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小惑星探査機「はやぶさ2」第2回タッチダウン実施にかかる記者会見

日時

  • 2019年7月11日(木)14:00~

登壇者

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(image credit:JAXA

はやぶさ2」プロジェクトチーム

JAXA宇宙科学研究所

(左から澤田氏、久保田氏、渡邊氏、津田氏、佐伯氏、吉川氏)

中継録画

関連リンク

津田プロマネから

みなさまこんにちは。本日はやぶさ2は、2回目のタッチダウンに成功しました。太陽系の歴史を手に入れることができました。

(発表文読み上げ)

この運用を実施するにあたってプロジェクトチームだけではできませんでした。海外ではNASA、プロジェクトパートナーであるDLR/CNESのドイツ、フランス、JAXA外の多くの機関にご協力いただいた。
取材していただいたマスコミの皆さん、なによりも国民、世界中の見守っていただいた方に感謝。成功を分かち合いたい。ありがとうございました。

佐伯プロジェクトエンジニアから

今回の運用をスライドで説明。

高度20キロメートルのホームポジションからの降下開始は昨日の午前11時ごろ。今回は定刻通り。40センチ/秒、高度5キロメートルから先は10センチ/秒、30メートル付近まで。ここから先は探査機の自律。地上で9時54分に到達を確認。10時20分(探査機は10時6分)にサンプラーホーンを接地させ上昇。このあと上昇スピードをゆるめて明日にはホームポジションに戻る。

高度30メートルでホバリング、ターゲットマーカを捕捉。探査機の目を開いてすぐ、9時47分にターゲットマーカを捕捉できた。いったん捕捉したら探査機はこれをとらえつつ降下開始。センサーをLIDARからLRFに切り替え、高度8.5メートルでいったんホバリングしながら姿勢を傾けたりしつつ横移動、10時5分くらい(機上時刻)に降下して10時6分(機上時刻)に探査機のサンプラーが接地、弾丸を発射して上昇。

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チェックポイントの一覧。

運用途中での判断ポイント※時刻は予定
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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(第2回タッチダウンについて) - ただいま村
判断ポイントの実績値
  • Gate1:7月10日9時58分
  • Gate2:同日21時36分
  • Gate3:7月11日9時4分
  • HGA→LHA:同日10時1分
  • Gate4:同日10時1分
  • TD2:同日10時20分(探査機上で10時6分)
  • LGA→HGA:同日10時39分
  • Gate5:同日10時51分

プロジェクタの温度変化。

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サンプリングが正しく行われたことの証拠。火工品が作動して温度が上がっている。正しく発火してプロジェクタイルが発射されたことを示している。

タッチダウン直後の画像

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(渡邊氏より)

現時点では正確なタッチダウン時刻ではない。正確な高度も解析中。高度10メートルくらい。
当初計画していた場所から1メートルほどしか違わない場所にタッチダウン。かなり高い精度で降り立っている。
舞い上がっている石がたくさん映っている。細かい印象は前回とだいぶ違う。粒子の大きさなど。サイエンスとしてかなり面白い。

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先ほどから2分ほど。高度100メートルくらい。画像の一辺が100メートル。中央の黒くなっている場所が先ほどの写真で撮影した範囲。イジェクタとスラスターで舞い上がった物質などが混ざってこのようになっていると想像。

SCI(衝突装置)が作ったクレーターは中央の右下。すぐ近く。20メートルくらいの距離。SCIの衝突で舞い上がった物質がタッチダウン点付近にあると推定し、そこへ下りてゲットできると考え実行、その通りにできた。

指しているところがSCIの衝突点
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(image credit:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

質疑応答

日本テレビいだ:この画像の中央、黒くなっている場所が着陸点か

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渡邊:かなり広い範囲に広がっているので正確にどこへサンプラーホーンが接地したかは解析が必要だが、この範囲に。

いだ:ミッションの点数は

津田:何点満点ですかね。100点満点で1,000点です。言うことなし、完璧にできたし準備も含めてパーフェクト。

東京とびもの学会金木:最初のタッチダウンやSCI運用のときと心境の違いは

津田:第1回タッチダウン、SCIとも初めてのことだった。大きいステップ。今回は2回目のタッチダウンで、探査機の状況から、計画としても引くことも前に進むことも選べる状態を作り上げられるのがとてもうまくいった。
その中から冷静に科学的な判断をしてタッチダウンを決断できた。今後の探査にとっても科学的、技術的観点からもの大きいステップ。
そういう決断ができるチームと示せたのを誇らしく感じている。

NHKたかい:立て続けに成功できた秘訣、ポイントは

津田:チームワーク以外のなにものでもない。数十人のメンバーが詰めていて全員が大切な役割をまっとうした。
TD1でもSCIでもそうだが、メンバーの自己批判能力というか、TD2の実施には慎重に進めてきたが、「本当にタッチダウンしたいのだろうか、よくこんな状況を思いつくな」という意地悪な想定のシミュレーションを出してきて「これだとタッチダウンできません」という。その状況がいかに起きないかを証明することも含めて準備してきた。
厳しい運用を続けていると度を超した自己批判というか…そういうものがあったおかげで本番では本当に何ごともなくうまくいった。チームの努力のたまもの。

たかい:「太陽系の歴史を手に入れた」の言葉への思い。サンプルを心待ちにしている研究者には

津田:ちょっと言い過ぎたかもしれません。「太陽系の歴史のかけらを手に入れた」という気持ちで言った。それは地下物質を採ったということ。月より遠い天体で地下物質の採取を世界で初めて実施し成功した。また比較対象として地表の物質も採取している。
狙った点の誤差数メートルで深さ方向にも情報を得たことは太陽系の歴史や生命の起源に迫る試料を得られたと考えている。
これから地球に帰ってこないといけないのでしっかり運用をしていく。

日本テレビ■(聞き取れず):2回目のタッチダウンはリスクがあったがどのようにして決行を決断したのか。葛藤などあったのなら

津田:ほかのミッションでも経験したことがないような決断のステージだった。背水の陣ではなかった。技術的な積み上げがあってタッチダウンの成功の道を知っている。さらに成果を目指すかやめるか。マイナスはない。プラスにするかゼロにするか。進めることのリスクだけでなくやめることのリスクも考えた。
複数回タッチダウンする計画であるとしてきた。これまで成功を収めてきてその上で2回目をするかどうか判断を迫られた。
今回2回目のタッチダウンをやめることで、(将来)どこまでやりきれば複数回タッチダウンできるミッションが可能かを考えた。はやぶさ2だけの問題ではないと議論したし外からも意見を聞いた。後押しした意見や慎重な意見もあったが、それらをふまえてもう一度、渡邊プロジェクトサイエンティスト、佐伯プロジェクトエンジニア、吉川ミッションマネージャなどを含めたチーム全体で議論した。1回目のタッチダウンのあと本当にやるべきか、やることの価値とやらないことの価値を議論した。
結果としていま我々が置かれている状況は「やるべき」と判断した。

■:6月の運用会議で所長から待ったがかかったとも聞いたが

津田:それより前から慎重な意見が出ていた。実際そういうタイプの議論をしてきた。その中で我々はこういう考えですというポジションをプロジェクトとして出していた。それを運用会議で確認したということ。

■:消極的な意見をどう受け止めていたか

津田:健全だと思いました。プロジェクトを立ち上げ打ち上げる前から、1回目のタッチダウンに成功してしまうと2回目を行うかどうか迷うだろうなと考えていた。僕の立場でやれることは、迷ったときどちらにも選択できるよう道を残しておくことと考えた。
やめるのは簡単です、やらなければいいだけ。やるという方向ならなにをしておかなければならないかを含めてリュウグウ到着前からここのチームメンバーと準備してきた。結果としてそれが功を奏したと考えている。

■2(名乗らず、毎日新聞永山記者?):こういう言い方は場違いかもしれないが、はやぶさ2が実績を積み重ねすべてのチャレンジを成功させてきた。初号機を知る人から「なんだかあっけない」という反応があったりするが、当事者としてはどう考えているか

津田:たぶん初号機の方々は理解していただいていると思うが、きちんとできている技術はドラマにはならないのだと思う。はやぶさ1で起きたことはよく理解して吸収してきたし、それがプラスに働いたのがはやぶさ1のチームのチャレンジ精神であったりパイオニア精神。それがみなさんに認められて映画にもなったのは我々から見てもうらやましかった。
はやぶさ2が目指したのはそういうところではなく、淡々と完璧に、気合いではなく実行できる技術。それが証明されたのだと思う。そういうところに感動していただけるようになればいいなと技術者個人として思う。

■2:そういう技術はどうやって身につけてきたのか

津田:いろいろあると思うが、謙虚だったんだと思います。はやぶさ1のチームの実力は知っているし、それにとうてい及ばない状態からはやぶさ2のチームを立ち上げた。JAXAのいろいろなミッションや海外のミッションからもいろいろ吸収してここまでやってきた。これははやぶさ2のチームに閉じたことではなく、世界中の一級の科学者から助言をもらったり直接貢献してもらったりしてきた。
我々のチャレンジ精神やとりまとめ能力もあると思うが、ずっと成功を重ねつつも謙虚なところは守り続けてきた、それがよかったのかもしれない。

■2:渡邊先生に。タッチダウン後の地表が1回目とは様子が違うというのは具体的には

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渡邊:わたしも数時間前に見たばかりの第一印象。リュウグウはスペクトルで見るとどこも同じ顔。サンプリングするときに起きる現象はどこも似たようなものになると思っていた。飛び出してくるものの量、形、色がだいぶ違うので場所によって個性があったのかなと。
光の当たり方によるかもしれないが、今回は明るいものが目立つ。前回は薄い板状のものが多かった。今回もそういうものはあるが印象が違う。第一印象なのであとからまた変わるかもしれないが。
タッチダウンを2回したというのはものすごく大きい。1回だけなら前回の様子のイメージで固まってしまったと思う。今回別の場所の様子を見ることで、こんな小さな天体でもこれほどのバラエティを持っているとわかった。それは裏にどういうサイエンスが隠れているのかと次々疑問がわいてくる。非常に興奮した。

司会:いま新しい画像が出てきたので紹介したい。

澤田弘崇(サンプラー担当):探査機は上昇を続け、ホームポジションへ戻る手順を続けている。プロジェクタイルの温度上昇から1時6分ごろ(※おそらくUTC、日本時間は午前10時6分)タッチダウンし弾丸を発射しただろうということがわかっている。その時刻でCAM-Hが撮影した写真。

4秒後の写真は前回と同様、粒子が飛び散っていることがわかる。理学的な解釈は渡邊先生から補足していただきたいが(会場、笑←本人が初めて見る写真の解説を頼むという無茶ぶりのため)前回とちょっと違うのは岩そのものに弾丸を当てているようだ。飛び散り方が違うのはそのせいかなと予想。
小惑星のサンプルを収納するサンプルキャッチャーは3室あるが、今回は3部屋めを使った。2部屋めはタッチダウンには使っていないが降下運用時の微粒子が入っている可能性があるため、2回目のタッチダウンでは3部屋めを使った。

キャッチャB室の閉鎖
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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(第2回タッチダウンについて) - ただいま村

上昇しつつサンプルがキャッチャーの中に入り落ち着く時間を見計らって、ふたを閉める運用をした。サンプラー機構は無事に動作し、キャッチャーのふたが閉まったことを確認してからここに走ってきました。サンプラーの中に無事おさまっていてキャッチャーのふたを閉めたので、この先はサンプルを採取してもキャッチャーに入りません。
サンプラー担当としての残る仕事は、この先どこかのタイミングでカプセルにキャッチャーを移動しておさめる。

司会:壇上の方々、画像を見てひとことお願いします。

久保田:いま見たのでなんとも言えませんが(笑)、1回目のタッチダウンの様子は感動した。今回の3枚目(タッチダウン4秒後)を見て、はやぶさ2はすごいことをしたんだなと。これから解析が始まると思うが歴史を作ったのは間違いない。こんなにすごい映像を撮れたのはびっくり。
今も画像を下ろしていると思う。今後の解析に期待していただきたい。なんともいえない心境。

渡邊:非常に興味深い。これなんか(タッチダウン時の写真)細かい砂で曇ったように見える。プロジェクタイルが当たったとき飛び出した細かい砂かもしれない。下が大きな岩で構成されているのでおそらく岩。岩の上にはSCIで生成したクレーターから飛んできたものが積み重なっている。そういったところに弾丸が当たることで積み重なったものプラス岩が砕かれたものがサンプルできている可能性が高い。
4秒後の写真は1回目のタッチダウンに似ていて大量のものが出てきている。平たいものが前回より少ないかなと。そういったバラエティを今後解析していく。この画像を解析するだけでわかることがたくさんあるしサンプルにも非常に期待できる。

津田:いや、もう…すばらしい写真だと思います。はやぶさ2がちゃんとリュウグウの表面に触ってくれたことのなによりの証拠だと思います。ぱっと見では1回目より多くの噴出物がでている。リュウグウも2回目のタッチダウンということで、より盛大に祝福してくれたんじゃないかと思う。
先ほど澤田から説明があったように、すでにふたを閉めました。あとはこれをカプセルに移動させて地球へ持ち帰るだけという状態です。小包を梱包しているところでふたは閉めた。サンプルをリターンする準備が着々とできている。今日はたいへんうまくいってよかった。

佐伯:衝撃的な画像です。最初に見て「サンプルが入りすぎてキャッチャーのふたが閉まるかな」と心配になったが、すでにふたは閉めたということでどっさり入っているだろう。地球へ持ち帰ってからの楽しみが増えてよかった。

吉川:いまメールを見たらこの写真のデータが届いていたので、急いで割り付けて画面に出している。3枚目の写真はすごいですね。すごいとしか言いようがない。1回目よりはるかにたくさんの岩石が舞い上がっている。ぜひ詳しく調べて…物質を地球に持ち帰って、分析に対する期待がさらに高まったと思う。

澤田:サンプラー担当としてほっとした。2回の役目を無事終えることができてよかった。1回目は皆さん大喜びで、特に初号機の関係者の方の中には、10年越しのリベンジということで泣いて喜んでくださる方もいた。(今村註:初号機のタッチダウンは2005年)
今回もどのくらい喜んでいただけるかわからないが、初号機の皆さんの思いもありますしサンプラーのチームの思いも。分析チームも組織されている。無事終えてほっとしている。

司会:質疑応答を続けます。

ライター林:渡邊先生、地下物質を採取できたことでなにが楽しみか。先日藪田先生(今村註:おそらく広島大学の藪田ひかる氏)が地下の物質は変成しておらず期待できると言っていた。水など地下物質だから期待できることになにがあるか。

渡邊:C型小惑星のサンプルを持ち帰るのは今回が初めて。1回目のタッチダウンで採取した物質を持ち帰るだけでも大きな成果だが、地下物質もあわせて持ち帰るとなると今後20年間くらい他国にはできないことだろうと思う。
そういったものを比較しながら、垂直方向にどういう変化があるか議論できるかがサイエンスとして大事。
もちろん今までの想定や理論から推定でいろいろ申し上げることができるが、たとえば表面と内部で大きな違いがなければ小惑星の物質はずいぶんかき混ぜられているとわかり、それはそれで非常に重要。地下に新鮮なものがあったとすれば、有機物や水は地下で保存されやすいと証明できる。どういう結果が出てもサイエンスとして大きな成果になる。
2回目のタッチダウンで2種類を比較できる形でサンプル採取できたことは、このプロジェクトで一番大きな成果だと思う。

林:1回目で採ったお宝を2回目の挑戦で失ってしまうリスクがあって葛藤があったという。渡邊先生の考えとして、リスクと2つ持ち帰ることに対する期待はどうか

渡邊:アメリカはOSIRIS-RExという、広い意味で同じC型小惑星のサンプルリターンプロジェクトを進行中。
それに対してはやぶさ2はいろいろなことをやる。それはやれることをいろいろやっただけに思うかもしれないが、それぞれが非常に精妙に組み立てられている。たとえば今回の2回目のタッチダウンはまずSCIでクレーターを作って、そこから噴出したイジェクターを採取するというつながりがある。
そういうことを成功させるにはMINERVAやMASCOTといったローバを下ろして表面の状況を調べ、岩がゴツゴツしている中でどうやって下りるかをさんざん検討した。
そういうものが一つにつながっていくので、2回目のタッチダウンはすごく重要な意味を持つ。今までに広がった各種の探査をまとめる要石。それがこういういい形で成功できたのはすばらしい。

林:先生は2回目のタッチダウンを勧める方向で?

渡邊:2回目はもちろんぜひやりたいが、リスクを真剣に検討していただいてこういうことを見事に実現できたのは本当にすばらしい。

林:津田プロマネに。1回目の着陸は「挑戦」、2回目の着陸は自分たちで決断できて前に進む、それが将来に大きなステップになると話していた。今後の探査にどう大きなステップになるのか、この成功が次にどう活かされるのか

津田:成熟した技術とは、やりたいときにやりたいようにやれること。少しでも「やりたい」と思ったとき、十分にコントロールされたリスクのもと、どのくらいのリスクを許容して実行するかも含めてやるかどうかを決められる、そういう実現力と意識の持ち方。
これは我々含めてどこもやったことがない決断。これができるようになったので今後もサンプルリターンを続けたいが、ミッションを組み立てるとき、自分たちが望むようにタッチダウンしサンプリングできる。技術的なステップが一段上がった。
決断の際には技術的な決断だけでなく、組織的な決断であったり科学技術的な、純サイエンティフィックな決断がからみ合う。その中で「あのはやぶさ2はこういうシチュエーションで2回目のタッチダウンを決断できた」ということは大きな大きな実例になる。

林:それはサンプリングについて、それともいろいろなミッションに応用できる?

津田:サンプリングだけではないと思う。こういうタイプの決断はたぶん探査のいろいろなところで迫られる。探査はいろいろなところに出かけていくもの。1回目はどんなミッションでも新しいことをしなければならないという状況に置かれる。そこに探査の価値がある。はやぶさ2はそれに加えてサンプルを2回採取した。新天地だから挑戦しかないんだという追い込まれた状態ではなく、もっと冷静な…挑戦する/しないという判断も含めてやったという実績。
新しい場所でなにかを新しくチャレンジするという探査全般に対して、なにか重要な実績を残せたと思う。

林:6月の懇談会で2回目のタッチダウンをするかどうか悩んでいたのが印象に残っている。津田さんにとって一番苦しかった時期、2回目をしないほうがよいのではとぶれた時期はあったのか

津田:ずっと苦しかったので、ピークがどこかというと難しい。最初のタッチダウンをする前から2回目の扱いをずっと悩んできた。
リュウグウは着いてみたら(岩だらけでサンプル採取が)とんでもなく難しいと判明したので、この状態でタッチダウン1の実現が見えてきたとき、タッチダウン2ができる余力を残せるか悩んだ。タッチダウン2にきちんとつなげるために、3回目のタッチダウンで行う予定だったピンポイントタッチダウンを1回目で投入した。(それは1回目から)それしか選択肢がないからともいえるが、前倒しで実行するという意図もあった。
対象はクレーターではないがピンポイントタッチダウンが必要だし、1回目にできれば2回目にも心配がない状態を作れると踏んで実施に移した。
タッチダウン1が終わったあとみなと議論すると「これなら2回目もいけるよね」となっていただいた。このチームの作り方をしてきてうまくいったところだと思う。

林:とすると1回目のピンポイントタッチダウンができたことで今回の布石、仕込みができていた?

津田:その通りです。

NVS齋藤:サンプルコンテナのふた閉めのあと、カプセルへ移動するタイミングは

澤田:現在未定。時間が経つほど探査機に問題が起きるリスクが上がる。なるべく早く実施したい。

齋藤:タッチダウン運用はこれで完璧に終わったが、リュウグウを出発する前にしておきたい観測などはあるか

渡邊:サイエンティストは欲張りで、こういうことができたら次に工学系のみなさんこういうことできませんかネとなる。そのような質問は大変うれしい。
一方で皆さん相当お疲れだと思う。12月に出発するまで時間はあるので、それまでになにか面白いことはやれるんじゃないかナーと期待しているが津田さんどうですか。

津田:タッチダウン2が終わって一番大きな山は越えた。一抹のさみしさも感じていて、ここから先はしっかり着実な運用を続けていかなければならない。しかしそれだけになっては、あと半年しかいないリュウグウでもったいない。今日までが大きな山だった。これからどうするかきちっと考えていきたい。計画はいくつか出ている。あと6か月を一日たりとも無駄にしないよう運用を続けたい。

齋藤:タッチダウン地点の接近観測をしたいと11時の会見で聞いたが、それについてはどうか

久保田:せっかくタッチダウンした場所なので1回目と同様、さまざまな機器で観測したい。接近観測ではなくホームポジションでの観測になると思う。

津田:高度を少し下げてタッチダウン点付近を観測するのは実施したい。クリティカル運用ではない。1回目のタッチダウン後も1週間後くらいに高度5キロまで下りてタッチダウン後の状態を観測した。それはやりたい。

ニッポン放送はたなか:2回目のタッチダウンに慎重な意見があったと聞いた。國中所長も心配していた。タッチダウン後、所長とはなにか話をしたか

JAXA宇宙科学研究所 所長からのメッセージ
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小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(第2回タッチダウンについて) - ただいま村

津田:まだ話はしていない。

はたなか:会ったらどう報告したいか

津田:「ほら大丈夫だったでしょ」と言いますね。(会場、笑)

はたなか:今回も験を担いだのか

佐伯:はい。昨日は願をかけて今までより値段を上げたカツをいただきました。そのかいあって…延期してもう一度となってさらに値段を上げちゃうと大変なことになるので、今回でかたがついてよかったと思います。

朝日新聞すぎもと:低高度運用について。30メートルに到達したのが地上で9時54分、カメラを開いたのは10時、ターゲットマーカを捕捉したのは1分後。ずいぶん早いがこの通りか

佐伯:探査機を所定通りに誘導できていた。ターゲットマーカを探す時間を4分間取っていた。それが1分以内に見つかったのは今までの運用の経験できわめて正確に誘導できたということ。カメラを開いたらそこにターゲットマーカがいたということにほかならない。今回は非常に精度よくできた。

すぎもと:そうできた理由は

佐伯:姿勢・軌道制御系のメンバーは精度を上げることに命をかけている者もいる。そういったメンバーが妥協することなく精度を追い求めた結果と思う。

共同通信すえ:山場を乗り越えたはやぶさ2と、苦しめられたリュウグウに声をかけるとしたら

津田:僕らにとってはやぶさ2は管制メンバーの仲間の一員という思い。高度30メートル以下は我々が教えた通りに、はやぶさ2が自分で考えて動いてもらうしかない。本当によくきちんと自分で判断して動いてくれた。よくやってくれた。
お疲れさまでしたという間もなくデータを下ろせとかいろいろな指示を送っているが、今も本当にけなげに言うことを聞いてくれている。仲間としてありがとうと言いたい。
リュウグウには…牙をむいたとか言って申し訳なく思っています。(会場、笑)リュウグウも仲間ですね。せっかくサンプルを手渡していただいたので大事に扱って、大事に分析させていただきたいと思いますのでよろしくお伝えくだ…それは違いますね(笑)

(会場、拍手)

(以上)