit:JAXA

※左から吉光氏、池田氏、吉川氏、久保田氏

中継録画

配付資料

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本日の内容


(吉川氏)

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目次

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はやぶさ2」概要

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ミッションの流れ概要

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座標系の注意点

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1.プロジェクトの現状と全体スケジュール

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2.Box-B運用状況

Box-B運用の説明図

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  1. y方向に9キロ移動し、南極の大きなボルダーを観測。また-x方向に9キロ移動し、リュウグウの夕方側を観測した。

Box-B運用で撮影したリュウグウ

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3.小型モニタカメラ(CAM-H)

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直近のサンプラーホーンの様子

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参考

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打ち上げ直後と同様正常に見える。

レーザー照射で反射板との距離を測定、距離が縮まったら小惑星表面にタッチダウンしてサンプラーホーンが縮んだものと判断し弾丸を発射する。

4.アストロダイナミクス

池田氏より)

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4.小惑星の重力測定

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4.重力計測降下運用

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4.小惑星近傍の力学環境

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5.MINERVA-II

(吉光氏より)

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MINERVA-IIはシステムの名前。MINERVA-II1にはAとBの2つのローバーを搭載している。形は同じだが表面特性などが違う。

5.MINERVA-II-1

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5.MINERVA-II1 Rover

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5.分離運用シーケンス

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(久保田氏より)

「①LIDAR高度60メートル」のところで、落下地点「N6」へ向かって北へ移動しつつ自由落下。分離から350秒後に赤道方向へ戻って上昇。

6.今後の運用スケジュール

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6.タッチダウン1 リハーサル1

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ボルダーがたいへん多いので、降下を途中で中止して戻ってくる可能性も含めたリハーサル。

7.今後の予定

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参考資料

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質疑応答

日刊工業新聞とみい:池田さんに。リュウグウの質量が4.5億トンというのは今回が初めての発表か。また自由落下について

池田:4.5億トンは前回発表済み。自由落下は重力にまかせて落ちるもの。

とみい:MINERVA-II1が飛び跳ねる理由は

吉光:表面を移動するというのは、表面に働いている重力に対して水平に動くこと。これをどうやって実現するか。ガスジェットを噴くなど考えられるが燃料が尽きると動けなくなる。そこで表面の摩擦力を使って動く。地球上でも車輪で動く、足で動くなどはすべて摩擦力で移動している。
摩擦力の値は接触力×摩擦係数。接触力はロボットと表面の間に働く力、重力の反力。重力で地球の中心へ落ちるのを表面がとどめているから表面から接触力を受ける。その接触力に摩擦係数を掛けると摩擦力がわかる。
地球のような重力が大きい天体では接触力も大きく、摩擦力も大きくなる。リュウグウのような小惑星では重力が小さいため接触力も小さい。摩擦係数は不明だがともかく摩擦力がなければ横方向へは速度が出ない。
接触型のポイントは摩擦力が小さくても接触し続ければ力をもらい続けて加速できること。自動車の加速など。しかし小惑星表面はフラットな地形ではなくでこぼこしている。いろいろな方向から力を受けると表面から離れてしまい、そうなると摩擦力がなくなり加速できない。接触型のメカニズムでは接触を保てないため加速ができない。また摩擦力も小さい。結果として移動速度が落ちる。
ホップするメカニズムは接触を保つ時間は短い。代わりに接触力を瞬間的に大きくすることで短いながら大きな加速を得る。ホップするメカニズムは接触力が重力の何倍も大きくなる。ホップする挙動で表面に押しつける力が働くため。それが接触力を増加させるポイント。短時間ながら横方向へ一気に加速できる。

久保田:NASAの火星ローバーのような車輪型のローバーをリュウグウに持っていくと重力が小さいためすぐに浮いてしまう。浮いてしまうと着地するまで待たなければならない。そこで逆に積極的に浮いて移動する方法を考えた。

読売新聞こみやま:重力計測降下運用時の最下点について

池田:資料15ページにある距離「約1,400メートル」は小惑星中心からのもの。16ページの「高度850メートル」は小惑星表面からの距離。

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久保田:「高度」というときは表面からの距離、ホームポジション高度は小惑星中心からの距離。高度とホームポジション「高度」はまぎらわしいので今後「小惑星中心からの距離」と書くようにしていきたい。
重力を考えるときは質点を考えるので小惑星中心からの距離で計算。GMという数字を使うと距離の自乗で割るとおおよその重力加速度が出る。今後もなるべくわかりやすくしたい。

こみやま:自由落下するときの加速度で重力加速度を求めている?

久保田:その通り。重力がなければ現在の速度を維持して下りていく。小惑星に重力があると引っぱられ、加速しながら下りていく。その距離と時間を計って重力を求めている。

こみやま:資料17ページにある「赤道での重力は地球の約8万分の1程度」とある。地球での重力加速度9.8メートル/秒2を8万で割ればいいのか

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池田:そうです。資料の0.11~0.15というのは小惑星の遠心力も考慮した表面加速度なので重力加速度より少し小さい。

こみやま:重力環境がわかったことで今後の運用にどう活用されるのか

池田:GMがわかった。久保田が先ほど述べた通り、距離の自乗で割ると重力加速度になる。タッチダウン時には自由落下になるため探査機にかかる重力の計算に使う。

ライター喜多:吉川先生に。質量がわかってバルクの密度がわかった。そのことで新たな知見はあるか。小惑星が資源として注目されてきていることもあり、この数字でわかることはあるのかどうか

吉川:今後もう少し表面物質などを調べないとわからないが、基本的にC型小惑星としては典型的。どのくらいの空隙率があるかなどはもう少し調べて。

喜多:小惑星の重力加速度は実際にそこを訪れて自由落下させないとわからないもの?

池田:基本的にはそうです。

久保田:初代はやぶさの時も、地上観測ではイトカワの自転周期くらいはわかるが大きさや重力は行ってみないとわからない。小惑星探査では行ってみないとわからないことがわかった。

喜多:将来的に小惑星を資源として使うにはショットガン的に探査機を送って自由落下させて重力を測る? メソッド化するものだろうか

吉川:資源として水を求めるのか金属を求めるのかにもよるが、もう少しいくつかの種類の小惑星を探査しないとどういう方法がよいかはわかってこない。今のところイトカワリュウグウ、もうすぐベンヌだけ。資源利用としてどういうミッションを作ったらいいかはまだ難しい。アメリカの「サイキ」という探査機が金属型小惑星への探査ミッションを計画中。これらの結果を見ないと資源利用はまだ先の話ではないか。

毎日新聞永山:前回MINERVAは小惑星に着地できなかった。今回工夫したことや意気込みは

吉光:着陸できるかどうかはロボット側の話でこちらではどうにもならない。前回との違いはちゃんと距離を測って探査機の自律的な処理で放出する。それで中止になって放出されないということも当然あり得るが。処理がうまく進めば着地に問題はないだろう。

永山:ホップの方法について。ほかにも方法があると思うがMINERVAがモーターの回転の反動を採用している理由は

吉光:ホップするものはカエルなどいろいろある。小惑星は重力が小さいため、どんな姿勢からでもホップできる必要がある。そこで考えたのがこの方法。

永山:モーターだけで大丈夫なもの?

吉光:数値的には計算しているし無重力実験も行っている。

永山:MINERVA-II1はリュウグウのどのくらいの範囲を探査できると期待しているか

吉光:1回のホップでひと声15メートルくらいと考えている。同じ方向にホップしていけば探査範囲は広がる。ただ着地した姿勢にもよるのでどんどん遠ざかるかはわからない。あとはどのくらい長く生きるかが鍵。

共同通信すえ:資料17ページの小惑星近傍の力学環境は従来考えられていたモデルから妥当なものなのか

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池田:加速度環境は形状とGM(重力の大きさ)から計算できる。OSIRIS-RExが向かっているベンヌと形は似ているし分布もそう変わらない。自転速度が違うのでその差はあるかも。

すえ:イトカワの数倍程度の重力というのもリュウグウとの大きさの比から妥当か

池田:まあ妥当だと思います。

ライターあらふね:小惑星の重力がわかったことでラブルパイル型かはわかったのか。表面加速度は赤道付近が小さいがその理由は

吉川:ラブルパイルかどうかはまだ判断できない。表面の様子や素材、種類によっても変わるためもう少し検討が必要。

池田:表面加速度は内部の密度の偏りがわかっていないため一定のものとして計算している。

あらふね:MINERVA-II1について運用時間の目安は。自律行動の判断材料は

吉光:運用中は、はやぶさ2側の中継器をオンにする。このあとMASCOTの運用があるがそこまで生きていればずっとオンのまま。MASCOTの運用が終わっても生きていたら中継器をMASCOT向けからMINERVA-II1向けに戻してずっとオンに。いつまでというのはわからない。
自律行動は探査機からの通信リンクがあるかを見る。また電源系の電圧が低いときは消費電力が大きい通信機は使わない。ただし最後のリンクからの時間が長いとマズイのでときどき通信機をオンにする。ほかにはフォトダイオードやジャイロの値から、ジャンプ中か表面にとどまっているかを判断するなど。

あらふね:環境がよければずっと生き続ける?

吉光:そうです。

あらふね:どこかにとどまった後も通信し続ける?

吉光:電力があれば。

あらふね:探査の成否はどこで判断?

吉光:きちんと分離して小惑星の画像を得られるか。

あらふね:タッチダウンのリハーサルでレーザーレンジファインダーを使いたいとのことだがそのときが初めて?

久保田:LRFは2つある。小惑星表面を見るセンサー(LRF-S1)とサンプラーホーンを見るセンサー(LRF-S2)。

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LRF-S2のテストは終わっている。S1は高度30メートルくらいにならないと検出できないため今回のリハーサルで初めて確認する。

あらふね:MINERVA-II1の投下のGO/NOGOはどう判断?

久保田:MINERVA-II1の分離は降下中に予定軌道を通っているか判断が入る。そのロジックはリハーサルで確認。

NHKふるいち:MINERVA-II1は着陸機として初挑戦。意気込みと期待を

吉光:意気込みはわたしがしてもしょうがないのでありません。ロボットがやることですので意気込んでも仕方がない。準備はすべて終わりましたのであとはちゃんと自律動作するかどうか。運用によってはそこをスーパーバイズする。

ふるいち:どうしても期待を聞きたいので吉川先生お願いします

吉川:確かにローバーがすることなので意気込んでも仕方がない。初代はやぶさの時は切り離したあとMINERVAから写真が届いたのに小惑星表面に行かなかった。今回はぜひとも表面から写真を送ってほしい。そのために運用に間違いがないように。リハーサルはしてきているが、さらに慎重な運用をしていきたい。

月刊星ナビなかの:Box-B運用について。資料9ページのような写真で新しくわかったことはあるか

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吉川:南極側を撮影したのは大きなボルダーがあるため。極付近の形状モデルの精度が上がるのがサイエンス的には重要。

なかの:タッチダウンのリハーサルについて。候補地点のうち最有力候補に下りるのか

久保田:3つのうち一番いいところへ。ただしほかの候補地も近いので降下中に写真を撮れるだろう。情報収集を含めてリハーサルを行いたい。

ニッポン放送はたなか:重力情報や表面加速度の分布でタッチダウンの難易度や注意点はあるか

久保田:17ページの図は密度を均一としているため中心からの距離で決まってくる。

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赤道は中心からの距離が大きいため重力が小さい。南北へ移動すると重力が大きくなって引っぱられる。そうすると誤差が増えてくるため修正が必要。重いものがあると重力が変わってくる。そういうことも含めてリハーサル。表面近くでどのくらい引っぱられるかがわかると小惑星の中身がわかってくる。すき間があるのかなどの知見につながる。思った方向へ行かないことがあるだろうところがリハーサルの難しいところ。
これは初期モデルの重力分布。この通りならばそのまま行くがそういうことはない。引っぱられることも覚悟の上でリハーサルを行う。

はたなか:けっこう繊細な運用ということ?

久保田:ちょっとずれると引っぱられるので。イトカワのときも引っぱられて、六体問題に変えるなど工夫をした。今回もリハーサルで確認しながらモデルを更新していく。

時事通信かんだ:資料8ページのBox-B運用について。常に一自転ぶんを見ているのか

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吉川:その通り。だいたい1日くらい滞在して1回自転するのを見ている。

かんだ:夕方側を見たい理由は

吉川:影ができるななめ方向を見たいという点は明け方側でも同じ。これまで夕方側を観測しづらかったのでそちらへ向かった。

かんだ:夕方側の温度変化などを見ている?

吉川:できれば明け方側も行きたい。今回は夕方側にしたので次があれば明け方側も見たい。

かんだ:影ができるところを見る科学的な意義やねらいは

吉川:光の当たり方が違って表面の凹凸がよくわかる。温度変化やスペクトルも向きが違うと得られるデータが変わるかもしれない。

かんだ:MINERVA-II1がホップしたときの滞空時間は

吉光:5センチでホップすると約1,000秒=15分くらい。そこからまたバウンドするので落ち着くまでさらに時間がかかる。

産経新聞くさか:資料18ページ。右側の写真の下側にあるものが本体で、上に見えているのが分離機構?

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吉光:その通り。右上が土台で左上がカバー。

くさか:左の写真の丸で囲っているところに見えるのはカバー?

吉光:土台に2つのローバーを入れてカバーをし、ワイヤーでくくって1つの箱にする。それを探査機の下面につけている。ローバー自体は外から見えない。2つのローバーは連結はしていない。土台の上下の中間付近に仕切りがある。箱は上下にローバーを入れるところがある。

くさか:はやぶさ2から分離したときに2つのローバーが独立して下りていく?

吉光:その通りです。

くさか:「MINERVA-II1には2つの探査ローバを搭載」とあるが

吉光:探査機の中では「MINERVA-II1」は一体化した箱のことを指していた。すべてのものに名前が必要なので。だからそういう表現になっている。

くさか:なるほど、右写真の4つの要素をひっくるめて「MINERVA-II1」と

吉光:その通りです。

(以上)