赤瀬川原平亡くなる

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赤瀬川原平が亡くなった。自分の中身の大きな部分を作り上げてくれた人がいなくなってしまった。

自分への影響が大きかったので「ホームページ」を初めて作ったときに赤瀬川原平を紹介するページも作った。

赤瀬川原平は最近はときどき読む「アサヒカメラ」にクラシックカメラの連載を持っていた。数か月前、この連載がなくなっていることに気付き、もしやとは思っていた。

芸術家としての赤瀬川原平の作品は「宇宙の罐詰(蟹缶)」が秀逸である。カニの缶詰の中身を出してラベルをはがし、缶の内側に貼ってふたを閉じる。その瞬間、宇宙全体が缶詰の内側になってしまう。ものの見方をひっくり返して見せて、こちらの頭をほぐしてくれる人だった。

もっと長生きして、思いもよらない考え方をたくさん見せてほしかったが仕方がない。赤瀬川原平のように面白がりで楽しく生きていきたい。

赤瀬川原平のかんたん年表

赤瀬川原平のことを本から知るなら、NHKの「知るを楽しむ〜人生の歩き方:中古美品?」が少ないページ数にまとまっていていい感じです。

しっかり読みたい人にはなんといっても『全面自供!』でしょう。

全面自供!

全面自供!

赤瀬川原平は著作が多い

赤瀬川原平は書いた本の数が多すぎて内容もさまざま。とても面白いものもあるがちょっとピンとこないものもある。勝手に厳選して紹介したい。

読売アンデパンダン

出品した作品は無審査で展示してくれるということで、現代美術の人々がこぞって出展していたという伝説の展覧会。『反芸術アンパン』にまとまっている。

反芸術アンパン (ちくま文庫)

反芸術アンパン (ちくま文庫)

千円札裁判とハイレッド・センター

赤瀬川原平が「千円札の模型」を印刷したところ、当時実際にあった偽札事件との関連を疑われ、事実誤認が多い朝日新聞の記事もあってか起訴されてしまった。

裁判は「なにが芸術か」という視点で争われることになった。「これが芸術、これも芸術」と証拠を示すために裁判所が現代アートの展覧会になってしまった。これは相当痛快だっただろうな。

当時の「ハイレッド・センター」の活動記録が『東京ミキサー計画』。

1964年の東京オリンピックを前に大きく変貌しようとしていた東京で行われた自主的な清掃活動が「首都圏清掃整理促進運動」である。歩道のタイルを一枚だけ徹底的にきれいにする。白衣にマスク、腕章までつけているし「清掃中!」ときれいにレタリングされている看板(赤瀬川原平の手による)を立てているから見た目は変ではない。しかしよく見ると清掃しているタイルは一枚だけであり明らかに変である。

オリンピックだからと古い街並みをどんどんなくしてしまおうとする世の中をこうしてけん制する。2020年の東京オリンピックを控える我々にとっても訴えるものがある。

私小説

千円札裁判で文章をたくさん書くことになったのがきっかけでエッセイを書くようになり、エッセイにだんだんフィクションが入り込んできて小説になった。そういう出自なので実に私小説の味わいである。視線は赤瀬川原平らしくふんわりとしていて時々酸味が混じる。小説家としての赤瀬川原平は「尾辻克彦」の筆名を使っている。

『父が消えた』は芥川賞を受賞した。

父が消えた (文春文庫)

父が消えた (文春文庫)

櫻画報

千円札裁判を経て芸術そのものですることがなくなってしまった赤瀬川原平はパロディジャーナリズムへと歩を進める。つげ義春に似た写実的なペン画で独特の風合いがある。「朝日ジャーナル」の存在感など、今読んでも当時の世相などがわからないぶんつらいかもしれないが、うまい絵を見ているだけで眼福である。

櫻画報大全

櫻画報大全

路上観察

路上観察學入門』は読みやすくはないかも。でも基本文献です。

路上観察学入門 (ちくま文庫)

路上観察学入門 (ちくま文庫)

  • 発売日: 1993/12/01
  • メディア: 文庫

『東京路上探検記』は尾辻克彦の筆名で書かれているが小説ではなくエッセイである。それでも「隆」への三行広告の話などはそのあたりの小説よりずっとドラマチックだ。

超芸術トマソン

「建築物に付着して美しく保存されている無用の長物」に対して、鳴り物入りで巨人に入団したものの三振の山を築き「扇風機」と呼ばれたゲーリー・トマソン選手の名前を冠した。それがトマソン。作り手側に芸術作品を制作する意図がないため「超」芸術とされた。

超芸術トマソン』ではトマソンを発見し、新しいタイプのトマソンを興奮しながら採集して分類し、そのうち落ち着いてきてしまう様子まで描かれている。

超芸術トマソン (ちくま文庫)

超芸術トマソン (ちくま文庫)

トマソン大図鑑』は1996年発行なのでブームはひと通り過ぎたあとの総まとめといったあんばい。内容はずいぶん落ち着いて、淡々と事例を採集している。

トマソン大図鑑〈空の巻〉 (ちくま文庫)

トマソン大図鑑〈空の巻〉 (ちくま文庫)

  • 発売日: 1996/12/05
  • メディア: 文庫

高校時代にとり・みきさんの『愛のさかあがり』(オジギビト収集)を読んだ。ここで初めて赤瀬川原平という人物を知り、続いてトマソンという概念を知って衝撃を受けたのでトマソンには思い入れがある。ちょうどそのころ「PATLABOR the MOVIE」が公開されて、これらによって町を見る自分の目がすっかり刷新された。今まで見えていなかったものが見えるようになり、町を歩くときにキョロキョロするようになった。

【バーゲンブック】 街角のオジギビト

【バーゲンブック】 街角のオジギビト

そういう視線を得た人は世の中にたくさんいて、その結果が工場萌えだったり団地萌えだったり鉄塔萌えだったりで、ジャンクション、ダム、エスカレーター、そのほかたくさんのものが町の中で収集・分類の対象になっていった。

工場萌え

工場萌え

  • 作者:大山 顕
  • 発売日: 2007/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

新解さん

新解さんの謎』は新明解国語辞典の説明文の面白さを説明するのに「新解さん」というキャラクターを設定したのが絶妙だった。

新明解にはいろいろ逸話があって、初版では「火炎びん」の説明で作り方を細かく書いてしまっていたとか、「ばか」の説明が「理解力や判断力が常人より著しく劣っていること。また、そうとしか思えない様子」となかなか言い当てているとか、4版だか5版だかで「数え方」の説明を入れたら「火炎びん」にも律儀に「本」と書かれていたとか。

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)

イカ同盟

立体写真に興味が出た赤瀬川原平が、立体カメラは中古しかないからと中古カメラ市に行ってみたら一発で中古カメラウイルスにやられてしまった。その結果がアサヒカメラの連載「こんなカメラに触りたい」だった。

「こんなカメラに触りたい」は単行本にもなっている。

中古カメラ大集合

中古カメラ大集合

老人力

老化現象を「老人力がつく」と前向きにとらえる。常識をひっくり返す考え方は赤瀬川原平の真骨頂だ。赤瀬川原平にこれほどのベストセラーが出る時代が来るとは思わなかった。

老人力 全一冊 (ちくま文庫)

老人力 全一冊 (ちくま文庫)

赤瀬川原平の展覧会が開催中

こんなタイミングで亡くなるとは…だが千葉市美術館のは特に大規模な回顧展である。(いよいよ具合が悪いから回顧展を、という流れだったのかも)

お互いの半券を持って行くと割引になる由。となると町田へ行ってから千葉へ行く方がちょっとお得だ。

追記:「芸術原論」展に行ってきました

関連記事

そのほか、赤瀬川原平のような面白さがある人について書いた記事。

(11月29日記)