id:yukattiさんから回ってきた「はてなダイアラー映画百選」、私からは1985年公開のテリー・ギリアム監督作品『未来世紀ブラジル』(原題:Brazil)を紹介させていただきます。
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「20世紀の終わり、世界のどこかの国で…」というテロップとともに始まるこの映画。舞台は、少し懐かしい風合いの近未来。このいびつに情報化された管理社会では、反政府テロが頻発している。情報省に勤めるさえない役人のサム(ジョナサン・プライス)は、夜ごと同じ夢を見ている。彼は夢の中で騎士となり、大空を自由に羽ばたき、雲の間を抜けていき、女神に逢う。
ある日、役所にまぎれこんだ一匹のハエが、書類に偶然ミスを作る。そのミスが作った穴は、ふさいでつじつまを合わせようとするほどに大きくなっていく。そしてサムは図らずも、その穴に落ちるように、今まで平穏に暮らしていたはずの社会に潜んでいた力学に翻弄されていく。
悪夢的なイマジネーションにサンバのリズムを乗せて、管理社会を痛烈に、そして徹底したブラックユーモアで風刺した作品。
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この映画を初めて観たときは、画面の情報量に圧倒された。20世紀半ばに空想された未来がそのままやってきたような「レトロ・フューチャー」の世界では、アール・デコ風の建物の中にダクトが這い回っていたり、奇想天外なガジェットが次々に出てきたりする。
電話にはいくつものコネクタがついており、機能は多いようだが使う人間には不便そうな作り。コンピュータは、古いタイプライターのような本体に、小さなモノクロのディスプレイがついている。便利は便利なのかもしれず、しかしどこか奇形的なものたち。
そしてそれらは、物語の進行にはほとんど影響しない。登場人物はそれらを単に「そういうもの」として使っている。
主人公は背広に外套、帽子と戦前風のファッションで、運転するのは一人乗りの三輪自動車、メッサーシュミットKR200だ。ほかにも、ちょっとしたネタがたくさん仕込まれていて、何度観ても新しい発見がある。背景にときどき見える、共産主義の啓蒙ポスター風のスローガン。蛍光灯入りのメニュー。犬の尻に貼られた、バッテンの絆創膏。通勤モノレール内の片足の婦人。
細部まで作り込まれた画面の構成要素は挙げればきりがない。そしてこれらの一つ一つが、管理社会の悪夢とそこからの脱出というテーマを常に、濃密に演出している。
そんな感じで密度が高いくせに、尺が2時間20分くらいもあるので人によってはちょっと疲れるかもしれないけれど、自分にとってはほかにない、異様な映画体験をできる作品なのだ。
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ということで、『未来世紀ブラジル』を紹介させていただきました。好きなものについて語るのは難しく、またこの映画の魅力を伝えることができたかどうか不安です。でも、自分がなぜこの映画を好きなのか、改めて考え直すいい機会になりました。ありがとうございました。
紹介する候補としてほかに挙がったのは、『七人の侍』『生きる』『ああ爆弾』『ギルバート・グレイプ』『ゴースト・ドッグ』『ヘンリー』『地球交響曲』『エベレスト』『L.A.コンフィデンシャル』『ストーカー』『キッズ・リターン』『許されざる者(クリント・イーストウッド監督)』『バートン・フィンク』『ロスト・チルドレン』などなど、たくさんありました。中でも『ああ爆弾』は、ほかの作品と比べると紹介されるチャンスがあまりないため迷いましたが、やっぱり「百選」ではマイベストを、と『ブラジル』にした次第です。
さて次ですが、「この人が『映画百選』でどの映画をどう紹介するか、ぜひ読んでみたい」という基準で、id:Savaさんにふらせていただきます。リストでお待ちの方々にはすみません。よろしくお願いします。
コメント
- id:Sava『バトンをお預かり致しました。準備運動に入りますので今しばしお待ち下さい。』
- id:Sava『準備運動完了致しました。4月4日の日記としてアップしております。尚、私の次はEdgarPoeさんにお願い致しました。以上ご報告迄。』
- id:manpukuya『わざわざありがとうございます。いい感じですねー。』
- id:bearaerosmith『初めまして。私もマイベスト1はこの映画なので嬉しかったです☆』