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アール・ブリュットの展覧会2つ

ラフォーレミュージアム原宿のヘンリー・ダーガー展と、埼玉県立近代美術館アール・ブリュット・ジャポネ展を見てきた。どちらも5月15日(次の日曜)まで。

アール・ブリュットとは「生(き)の芸術」という意味で、正規の美術教育を受けない人が心のおもむくままになした作品をいう。多くの作家は精神的なハンディキャップを持っていて、作品は独特の勢いを持っている。

ヘンリー・ダーガー

ヘンリー・ダーガーの作品を見るのは、2005年のハウスオブシセイドウでのアール・ブリュット展以来。

今回は展示作品数がけっこう多くて見ごたえがある。またヘンリー・ダーガーが制作に使った画材や、40年にわたって住んだ部屋の写真なども展示されていた。作品ごとの脈絡はあまりなく、それぞれの制作年もわからない。そのことをより強く感じさせるようにするためか、会場はちょっと迷路のような作りになっていて面白かった。ゆっくり見て1時間ほどかな。

それにしても、人に見せるつもりがないまま好きなように作った作品ながら、構図や色彩が十分鑑賞に堪えるのはやはりすごい。作った本人はどのくらいの頻度で見返していたんだろう。完成したぶんを鑑賞するよりも、次のを作るほうに力が入っていたかもしれないと想像した。

会場で販売されていた『パッション・アンド・アクション』を購入。アール・ブリュット作家77人が紹介されている。

非現実の王国で』は版を重ねているようでなにより。

アール・ブリュット・ジャポネ展

こちらは日本の作家をたくさん紹介する展覧会。パリで開催された展覧会の凱旋展示だそうだ。量が多くてじっくり見ていたら2時間弱。パリでの様子は以前、日曜美術館で紹介された。

魲万里絵(すずきまりえ)のはやっぱりすごいね。大きなキャンバスを用意できることが幸運なのかもしれない。そのほか、画面全体に黒々と塗り込められた動物や静物を描く舛次崇もいいし、三橋精樹の鉛筆で描いた建物を黒く塗りつぶしてしまう作品もよい。電車の正面図をひたすら並べていく作品(本岡英則)は今回実際に見られて、これもいいなあ。その話は以前書いた。

会場でも売っていた『アール・ブリュット・ジャポネ』は図録代わりになる。展示された全作家の作品とプロフィールが載っている。プロフィールは展示に書かれたものよりちょっと詳しい。

ラフォーレミュージアム原宿のショップは品数がとても少なかったけれど、こちらのショップは充実していた。ぱらぱら見た中では『アウトサイダー・アート』が、比較的多くの作家についてプロフィールが詳しく載っていていい感じ。アール・ブリュットは作品と同じくらい作家の来歴も気になるからね。

アール・ブリュットのあと常設展示を見ると、なんだかほっとした。アートの文脈の上に成り立っている作品は安心して見ていられる。アートの評価は、テーマと技術が大きな軸となる。これはこういう流れにあってここが新しい、これはこういう技法がよくて、という見方ができる。

アール・ブリュットはそういう文脈とはまったく切り離されて、それぞれがひとつの流派を作るくらいの独自性がある。そこが魅力であり、気を入れて見ないといけないと思うところでもある。

といっても精気を吸い取られるたぐいではない。絵にしても焼き物にしても、なにをどのようにやってもよいのだと肯定的な気分になる。自由で熱気のあるさまざまな作風をぜひ一度見てみてもらいたい。