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特報首都圏「過剰反応社会 どこまで配慮しますか」

たいへんよかった。安直なクレームが通ると自己効力感、自己誇大感を増幅させてしまいクレームジャンキーになる。クレームできる対象を探すようになり、粗を見つければ鬼の首を取ったようにクレームをつけていく。結果、企業活動にもますます支障が出る。

一方で自分が理不尽なクレームを受ける側になると非常にストレスになる。そのストレスのはけ口として、自分が顧客側になったときクレームをつけるようになる。結果として、誰にとっても暮らしにくい社会になってしまう。

「過剰な反応を恐れるあまり、配慮が行きすぎて窮屈になっている」。そういう危機感を伝えていた。

番組で紹介された事例

ジャポニカ学習帳の表紙

子供たちに世界の珍しい昆虫を知ってもらい好奇心を育んでほしいという思いで45年前に発売。しかし「虫が気持ち悪い」という声があり虫の表紙写真をとりやめた。

ショウワノートの商品開発担当、小原崇さん「持ちづらい方への配慮」「泣く泣くというか苦しい判断だった。メーカーとしてすべての人に手に取っていただきやすい方を選んだ」。今は花の写真に切り替わっている。

2年前(引用者註:2012年)には、それまで植物とともに表紙写真で使われていた昆虫が消えた。教師や母親から、「気持ち悪い」とクレームが寄せられたためだ。

【開発ヒストリー】子供たちに愛され12億冊 「ジャポニカ学習帳」破れかぶれの昼メロCMが大当たり(2/3ページ) - 産経ニュース
香川県の米「おいでまい」イメージガール募集

イメージガールの募集に際して「色白でスタイルの良い方を募集」と書いて批判が集中。県はチラシの配布を中止した。

東京オリンピックのエンブレム

番組では「ネットで批判が拡大した末に白紙撤回」と表現。

大会組織委員会の事務総長「一般国民から受け入れられないということでたいへん申し訳ない」。

高崎山自然動物園の猿に「シャーロット」

英王室に生まれた王女にあやかった名前を公募からつけたところ抗議が殺到。事務局長の幸信介さん「ひとつの抗議電話対応が終わるとすぐ次の抗議電話を取るような状況。いろいろな考え方、思いを持っている人がいることを痛感した」。

動物園はイギリスの総領事館に問い合わせ。先方は「とくにコメントはない」とのことで名前は「シャーロット」のまま変更せず。

小田嶋隆総領事館への問い合わせは不思議に見えるかもしれないがよい対応。当事者の意見や声を第一にするべきで、野次馬に動かされない方がよい」。

ビールのCMでゴクゴク飲む音をやめる方向

アルコール依存症の人に配慮、欲求をあおるような描写は控えていく」といったもの。

酒類業中央団体連絡協議会の伊藤洋さん「ゴクゴクという飲酒シーンが耳障り、不快という指摘は若干あった。依存症の方にも配慮してギリギリどこまでできるか配慮した結果」。

以下はビール製造各社の適正飲酒啓発に関するページ。

書店のフェアを中止に

小田嶋隆「デモをする若者を応援し、民主主義と憲法を守ろうといった主張をした書店の非公式アカウントに『そこまで偏っていていいのか』と批判があった。多様なフェア、多様な売り方、多様な書籍があるのが書店でありいきなりフェアを引っ込めることはなかったのでは」

教育現場のクレーム対応

学校でのトラブル相談を受け付けている「全国webカウンセリング協議会」(http://www.web-mind.jp/)。保護者からの過剰な要求についての相談が増えている。

  • 夏休みの宿題は無駄、夏期講習が大切という親からの要求で宿題をやめた中学校
  • 都内の小学校。学芸会で自分の子が主役でないなら欠席させると複数の親が主張。桃太郎が16人という内容に

全国webカウンセリング協議会の安川雅史理事長「先生は忙しい。保護者対応ばかりしていられない。苦情で精神的にまいってしまい、なんでも受け入れてしまうケースが増えている」

そのほかの要求。

  • 修学旅行の行き先はもう家族で行ったから別のところにしてほしい
  • 遅刻しないよう先生が迎えに来てほしい
  • 若い男性の担任では娘が集中できないから変えてほしい
  • 大学受験に失敗したのは学校のせいだから授業料を返還してほしい

榎本博明「保護者の自己中心的な欲望につき合っていったら子供は不幸になる。主役ばかりの劇は現実にはなく、世の中は主役ばかりではない。主役でなければダメ、会社でなら社長にならなければ人生は失敗と考え、挫折感を持ってしまう」

クレーム対応コンサルタント

援川聡さんが登場。

クレーム処理のプロが教える断る技術

クレーム処理のプロが教える断る技術

もっとも重視しているのは「相手を100パーセント納得させようとしない」という原則。「それをしようとするとすべて言いなりになる。公平公正な対応をやめると従業員のモチベーションは下がり本来の企業活動が悪い方へ行ってしまう」。

番組ゲスト

榎本博明(心理学者・元名城大学大学院教授)

「過剰反応」社会の悪夢 (角川新書)

「過剰反応」社会の悪夢 (角川新書)

以下は番組中の発言から。

過剰反応社会は衝動がむき出しになりやすい社会。自己コントロールできず感情的、攻撃的になりやすい。

発信権を急に持つと万能感の幻想を抱いてしまう。いろいろなところにクレームをつけて相手を動かせると思ってしまう。カーッとなったらその場で衝動的にスマートフォンで書き込む。

クレームがひとつでもあれば配慮してなくす企業姿勢が広がっている。これは個人のわがまま、自己中心的で危険な思想を植え付ける。気に入らない人間を排除するいじめの姿勢と同じ構図になっている。

日本社会は意見が違うと気まずい、なるべく同じようにという雰囲気の文化。それがネット社会で増幅し危険なことになっている。

なにごとも自分の思う通りにできるという「自己効力感」を持つと周囲の落ち度を探すようになる。それを見つけてクレームをつけ自己効力感をさらにつけると快感になり癖になる。そうするうち自分はすごいんだという「自己誇大感」が大きくなってしまう。

過剰反応を防ごうとする企業の過剰対応がむしろ過剰反応を引き起こしている。

客の気持ちを満たすことを優先して自分の気持ちを抑圧すると、自分がお客になったときうっぷんを爆発させるようにクレームをつけたりする。

過剰反応社会をどう生きるかのフリップ
組織
過剰対応しない、常識的な世論の形成
個人
物事を多面的に見る、決めつけない
小田嶋隆(コラムニスト)

地雷を踏む勇気 ?人生のとるにたらない警句 (生きる技術!叢書)

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もっと地雷を踏む勇気 ~わが炎上の日々 (生きる技術! 叢書)

もっと地雷を踏む勇気 ~わが炎上の日々 (生きる技術! 叢書)

その「正義」があぶない。

その「正義」があぶない。

以下は番組中の発言から。

過剰反応が増えたのは苦情を言うチャンネルが増えハードルが下がった影響が大きい。

放送でも出版でも、これをやるとこういう苦情が来そうだ、上がこういうことを言いそうだと忖度(そんたく)して先回りすると企画の幅が狭くなる。これは表現の自殺。簡単に見えるが非常に深刻な問題。

昆虫に限らずあらゆる表現や政治的主張、残酷なシーンを「苦手な人がいる」というだけで引っ込めていては表現はできなくなる。

番組が打ち切りになったりCMが差し替えになったり、人間が判断すると作り手は臆病になる。

顧客万能主義が自然なこととして受け入れられてしまっている。

過剰反応社会をどう生きるかのフリップ

勇気と団結

毅然と対応するには勇気が必要、しかし日本人は個人だと勇気が出ない。苦情対応する側もシステムを作る。会社全体、組織全体、役所、メディアならマスコミ内で連絡会議や業界団体を作り個人をサポートする、横につながった組織の団結があって初めて過剰反応に対峙できるのでは。

わたしはTwitterでもよく炎上しているが「当事者には謝るが野次馬には絶対謝らない」という基準を持っている。「世間をお騒がせした」などと謝罪したりするが、「世間」のようなもやっとしたものに対して謝るべきではない。

再放送

土曜(11月7日)の朝10時50分から再放送があります。