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小惑星探査機「はやぶさ2」搭載小型着陸機MASCOT分離運用前説明(10時~)

小惑星探査機「はやぶさ2」搭載小型着陸機MASCOTの分離運用に関する説明を行います。

小惑星探査機「はやぶさ2」搭載 小型着陸機MASCOT分離前説明(18/10/3) | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年10月3日(水)10:00~11:30

登壇者

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(image credit:JAXA

中継録画

配布資料とリンク

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(詳細は15時から)

大きさは30センチ×30センチ×20センチ、重さ10キログラム程度。

カメラで表面を撮影したり赤外線の分光観測、磁場のデータなどを取る。MINERVA-II1よりも多くのサイエンス的なデータを取る。

MASCOTは1回だけジャンプする。バッテリーは16時間動作する。その間に取得したデータを探査機へ送る。

リュウグウの自転周期で2周の間に観測を行う。

運用そのものは9月30日開始。10月1日までは探査機降下のための準備。

10月2日に降下開始、先ほど高度400メートルに到達。今日の11時ごろMASCOTを分離する。現在のところ健全に運用されている。

MASCOT分離後はやぶさ2は上昇するがホームポジションリュウグウから20キロ)には戻らず、MASCOTと通信するため高度3キロでホバリングする。

質疑応答

読売新聞とみやま:科学観測のうち、分光顕微鏡は鉱物の組成を調べるというがしくみは

吉川:MASCOTの底面についている。はやぶさ2のNIRS2(近赤外線分光計)の顕微鏡型。小惑星表面に接して表面を拡大し近赤外線でスペクトルを取る。
岩石の成分がどういう物質かを調べる。

とみやま:はやぶさ2本体がサンプルリターンをするのと補完的な関係にあると思うが、MASCOTが取得する情報と合わせてどういうことがわかるのか

吉川:いろいろなスケールで表面を調べる。探査機本体は小惑星全体をリモートセンシングで物質の分布を調べる。採取するサンプルからは顕微鏡レベルで物質の組成がわかる。MASCOTはその中間。採取するサンプルは数ミリ。数センチレベルの測定をMASCOTが行う。

NHKきぬた:分光顕微鏡による観測で岩石の成分がわかるとのことだが水分もわかるのか

吉川:水分を直接調べるわけではないが、表面のミクロな鉱物分布として水分が含まれていればわかる。

きぬた:MASCOTはリュウグウの重力を観測するのか

吉川:探査機が接近するときのスピードを正確に測ることで重力はわかる。MASCOTがバウンドするときの状況から重力を推定できるが、バウンドの様子を正確に知るのは難しい。MASCOTのデータから重力を知るのは難しいのでは。

毎日新聞永山:JAXAはやぶさ2チームとしてMASCOTに期待することは

吉川:表面のサイエンス観測に期待している。写真はMINERVA-II1で撮影できたが、科学に使えるデータを表面で取得できることがサイエンス的に価値がある。

共同通信すえ:MASCOTがジャンプするときどのくらい移動する?

吉川:MASCOTは内部のおもりを回してホップする(MINERVAと同じ方式)。その回し方でホップ距離を調整できる。最近聞いた話では何十メートルも移動せず、数メートル移動する程度がいいのではということだった。
一度ホップすると整定するまで時間がかかる。MASCOTは動作時間に制限があるためそれを待つ時間がもったいないとのこと。
またリモセン観測によって、表面が比較的一様であるとわかっている。無理して遠くまで跳ばなくてもいいのではということ。

すえ:MASCOTが夜間観測もできるのはバッテリーだから?

吉川:その通り。よく「太陽電池を載せては」と言われるが、それだと夜間観測できない。また温度が高いとMicrOmega(分光顕微鏡)はいいデータを取れないという事情もある。

NHKきぬた:MASCOTで磁場を観測する目的は

吉川:小惑星にはたぶん磁場はないだろうが、仮に微量な磁場があれば小惑星の成り立ちを知るのに参考になる。そこで磁場観測をしてみることにしたのだろう。

きぬた:磁場と小惑星の成り立ちの関係は

吉川:磁場があるということは、表面物質がどこか別の天体で溶けて固まったもので、そのときの磁場を保存してリュウグウに集まっていると考えられる。
リュウグウは溶けた状態から固まってできた天体ではなく、がれきが集まってできたと考えている。磁場があれば、そのがれきのもとになった母天体の情報がわかるかもしれない。

ライター林:分光顕微鏡は下に接していないと観測できないのか

吉川:そのように聞いている。

林:顕微鏡が下になるよう姿勢を変えるとのことだが、岩が表面にたくさんある中でうまくいくのか

吉川:「Mobilityユニット」を回転させて、ひっくり返って整定しても向きを変えられる。
表面がでこぼこしたところに挟まってしまったらどうするのか聞いてみたらホップするとのことだった。ホップして別の場所へ移動することで観測に向く場所へ落ち着くことを期待する。

林:挟まったことをどうやって知るのか

吉川:カメラがあるほか、MicrOmegaがうまく観測できなければ姿勢がおかしいとわかる。自律で姿勢を変えようとし、それでもうまくいかなければホップするそうだ。

林:DLRやCNESと協力することになったいきさつは

はやぶさ2を提案する前、はやぶさを打ち上げる前に後継機の「はやぶさマーク2」を検討していた。マーク2はよりアドバンスなミッションをと考え、100キロレベルの着陸機を載せようとしていた。着陸機の運用はヨーロッパが進んでいるためヨーロッパと議論を進めた。
はやぶさマーク2は「マルコポーロ」と名前を変えてESAに提案したが通らなかった。
はやぶさ2は初号機より進んだことをしなければ予算が取れないということでヨーロッパと協議し、10キログラムで着陸機を作れるとアピールする流れで搭載することになった。

林:日本の小惑星探査機が海外の着陸機を載せられる実力を持ったとも考えられるのか

吉川:そうですね、ヨーロッパが日本のはやぶさ2を信頼してくれたので載せることになった。

林:お互いにとってのメリットは

吉川:我々が同じようなランダーを作ろうとすると予算がふくらむ。お互い協力することで進んだミッションができるメリットがある。
ヨーロッパにとっては自分が作った着陸機を目的地へ持っていってもらえるというメリットがある。

日経かとう:MASCOTの運用期間中に水や有機物の存在が確認される可能性はあるのか

吉川:MicrOmegaなどでそれらの有無はわかるが、具体的にどんな有機物かなどは難しく、持ち帰ったサンプルの分析が必要。

ライターあらふね:小天体への着陸はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着地したフィラエがある。MASCOTは2番目の科学観測用ランダーといえるのか

吉川:太陽系小天体、小惑星や彗星ではその通り。

あらふね:小惑星に着地しての科学観測は初めて?

吉川:その通りです。

あらふね:MASCOTが1回しかホップしないのはどうして?

吉川:おそらく電池が切れるまでに2回、観測とデータ送信ができるのだろう。

NVS金子:MINERVA-II1の投下実績をふまえてMASCOTチームへのフィードバックはあったか

吉川:MASCOTチームはMINERVA-II1に非常な関心を持っている。切り離されたあとどのくらいで整定するかを気にしている。正確なことは解析中だがおおむね1時間で整定する。これは向こうのチームも想定内のようだ。

金子:姿勢を直したりホップしたりはすべて自律?

吉川:MASCOTのプロマネのトラミ・ホーさんに聞いたところでは、自律で判断して姿勢を変えたり移動したりするとのこと。

共同通信すえ:水や有機物の存在はMASCOTが取得したデータをはやぶさ2を介して地球に下ろし、解析してからわかるということ?

吉川:その通り。16時間以内にデータを取得し探査機に送る。データは数日、あるいは1週間程度でMASCOTのチームに渡るだろう。

すえ:MASCOTの分離シーケンスはMINERVA-II1とはだいぶ違う?

吉川:分離までの手順はどちらもほとんど同じ。MINERVA-II1のときは分離時に水平方向への移動成分が出る。それをキャンセルするため探査機が水平方向に移動しながら分離した。MASCOTはまっすぐ落ちていくので探査機の水平移動はない。そのほかMASCOTを分離した探査機が高度3キロでホバリングするのがMINERVA-II1と違うところ。

宇宙作家クラブ渡部:MASCOT分離後の探査機がMASCOTに底面が向くよう姿勢を変えているように見える(下図「上昇速度50cm/s」のところ)

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吉川:その通りで、「姿勢スキャン」ではONC-W1やONC-Tで降下中のMASCOTを撮影しようとする。

渡部:撮影した写真は最速でいつ見られそう?

吉川:なんとも言えないがMINERVA-II1のときも同じことをして1日後くらいだった。MINERVA-II1は小さい点にしか見えないので同定まで時間がかかったがMASCOTもそんなに大きくないのでノイズかどうかの判断に時間がかかるかも。

ライター秋山:MicrOmegaが含水鉱物を見つけるかもしれないことについて、NIRSのチームからの期待は。またヨーロッパのチームはフィラエの経験があるという。彗星と小惑星の違いや期待は

吉川:MicrOmegaとNIRSのデータは似てくる。ミクロとマクロの比較は面白い。双方のチームが共同で検討している。
フィラエとの違いは直接聞いてはいないが、一般的には彗星と小惑星の違いは非常に興味深いテーマ。データが取れればサイエンス的には非常に重要なものとして扱われるだろう。

(以上)