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金星探査機「あかつき」の観測成果に関する記者説明会

日時

  • 2014年12月18日 13時30分~15時

登壇者

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  • 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授 今村剛
  • 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士課程2年 宮本麻由

太陽風はどう作られるのか? 金星探査機「あかつき」が明らかにした太陽風加速

概要
金星探査機「あかつき」を用いた太陽コロナの観測から、長年謎に包まれていた「コロナ加熱問題」を解く鍵が得られました。本研究によって、太陽半径の5倍程度離れた距離から太陽風が急激に速度を増していることがわかりました。太陽から離れた場所での太陽風の加速には、太陽風の中を伝わる波をエネルギー源とする加熱が関わっていることも明らかになりました。
  • 太陽半径の数倍程度離れたところで太陽風が急激に加速されていることがわかった
  • コロナ中で発生した音波によることがわかった

質疑応答

日経サイエンスなかじま:「速度」は同径方向のものか

今村:その通り。太陽から押し出されてくる同径方向の圧力成分が一番大きい。温度を求めることはできない。分子の活動をとらえることは今回の観測ではできなかった。
速度の分布から間接的に運動方程式

日経BPとみおか:安定した電波源について

今村:金星で電波掩蔽観測を行うもの。金星大気で電波が変化するのを観測することで大気の情報を知る。80億Hz、つまり8GHzの電波だが変化量はざっと0.01Hzくらいしかない。
今回は観測のために理学機器としてそういった発振装置を取り付けた。
観測では0.1Hzくらいの変化がある。そのように少ない変化を観測するには0.01Hz程度しか変化しない今回の装置が必要だった。
装置はタテヨコ10センチほど。ほとんどは断熱材や緩衝材。高精度な振動子を精密な温度コントロールで制御。ドイツの宇宙関連企業タイムデックと共同開発。

朝日新聞おかむら:これまでのコロナホールによる観測との違いについて

今村:今までの観測が否定されるかどうかは歯切れが悪くなる。コロナホールでは加速されやすいというのは確か。一方で観測時の問題で従来のようなモデルになっていた面がある。
コロナホールとは違う速度分布を持っていることも含めて、専門家はなるほどもっともらしいものが出てきたねという反応。

毎日新聞にしかわ:温度と速度の分布について。温度の上がり方と速度の上がり方の違いはなぜ起きるのか

今村:温度はすぐ高温になっているとこれまでの想像や今回の観測でわかっている。
コロナホールではなくループ状に閉じた磁力線の領域をプラズマが横切ろうとすると抑えられてしまう。そのため速度が上がりにくいのではないか。磁力の影響がなくなる遠方でするする加速していくのではないかと考えている。
コロナを加熱するメカニズムそのものは近いところと遠いところであまり変わらない。が加速は近いところでは磁力線の影響で小さくなるのだろう。
少し離れたところで音波が顕著に見えているが近いところにないわけではない。さまざまなメカニズムが提案されている。
今回われわれが提案しているメカニズムがすべてを説明するとは限らない。
音波は流体力学的で比較的わかりやすいが粒子として考える方法論もある。
とはいえ今回注目している5~10太陽半径の領域で音波が大きく影響していることはまず確か。

日経サイエンスなかじま:5太陽半径くらいで温度が変わらないのに速度が変わるというのは

今村:磁場モデルは太陽付近では正確だが離れていくと不正確になっていく。この磁場はポテンシャル磁場といって直接観測したものではない。5太陽半径で磁場がくるりと巻いているかどうかは観測ではわからない。
太陽の西側と東側で速度分布が微妙に異なるなどもある。
さらなる観測が必要と考えている。

なかじま:8GHzでぶれない電波とのことだが「あかつき」打ち上げからだいぶ時間がたっているが探査機の健全性は保たれているのか

今村:そうとは限らない。今回の観測は2011年6月に行っているので現状は異なっているかも。しかしそうそう壊れるものでないのは確か。最近はオンにしていないが金星探査で電源を入れることにしたい。
観測から発表までここまでかかってしまったことについては何も言えない。もっと早くお伝えできればよかったのだが。

フリーランス小川:16回観測しているが1回の測定時間は

今村:6~7時間。音波の周期が数百秒から2000秒程度なのでそのくらいとってあれば十分観測できる。

おがわ:金星探査機なのに太陽の前を通過するということがわかった事情について

今村:こういう観測チャンスがあったのは偶然といえば偶然。ただこういう位置関係になることがあるかもとは思っていた。

おがわ:金星投入しなかったからの怪我の功名?

今村:投入できていたら金星の観測を最優先するため今回のような手厚い観測はできなかっただろう。怪我の功名はそういえばその通り。
当初の目的ではなかったが新しい軌道でできることはと考えたらこういうチャンスがあった。

おがわ:行きがけの駄賃で観測するといざ金星探査の際にマイナスになることはあるのか

今村:もしあれば観測はしなかった。

NVSさいとう:フレアとの違いは

今村:フレアのような爆発的なイベントとは異なりその背景として常に存在する加熱・加速のメカニズムをとらえた。

フリーランス秋山:NASAのアイリスでも太陽観測を行っているが協調はあったか

今村:ありません。「ひので」と「SOHO」(米)のデータを参照してまとめた。

NVSさいとう:今回のような観測について今後これをやればより詳しくわかるという提案などはあるか

今村:今回のはとてもユニークなデータであるが足りないところも多々ある。アルベーンはを直接観測できればよかった。遠いところでとらえるのは難しい。電波を使うが偏向といって振動面が回転していく現象がある。それはごくわずかでそれを観測できれば磁力線の振動であるアルベーン波を直接とらえることができるだろう。
また今回は静穏領域だったがコロナホールでも観測したい。

さいとう:太陽系の観測者に「こういう観測ができる」と伝えたときのことについて

今村:今回「ひので」のチームにも協力してもらった。太陽をずっとやってきた皆さんとも協調。3年前のことで記憶が定かではない。
わたしは「あかつき」の前に「のぞみ」をやっていて電波掩蔽観測をやっていた。火星の代わりに太陽の比較的近くを通ることがあり同様の観測を行った。
そのころから太陽のコミュニティと細いつながりがあり今回の観測につながった。

読売新聞ほんま:急激な加速はこの音波でほぼ説明ができるのか

今村:そこはなかなか難しい。今回の観測結果に関しても計算結果にしても不確定要素、誤差が大きくある。

宮本:たとえば音波の振幅などでも。

今村:これだけで説明できるといいたいが、モデルも観測も誤差が大きい。これからの研究課題。しかしこれで大部分を説明できるのは確かと思う。

ほんま:現在のあかつきの状況については

「あかつき」プロマネ中村:2015年11月22日に軌道投入する計画だったがそれだとすぐに金星に落ちてしまうと分かり別の軌道を検討中。理事長などへの報告後にお知らせしたい。
搭載している5台のカメラは見る対象がないため試験していない。チェックアウトは軌道投入後3か月をめどに。

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(以上)