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金星探査機「あかつき」観測成果に関する記者説明会

金星周回軌道に投入後3年を迎えます金星探査機「あかつき」の観測成果についての説明が主目的です。説明は一部英語で行います(逐次通訳を予定しております)。

金星探査機「あかつき」観測成果に関する記者説明会(18/12/7) | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年12月7日(金)10:30~11:30

登壇者

中継録画

リンク

中村氏から


3年前の2015年12月7日(今日ですね)金星に着いて観測に入った。

履歴

  • 2010年5月21日 地球出発
  • 2010年12月7日 金星周回軌道投入失敗
  • 2015年12月7日 金星周回軌道投入再挑戦し、成功
    • 遠金点 約38万km/軌道周期 10.5日
  • 2016年4月1日 定常観測運用開始
    • 2016年12月10日~ IR1、IR2機能停止中
  • 2018年度 延長運用開始

2018年11月27日6時20分(日本時間)に、2015年12月の金星軌道投入から軌道周回数が100周を迎えた。軌道周回数は2015年12月7日の金星軌道投入時の近金点通過時に1から数え始めて、近金点を通過するごとにカウントアップしたもの

残燃料で寿命が制約される

  • 2018年12月7日時点で最低でも1.41(最大で+2.45)kgの燃料が残っていると推定される
  • 経験上1日平均0.9gの燃料を姿勢制御に使用している
  • 残燃料が1.41kg(最小の予想)→4.2年の寿命(2023年初頭まで)
  • 残燃料が1.41+2.45=6.86kg(最大の予想)→11.75年の寿命(2030年ごろまで)
  • ただし、この寿命は大きな軌道変更がないと仮定している。詳細に計算していけば長時間の致命的な日陰を避けるために軌道変更が必要かもしれない

現在の運用

  • 地球から見て“はやぶさ2”と同じ方向に見えるために一つの深宇宙局では両者をカバーできない
  • はやぶさ2”はリュウグウが遠くにいるので臼田64mアンテナが必須
  • “あかつき”は金星が地球に近いときは内之浦34mアンテナを使用可能(2018年)
  • 金星が遠くなると(2019年)“あかつき”はNASAの協力を得てデータの受信を行う
  • 電波科学のための電波受信にインド(ISRO)(実績あり)、欧州(DLR)(試験受信)の深宇宙局の協力を得つつある

佐藤氏から

わたしはIR2の主任研究員(PI)でもある。IR1とIR2が機能停止中とあり、そこを説明する。

IR1とIR2は共通のエレクトロニクスで制御されている。その制御装置(IRAE)の電源系が不調のためIRカメラが停止している。ほかの部分は不調でないためときどきIRAEの電源の再投入を試みている。それで立ち上がるという希望は多くないが、立ち上がれば再び使いたいのでくり返している。

IR1とIR2は機能停止までに近赤外線による高品質な画像を撮像している。今日発表するのはそれをハビエル・ペラルタが詳細に解説した研究論文。

あかつきIR2で明かす、金星夜面における下層雲の運動

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(ペラルタ氏より)

金星と大気のスーパーローテーション

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金星では自転周期の60倍で大気が回っている。スーパーローテーション

まず上層雲でスーパーローテーションを調べる。太陽光を反射するため観測可能。

一方夜の面の下層雲も熱い深部からの熱赤外線から調べることができる。

今までのミッションの大半は上層部昼面の調査。下層雲での調査は限られていた。あかつきは夜面の風速を観測できるようになったことは大きな意義がある。

スーパーローテーションの原因に関するおもな仮説

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スーパーローテーションは現在でも原因が不明、さまざまな仮説がある不思議な現象。

一般的な仮説は2つ。熱潮汐波説とギーラッシュらによる仮説。

スーパーローテーションについて下層雲をキャラクタライゼーションし、どちらの仮説が妥当性が高いか検証するのが目的。

画像処理と、模様の位置測定精度の向上

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われわれが見出したこと1

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(1/3)赤道ジェットの再確認

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図Aは東西風速。

あかつきの観測では風の緯度が上がっていることがわかる。また赤道付近の風速が増している。これは赤道ジェットによるものと思われる。

図Bは南北の風速。大きな差異はない。この結果を見ると南北では大きな違いはない。このことからハドレー循環は排除できるか検出できないほど小さいと想定される。

われわれが見出したこと2

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(2/3)太陽加熱による熱潮汐波の影響

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潮汐波の検出方法。地方時(太陽の動きに連動する座標系)を使う。18時から23時にかけて赤道付近に明らかな加速がある。上層雲で発生した熱潮汐波が下層雲まで及んでいることを示唆している。

われわれが見出したこと3

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(3/3)下層雲領域の風速の年変化

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風速にばらつきがあることがわかる。アルファベットはそれぞれの宇宙ミッションや地上観測を示している。(「写真が消えてしまっていてスイマセン」)

このばらつきは、あかつきが収集した画像でもわかっている。

発見を成し遂げられた要因

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これらの発見の意義

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3.について:同僚がアルベド波を発見している。これと比較すると非常に興味深い結果が出ている。雲の中のアルベド波が太陽光を吸収している可能性がある。そのために太陽光の吸収の変化が、熱潮汐の寄与と時間変化を引き起こしているのではないかということが示唆される。

おわりに:「あかつき」は世界のオープンサイエンスに貢献しています

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天文学のジャーナルにも公表するなど、成果は世界に共有される。

リソースの共有はとても大事。数字的なシミュレーションを行うためのデータを共有する目的がある。第三者に我々の測定値の品質をチェックしてもらう目的もある。メタ解析を行うグループの助けにもなる。

謝辞

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13の研究機関にご協力いただいている。

ありがとうございました

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質疑応答

日刊工業新聞とみい:赤道ジェットとは。またスーパーローテーションとの関係は

ペラルタ:こちらがあかつき以前のプロフィール。赤道から緯度の真ん中くらいまでは一定の風速で、そこから極へ向かって減速していく。
2年前に堀之内武先生がIR2を使って、このプロフィールは金星の下層雲には適用できないとわかりました。
あかつきの観測では一定の風速ではなく、赤道近くで風速がピークに至るとわかった。ピークが形成されていることはとても重要。角運動量の輸送がどのように行われているかという情報を教えてくれるから。
予想外に速い風速はこの数字モデルで重要なデータです。

佐藤:角運動量保存という物理法則がある。自転軸から遠いところほどゆっくり回るという理屈。
角運動量が高緯度や中緯度から赤道へ向かって流れてくるということになると、赤道へ行くに従って自転軸から距離が離れるため回転速度は遅くなるはず。赤道を加速するのはそのメカニズムをきちんと組み込まないと数値的に説明できない。南北間での角運動量の単純な輸送ではできない。そのメカニズムは完全には解き明かされていないが、数値計算の中に組み込むことでスーパーローテーションの起源やなぜ維持されているかに迫ることができると考えて研究している。

時事通信かんだ:スーパーローテーションの原因の仮説が2つあるが、今回の観測結果は熱潮汐波が大きな要因であると示唆しているということか

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ペラルタ:下層雲に潮汐があったこと自体が熱潮汐波説の証拠になる、メカニズムが解明されるのではないかということを示唆していると思います。
ただ、一つのメカニズムだけでスーパーローテーションを結論づけるのは早計である。もっと複雑なメカニズムが関わっているのではないかという可能性も考えられる。というのも、もし熱潮汐波説だけがスーパーローテーションのメカニズムであるなら、これまでのシミュレーションはスーパーローテーションをもっとうまく再現していたはずだから。
これは私の個人的な見解だが、上層部の輸送メカニズムをもう少し特徴化しなければならないと思っている。なぜなら、熱潮汐に加えてケルビンタイプの波動というものが非常に重要な役割を担っているから。
先ほども少し見せたが、IR2によってこのような不安定さや渦が存在することがわかっている。赤道ジェットによって形成しているものと思われる。この不安定さが伝播や輸送の新しいエージェント要素になっているのではないかということもさらなる検討が必要。

NHKつちや:熱潮汐という言葉を平たく説明したい。太陽光によって大気が膨張する場所が自転とともに動いていくので膨張した大気による風が起きているということなのか

ペラルタ:熱潮汐やたいほちょう(正確な言葉わからず)の基本的な要素は金星の運送に相対的な動きをする。
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(熱潮汐波説の図から解説)
加熱領域が加熱されると太陽と一緒に動く。励起されると上下に伝播する。その反応として、波の伝播とは逆方向に大気が加速される。

つちや:熱膨張した大気が押される形で反対方向の風になっている?

ペラルタ:熱膨張は一定の定期的な励起によって発生していて、これが波を生成する。波は雲の中の運動量を生成していて、その反応として減速する。

佐藤:簡単に説明しろと言われても簡単にそうはならないのだが、太陽の光が雲に当たったとき、刺激が与えられると波が発生する。物質ではなくその波が上や下へ伝播していく。その刺激の連続が金星の自転によって金星の東側へ動いていく。それによる反作用で、伝わっていく波は運送を西向き(スーパーローテーションの方向)に加速していくという考え方。

つちや:そういう考え方としたとき、スーパーローテーションの風速の変化が1日の中や年単位で起きているようだが、その原因をどう考えているか

ペラルタ:熱潮汐の活動の影響はアルベドの変化による。しかしその変化は非常にゆるやかで、ジェットの生成に直接は関係していないだろう。だからアルベドの変化が熱潮汐によって風速の加速を大きくしていると思う。
これは後日公表する予定だが、アルベドの変化は年単位で、多くは5年以上かけて変化する。
アルベドの変化は、金星の雲の中にある異なる化学的な要素で引き起こされているのかもしれない。
アルベドの変化を起こしている化学的な反応がどういうものかはまだわかっていない。

フリーライターあらふね:8ページの図で「地方時の18時から23時にかけて赤道付近に弱い加速があることを初めて検出」とあるが、これは金星の下層大気でのことか

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ペラルタ:この小さな加速は下層雲の中で観測されている。

あらふね:このような加速は昼間の時間帯では観測されていないのか

ペラルタ:こちらのスライドは昼の間の上層部を示している。ずいぶん前から潮汐による加速が観測されている。
この影響は上層雲でより強力と思う。これはビーナス・エクスプレス、あかつきを含むすべてのミッションで検出されている。
上層部の方が強いのはまず高度があること、またエネルギーが紫外線吸収によって吸収されるため。

中村:昼間の下層側は見えません。

あらふね:今回発見された弱い加速はスーパーローテーションにどう影響すると考えるか

ペラルタ:スーパーローテーションにどう影響するかはまだわからない。今回発見されたことを数学モデルに入れて、これがいかに角運動量を変えるか、その結果を見ていきたい。

(以上)