NHKスペシャルの「新・ドキュメント太平洋戦争」は面白いんだけど、コンセプトが「ドキュメント太平洋戦争」からまったく変わってしまっている。旧版は市井の人々や前線の兵卒の苦労話ではなく、なぜ戦争に負けたのかを分析し教訓を探る内容だった。
ドキュメント太平洋戦争 - Wikipedia
- 第1集「大日本帝国のアキレス腱 〜太平洋シーレーン作戦〜」(1992年12月6日)
- (略)明確な目的もなく漫然と戦線を拡大していった大本営の無能と、その結果として通商破壊で商船の撃沈が相次いた悲劇を描く。
- 第2集「敵を知らず己を知らず 〜ガダルカナル〜」(1993年1月10日)
- (略)同じ失敗を何度も繰り返し、教訓に学ぼうとしなかった大本営の傲慢さを描くと共に、現代の官僚機構や企業体質への警告として描いている。
- 第3集「エレクトロニクスが戦を制す〜マリアナ・サイパン〜」(1993年2月7日)
- (略)科学技術を結集し防御装備にも重きを置いたアメリカ軍に対して、精神力と正面兵力の攻撃力ばかりを重視して、防御や最新技術を軽視した日本軍の姿を通して、売れる商品の開発に予算・人員を集中する日本企業が、本当に戦争から学んでいるのかを問いかける。
- 第4集「責任なき戦場 〜ビルマ・インパール〜」(1993年6月13日)
- (略)無謀な作戦が強行された実態と、日本軍幹部の無責任体質がもたらした悲劇を描くと共に、責任の所在が曖昧な日本型組織の危うさを問う。
- 第5集「踏みにじられた南の島 〜レイテ・フィリピン〜」(1993年8月8日)
- (略)現地の風習を無視し、住民を敵に回してしまった日本の軍政統治の拙劣さと、他国を戦渦に巻き込む事で生じる悲劇を描くと共に、現代日本が他国へ経済進出する際の教訓を問う。
- 第6集「一億玉砕への道 〜日ソ終戦工作〜」(1993年8月15日)
- (略)国際感覚・現実感覚に乏しく、自らの都合でしか物事を考えない政府・軍部の姿を浮き彫りにし、日本人は第二次世界大戦の悲劇を忘れ、戦争を反省したのかを問う。
今日も17時からNHK総合で再放送される「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」シリーズのほうがむしろ旧版の「ドキュメント太平洋戦争」に近い。再放送の第3回「“熱狂”はこうして作られた」では、売り上げ減を気にする新聞社が反戦記事への不買運動に負けて翼賛的な論調に変化する過程が描かれている。
ただ放送当時の反響が大きかったこの回にも不満はあって、翼賛調へ傾いていく新聞を買っていた一般読者の責任に踏み込んでいない。人々は読みたい記事が載っている新聞を買う。それは当たり前だけれど、そこで国民の多くが世界の情勢を正しく理解していれば開戦が無理筋だと理解できたのではないか。
戦後の国民は「すべて軍部にだまされていた」ということにして、開戦や戦争の遂行に対する自分たちの責任を放棄してしまっていないだろうか。「戦争はいけない」としきりに言うのも単に負けたからで、「今度は絶対負けません」と言われたらコロッと開戦論に傾きやしないだろうか。それが心配だ。
反戦番組の多くは冒頭に述べた「市井の人々や前線の兵卒の苦労話」が多い。反戦番組がないよりはずっとよいが、そもそも戦争に向かった理由や負けた原因を分析して、同じ悲劇が起きないようにする方法や教訓を探る番組ももっと作ってほしいものだ。旧版の「ドキュメント太平洋戦争」もぜひ再放送してほしい。